キャッチコピーに使える数字の“インパクト数列”の続きです。
数字に優劣はありませんが、POPの範疇では存在することを開示しました。キャッチコピーにインパクトを与える数字の強弱を順番に並べたものです。
<インパクト数列>
0>1>3>8>5=7>9>6>2>4 ※5と7は同等
前回は「4、2、6、9、5、7、8、3」まで解説しました。ドラッカー教授(以下、ドラッカー)のマネジメントに、より関係のあるのが「1」と「0」かもしれません。
これまで触れてきた数字とはさらに別次元に存在するのが「1」と「0」です。ドラッカーは“マーケティング”と“イノベーション”を機能の柱としています。まずは「1」の影響力に触れていきます。
☑ 1cm
☑ 1g
☑ 1%
数字はそれ自体で意味をもつこともありますが、〝単位〟を付け加えることで明確になります。単位というと〝cm、g、%〟などがあります。以前の記事で触れたように商品特性は4つに分けられ、これらのような代表する単位はPOPやマーケティングでも活用されます。
- 物的特性
- イメージ特性
- 付随特性
- 中核特性
しかし、「1」は物的特性を表現するにはインパクトに欠けます。「1cm」より「4cm」、「1g」より「4g」の方に価値の高さを感じます。
消費者が「1」に魅力を感じる〝単位〟があります。この〝単位〟は物的特性以外のイメージ特性や付随特性、中核特性を高める下記のようなものです。
☑ 1番
☑ 1位
☑ 1度
消費者心理にある1番への憧れが引力であり魅力となるため、POPやマーケティングにとって「1」は重要なツールなのです。
例えば「日本一」「世界一」などと表記されることで注目度が高まります(【注】広告景品表示法などを順守)「日本で2番目」「世界で4番目」と比較すると、消費者が関心をもつのは前者の「日本一」「世界一」であることは言うまでもありません。
記憶に残るのは「1番」であり“日本一の山は富士山”“初代総理大臣は伊藤博文”であることは多くの人が理解できます。しかし、「2番目」の山や総理大臣を答えられる人はわずかです。マーケティングを数字の視点から考えると「1」と「2」にはかなりの開きがあります。
「日本で一番売れているたこ焼き」や「今年のボジョレーヌーボーは10年に1度の美味しさ」などの反応は他の数字とは比較にならないほどです。
「1」という数字を物的特性ではなく、イメージ特性や付随特性、中核特性に活用することで『価値』が上昇します。下記のPOPは代表例です。
(画像1)
「ランキング1位」の商品は加速度がつくように販売個数が上昇します。消費者が『価値』を判断する場合に〝他人に依存する心理〟が働くことがあります。自分では判断できないため、他人の意見を信用し、購入に至るケースが多いのです。画像1は、判断できない消費者にとって『顧客にとっての価値は何か』の起点(オリジン)となります。
繁盛店に必ずランキングPOPがあるのはこのような理由からです。市場(他の消費者)が支持している商品やサービスの価値に委ねるという消費者の意思決定が存在します。
画像2は、ワーストランキングPOPです。評判の良くない商品やサービスであっても「ワースト1位」と表示されると注目度が高まり、販売個数の上昇という現象がおこります。「1」という数字は良否に関係なくインパクトがあることがわかります。最上位や最下位、最大や最小、最初や最後などをイメージする数字は「1」であり、〝最も○○〟を表現するにふさわしい具体性があります。
また、他の数字は複数となりますが、単数や単独という特別な意味を持ち〝唯一無二〟な価値をイメージさせます。
(画像2)
■数字の「1」を事業に生かす
“取扱い商品の№1”や“自社の№1”のモノやコトは何かを考えることは、POPやマーケティングにとって活用範囲が広く、キャッチコピーを通じて成果をあげる要因となります。シンプルにランキング表示したり、「1」と「単位」を組み合わせてキャッチコピーを考えることで、商品や自社の№1を発信することは卓越性発見のヒントになります。
事業の定義と密接に関連するものとして、卓越性の定義がある。卓越性とは、常に知識に関わる卓越性である。すなわち、事業にリーダーシップを与える何らかのことを行いうる人間能力のことである。事業の卓越性を明らかにするということは、その事業にとって真に重要な活動が何であり、何でなければならないかを決定することである。 (創造する経営者 p214・265)
ドラッカーは卓越した知識について「顧客が欲しいものを、かたちや見た目で表現して提示する能力」を事例の一つとして挙げています。
キャッチコピーの役割そのものです。
下記はキャッチコピーをつける優先順位の高い商品です。
☑ベストセラー商品
☑ワースト商品
☑ロングセラー商品
☑スター(花形)商品
“ベストセラー”と“ロングセラー”といえば、売れている商品ということになります。しかし、確認したいことは差別化されている商品なのかです。ただ単に特売によって売上のある商品とは異なります。コストだけがかかることもありますので注意が必要です。キャッチコピーをつくることは本当に差別化できている商品(事業)なのかを企業自らが判断できることです。
経済的な業績は、差別化の結果である。差別化の源泉、および事業存続と成長の源泉は、企業の中の人たちが保有する独自の知識である。成功している企業には、常に、少なくとも一つは際立った知識がある。そしてまったく同じ知識をもつ企業は存在しない。 (創造する経営者 p145)
特に“ロングセラー”に関する知識を蓄積することで他社にはないノウハウも蓄積されます。売れている商品は単なる現象ですが、上記のドラッカーの言葉から考察できることは多分にあります。
“ワースト商品”について補足すると、魅せ方によっては話題になる価値のある商品です。販売個数は望めなくても集客やネットでのアクセス数につながるケースが昨今の変化です。
“ベストセラー”と“ロングセラー”の中間に位置するのが“スター商品”です。成長期の商品であり、魅力的な市場です。しかし、他社との競争が激しいため勝ち抜くためにはキャッチコピー戦略が欠かせません。事業の利益はこの商品にかかっています。
下記のように有名なキャッチコピーにも一番多く活用されています。
☑マズい!もう一杯!
☑一目で義理とわかるチョコ
☑風呂上がりの一杯
☑ファイト一発!
☑ピッカピッカの一年生
「1」は2桁以上でもインパクトがあります。
☑タウリン1000mg
☑英語が話せると。10億人と話せる。
☑「100人乗っても、大丈夫」
〝100点満点〟や〝100%〟など、有名なキャッチコピーではなくても素材としてインパクトを感じませんか?
一つタイムリーなキャッチコピーを紹介します。
☑4年に1度じゃない。一生に一度だ
このキャッチコピーにピンとくる人は多いのではないでしょうか。
日本だけではなく、世界を熱狂させたラグビーワールドカップ2019の公式キャッチコピーです。一つのキャッチコピーに3つの「1」が組み込まれています。“インパクト数列”を最大限に活用した成果があったのでは?「4」というインパクト数列の最下位が組み込まれているのはご愛敬ということで(笑)
それにしても観客動員だけではなく、記憶に残る大会として世界中から評価が高かったようです。
これまでの連載
<第1回>事業とは価値転換プロセスである(前編)
<第2回>事業とは価値転換プロセスである(後編)
<3回目> 顧客はドリルではなく穴を欲している
<4回目> 顧客は常に合理的である(前編)
<5回目> 顧客は常に合理的である(後編)
<6回目> 顧客とは決定権をもつ者、拒否権をもつ者である(1)われわれの顧客は誰か
<7回目> 顧客は満足を買っている(2)顧客にとっての価値は何か(パート1)
<8回目>顧客は満足を買っている(2)顧客にとっての価値は何か(パート2)



沼澤拓也

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