続・絵で見るドラッカーの人生(魂よ永遠に)【2016年】
はじめに「言葉は道具」『ドラッカーを読んだら会社が変わった!』
言葉を道具として使おう。
私がこの本を通じてお伝えしたいことは、突き詰めればこだけのことです。
ドラッカー教授が残した文章の中から、今の自分に最も必要なワンフレーズを見つけ出し、その一言を徹底的に実践する。これこそ、その著作の最も正しい使い方だと思います。
ドラッカー教授は、「マネジメントとは実践である。その本質は知ることではなく、行うことにある」(『マネジメント[上]』)と言います。つまりマネジメントは、「理解」の対象ではなく、「実践」の対象だということです。道具として使うためのものです。
世に経営学の著作はあまたありますが、本当の意味でのマネジメントを教えられる本など存在しません。本当の意味でのマネジメントを教えてくれる先生もいません。
その理由は、ドラッカー教授も指摘する通り、「成果をあげることは学ぶことはできるが教わることはできない」(『経営者の条件』)からです。この原理原則は、特にマネジメントの能力について、よく当てはまります。
組織をマネジメントできるの能力とは、自転車に乗れることや泳げることに似ています。座学だけ勉強して、自転車に乗れるようになったり、泳げるようになったりする人がいないように、座学だけでマネジメント能力を身につけることは不可能です。
この本はドラッカー教授の著作に学んで成果をあげた日本の中小企業の物語を紹介するものです。それに、非営利組織のリーダーと営業社員の物語を一つずつ加えました。
ここに登場するすべての人たちは、教授の言葉を道具として使っています。しかも、1つか2つのフレーズを実践しただけで劇的な成果をあげています。
奇しくも、2009年に刊行されたベストセラー『もしも高校野球の女子マネジャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(ダイヤモンド社)の主人公、川島なおみと同じです。彼女もドラッカーの『マネジメント』に書かれた言葉を、道具として使っていました。ただ、彼女の行動に、このような本質が隠されていることに注目した人はあまりいないかも知れません。
『もしドラ』がフィクションであるのに対し、この本はノンフィクションですが、本質は同じです。
私たちは、日本の昔ながらの学校教育の影響でしょうか、「教えられる」ことに慣れすぎています。一冊の教科書が網羅する一定の範囲を、万遍なく読んで覚えれば、合格点を得られる思考が染みついています。
マネジメント能力を身につけようとするとき、この思考習慣が邪魔します。一定の範囲を全部知っていたからでないと行動を起こせないと誤解している人が多くいることを危惧します。マネジメントを学ぶには、まず行動を起こすことです。実践してから、つまずいたポイントについて知識を補強するのです。自転車に乗ったり、泳いだりするのを学ぶときは、大半の人がそうしています。しかも学ぶべきことに一定の範囲があると考えるのも美しい誤解です。
組織は時代とともに新しい課題に直面し、マネジメントはこれに応えていかなければなりません。つまり、学ぶべきことに範囲は定まりません。
ドラッカー教授は、1954年に著した『現代の経営』で、体系的な「マネジメント」という概念を世に生み出しました。そこには「IBM物語」をはじめとした、偉大な企業の足跡を記す3つの大きな物語が収録されています。教授は、これらの企業の物語から、マネジメントの原理を抽出しました。その後、これらの原理が、マネジメントの道具として実践で用いられるようになり、現代に至ります。
この本に掲載した18個 のケースは、ドラッカー教授が生み出した原理を用いて紡ぎ出された新しい物語です。いわば、現代のIBM物語です。現代の日本の経営者たちが教授の言葉を道具として、どのように使い、どんな成果をあげたかの記録です。
『現代の経営』の原書は当初、出版社が『The Principle of Management / マネジメントの原理』というタイトルを用意していました。しかし、最終的には『Practice of Management』マネジメントの実践』として誕生しました。ドラッカー教授が主張して譲らなかったからだという逸話が残っています。
原理よりも実践。教授が自著のタイトルに込めた理想に一歩でも近づきたいという思いでこの一冊を世に送り出したいと思います。真摯にマネジメントに取り組んだ経営者たちの物語が、読者実践の一助になれば幸いです。
2016年5月吉日
佐藤 等
『ドラッカーを読んだら会社が変わった! 』はじめに より
あとがき『人生を変えるドラッカー』
岩崎夏海さんが2009に出版された『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカー の「マネジメント」を読んだら』の存在がなかったら、この小説が生まれることはなかったと思います。
考えてみると世の中には『もしドラ』のように、「すでにある素晴らしいもの」がたくさんあって、受け手側に「問い」さえあれば、なすべきことのヒントに満ちているのだと思います。
私にはその「問い」がありました。
「ドラッカー の『経営者の条件』をたくさんの人が読んで実践すれば、ますます素敵な世の中になるはず…。だけど、どんな方法があるだろう」
「私自身、『経営者の条件』を読んで、仕事の仕方や考え方が大きく変わった。だから周りの人におすすめしたいけれど、『難しそう』と言われてしまう。どうしたらいいかなあ」
こんな気持ちがあって、「そうだ、小説を書いてみよう」と思い至ったのです。
私とドラッカーの出会いは、2006年にさかのぼります。きっかけは、「実践するドラッカーシリーズ」の編集者である佐藤等先生が中心に主宰する「ナレッジプラザ」という学びの会でした。数多くの講演や読書会に参加し、ドラッカー に親しむこととなったのです。
私の本業は、カラーの講師です。似合う色や気になる色などを知り、人生に役立てていただくために各種講座を実施しています。OLから転職して始めたのですが、本書の夏子のように指示待ち癖が抜けず、柊介のように営業が苦手で、徹のように大忙しですべてを大至急こなそうとしていました。当然、成果はあがらず、ただただ忙しいだけの日々。
そんなときに出会ったのがドラッカーだったのです。
佐藤先生やその周りの方々が『経営者の条件』を読んで実践し、成果をあげているのを目の当たりにし、ある日思い立って、私も購入しました。以来、今日まで何十回(ひょっとすると百回を超えているかも…)読んだことでしょう。すぐにボロボロになってしまうので何冊も買い直しています。
最初は読むのが難しくて、何度も断念しそうになりました。ですが、周りの方々が生き生きと実践されているのをみて「ああなりたい。やっぱりやってみよう」と思い直し、何とか実践を積み重ねてきました。
私の強み(書くことが好きだからメルマガを創刊した)を生かし、廃棄する(固定の場所で教室経営をすることを廃棄し、どこでも講座を開くようにした)。
『経営者の条件』で学んだことを実践に移すにつれて、どんどん自分らしく仕事ができるようになっていきました。気づけば札幌を中心に活動していたカラーの仕事が全国規模になり、カラーに関する書籍を二冊も出版することができました。
佐藤等先生は、本書のモデルとなった「ドラッカー読書会」を札幌中心に精力的に実施されています。参加者がみるみる仕事で成果をあげられるようになり、また仕事のみならず人物としても生き生きと楽しそうになるという、素晴らしい変化を遂げています。この数々の変化を目撃した感動が、本書を書く直接の動機となりました。
その変化を見た人たちが我も我もと参加し、札幌だけでなく北海道の各地で、そして東京でも行なわれるようになりました。そのうち佐藤先生お一人では手が回らないようにまでなり、「ドラッカー読書会ファシリテーター」を養成することになったのです。
いまでは、全国で熱い思いを持つファシリテーターたちによる読書会が実施されるようになっています。読書会というのは、実に面白い手法です。この手法のもつ可能性も、今回の小説で伝わっていたらうれしいです。
ドラッカー の勉強という点では,まだまだヒヨッコだった私も、このダイナミックな現象に感動し、ぜひお手伝いさせていただきたいと思うようになりました。そして、ファシリテーター養成講座で改めてドラッカー を学び、本業のカラー講座で出会った生徒さんを中心にドラッカー読書会を実施し始めました。現在では、全国で読書会を開かせていただいています。
読書会を主宰していて面白いのは、参加者の皆さんの変化です。私が女性だからなのか、私がファシリテーターを務める読書会には、女性参加者が多いのです。主婦の方がPTA活動に「成果をあげる5つの能力」使っていたり、コンビニでアルバイトをしている方が「貢献」の視点を得て仕事に楽しみとやりがいを見いだしたり、アパレル店舗で働いている女性が時間記録をし、自ら活動を見直して売上記録を伸ばしたりと、その実践はさまざまです。
仕事の場だけでなく、プライベートを充実させた方もいます。大学生の娘さんの送り迎えを廃棄し、まとまった時間で趣味を始めた人もいれば、強みを生かしてダイエットを成功させた方もいます。今後もいろいろな実践例が出てくるものと思います。
読書会で使用しているのは今回、夏子と柊介と徹が読んで実践した『経営者の条件』です。この本は「セルフマネジメント」について書かれているので、数あるドラッカー 教授の著作の中でも、どんな立場の方でも当てはまる内容となっています。もし、この小説がきっかけとなって、読者の皆さんが『経営者の条件』と出会い、人生を輝かる機会となれば最高に幸せです。
ドラッカーの本を読むと、わくわくします。自分の中の、奥深いところがときめくのです。その大きな要因の1つは、日本語訳をされている上田惇生先生の高潔な文体に宿る何かなのではないかと思っています。上田先生の訳でドラッカー を読めるの私たちは、ドラッカー との出会いを、より鮮明に味わえる幸福にあずかれるのです。私は上田先生訳を通じてドラッカー を読むときの、うっとりする境地が大好きです。(中略)
周りにいてくださる大切な皆さん、生徒の皆さん、生徒の皆さん、読書会参加者の皆さんの存在は、私の原動力そのものです。この場を借りて改めてお礼を申し上げます。
そして本書を通じてこれから出会うすべての皆さん、ともに最高に楽しく自らをマネジメントしていきましょう!この本との出会いが、皆さんを輝かせる、ほんのささやかな一助となれたらと願っております。
自らをマネジメントすることは常に可能である!
2016年11月
吉田 麻子
『人生を変えるドラッカー 』あとがき より


五月女 圭司
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