〔画像1〕8マスシート記入の〔手順7〕へ進みます。
キャッチコピーを制作するときの素材として視点5「お客さまの声」を集めます。
顧客にとっての価値は何か
上記の問いを理解するには「お客さまの声」が重要な素材の一つです。
〔画像1〕
〔画像2〕
〔画像2〕は講演やセミナー会場で出題するクイズです。挙手を求めると、一番多いのが1番「経営者の声」です。ハズレとは言いません。経営者の声も大事です。ただ順番をつけるとすると下記のとおりです。
お客さまの声 > 現場スタッフの声 > 経営者の声
このように「経営者の声」は最後になります。
キャッチコピーというのは宣伝文句のため発信することと考えがちですが、お客様から〝同調〟を得るということです。「私もそう思う!」とお客様の潜在欲求に働きかけることです。
お客さまは一番近い立場の人に同調する心理が働くため上記のようになりますが、中には現場スタッフよりお客さまに近い繁盛店や成長企業の経営者ももちろんいます。
このような「現場に行って、見て聞く」ドラッカー教授が好きそうな経営者の場合のみ、経営者の声をキャッチコピーに活かすことができます。
しかし、お客さまの声を超えることは至難なのかもしれません。
企業目線だと「良いことばかりを発信しているのではないか?」という疑問がわきます。第三者であるお客さまは躊躇せずにプラス面だけではなくマイナス面も伝えてくれます。だから信頼感が違うのです。
次のPOPは「お客様の声」をそのままキャッチコピーとして活用した事例です。
〔画像3〕
〔画像3〕は、購入商品についての使用感(個人の感想)です。企業目線で品質や機能、用途をアピールするよりも他のお客さまの〝同調〟を獲得できるのです。体験談や愛用している理由などを具体的に伝えます。
お客さまの声は信頼感が違うと前述しました。マイナス面を隠さずに公開することでさらに醸成されます。〔画像4〕は遠回りでくどいように感じるかもしれませんが、リアルな声を伝えることが近道なのです。
「時間と手間はかかる」というマイナス面と、「お米本来の美味しさに納得!」したプラス面の体験談が信頼感へとつながります。
〔画像4〕
〔画像5〕
〔画像5〕は、お客さまの声をそのまま表現したものではありませんが、シンプルなキャッチコピーが成果につながった事例ですのでご紹介します。
―――――――――――――――――――――――――――
一人のご年配の女性が来店されました。精肉売場のスタッフAさんに次のように優しいクレームを。
「お肉を買いたいといつも思うのだけど、一人暮らしだからパックの量だと多すぎて余ってしまうのよね」
そのスタッフAさんは次のようにご年配のお客さまに伝えました。
「当店ではご希望の厚さ(量)にスライスしておりますので、お気軽にお声がけください」
「あら、知らなかった。そうなのね」
このお客さまはその場で希望を伝え、ご来店のたびにスライスしてもらったようです。
―――――――――――――――――――――――――――
二流の店舗であれば、これで一件落着です。
この話はここからがポイントです。
―――――――――――――――――――――――――――
このスタッフAさんは今起きた現実を売場責任者へ伝えたのです(この行動が一流です)
「ご年配の女性のお客さまから肉の量が多すぎると言われました」
売場責任者は不思議そうに次のようにスタッフAさんに言いました。
「当店はスライスしたり、量り売りしているでしょう」
「もちろんそのことをお伝えし、早速スライスしてご購入されました」
―――――――――――――――――――――――――――
一流の店舗であれば、これで一件落着です。
この話の本当のすごいところはここからがポイントです。
―――――――――――――――――――――――――――
売場責任者はスタッフAさんへ次の指示を出しました。(この行動がさすが超一流です)
「知らないお客さまがまだいるかもしれないから、その話を正確にPOP担当のZさんに伝えて至急制作を依頼し掲示してほしい」
余談になりますが、以前は量販スーパーの各店舗には、POP担当者が在籍しタイムリーに情報を発信していました。現在はすべて本部制作が主流です。ちなみに唯一、各店舗にPOP担当者がいるのは、あのドン・キホーテだけです。タイムリーな発信が成果につながることを証明してくれている企業です。
話は元に戻します。
〔画像5〕のキャッチコピーが明記されたPOPを掲示すると、精肉売場の売上があがりました。
その後、この量販スーパー全店で活用され、特に一人暮らしのご年配のお客さまから好評となったのです。
二流の店舗なら最初の段階での、お客さまとスタッフAさんの他愛もない話で終了ですね。
何十年も前の逸話ですが、今では全国の主要な量販スーパーの精肉売場には、当然のようにこの手のPOPが掲示されています。
今では精肉売場にとどまらず、青果売場、鮮魚売場、そして食品業界を越えて多くの業種で多くのストーリーが誕生しています。
―――――――――――――――――――――――――――
上記の例は、お客さまの声をヒントに生まれたキャッチコピーです。
以前、第9回では異なる事例でふれたことがあります。
売場の統計学を知っている責任者のいる店舗では、下記の法則を徹底しています。
「1人のクレーム(質問、疑問)は10人のクレームと思え」
ぜひ、第9回の記事も読んで頂きたいです。
〔まとめ〕
ほとんどのお客さまは有り余るほどのモノを所有しています。だからお客さまの「知らなかったコトを伝える」ことで「買いたい!」と思わせないと、これ以上の所有は必要ないのです。
企業目線では「お客さまの知らないコト」はわからないため、直接お客さまに教えてもらう方法が解決策なのです。
まさに「顧客に聞け」です。
顧客目線はお客さまにしかわからないのです。使用したお客さまがその価値に気づかせてくれるのです。
お客さまが信頼し説得させられるのは、自分と同じ立場である「お客さまの声」なのです。
「市場の現実からいえることは一つだけである。すなわち、事業にとって重要なことは、顧客の現実の世界、すなわちメーカーやその製品がかろうじて存在を許されるにすぎない外部の現実の世界を知ることだということである」。『創造する経営者』p.129
「顧客や市場について、企業が知っていると考えていることは、正しいことよりも間違っていることのほうが多い。顧客と市場を知っているのはただ一人、顧客本人である」。『創造する経営者』p.118
実践するドラッカー事業編の中に「顧客と市場を知るのは、顧客のみである」と記載されています。
企業は消費者アンケートやネットを活用した消費者データを分析し、顧客と市場を知ることに注力していますが、精肉売場の事例のような現場のタイムリーな現実に対して、直ちに情報を分析し共有、意思決定そして同調できる仕組みを構築することが必要です。
それによって以前は知ることのできなかった「顧客の本性」や「未開の市場」が顕在化されていきます。
どれだけ顧客とのアクセスポイントを増設するかが「顧客をファン化」そして「市場の優位性」を確保する術であります。
キャッチコピー制作にしても同様であり、マスメディア主体の時代は企業発信のキャッチコピーも市場に作用し、消費者に行動を促すことができました。しかし、ソーシャルメディア主体の時代になり、キャッチコピーも変化しなければ市場に作用せず、消費者にも受け入れられないのです。
つまり、これからは顧客起点の現実を知覚することで、消費者から同調されるキャッチコピーが成果へ導くのです。
これまでの連載
<第1回>事業とは価値転換プロセスである(前編)
<第2回>事業とは価値転換プロセスである(後編)
<3回目> 顧客はドリルではなく穴を欲している
<4回目> 顧客は常に合理的である(前編)
<5回目> 顧客は常に合理的である(後編)
<6回目> 顧客とは決定権をもつ者、拒否権をもつ者である(1)われわれの顧客は誰か
<7回目> 顧客は満足を買っている(2)顧客にとっての価値は何か(パート1)
<8回目>顧客は満足を買っている(2)顧客にとっての価値は何か(パート2)

沼澤拓也

最新記事 by 沼澤拓也 (全て見る)
- お客さまの声 <20回目> 質を決めるのは企業ではない(パート12) -POPの作り方を高めるドラッカー・マネジメントの名言 - 2020年6月29日
- Whoの法則 <19回目> 質を決めるのは企業ではない(パート11) -POPの作り方を高めるドラッカー・マネジメントの名言 - 2020年5月17日
- 関さば食べたい!! <18回目> 質を決めるのは企業ではない(パート10) - 2020年3月6日
- <17回目> 質を決めるのは企業ではない(パート9) -POPの作り方を高めるドラッカー・マネジメントの名言 ◇商品・サービスの相違点を分析し、「顧客にとっての価値は何か」をキャッチコピーにする方法を公開します。 - 2020年3月3日
- <16回目> 質を決めるのは企業ではない(パート8) -POPの作り方を高めるドラッカー・マネジメントの名言 ◇商品・サービスの相違点を分析し、「顧客にとっての価値は何か」をキャッチコピーにする方法を公開します。 - 2020年1月17日