「40歳前後の社員の扱いに困っている経営者が、増えているんだよ・・・」
つい最近、とある方からこんな話を伺いました。
何を隠そう(隠してませんが…笑)、筆者は今年40歳。私と同世代がこのように見られているとするならば、由々しき事態です。
コンサルティングファームのデトロイトトーマツがまとめた2016年の調査レポートによると、確かに「ミレニアル世代は帰属意識が低い」という傾向が明確に出ています。
衝撃的なのは、「今の職場で働き続けると見込む期間」という調査項目。5年以内と回答した人が何と、全体の52%を占めています。
さらに2018年版では、この比率が58%に上昇しています。10年以上いまの組織で働き続ける意思を示しているのは、たったの2割程度に過ぎません。
つまりミレニアル世代の8割は、10年以内に自分自身のキャリア選択を行う意思を示しているという事です。
なぜ「帰属意識の低い世代」が生まれたのか? 40歳のリアル
冒頭にも書いた通り、筆者はミレニアル世代の少し上、1978年生まれの40歳です。本音を言うと「帰属意識の薄さ」は私にも当てはまります。
「そもそも会社は自分を守ってくれないから、自力で生きる道を見つけるしかない」
われわれ世代は、この意識が根底にしみついた世代と言えます。
私が社会に出たのは2000年。あとあと分かったことですが、就職氷河期のクレパスの底の年に、新社会人となりました。
「100社受けても、就職が決まらない学生がいる」
当時はこんなニュースが世間を騒がせていました。実際、私の同期でも大学3年の冬から就職活動を始めて、とうとう卒業までに就職先が決まらなかったという友人が何人もいます。当時は「就職浪人」なんて考え方すらなかったので、彼らは仕方なく派遣やフリーターの道を選びました。
こんな調査はどこにもないので私が周りに聞いた限りの情報ですが、どうやら私の1歳上である「1999年入社組」から、これまでとは明らかに価値観の異なる新入社員が激増したようです。
就職氷河期に加えて、1997年の山一證券破綻、1998年の長銀破綻などを目の当たりにしたのちに、就職活動をしたのがこの世代に当たります。
そもそも企業の採用枠がない上に、「一流とされた大企業であっても簡単に倒産する」という意識が前提にあるので、われわれ世代が重視したのは「どこでも生きていける力」を身につけられる環境で働くことでした。
当時はまだ、「大学を出たらそれなりの企業で勤めるのが当然!」という風潮も残る中、本当の意味で満足できる企業に就職できた人は、1割もいなかったと思います。そこで、われわれ世代が選んだのは「仕事を成長の機会」とし「就職先をキャリアアップの機会とする」という考え方でした。
40歳の現在地。多様な働き方へとシフト
こんなに簡単に模式化して良いのか、少々はばかられる思いもありますが、以下にわれわれ世代の現在地を模式化してみました。鍵となるのは、「成長の機会」の多さと「組織順応度」なのではないかと見ています。
「成長の機会」については、本人の意思の問題だけではなく、われわれ世代は「運」にも左右されたように思います。「運」は自分で掴むものだ!という側面もありますが、意思があっても「運」に恵まれなかった人が少なからず存在したのが、われわれ世代の置かれた現実でした。
できるだけ早いうちに、できれば20代のうちに成長できる環境を得て、「成長と実践の機会」をつかめたかが、40歳を迎えたわれわれ世代の現在地を大きく左右しているように思います。
もうひとつの軸は「組織への順応度」。われわれ世代が就職した頃、日本では明かに使い方を誤った「成果主義」が全盛期を迎えていました。
「根性が足りない世代」などと揶揄する声もありましたが、マネジメントが間違っていたからこそ早い段階でいまの組織に見切りをつけて、キャリアを変える選択をした人が多かったのも、われわれ世代の特徴と言えます。
「成長の機会」が得られなければ自分自身の未来が描けなかったため、家庭や子どもなど守るべきものが少ない若いうちに、早期の転職や独立だけではなく、留学や学び直しもふくめて人生の選択を経験する人が多く存在しました。
こうして運よく成長の機会をつかめた者は、40歳を迎えたいま、経営者や個人事業主、組織の幹部候補生などの立場を得て働いています。多くの人が転職を経験し、ひとつの組織だけでは経験できない、多様なキャリアを形成した人もいます。
逆に、20代のうちに成長の機会にめぐり会えなかった人は、いま多くの困難に直面しています。実は「ニート」が社会問題化したのも、われわれ世代の特徴なのです。
一定の組織順応性がある人は、なんとか耐えて非正規などの職を得ていますが、私のように組織順応性があまり高くなく、さらに社会で成長のチャンスを得られなかった場合、社会で居場所を失う可能性が高くなります。
正直なところ、私にとってもこの問題は、他人事と思えない大きな社会問題です。
これからの「帰属意識」はどうあるべきか?
冒頭にもあるとおり、企業にとっては「帰属意識の薄い社員」は頭の痛い問題です。処方箋を求める企業は数多く存在するのではないかと思います。
私の本業は経営コンサルタントなので、本来であれば何らかの処方箋を提供したいところではありますが、私の見解では、この問題への処方箋は「新しい価値観を当然と考えること」以外に存在しません。
これからのマネジメントは、いわゆる従来型の帰属意識をもたない社員が多数派となることを前提に行う以外にないと考えます。
「人生100年時代」がやってくることを前提にすれば、われわれが働く期間は今後ますます長期化して行きます。と同時に、数々の統計が示すとおり、企業の平均存続年数は短期化し続けています。それに伴い、ほとんどの人がキャリアの途中で何度かの転職を経験するようになります。
このような環境下で、かつてのように組織への従属的な帰属を求めることは、もはや非現実的と言わざるを得ません。
すでに私より下の世代では、会社に「帰属」するための能力を磨くより、「どこでも生きていける力」を磨くことの方が合理的と考える人の方が多数を占めます。そして、この世代が今後5~10年ほどで、組織内の人数構成比で過半数を占め、多数派を形成します。
「帰属意識」の薄い社員が多数派を占める状況は、すでに起こった未来です。これからの組織は、この新しい現実をふまえてマネジメントを行う必要があります。
ドラッカー教授は、『明日を支配するもの(1999年)』の中で、以下のように言います。
組織には価値観がある。そこに働く者にも価値観がある。組織において成果をあげるためには、働く者の価値観が組織の価値観になじむものでなければならない。同じである必要はない。だが、共存しえなければならない。
従来の日本企業で求められた「帰属意識」は、いわゆる「就社意識」だったのではないかと思います。たしかに昭和の一時期、会社に人生のすべてを捧げること、愛社精神という名の全人格奉仕こそがサラリーマンの美徳と信じられた時代がありました。
しかしながら、会社にすべてを捧げることで右肩上がりの成長を実感し、人生の安定を謳歌できた時代は、すでに過去のものです。古い時代の価値観は、もはや手放すべきタイミングに来ています。
従来型の「帰属意識」に代わってこれからの時代に必要なのは、組織のミッションや成果に対する、働く者ひとりひとりの「貢献」の意識です。ドラッカー教授は、人は組織の成果に「貢献」を行うことで、自己実現と自己成長の機会を得るのだと言います。
私の世代がすでに直面しているとおり、成長機会の多寡が人生を左右する時代です。
誰もが「成長の機会」を求める時代だからこそ、マネジメントは組織に属する一人ひとりに対し、組織の成果に対する「貢献」を引き出すことが可能となります。
「貢献」を中心に据えることで、企業は「帰属意識」に代わる新たな方向づけの道具を手にし、同時に一人ひとりは「成長の機会」という「どこでも生きていける力」の源泉を手にするのです。
組織のニーズと、個人のニーズ。2つのニーズを共存させるための鍵は、「価値観の変化」という新しい現実を前提とし、マネジメントを機能させることにあるのではないでしょうか?



鹿島晋

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