関さば食べたい!! <18回目> 質を決めるのは企業ではない(パート10)


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 下記のドラッカー教授(以下、ドラッカー)の言葉のところで一つ事例を紹介し、前回、説明しきれなかった点を補足します。

 

 

 顧客は合理的である。不合理であると考えるのは危険である。(中略)顧客の合理的に適応すること、あるいは顧客の合理性を変えようとすることが、メーカーや供給者の仕事である。そのためにはまず、顧客の合理性を理解しそれを尊重しなければならない。    『創造する経営者』p122~123

 

 

 伝達スキルとしてキャッチコピーを表現する場合、企業目線で発信し、顧客と価値を共有できていない企業が多いです。

 顧客は合理的であり、企業目線で顧客を不合理と捉える危険性はキャッチコピーの表現でも起こっている現実です。

 

 

 

 

(大分県漁業協同組合 佐賀関支店HPから出典)

 

 

 ◆事例◆農水産品のブランド化の取組みがとても盛んです。ふるさと納税などもあり、地方自治体の力の入れようはメディアでもよく話題になります。多くの特産が返礼品となり、以前よりも認知度が高まっています。

 

 農水産品のブランド化の先駆けとなる「関さば」をご存じでしょうか?

 

 今(平成、令和)では真似をして同様の戦略を図る地方自治体は増えていますが、昭和の時代からブランド化に成功している特産品は稀です。1996年には全国初の水産品としての商標登録となったのです。

 

 キーワードは前回述べた◎0ゼロの作用◎です。「0ゼロは『無くすこと』ドラッカー流に捉えると『廃棄すること』を表現すること」にあります。

 

 他の特産のキャッチコピー(アピール方法)は“0から100へ”のビルドアップ型です。セールスポイント(品質、形、栄養素など)をあれもこれも価値を積み上げていくパターンです。

 

 「関さば」は“0へ近づける”ブレークダウン型で「何を無くすか?」「廃棄するものは何か?」によってブランド化を図る事例の一つです。

 

 農水産品の中で特に取り扱いに注意しないといけないのは、「桃」と「サバ」です。その理由は熱による劣化が早く、人間の体温くらいの低い温度でさえも避けなければならないのです。

 

 POPに携わっていると多くの農水産品の価値を目の当たりにします。また「桃」や「サバ」のように品質の劣化の問題にも着目しなければなりません。消費者に不利益を与えないために「桃」や「サバ」には画像のようなPOPを掲示します。

 

 

 

 桃はさて置き「関さば」の話です。なぜブランドとして認知されたのかは、このPOPと関係があるのです。

 

 一見すると「サバ」のデメリットなのですが、ここに注目したのが「関さば」です。何を無くして何を廃棄することで“100から0へ”ブレークダウン型でブランド「サバ」と呼ばれるようになったのです。

 

 ポイントは、劣化をさせないように売場だけではなく、流通経路を見直しお客様の口に入るまで“手で触れない”ことを約束事にしたのです。

 

 つまり手で触れることを廃棄したのです。

 

 流通過程の中で“手を加える”ことでブランド化を図る特産品はたくさんあります。まったく逆のブレーククダウン型思考によって「関さば」は他のサバとの相違点を明確にしたのです。

 

 「サバ」が元々もっている価値を劣化させないことでブランド化に成功した事例です。

 

 先のドラッカーの言葉に戻りましょう。

 

 顧客は合理的である。不合理であると考えるのは危険である。(中略)顧客の合理的に適応すること、あるいは顧客の合理性を変えようとすることが、メーカーや供給者の仕事である。そのためにはまず、顧客の合理性を理解しそれを尊重しなければならない。    『創造する経営者p122~123

 

 主婦は買物の際、陳列されている商品を選ぶときには必ずと言っても良いくらい商品に触れます。それによって品質の良否を判断しているわけで、これは顧客の合理的な購買心理であり行動です。触れないことは顧客には不合理なことであり、それを理解している店舗や企業はいかにして手に触れさせるかを考えます。手に触れることができる売場づくりは顧客にとっても、供給者である店舗や企業にとっても合理的なのです。

 

 それでは「桃」や「サバ」に限定して合理性を考えてみると、「痛みやすいので手でおさえないでください」というPOPは顧客だけではなく、店舗や企業にとっても不合理なことがわかります。

 

 〔抜粋〕あるいは顧客の合理性を変えようとすることが、メーカーや供給者の仕事である。

 

◎「その他のサバ」のケース。

 

<顧客の合理性>             <供給者(企業)の合理性>

触れて買いたい              触れると劣化する… だから触れないように告知

 

<顧客の不合理性>            <供給者(企業)の不合理性>

劣化するらしい… だから触れない     販売数量が増えるから触れさせて買わせたい

 

◎「関さば」のケース。

 

<顧客の合理性>             <供給者(企業)の合理性>

良いことはわかるから触れなくてよい    商標登録で差別化を図る

 

<顧客の不合理性>            <供給者(企業)の不合理性>

高級品だから触れてみたい気もする     販売数量は減るが流通経路を変えたり、約束事を決める

 

 

 このように「関さば」はまさに合理性を変えることに成功した供給者の仕事です。主に3つのポイントがあります。

 

(1)手に触れないことを約束事としたこと … 生けじめ処理後から消費者の口に入るまでの微量な熱も防ぐことによって劣化をおさえる。

 

 キャッチコピー文法:0ゼロ編にあてはめると下記の表現になります。

 

文法       「〇〇から◇◇を0ゼロにする!」

                ↓

関サバ   「物流から手に触れることを0ゼロにする!」

 

(2)他のサバとの相違点が明確であること … 水揚げ港が違えば、豊予海峡で釣れたサバであっても「関さば」と認めない。

 

 キャッチコピー文法:0ゼロ編にあてはめると下記の表現になります。

 

文法       「〇〇から◇◇を0ゼロにする!」

                ↓

関サバ     「流通経路から不信を0ゼロにする!」

 

(3)相違点を守る仕組みを構築したこと … 従来の水産品の流通経路には仲買いがいます。そうするとどこのサバも均一の価格になってしまいます。仲買い任せにしない仕組みづくりがあるのです。

 

 キャッチコピー文法:0ゼロ編にあてはめると下記の表現になります。

 

文法       「〇〇から◇◇を0ゼロにする!」

                ↓

関サバ   「流通経路から価値を低下させる仕組みを0ゼロにする!」

 

 

 世に存在が知られている事業や企業、商品はキャッチコピー文法:0ゼロ編で表現できることが多いです。「関さば」の事例は後からあてはめていますが、これから事業を展開したり、商品を開発する前にこの文法を有効活用してください。

 

 うまくあてはまらない場合は、世の中に与えるインパクトに欠けるかどうかの指標になります。あてはめた表現はそのままキャッチコピーとして活用できますし、ミッションやビジョンとして作用することもあります。

 

 インパクトに欠けることが良くないのではありません。実際に「関さば」のキャッチコピーは「関の一本釣り」です。「0ゼロ」のインパクトは活用していませんが、◎インパクト数列◎の「1(一)」を使った表現になっています。

 

 

〔0ゼロ部会の研究ノートから〕

 

 消費者は選択肢が多いと判断できなくなります。与えられる情報が増えるほど消費者はインプットを遮断してしまいます。

 

 「ウリはこれです!」と言い切れる企業や商品の指名率が高くなることからも“0から100へ”より“0へ近づける”方が説得力やスピード感は増すように感じます。

 

 何かを創造することは時間も空間も、そして人間(労力)も必要とします。しかし、何かを廃棄することは比較的に決断しやすいことです。

 

 「0ゼロ」を単なる数字で終わらせずに、マーケティングやイノベーションのキッカケのツールとしての活用が功を奏します。

 

 

 

 

これまでの連載

<第1回>事業とは価値転換プロセスである(前編)
<第2回>事業とは価値転換プロセスである(後編)
<3回目> 顧客はドリルではなく穴を欲している
<4回目> 顧客は常に合理的である(前編)
<5回目> 顧客は常に合理的である(後編)
<6回目> 顧客とは決定権をもつ者、拒否権をもつ者である(1)われわれの顧客は誰か
<7回目> 顧客は満足を買っている(2)顧客にとっての価値は何か(パート1)

<8回目>顧客は満足を買っている(2)顧客にとっての価値は何か(パート2)

<9回目> 質を決めるのは企業ではない(パート1)

<10回目>質を決めるのは企業ではない(パート2)

<11回目>質を決めるのは企業ではない(パート3)

<12回目>質を決めるのは企業ではない(パート4)

<13回目>質を決めるのは企業ではない(パート5)

<14回目>質を決めるのは企業ではない(パート6)

<15回目>質を決めるのは企業ではない(パート7)

<16回目>質を決めるのは企業ではない(パート8)

<17回目>質を決めるのは企業ではない(パート9)

 

 

 

 

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沼澤拓也
「POPによる客単価アップのスペシャリスト」 ◎公的機関・商店街・大手企業のコンサルティング。大学講師やPOP楽会主宰、POP甲子園®コンテスト審査委員長も務める。最近はチームPOPジャパン®をプロデュース。年間150回を超えるセミナー活動は口コミで拡大中!海外からの依頼で講演を開催し、ファン層はアジア規模である!「実践するドラッカー事業編×POP」コラボセミナーは東京、松本、岡山、神戸、郡山、茅ケ崎で開催。「もしドラ」読書感想文コンテストでダイヤモンド社から特別賞受賞。「POPスター」の愛称で、新聞・雑誌等メディアへの執筆活動やテレビ出演(バラエティ番組、報道番組)など。 <著書>繁盛店が必ずやっているPOP最強のルール(ナツメ社)はすでに第10刷。近著は、たった1行で繁盛店に変える!つい買いたくなるPOPの極意(実業之日本社) <POPチャンネル>http://poporigin.com/

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