前回までの〔手順5〕については、まだまだお伝えしたいことがありますが、ここら辺りで〔手順6〕(下記シートの視点4)へ進みます。
キャッチコピーを考えるときにドラッカー教授(以下、ドラッカー)の次の2つの問いが重要です。
「われわれの顧客は誰か」
「顧客にとっての価値は何か」
これまで〔手順3:視点1〕から〔手順5:視点3〕までは、「顧客にとっての価値は何か」を明確にするための視点でした。
〔手順6:視点4〕だけはズバリ!「われわれの顧客は誰か」を明確にする視点です。
以前、◆第6回目◆の記事で次のドラッカーの言葉に触れた回がありました。そのときは、読書POPを事例にしました。ぜひご参照ください。
「マーケティング的アプローチによる分析では、誰が顧客かはわからないという前提に立たなければならない。顧客とは支払う者ではなく買うことを決定する者である」
『創造する経営者』p.124
これまで画像1のシートを6時(品名、社名)の箇所から時計回りに進めてきました。視点4を埋めるための問いが「われわれの顧客は誰か」であり、クライアントには「Whoの法則」と伝えています。
それでは具体的に次の問いを考えてみましょう!
〔手順4〕
上段の右マス(視点4)に「設定商品の強みを活かせる対象者は誰ですか?」
視点1から視点3同様に、6時のところに記入した商品が題材です。
(画像1)
視点4も非常に重要な問いなのですが、明確に設定できている企業はほとんどないのが現状です。課題を挙げると下記の3つに集約されます。
(1)シートに記入できない
(2)記入はできるが具体的ではない(フォーカスされていない)
(3)トライアンドエラーの仕組みがない(設定した対象者からの反応を活かせない)
(1)シートに記入できない
これまでに考えもしなかったことを問われると人は動きを止めてしまいます。頭の中で一種のパニック状態になります。
しかし、このパニック状態は良い面もあります。この8マスシートはうめていくこと、記入していくことが目的ですが、空欄でも構いません。空欄は駄目なことと捉えがちですが、自社(自身)の課題が発見できたことを喜んでください。
企業は打つ手(課題)が見つからずに永遠と悩んでいるところが多いです。課題が発見できないことが課題なのです。課題は次へのステップとなります。
(2)記入はできるが具体的ではない
商売(経営)で誤解していることの一つとして次のことが挙げられます。
〝対象者の設定範囲は、広げるほど支持者(ファン)が多くなる〟 ×
よくあることが〝対象者は消費者の方すべて〟と回答する経営者やビジネスパーソンが大多数です。
繁盛店や成長企業は知っているのです。他店(他社)とは異なる下記の法則のことを。
〝対象者の設定範囲は絞る。つまり広げずに狭めるほど支持される〟 ○
どれくらい狭めればよいかというと、設定した商品をおすすめできるたった一人のお客様の顔が思い出せ、その人のフルネームが言えるまで絞り抜きます。徹底的にフォーカスしてください。
ドラッカーの問いの答えがピンボケになっていると、ビジネスの視界は晴れません。永遠に大海を彷徨う羽目になります。
「このお客様へ」と一人を明確にできれば、問いへの反応としては大正解です。
例えば下記のように具体的にフォーカスします。
「○○市○○丁目○○番地の6人家族で、この春には二人のお子さんが大学と高校にそれぞれ受験する○○病院で看護師をされている○○さん家の○○子お母さん」
このお母さんたった一人に響くメッセージを発信することを意識して、視点4に記入します。
誰でもいいから買ってほしいという考えは、誰一人も商品に関心を示さないことを留意して、キャッチコピーの表現に視点4を活かします。
画像2~4は◆11回目◆の記事でふれたコピーと同じですが、今回焦点をあてる部分は文末に「?」が付されているコピーではなく、「○○の方へ」の表現のところを注目してください。
(画像2)
↓ ↓ ↓
「水道料金が1万円以上お支払いの方へ」
(画像3)
↓ ↓ ↓
「女子力 上げたい方へ」
(画像4)
↓ ↓ ↓
「深夜残業、夜勤をされている方へ」
画像2~4で発信したメッセージは、制作されたそれぞれの企業の方が〝ある一人の方〟をイメージし、その方にメッセージを届けようとしたものです。
もちろん先ほど例に挙げた下記の方をイメージしたわけではありません。
「○○市○○丁目○○番地の6人家族で、この春には二人のお子さんが大学と高校にそれぞれ受験する○○病院で看護師をされている○○さん家の○○子お母さん」
不思議なことに(Whoの法則からみると、不思議でも何でもありませんが…笑)このお母さんに対して発信したメッセージのようにも感じませんか。
「水道料金が1万円以上お支払いの方へ」
「女子力 上げたい方へ」
「深夜残業 夜勤をされている方へ」
つまり、たった一人の方をイメージして発信したメッセージは結果、多くの消費者に「私自身へのメッセージだ!」のように受け取れる説得力をもって伝わるのです。
〔ご覧ください!ナレプラチャンネル〕
ナレッジプラザさんで立ち上げた「ナレプラチャンネル」をご存じでしょうか?YouTubeでドラッカーコンテンツを配信しています。
3月にDサポート清水さんと「実践するドラッカー事業編」の第2章、第3章を主体に「ドラッカー×POP」でコンテンツを制作しました。
すでに4月中にPART3まで、5月中は今現在(17日時点)PART6まで公開されています。
「ナレプラチャンネル」と検索頂ければ視聴できますので、ぜひご覧ください(※5月は第4章の収録を予定しています。配信は早ければ6月、7月が濃厚かもしれません)
動画の中には、このDラボで触れていない話もしています。一つ紹介すると「Who」を明確にするときに「広告ターゲット」と「リアルターゲット」が存在するということです。
広告ターゲットとは、商品やサービスの提供を受けるという広告そのものの対象者のことです。
リアルターゲットとは、決定権や決裁権をもっている対象者のことです。
事例でみていくと分かりやすいでしょう。
【事例1】 広告ターゲット=リアルターゲットのケース
例えば、春の新商品「口紅」の場合。広告ターゲットとしてOLさんは一つの層として想定されます。おそらくOLさん自身で購入されるためリアルターゲットも同様にOLさんを想定します。
【事例2】 広告ターゲット≠リアルターゲットのケース
例えば、学習塾の場合。広告ターゲットとしては小中高生が想定されます。しかし、通わせるという決定権や費用を支払う決裁権は両親が想定されますので同様ではないわけです。
このようなことをマーケティング活動を通じて判断し、広告展開されます。それにあったキャッチコピー作成が求められます。
小中高生に対して広告しているようであっても、その背景に存在するリアルターゲットへのメッセージをキャッチコピーにすることで効果を狙います。
しかし、高校生が対象となるとメッセージとしてのキャッチコピーは背景に存在する決裁権者よりも高校生自身に決定権があることも考えられるため、マーケティング活動でのサーベイ(調査)が重要になります。
単に「広告ターゲット」と「リアルターゲット」という分け方では、捉えられないことを下記のドラッカー教授の言葉から拝察できます。
「マーケティング的アプローチによる分析では、誰が顧客かはわからないという前提に立たなければならない。顧客とは支払う者ではなく買うことを決定する者である」
『創造する経営者』p.124
このように、「Who」という対象者の設定がキャッチコピーで明確に、しかも設定があっていれば効果的なのです。
設定があっていればということはマーケティング的アプローチによる分析では、誰が顧客かはわからないという前提に立たなければならない。の部分とリンクします。
この8マスシートの「視点4」で繰り返し「Who」を磨いてみてください。
これまでの連載
<第1回>事業とは価値転換プロセスである(前編)
<第2回>事業とは価値転換プロセスである(後編)
<3回目> 顧客はドリルではなく穴を欲している
<4回目> 顧客は常に合理的である(前編)
<5回目> 顧客は常に合理的である(後編)
<6回目> 顧客とは決定権をもつ者、拒否権をもつ者である(1)われわれの顧客は誰か
<7回目> 顧客は満足を買っている(2)顧客にとっての価値は何か(パート1)
<8回目>顧客は満足を買っている(2)顧客にとっての価値は何か(パート2)

沼澤拓也

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