前回に引き続き、読書会参加者インタビューの2回目も、山内 祐未(やまうち ゆみ)さんにご登場いただきます。<実践するマネジメント読書会@岡山・広島 参加者インタビュー 山内祐未さん(前編)>
営業や接客など「人によって質がばらつく仕事」を社員や部下に教える際、どう教えたらいいのかを悩む方はとても多いのではないかと思います。
教育サービス業界にいた山内さんは、業界ならではの知識を応用して、ドラッカーのマネジメント原理に沿った「人の自己成長を加速させる仕組み」を編み出していました。
堂々と「ミスりました!」を言える人の存在
筆者:
前回は広島の読書会に参加したところまでのお話を伺いました。今日はその次に参加した、岡山での読書会について聞かせてください。
山内:
まず最初に驚いたのは、読書会で堂々と「ミスしちゃいました」って発表する経営者が現れたことでした。
読書会では、指定された箇所を読んできて、その中で気になった一文とコメントを話しますよね。そのコメントの一言目が「ミスりました」だったんです。あんなに堂々と「ミスりました」って言える人に、今まであまり出会ったことがなかったんです(笑)
ふつう「ミスりました」って口で言ってても、どこか謙遜だったり、包み隠したりするじゃないですか。でも、その方は本当にミスった話を堂々と発表しちゃう!
もう「それもアリなんだ~」って、目からウロコでした(笑)
筆者:
全国で色んな読書会をやってきましたけど、彼はレアキャラだと思います(笑)
山内:
ただ、それってすでにドラッカーの言葉を実践しているって事だと思うんです。すでに実践しているから「ミスりました」を言える訳で。
実践していることが当たり前という人がいると、実践していることが当たり前という場の空気ができるんですよね。
そういう空気感の中で、2期目の読書会に参加できたのは、本当に良かったと思います!
(岡山読書会プレセミナーの模様。開会挨拶をする山内さん)
筆者:
2期目の読書会は、どんな実践をしてみましたか?
山内:
2期目に入ってからは、彼のおかげもあって「常にドラッカーの言葉を使っている状態」になったな~って思います。
1期目の読書会でマネジメントという道具箱のかたちが何となく分かって、2期目は道具箱の中身がどんどん整理されていく感じでした。
なにか課題が目の前にあらわれたら、「これはドラッカーのどの言葉を使えばいいんだっけ?」って考える癖がつきました。
「なんか最近、忙しいな~」って感じている自分に気づいたら、
「まずは時間の記録を取ってみよう」とか。
スタッフさんに何か仕事をお願いするときは、
自分はその方に「どうやって貢献ができるだろう?」とか。
人との会話の中で何か違和感を感じたときは、
強み・ワークスタイル・価値観の、
どれが影響しているんだろう?って考えるとか。
「分けて」考えると「分かる!」が手に入る
筆者:
ところで、岡山での読書会が始まったタイミングで、学習塾の経営をスタートされたと思うのですが、そこではどのようにドラッカーを使いましたか??
山内:
教室の開設にあたって、「直接の成果」「価値への取り組み」「人材の育成」という成果の3つの領域をきちんと分けて考えておいたことが、後でものすごーく役に立ちました。
例えばうちの場合、直接の成果は「生徒数・学習教科数が増えること」になるんですけど、それが「なぜ、そうなって欲しいのか?」という部分で、価値への取り組み・人材育成という、残り2つの成果とつながっています。
ドラッカーを学ぶ前の私なら、「教室存続のために人数と教科数を増やさなきゃ!」っていう営業視点の私と、「なぜ私がこの事業をやりたいのか?」っていう大切にしたい価値観とが、自分の中で対立しちゃっていたと思うんです。
他にも、フランチャイズ本部から求められる目標と、私がいま目指していることがイコールにならないこともあって、以前の私なら辛くなっていたと思うんですけど、3つの領域の成果を分けて表現したことで、「あ、本部が求める目標は、〇〇の領域の話だな」って、納得できるようになりました。
あと、自分の「好きなこと」だけをやらなくなったのも大きかったです(笑)
私はそもそも人材育成に興味があるので、たぶんこれまでの私だったら、スタッフ育成ばかりをやっちゃってたと思うんです。
けれど、いまは「それをするのは、何のため?」って自分に問いかけるようにしています。「価値への取り組み」を考えることで、自分で自分の一時停止ボタンを押せるようになりました(笑)
(岡山読書会の模様。山内さんがファシリテーターとしてデビューした日)
筆者:
いま話を伺っていて思ったのですが、「分けて考える」というのは、山内さんに特有のワークスタイルですよね。きちんと要素に分けて考えることで、全体像をつかむのが得意というか。
そういえば、岡山の読書会でファシリテーターとしてデビューした時も、自分で自分用の採点表を作っていましたよね? あれも同じスタイルの応用じゃないですか?
※ファシリテーターとは…読書会の進行役。認定されるためには講座の受講と既存の読書会でのファシリテーターを1回以上経験することが必要。
山内:
私はどうも極端なところがあって、大事なときに0点か100点かの2択で物事を考えちゃう癖があるんです。そういうスイッチが入ると、「できた」か「全然ダメだった」しかなくなっちゃって…(笑)
前の会社では、自己目標管理シートというのがあったんですけど、期末ごとにそのシートを使った面談があって、できなかった項目に対して「どうしたら出来たと思う?」って上司から質問されてたんですね。
でも、こちらからすると「それが分からなかったから、出来なかったんだよ~~」って、心の中で叫ぶじゃないですか(笑) 0か100しかないから。
上司が見かねて、「全部が出来なかった訳じゃないよね?」とか、「どの部分を増やしたらいいと思う?」って、分解しながら質問してくれたんですけど、当時はその質問の意味が分からなくて。
最近になってようやく、あのころおっしゃっていただいていたことの意味が分かってきた感じです(笑)
筆者:
「分からない」を乗り越えてきた経験が、いま財産になっているんですね。
山内:
そんな格好いい話じゃないんですけど、確かにそうかもしれません(笑)
0か100かでしか考えられないって、冷静に考えたら結構な弱みだと思うんですけど、その経験があったおかげで、物事を分けて考えるという習慣が身についてきました。
その経験がいま、人にアドバイスするとき、役に立っていると思います。
「何もできない」とか、「何も分からない」の状態って、周りもアドバイスのしようがないじゃないですか。そういう時、そういう思考になる気持ちも分かるし、そこから抜け出すヒントも伝えられるようになったのは、とても大きかったと思います。
「自己採点」の仕組みで、成長が加速した
筆者:
ところで、先ほど話した自己採点表の中で、自分で「配点を考える」というやり方をしていたと思うんですが、それも教育業界にいた山内さんならではの方法だな~と思いました。ドラッカーの自己目標管理の考え方と、うまく融合させましたね。
山内:
起業して初めての学習日に、同席してくれていたフランチャイズ本部の方が、なんの気なしに聞いてくださったんです。
「今日は何点でしたか?」って。
突然だったので、私、「20点」って答えてしまったんですね。例によって自己採点が異様に低いんですけど。。。
そしたら、そのやり取りを聞いていたスタッフさんが「子どもたちは笑顔で帰ってくれたのに?」とか、「お母さんは喜んでたのに?」みたいなことを聞いてくれたんです。
それで、はじめの1カ月は意識的にスタッフさんたちと「今日は何点?」「○○ちゃん嬉しそうだったね、あれはいい仕事したよね」って話していたんです。そのうちに、自然と「自分なりの配点を考える」というやり方を試すようになっていました。
はじめは、「1人でも笑顔で帰ってくれたら30点」「1人でもわかった!って言ってくれたら20点」という配点の付け方でした。
開設して1年が経とうとしている今は、「今日の勝負どころは30点、生徒が笑顔で帰ったら30点」という目的を考えて、そこから自分なりの配点を決めていくようにしいてます。
ファシリテーターに挑戦した日は、「今日は両極端な点数をつけちゃう自分が出そうだな~」と思ったので、読書会の準備をしながら、配点も考えておきました。
たぶんあの日も、感情的に自己採点したら、「今日は10点です」とか言って、ひどく落ち込んでいたと思います。あらかじめ考えた配点を使って採点したら65点あったので、そのあとの懇親会では美味しいビールが飲めました(笑)
配点を考えてから取り組むようになったことで、むやみに落ち込むこともなくなったし、どうしたらもっといい仕事ができるようになるかを、自分で具体的に見つけられるようになってきたのはよかったです。
仕組みにするのはこれからですけど、スタッフさんとの日々の会話でも、このやり方を応用しています。将来的にはスタッフ教育の仕組みとして、自分で配点を考えて自分で採点するというやり方を使いながら、子どもたちとスタッフさんの成長につなげていけたらと思っています。
(山内さんがファシリテーターデビュー日に自己採点用に作成した「配点表」)
◆編集後記◆
山内さんは最後に、ドラッカーを使うようになって自身に起きた変化を3つにまとめてくれました。
- 働き方が変わった
- 考え方が変わった
- 自分自身の見方が変わった
1つ目の働き方は、自分の弱みではなく強みを見るようになり、自分が大切にしている価値観を実現するために働くように変わったのだと話してくれました。
2つ目の考え方は、マネジメント体系という道具箱を使って、1つの角度だけではなく多面的に考えるようになったのだと話してくれました。悩んだり課題に直面したときも、戻るべきところが明確なので、立ち止まることがなくなったそうです。
3つ目の自分自身の見方は、他人との相対評価に生きることを終わりにしたのだと話してくれました。自分という存在を「いかに使いこなすか?」に集中することで、自分がもっと世の中に貢献できるのだと気づいたのだそうです。
今後のさらなる活躍に、期待が膨らむばかりです。
山内さん、貴重なお時間をありがとうございました!



鹿島晋

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