最初に、ドラッカー理論とPOP広告(以下、POP)の相性の良さについて述べます。それは“企業目線”と“顧客目線”がキーワードの一つだからです。
画像1は物的特性がメインとなる企業目線のPOPで、そこそこ売れましたが、レバレッジがかかるほどではありませんでした。画像2は中核特性がメインとなる顧客目線でコンテンツを構成したため、レスポンスが高いPOPでした。“物的特性”と“中核特性”は後ほど解説するとして、画像1と2の違いはまさに下記のドラッカー教授(以下、ドラッカー)の言葉のとおりです。
(画像1)
(画像2)
『企業とは何かを決めるのは顧客である。なぜなら顧客だけが、財やサービスに対する支払いの意思を持ち、経営資源を富みに、モノを財貨に変えるからである。しかも顧客が価値を認め購入するものは、財やサービスそのものではない。財やサービスが提供するもの、すなわち効用である』 (マネジメント「エッセンシャル版」p16)
画像1は「8種類も成分を配合したんだぞ!どうだ、すごいだろう」と、開発部門の技術力をアピールしている企業目線がベースです。このことが決して悪いわけではありませんが、レスポンスが低かったという現実を考えると再検証せざるを得ません。
画像2は企業が考えたメッセージではありません。お客さまの声を収集した結果がこのような顧客目線の表現となったのです。
商品を訴求するための目線を間違えると、直に反応が現れるツールがPOPです。前回も述べたように顧客目線を鍛えるツールとして(失敗がある程度許されるので…笑)メリットがあります。
(画像3)
このような相性の良さから今回のテーマにあるように、商品・サービスの効用を企業目線ではなく、顧客目線で訴求する重要性に触れていきます。
商品(財)やサービスのPOPをプロデュースする際、ドリルでいうところの“穴”は何か?の問いが重要です。
パソコンで考えると“問題解決”、化粧品は“美しさ”、サプリメントは“健康”になります。
財やサービスを木で例えた画像3で説明すると(1)物的特性(2)イメージ特性(3)付随特性そして、(4)中核特性に分類されます。
(1)から(3)までと(4)では特性に大きな違いがあります。地上と地中という境界があり“顧客はドリルではなく穴を欲している”では、“ドリル”は地上、“穴”は地中と分類できます。つまり“穴”同様、“問題解決”“美しさ”“健康”は「中核特性」に当たります。
化粧品で図解するとそれぞれの特性は画像4のとおりです。
(画像4)
POPの場合、中核特性で訴求するために物的・イメージ・付随特性で具体的に表現します。地中にある目に見えない特性を消費者に伝達するためには、地上にある(単純に目に見えるとは言えませんが…)特性でコンテンツを構成します。
“美しさ”を伝達するためにブランド力で訴求したり、「寝る30分前」という使用方法や「1日250円の肌への投資」という支払方法で訴求など、コンテンツの最善策を検討します。
補足:ココから先に記載される(☆)は、画像3と連動します
秋田名物の調味料「魚醤(ぎょしょう)」をご存じですか?魚介類を発酵させて作るため臭いがきつく、嫌えんする消費者が多いとのことです。
しかし、苫小牧の特産である北寄貝(ほっきがい)を日本初で原料にすることと技術力によって、臭いをほぼゼロにすること(☆付随特性)に成功し「北寄魚醤」を商品化した企業が苫小牧にあります。ここの社長は大手メーカーで微生物の培養に携わった経緯があり、発酵を研究しつくした専門家(☆イメージ特性)で、今では「ほっき王子」というキャラクターネームでメディアに登場しています(☆イメージ特性)
ミッションは“魚醬の食文化を北海道でつくること”で、北海道で成功すれば日本一になれる確信があるとのことです。
北寄魚醬の詳しい成分を説明すると長くなりますので、重要なところをフォーカスすると他の魚醬に比べると“アミノ酸”が豊富ということです(☆物的特性)。“アミノ酸”は旨味成分であることと、高い技術力もあり、1000倍濃縮を実現し(☆物的特性)、少量で旨味が向上します(☆物的特性)人体を構成する成分の中でも“アミノ酸”は中枢を担うほど重要なものです。
しかし、独特な臭いも無くし、アミノ酸も豊富で優れた「北寄魚醤」ですが、価値が伝わらない苦悩が続きました。
魚醬を身近に感じてもらう意味もありメディアを活用するなど、地道な活動も功を奏し、学校給食(☆イメージ特性)で採用されるほど認知度が高まりました。
このように魚醬は余りにも優れた調味料のため、訴求ポイントがぼやけてしまうことや旨味にポイントをおいても他の調味料と競合してしまいます。そこでレシピの開発を積極的にすすめ、料理研究家とのコラボによりレシピ検索サイトクックパッドなどでも使い方を公開しています(☆物的特性)。レシピ数も増え、今ではシュークリームやロールケーキなどスイーツにも使用しています。
実はこの研究を通じて、「北寄魚醤」の新たな価値が発見されました。それは“減塩”です!料理によっても異なりますが、旨味に優れている分、塩の使用量を抑えた料理が可能なのです。この点から、塩分を控えた食生活(☆中核特性)に必要な調味料として浸透を図り、病院食(☆イメージ特性)に採用されるなど新たな可能性が広がり始めています。
魚醬について“顧客はドリルではなく穴を欲している”の“穴”は何なのか?
上記の“穴”は“中核特性”のため、文中の(☆中核特性)の箇所から「塩分を控えた食生活」となります。
企業目線で魚醬を捉えると、物的特性「豊富なアミノ酸」「1000倍濃縮」「少量で旨味が向上」、イメージ特性「発酵の専門家」「北寄王子」「学校給食や病院食として採用」、付随特性「臭いほぼゼロ」などをメインに考えてしまいます。
物的・イメージ・付随特性は、消費者にわかりやすく訴求するための素材(要素)であり、明確に表現すべきポイントは顧客目線である中核特性「塩分を控えた食生活」なのです。
〔まとめ〕
事業や企業、商品(財)、サービスにとって、いかに顧客目線が重要であるかを問う実例を開示しました。
ドリルは手段であって、真に顧客が欲しかったものは“穴”、つまりドリルがもたらす恩恵・効用です。
上記をなぞらえると、魚醬は手段であって、真に顧客が欲しかったものは「塩分を控えた食生活」、つまり魚醬がもたらす恩恵・効用だということになります。
「まろやかになるね」「味にコクが出るわ」というこのような消費者の声がこれまでの魚醬に抱くイメージであり、顧客目線と思われていました。これとは異なる消費者自身も気がつかない欲求を開発することで、魚醬に求めていなかった「塩分を控えた食生活」という効用にフォーカスした顧客目線によって顧客価値の創造が期待できます。
この回の重要なポイントは、画像3の地上と地中を分ける地面が“企業目線”と“顧客目線”の境界線なのです。顧客目線を地中から掘り起こす行為や行動が鍛錬となり、その地面の掘り方を開発することが顧客目線の発見へとつながります。
<第4回>顧客は常に合理的である(前編)。へ続く!
これまでの連載
<第1回>事業とは価値転換プロセスである(前編)
<第2回>事業とは価値転換プロセスである(後編)

沼澤拓也

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