キャッチコピーは専門家やセンスのあるビジネスパーソンが得意とするスキルではなく、〝方程式とルール〟であることを〔手順1〕から〔手順4〕まで進めてきました。
「顧客にとっての価値は何か」を伝える機会が、ソーシャルメディアというツールを誰しもが活用できることで増大しています。
コピーライティングスキルの必要性を感じているビジネスパーソンは多いのではないでしょうか?
引き続き8マスシート(画像1)を活用した〝方程式とルール〟に基づいたキャッチコピーの作り方を開示していきます。
(画像1)
〔手順5〕
上段の中央マス(視点3)に「設定商品を連想できる数字は何か?」
言葉以上に伝わる素材が数字です。伝わるだけではなく記憶に残るメリットもあります。抽象的な事象も具体的にわかりやすくなります。
我々人間もあらゆる数字で表現できます。体重や身長、年収、偏差値、そして誕生日など数字に囲まれています。組織についても同様に、従業員数、創立周年、年商、業績、そして創業年月日など、あらゆる数字で表現できます。
「顧客にとっての価値は何か」からもその価値を明確にするキャッチコピーは、抽象的より具体的な表現が伝わりやすいことはこれまで触れてきました。
設定商品を連想できる数字を発見することは以上の理由からも重要なことなのです。
例えば、下記のような事例が参考になります。
☑ 食べ物 … 個数、重さ、カロリーなど
☑ お酒 … 容量、アルコール度数、消費期限など
☑ 本 … ページ数、章、重版数など
消費者の代表として、毎日家族のために食事をつくる主婦を例に、数字の効果をみてみましょう。
売場に白菜が販売されています。まず目に飛び込んでくる数字は価格○○円です。次に価格以外で注目する数字が個数や重さなどの容量です。主婦にとって価格は当然ですが、容量も重要な数字の情報になります。価格を見て「安い!」と一瞬思っても、どのくらいの容量でこの価格なのかを判断します。
天候不順で市場価格が高騰すると1玉150円で販売していたところ1玉250円なんてことは毎度のことです。この価格ですと消費者は購入を控えてしまいます。そのため、1/2玉125円で販売することで購入しやすくするのですが、容量との比較で判断します。特に最寄品を購入する場面では価格を主体に関連した数字(容量)で主婦は即座に計算を行います。一瞬「安い!」と思っても容量で冷静に判断します。
買物に数字は付きもののため、キャッチコピーを数字で表現することは主婦をサポートすることにつながります。生産者が消費者へ供給する製品の数字の情報を開示することで主婦の支持を得られる素材になります。
■数字で伝わる具体性と信頼感
また違う例をみてみましょう。道の駅や農産直売所は今や大人気です。収穫時期になると遠方の主婦も足を運びます。前述した近隣のスーパーや青果店で購入する白菜より高価にもかかわらずガソリン代までかけて喜んで購入する心理にも数字が関係します。
直売所に抱くイメージは多くの主婦にとって「新鮮さ」なのです。他にも「美味しい」「安心・安全」などもありますがこれらも「新鮮さ」だからイメージするのです。
通常の買物で主体となる数字は“価格+容量”と述べてきました。直売所の場合は“+時間”という数字が付加価値となります。通常、1玉250円で「高い!」と感じる“価格+容量”に“+時間”の「今朝5時に収穫しました!」というキャッチコピーをPOPで掲示するだけで新鮮さへの信頼感を与えるのです。キャッチコピーにどのような数字という素材を組み合わせるかで購入に至る面白さがあります。
ここで下記のドラッカー教授の言葉から〔手順5〕の連想できる数字を振り返ってみましょう。
『生産者や供給者が、製品の最も重要な特色と考えるもの、すなわち製品の質が、時として顧客にとってまったくの意味がないということである。(中略)顧客の関心は「この製品は自分のために何をしてくれるのか」だけである』(創造する経営者 p121・122)
主婦が購入する白菜を例として、近隣で買物するときの“価格+容量”が「この製品は自分のために何をしてくれるのか」を満たす素材になるかを検討する必要があります。
直売所が“+時間”という数字を付加価値にした実例があるわけで、検討することは、価格競争に巻き込まれている生産者やスーパー、青果店にとってキャッチコピーとしての素材以上のメリットがあります。
■実践するドラッカー<事業編>p110
近隣のスーパーや青果店の“価格+容量”の場合は、実践するドラッカー<事業編>p57からp58の中で佐藤先生が解説されている“量”に該当します。
佐藤先生曰く「顧客価値は、質的な差異が認められない場合、価格や個数、重さといった量の問題として私たちの元に返ってきます」
さらに続けて「量による差別化は、真似されやすいのが難点で、しかも利益を圧迫します」
近隣のスーパーや青果店が苦戦し価格競争に巻き込まれる要因は明確であり、人気の道の駅や農産直売所が成果を上げている要因も次のように明確なのです。
佐藤先生曰く「質的な差異は真似されにくく、差別化の本命と言えます」
この部分の解説から“価格+容量”そして“+時間”が付加価値として加わることは真似されにくい顧客価値なのですと言いたいところ次に続きます。
佐藤先生曰く「ただし、商品本来の目的を達成するぐらいの品質では足りません」
“+時間”くらいの付加価値であれば、足りないのかもしれません。もっと“+○○”のような付加価値を探求し続けることが、キャッチコピーの素材としての数字を発見する意味があるのかもしれません。
■“量”から“質”に変える数字
“価格+容量”に“+○○”することがキャッチコピーの質的な精度を高める方法であり、“+時間”もその一つであると直売所の実例が示しています。
これ以外に考えられる付加価値の“質”の素材として下記が挙げられます。
☑ 時間(秒、分、時、日、週、月、年、期限など)
☑ 割合(限定、率、回数、頻度など)
☑ 状況(ランキング、進行具合、温度、糖度など)
☑ 方法(使用、保存、支払い、保守・点検など)
※その他、“数量、重量、大小、高低、長短、増減”などは“量”の素材として捉えます。
以上から素材を発見し、“価格+容量”に付加価値として何を“+○○”できるかが、キャッチコピーに必要な“量”から“質”に変える数字になります。
直売所の例で“+時間”という数字が付加価値となることを前述しました。通常、1玉250円で「高い!」と感じる“価格+容量”に“+時間”を加えると「今朝5時に収穫しました!」となります。
また“+割合”では「来店者の3人に1人が購入しています」や“+状況”では「本日の糖度は過去最高の○度」、“+方法”を加えると「冷暗所に常温で2週間保存可能」というように、どのような数字という素材を組み合わせるかで、佐藤先生曰く「ただし、商品本来の目的を達成するぐらいの品質では足りません」を満たす素材の発見につながります。
「この製品は自分のために何をしてくれるのか」という消費者にとっての価値を明確するキャッチコピーとなり、結果「顧客にとっての価値は何か」を明確にすることに近づきます。
次回は「キャッチコピーにインパクトを与える数字」を開示します。
これまでの連載
<第1回>事業とは価値転換プロセスである(前編)
<第2回>事業とは価値転換プロセスである(後編)
<3回目> 顧客はドリルではなく穴を欲している
<4回目> 顧客は常に合理的である(前編)
<5回目> 顧客は常に合理的である(後編)
<6回目> 顧客とは決定権をもつ者、拒否権をもつ者である(1)われわれの顧客は誰か
<7回目> 顧客は満足を買っている(2)顧客にとっての価値は何か(パート1)
<8回目>顧客は満足を買っている(2)顧客にとっての価値は何か(パート2)

沼澤拓也

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