イノベーションとは?意味・定義・種類・成功事例をわかりやすく解説

イノベーションとは、製品・サービス・流通で革新が起こり、世の中に大きな影響を与えることをいう。しばしば日本では「技術革新」と訳されることもあるが、これは一面的な見方であり、イノベーションの意味を理解したとは言えない。

そこで当記事では、経営学の世界でもよく知られるイノベーションの意味定義を、有名な4人の論者を紹介しながら解説するとともに、事例をふまえながらイノベーションを起こす思考法について取り上げる。

この記事を読めば、

  • イノベーションは偶然や才能だけがすべてではない
  • イノベーションを起こすチャンスは「顧客志向」の発想にある

ことを理解でき、起業家精神の本質を掴めるようになるはずだ。この記事を、イノベーションの基礎知識を詰め込んだ“俯瞰図”のつもりで読んでくれたら幸いである。きっとこれからのビジネスシーンで役に立つときがくるだろう。

イノベーションとは?基本的な意味と定義

イノベーションとは、製品・サービス・生産・流通・組織・ビジネスモデルなどに革新が起こり、社会構造や生活に影響を与える変化のことをいう。たとえば、製品ならスマートフォン、物流の仕組みならAmazon、組織ならGoogleが一例として挙げられるだろう。

イノベーションには種類がある

一般的にイノベーションと聞けば、「技術革新でこれまでにない製品が生まれる」「常識を覆すアイデア」といった漠然としたイメージを持たれることが多い。

しかし実は、厳密にはイノベーションにはいくつか種類が存在し、経営学の界隈で区別されている。以下に挙げるイノベーションの有名な類型を知れば、これまでとは違う印象を持つようになるかもしれない。

以下では、有名な4人の論者によるイノベーションの定義と意味について紹介する。

  • シュンペーターのイノベーション
  • ドラッカーのイノベーション
  • クリステンセンのイノベーション
  • チェスブロウのイノベーション

シュンペーターによる5つのイノベーション

20世紀を代表する著名な経済学者であるヨーゼフ・A・シュンペーターは、「創造的破壊」という有名な用語を生み出した張本人だ。創造的破壊は、まさにイノベーションに関する古典的な議論である。イノベーションについて知るには、シュンペーターから理解すれば間違いないだろう。

シュンペーターは、イノベーションには以下の5タイプが存在するとした。

  1. プロダクトイノベーション(新しい生産物の創出)
  2. プロセスイノベーション(新しい生産方法の導入)
  3. マーケットイノベーション(新しい市場の開拓)
  4. サプライチェーンイノベーション(新しい資源の獲得)
  5. 組織イノベーション(新しい組織の実現)

プロダクトイノベーション

革新的な製品(product)を開発し、人々のライフスタイルや市場構造を変えるイノベーションをプロダクトイノベーションという。1950年代の日本でいうなら電気洗濯機・電気冷蔵庫・白黒テレビ、高度経済成長ならカラーテレビ・クーラー・自家用乗用車が挙げられる。現代ならスマートフォンが典型例である。

プロセスイノベーション

製品やサービスの生産・流通過程(process)の革新をプロセスイノベーションという。わかりやすい事例でいうと、ファストファッションブランドの牙城・ユニクロである。ユニクロは海外の工場で低コスト化を図り、商品を逆輸入する形で日本国内での低価格販売を実現した。

マーケットイノベーション

新しい市場(market)の開拓をマーケットイノベーションという。つまり、新たな顧客を獲得して、シェアを拡大することを意味する。製品はそのままで売り方を変えるだけでマーケットイノベーションを起こせるのが魅力である。

サプライチェーンイノベーション

生産財の流通(supply chain)で革新を起こし、生産性の向上・在庫管理の効率化・低コスト化を実現するのがサプライチェーンイノベーションである。巨大な倉庫を確保し、品切れを起こすことなく迅速な配達を実現したAmazonは、まさにサプライチェーンイノベーションの申し子といえるだろう。

オーガニゼーションイノベーション

組織(organization)の革新により、優秀な人材を多数輩出し、生産性と競争力を飛躍的に向上させるのがオーガニゼーションイノベーションという。「管理をしない」ことで有名なGoogleは、元CEOのエリック・シュミット氏が心がけていた組織づくりだった。「素晴らしい製品を生み出す」ことを念頭に置き、スタッフを必要以上に管理せず自由に意思決定させる。その結果、さまざまなプロダクトイノベーションを起こすことができた。

ドラッカーのイノベーション

“マネジメントの父”と称され、Googleのエリック・シュミット氏やユニクロの柳井氏に多大な影響を与えたピーター・ドラッカーは、イノベーションには「顧客志向」の発想が不可欠であると説いた。

ここでいう「顧客志向」とは、顧客が現在、どんなモノ・コトを欲し、どんな不満を抱えているのか(満たされていない欲求は何か)を深く探ることを意味する。

絶えず変化する世の中で、顧客の欲求も日々刻々と変わりゆく。その変化の兆しを察し、ニーズの本質を掴むことこそ、イノベーションのチャンスであるとドラッカーはいう。

イノベーションとは、市場に追いつくために自分の製品やサービスを自分で変えていくことである。

ドラッカー『ネクストソサエティ』より

ちなみにドラッカーはシュンペーターとは知り合いで、シュンペーターが亡くなる直前まで付き合いがあったほど親交が深い。

クリステンセンのイノベーション

経営学でもおなじみ、著書『イノベーションのジレンマ』で有名なクレイトン・クリステンセンは、ハーバードビジネススクールの教授である。彼は「イノベーションのジレンマ」が起こる要因に、「破壊的イノベーション」があるとした。

イノベーションのジレンマ

たとえ技術の改良を繰り返して市場での地位を築いていたとしても(持続的イノベーション)、新技術の突然の登場(破壊的イノベーション)により、一気に陳腐化して競争優位性を失ってしまう皮肉を「イノベーションのジレンマ」と呼んだ。

イノベーションのジレンマが起こる最大の要因は、過去の成功体験である。多くの企業は、これまで通用した技術や製品に執着する傾向がある。それゆえ、新技術を過小評価したり、新技術に負けじと古い技術で新製品の開発に舵をとったりすることがしばしば起こる。

持続的イノベーション

現在の市場で優位な製品を改良し、よりよい品質のバージョンを投入することを持続的イノベーションという。カセットウォークマンが世に出てからしばらくは、ソニーをはじめ各メーカーが持続的イノベーションを繰り返してきた。

破壊的イノベーション

どれだけ最新の機能を搭載したカセットウォークマンでも、新発売のMDプレーヤーには勝てないものである。MDプレーヤーの登場は、カセットウォークマンという携帯音楽プレーヤーをまったく過去のものにしてしまったわけである。このように、既存製品の改良が通用しなくなり、新技術による製品に市場を奪われてしまうことを破壊的イノベーションと呼ぶ。

チェスブロウのイノベーション

経営学者のヘンリー・チェスブロウが提唱した「オープンイノベーション」は、閉鎖的に開発研究を行うよりも、外部の知識や技術にアクセスして開発に利用したほうがいち早く市場に投入でき、成果をあげやすくなるという理論だ。

オープンイノベーションには次の2つのパターンがある。

アウトサイドイン型外部の知識や技術を自社の技術に組み込んでイノベーションを起こすケース。
インサイドアウト型自社の知識や技術を外部に発信して連携を図り、イノベーションを起こすケース。

なぜいま企業にイノベーションが必要なのか?

イノベーションが企業に求められる理由を6つの視点で説明する。

新しい競争力を生み出すから

イノベーションが起これば生産性が向上し、市場で優位なポジションを得ることができる。競争力は次なるイノベーションの機会を準備する。イノベーションに触発された競合も活発になり、市場が元気になる。

低コスト化を実現できるから

流通や生産プロセスのイノベーションは製品やサービスの価格を引き下げる。消費者の経済厚生に大きな貢献を果たすことができる。

事業の陳腐化を防ぐから

“現状維持”ほど最悪な方針はない。現状維持は衰退の入口に他ならない。イノベーションを志向する起業家精神は、次なる社会の課題に取り組むエネルギーを生み出し、組織を若々しく保つことができる。あなたが100年企業を目指すなら、世の中の動きをキャッチし、顧客ニーズの変化に対応していかなければならない。

人口の変化への適応が必要だから

人口の変化ほど予測しやすいものはない、とドラッカーはいう。人口動態は、これからの事業の行く末を示唆する重要な指標である。人口の変化は社会構造の転換を意味する。所得・購買力・ライフスタイルなど、あらゆる要素が数十年前とは異なる様相を示すことになるだろう。あなたの事業は、この大いなる変化に適応できるだろうか?

雇用を生み出すから

イノベーションは必然的に雇用を創造する。たとえどんなにAIが発達しても、人の仕事がなくなることはない。たしかにAIによって代替される仕事はあるかもしれない。だが、尽きることのない消費者の欲求は、新たな“満たされない欲求”をもたらし、価値創造の余白を生み出す。その余白に気づくことが、すなわちイノベーションの本質なのである。

イノベーションを起こす思考法

イノベーションのチャンスは誰にでも開かれている。もちろん、偶然のひらめきや追随を許さない特殊技術が要因となる例もあるだろう。しかし、ビジネスの本質は「顧客」である。顧客に寄り添う顧客志向の発想を持ち続け、アクションを起こしていけば、必ず道は開けるはずだ。

①顧客が満たせていない欲求をさぐる

ドラッカーは徹底して顧客志向の視点を貫いた。事業も製品もサービスも、顧客が欲している“価値”を満たすためにあると考えたからだ。

消費者の欲求のうち「今日の財やサービスで満たされていない欲求は何か」を問う必要がある。この問いを発し、かつ正しく答える能力をもつことが、波に乗るだけの企業と成長する企業との差になる。波に乗っているだけの企業は、波とともに衰退する。

ドラッカー『マネジメント』より

現在の市場が供給している製品やサービスでさえ、満たされない顧客の欲求は何か。その問いにこそ、イノベーションのチャンスがある。

たとえばソニーが好例である。当時のアメリカの若者が、大きくて重たいトランジスターラジオをかついでいるのを観察してヒントを得たのが、小型ラジオの発明であった。

②過去の成功に執着しない

イノベーションのジレンマに陥らないようにするには、製品志向ではなく、顧客志向の立場を貫徹することである。そのためには、製品が顧客にとって何なのかを再定義しなければならない。ドラッカーの言葉を借りれば、製品とは、顧客が欲求を満たすための手段である。

③世の中のことにアンテナをめぐらせる

自分の業界だけでなく、もう少し広い視野で世の中を見渡してみよう。時代の空気を読み、価値観の変化や技術の進歩を肌で感じることが、イノベーションの第一歩となる。また視野を広げていくと、未開拓の顧客が見えてくるかもしれない。

イノベーションの成功事例

イノベーションの成功事例は枚挙に暇がないが、以下に、わかりやすい事例を3つピックアップして紹介する。

Google

オーガニゼーションイノベーションの例。元CEOのエリック・シュミットは、人を管理する官僚制組織ではなく、可能なかぎり人を管理せず、成果を出すために自由に意思決定させるような仕組みづくりに力を入れた。

ヤマト運輸の宅急便

マーケットイノベーションおよびプロセスイノベーションの成功事例。個人の宅配は極めて非効率なので事業にならないと考えられていた時代だったが、各エリアに集配所を設置して、個人の荷物を合理的に集荷して事業化に成功した。

セブンイレブン

サプライチェーンイノベーションの成功事例。配送効率のために、違うメーカーの製品を同じトラックで運んでもらうというアイデアで大幅にコストを減らすことに成功。店舗運営の効率化にも寄与した。創業から間もない1970年代後半のことであった。

まとめ

イノベーションとは?基本的な意味について

イノベーションとは、製品・サービス・生産・流通・組織・ビジネスモデルなどに革新が起こり、社会構造や生活に影響を与える変化のことをいう

イノベーションには種類がある

イノベーションにはいくつか種類が存在し、シュンペーター、ドラッカー、クリステンセン、チェスブロウの4人の定義が有名である。

シュンペーターによる5つのイノベーション
  • プロダクトイノベーション
  • プロセスイノベーション
  • マーケットイノベーション
  • サプライチェーンイノベーション
  • 組織イノベーション
ドラッカーのイノベーション

顧客が現在、どんなモノ・コトを欲し、どんな不満を抱えているのか(満たされていない欲求は何か)を深く探ることで起こすこと

クリステンセンのイノベーション

コツコツと製品を改良して市場シェアをとる(持続的イノベーション)あいだに、新しい新技術が市場シェアを奪い(破壊的イノベーション)、結果的に競争優位性を失うことをイノベーションのジレンマという。

チェスブロウのイノベーション

閉鎖的に開発研究を行うよりも、外部の知識や技術にアクセスして開発に利用したほうがいち早く市場に投入でき、成果をあげやすくなるという概念を「オープンイノベーション」という。

なぜいま企業にイノベーションが必要なのか?

競争力を生み出すから、低コスト化を実現できるから、事業の陳腐化を防ぐから、人口の変化への適応が必要だから、雇用を生み出すから

イノベーションを起こす思考法
  1. 顧客が満たせていない欲求をさぐる
  2. 過去の成功に執着しない
  3. 世の中のことにアンテナをめぐらせる

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“イノベーションとは?意味・定義・種類・成功事例をわかりやすく解説”への2件のフィードバック

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  2. […] が優位の市場が成立している場合は、製品やサービスの品質を追及するだけで事業が成長することもあります。これを経営学者のチェスブロウは「持続的イノベーション」と呼びました。 […]

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