マスメディアが隆盛な時代と、ソーシャルメディアの影響力が高まっている現代のキャッチコピー戦略は異なることは前回触れました。
コピーライターという特殊な能力と感性を磨いた職業の人が携わることから、ソーシャルメディアを活用することで国民総コピーライターの時代へ突入しています。
そのため一人ひとりがコピーライティングを身につけなくてはならないのです。特殊な能力や感性は必要ありません。重要なことは〝方程式とルール〟です。
「実践するドラッカー事業編×POP」でDサポート清水さんとコラボセミナーを全国5箇所で開催したときの受講された皆さんのPOPです(画像1)
画像をご覧頂くと、コピーライティングに共通する点が発見できると思います。これを〝方程式とルール〟と捉えてください。
実は、〝方程式とルール〟は何百通りもあります。「実践するドラッカー事業編×POP」コラボセミナーではたった5通りに絞り、受講された皆さんにキャッチコピーを制作して頂きました。
「顧客にとっての価値は何か」を、発信するツールとしてPOP制作のスキルと、価値をどのようなキャッチコピーで表現すると成果につながるのか。そしてどのような手順で進めるのかを公開します。
(画像1)
■8マスシートを時計回りにキャッチコピーづくり
〔手順1〕
下段の中央(品名、社名)に「フォーカスする(キャッチコピーをつける)商品を設定する」
ツールとしてキャッチコピー8マスシート(画像2)を活用します。ご覧のようにマトリックスになっており、まずはそれぞれの組織の主力商品の一品を設定します。設定した商品のキャッチコピーが時計回りに手順を進めていくうちに完成するシートです。
(画像2)
このマス(下段の中央)に主力商品が何かを決められない組織やビジネスパーソンがとても多いのです。
簡単に設定できそうなものですが、「われわれの事業は何か」を普段から明確にしていないため、商品設定に悩んでしまうのです。
ドラッカーの5つの質問(下記)に触れる機会の多い、マネジメントを実践されている皆さんには不思議に感じられることだと思います。
「われわれのミッションは何か?」
「われわれの顧客は誰か?」
「顧客にとっての価値は何か?」
「われわれの成果は何か?」
「われわれの計画は何か?」
商品を売場に置いておけば売れた時代を長年経験した経営者の組織にありがちなことです。
過去の成功体験が変な具合に受け継がれていて、「顧客にとっての価値は何か」を含めて上記5つの質問自体が理解できない… それ以前に思考停止に陥ります。
他の国の言葉を使っているわけではないのですが、英語で語り掛けているような感覚に近いです。
〔手順2〕
下段の左マス(宣伝文句)に「設定商品(下段中央)の現在のキャッチコピーを記入する」
8マスシートを時計回りに進めていくことでキャッチコピーが出来上がると前述したとおり、商品設定の次の段階である現状のキャッチコピーを思い出して書いていきます。
このシートの優れている点は、最後にキャッチコピーが出来上がるだけではなく、この手順を踏んでいくことで書けないマスが発見できることです。一見、空マスがあると問題ばかりが浮き彫りにされますが、空マスは課題が発見できたと喜ぶためのものなのです。
キャッチコピー制作において組織が抱えている問題は、何を発信すれば良いかが不明なことです。空マスが存在するということは解決するための策や素材が発見できたことになります。あとは空マスを組織全体で埋めるよう取り組むことです(※繰り返しになりますが、最初の商品設定のマスが空では、その他のマスは意味をなさないため、常に主力商品の明確化が必要です)
このマスを埋める解決策としては「どのようなメッセージを通じて価値を消費者に伝えているのか」を価格だけではなく知っておくことです。
現状はキャッチコピーがない商品はたくさんあります。いわゆる値札(プライスカード)のみの表示が考えられます(注釈:すべての商品にキャッチコピーをつける必要はありません。主力商品には必要です)
この場合は、空マスまたは価格を記入して頂きます。
■「魔法の1行」マス
シートの下段右に「魔法の1行」マスがあります。最終的にココにキャッチコピーが完成します。
下段左マスの現状と右マスに新たに創作したキャッチコピーが比較対象で確認できるような構成です。
シートをワクワクしながら時計回りに埋めていきます。
〔手順3〕
中段の左マス(視点1)に「設定商品を連想できる繰り返しの言葉または、オノマトペ(擬音)を記入する」
先に下段右の「魔法の1行」マスに触れましたが、詳細は後述します。
さて手順3の視点1のマスには、設定商品を“音からの視点”でイメージを膨らませて連想します。このときに活用するのが「オノマトペ(擬音)の法則」や「繰り返し言葉の法則」です。
例えば、下記のようなオノマトペ(擬音)の事例が参考になります。
☑ 犬 「ワンワン」
☑ 猫 「ニャンニャン」
☑ ビール 「ゴクゴク」
擬音ではありませんが、下記のような繰り返し言葉の事例もあります。
☑ 期待 「ワクワク」
☑ 快適 「らくらく」
☑ 湿気 「ジトジト」
繰り返しではありませんが、下記のような事例もあります。
☑ 掃除 「つやピカ」
☑ 食べもの 「ふわトロ」
☑ 様子 「がっちり」
キャッチコピーはまずは視覚に訴えかけるものです。視覚を刺激することは当然ですが、「繰り返し言葉の法則」(オノマトペの法則)は聴覚を刺激することが可能なのです。一つの感覚器官より、二つの感覚器官を刺激する方が消費者の記憶に残ります。目で追いながら心の中で読むときに「ゴクゴク」や「らくらく」、「ふわトロ」は聴覚に働きかける効果があります。考えている以上に聴覚への刺激は強い印象を与えます。
上記例から「吠える犬」と伝えられるより「ワンワン吠える犬」のほうが二つの感覚器官を刺激し、記憶に残りやすいのです。
視点1のマスは、上記の利点の他、普段のビジネスシーンにおいて“音”を意識し活用することの大切さを理解するものでもあります。
メラビアンの法則という有名な原理原則があります。物事を伝達する際に重要な五感について、一番は視覚です。視覚を意識することは普段から行っており、組織やビジネスパーソンは色や形、大小などには気を使います。成果を上げている組織やビジネスパーソンはその上、発している“音”にも意識を向けて伝達力を高めています。
上記法則の二番に重要なのが聴覚であり、ここからの刺激が記憶への大きな働きかけにつながります。成果を上げている組織やビジネスパーソンが発している“音”を探る視点は、視覚による情報の陳腐化が避けられない今後に向けて、大きな強みとなります。
『生産者や供給者が、製品の最も重要な特色と考えるもの、すなわち製品の質が、時として顧客にとってまったくの意味がないということである。(中略)顧客の関心は「この製品は自分のために何をしてくれるのか」だけである』(創造する経営者 p121・122)
上記のドラッカー教授の言葉から、製品(商品)の特色は時として顧客にとってまったくの意味がないうえに、顧客が目で捉えられる特色を訴求してもキャッチコピーのインパクトは薄いのです。
例えば、「真っ赤に色づいたリンゴ」と訴えても「見ればわかる!」と思われてしまいます。音は可視化してあげないと伝わらない特色の一つです。食感として「サクサク」なのか「ポソポソ」や「シナシナ」なのかで印象は大きく変わります。
キャッチコピーを考える場合の一つの視点として「繰り返し言葉の法則」(オノマトペの法則)は有効であり、“音を可視化”することで「この製品(商品)は自分のために何をしてくれるのか」がイメージしやすくなります。
☆〔手順4〕以降は、パート3へ続く。
これまでの連載
<第1回>事業とは価値転換プロセスである(前編)
<第2回>事業とは価値転換プロセスである(後編)
<3回目> 顧客はドリルではなく穴を欲している
<4回目> 顧客は常に合理的である(前編)
<5回目> 顧客は常に合理的である(後編)
<6回目> 顧客とは決定権をもつ者、拒否権をもつ者である(1)われわれの顧客は誰か
<7回目> 顧客は満足を買っている(2)顧客にとっての価値は何か(パート1)
<8回目>顧客は満足を買っている(2)顧客にとっての価値は何か(パート2)

沼澤拓也

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