<6回目> 顧客とは決定権をもつ者、拒否権をもつ者である(1)われわれの顧客は誰か -POPの作り方を高めるドラッカー・マネジメントの名言    ◇「誰にススメたいか」を意識するとPOPは働き出すことを開示します。


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 今回の事例として、教育庁が取り組んでいる生徒たち制作の「読書POP」を紹介します。

 

 経緯は2014年、拙著『繁盛店が必ずやっているPOP最強のルール』(ナツメ社)が、高等学校国語教科の教授資料として指定されたことです。

 

 

 『予期せぬ成功』

 

 

 実は、文部科学省に提案を模索していたタイミングでの決定に驚きました。

 

 人生の中でこのエピソードは最大級の“予期せぬ成功”です。文科省に尋ねると、すでに授業内でPOPを制作していることを知りました。

 

 もっと知りたく思い北海道教育庁にアポイントをとり、授業内でどのようにPOPに取組んでいるのかを直接聞きました。

 

 今思えば“非顧客に聞け(または顧客に聞け)”を実践したことで、2016年からの北海道教育庁との連携がはじまり、読書普及推進事業のツールとしてのPOPの採用につながったのです。

 

 ここからかなり端折りますが、この一連の流れで「POP甲子園開幕への序章」(後援:札幌市教育委員会)と題して講演会を開催しました。札幌市教育委員会との接点は、実践するマネジメント読書会🄬認定ファシリテーターである田畑氏のご尽力のおかげです。

 

 登壇者には、あの大ベストセラー『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーのマネジメントを読んだら』著者の岩崎夏海氏、札幌大学副学長の小山茂教授をお迎えしました。お二方ともPOPでつながる機会があり、常に懇意にして頂いております。

 

 

※岩崎夏海氏と「もしドラ」POP

 

 

 「POP甲子園」全国大会開催にはまだ遠い道のりですが、先生方や図書館職員、民間の支援者などの輪を広げ始めています。

 

 数少ない成果として教育現場の情報入手の経路がつながりだしたことです。先生方にヒアリングしたとき、生徒たちが次のような要望をもっていることを知りました。「制作したPOPをみんなに見てもらいたい!」みんなというのは、学校外ということです。

 

 この反応は先生方同様に私も驚きました。なぜなら、一般企業でのPOP研修で社会人と接する機会がとても多いのですが、自身で制作したPOPにマイナスの評価をくだしてしまい、売場に掲示することに抵抗感があるように思います。

 

 このように社会人と生徒たちのPOPに対する反応の違いは興味深かったことです。

 

 生徒たちの要望を実現するため、先生方が率先して近隣の書店や公共図書館との連携が面白いことになっています。

 

 

 まずは近隣書店との連携については、書店員さんが積極的に協力してくれます。書店業界全体で問題になっていることが集客促進と購買促進です。書店の立場で考えると近隣の学校との連携は願ってもない機会であり、早速、中学校のコーナーを展開し読書POPを掲示してくれます(画像1)

 

 書店員曰く「中学校のコーナーに関心を抱くお客様が多いことと、生徒のご両親やおじいちゃんおばあちゃんまで喜んで来店してくれました」

 

 もちろんその本を購入してくれたそうです(笑)

 

 

    (画像1)

 

 

 このような実状から考えると、中学校のコーナーだけは第一の顧客としてご両親と祖父母をピンポイントで設定できる利点があります。

 

 

 『マーケティング的アプローチによる分析では、誰が顧客かはわからないという前提に立たなければならない。顧客とは支払う者ではなく買うことを決定する者である』

                             (創造する経営者 p124)

 

 

 このドラッカー教授(以下、ドラッカー)の言葉から、誰が購入の決定権を持っているかは上記の第一の顧客であると考察します。この場面を鳥の目ではなく虫や魚の目でみると、誰が顧客かはわからないという前提を外れてしまっていることと、もう一つ特異なところは、拒否権があるようでないところが面白い実例です。

 

 さらに、購入決定に影響を与える人は誰かとなると、読書POPの制作者である生徒たちが候補として一番に挙げられます。

 

 

 次に図書館との連携についてです。

 

 画像2は図書館の入り口に掲示した生徒たちが制作したPOPです。図書館職員の方も驚いていましたが、これらの本がすべて貸出し中になったことです。これまでにない現象に図書館職員の皆さんのPOPに対する認識が変わったようです。また、来館される地域住民からも好評のようです。

 

 職員の皆さんも常々、POP制作を検討していたようですが、他の業務に時間を割かれ、後回しになっていました。

 

 しかし、公共施設としての住民サービスを考えると、好評な取組みの優先順位は高める必要を感じ、これを機会に職員の皆さんも読書POPに励んでいます。生徒たちのPOPの力は恐るべしです(笑)

 

 

      (画像2)

 

 

 このような実例が増えるとともに、再度、読書POPに取り組む背景をお話します。

 

 子供たちの読書離れは考えている以上に問題で、年間に全く本を読まない割合は51%というデータがあるほど、深刻な状況です。

 

 2009年度から文部科学省の学習指導要綱に、子供たちの読書普及事業のツールとしてPOPを取り入れ、制作する授業を盛り込んでいます。現場の先生方からの反応としては、読書感想文を書かせるより楽しんで描いているという報告があります。この取り組みは読書の機会を増やすことと、自分以外の人に自分の意思を伝えるツールとして、POPに焦点があてられているのです。意思を伝えるときにどのようなデザインで、どのようなメッセージを発信すると他の人に思いが届くのか。読書を通して価値の伝え方を学べるツールとして活用されています(画像3)

 

   

    ※小学生が描いたPOP           ※中学生が描いたPOP

                  (画像3)

 

 

 通常は国語の先生や図書館司書の方々が指導しています。私も何度か小中学校から高校まで読書POPの指導で訪問しています。国語教科の時間内(2時間)でPOP授業を実施しています。

 

 まずは鉛筆で下書きです。次に画像4のようにマーカーで仕上げていきます。

 

 

      (画像4)

 

 

 下書きも仕上げも難しく考えず、制作のポイントを伝えた程度で、あとは生徒たちの発想で画像3のような仕上がりです。

 

 実は下書きの前に行うメッセージ内容を考えることに苦労する生徒たちが多いのです。

 

 POPで伝える内容はいろいろあります。そのため、何を伝えたらよいのか… このことは、生徒たちだけではなく、社会人でも同じことです。何に焦点を絞ればよいのかがPOP制作では悩みどころです。

 

 

 そこでドラッカーの言葉が悩みの解決へと誘ってくれるのです。

 

 

「われわれの顧客は誰か」

 

 

 この言葉をPOPで解釈すると「誰にすすめたいか」となります。おすすめしたい誰かを明確にすることがPOP制作には重要なことだからです。

 

 誰かを設定するには抽象的ではダメです。具体的であればあるほどPOPの反応は高くなります。たった1人に伝える覚悟が必要です。

 

 例えば“3丁目の田中○郎さん”と固有名詞で表現できるくらいがPOPの第一の顧客となるわけです。「誰でも良いから買って」では結果、誰一人も買ってくれないのです。「3丁目の田中○郎さんが買って」と言い切れるか否かです。制作時に田中さんの顔を思い描いて完成したPOPこそメッセージ力が高いのです。

 

 画像3の小学生が描いたPOPをご覧頂くと「和菓子が大好きな人」と明確に第一の顧客を設定しています。

 

 つまり、和菓子が嫌いで関心がない人は対象ではないことを明確にすること、「売らない勇気」をもつことで消費者から支持されるのです。

 

 消費者の反応の良いPOPコンテンツづくりのうちの一つが、まさに「われわれの顧客は誰か」なのです。

 

 

<第7回の予告>

 成果の上がるPOPコンテンツとは、今回開示した「われわれの顧客は誰か」と「顧客にとっての価値は何か」を融合させることです。

 次回は「顧客にとっての価値は何か」をPOPに生かすことをテーマに進めていきます。

 

 

 

これまでの連載

<第1回>事業とは価値転換プロセスである(前編)
<第2回>事業とは価値転換プロセスである(後編)
<3回目> 顧客はドリルではなく穴を欲している
<4回目> 顧客は常に合理的である(前編)
<5回目> 顧客は常に合理的である(後編)

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沼澤拓也
「POPによる客単価アップのスペシャリスト」 ◎公的機関・商店街・大手企業のコンサルティング。大学講師やPOP楽会主宰、POP甲子園®コンテスト審査委員長も務める。最近はチームPOPジャパン®をプロデュース。年間150回を超えるセミナー活動は口コミで拡大中!海外からの依頼で講演を開催し、ファン層はアジア規模である!「実践するドラッカー事業編×POP」コラボセミナーは東京、松本、岡山、神戸、郡山、茅ケ崎で開催。「もしドラ」読書感想文コンテストでダイヤモンド社から特別賞受賞。「POPスター」の愛称で、新聞・雑誌等メディアへの執筆活動やテレビ出演(バラエティ番組、報道番組)など。 <著書>繁盛店が必ずやっているPOP最強のルール(ナツメ社)はすでに第10刷。近著は、たった1行で繁盛店に変える!つい買いたくなるPOPの極意(実業之日本社) <POPチャンネル>http://poporigin.com/
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