「3人に1人が、就職から3年以内に退職する時代」
こう言われるようになって、かれこれ15年くらいが経つでしょうか。
前回の記事にも書いたとおり、若者が従属的に組織の価値観に従う時代は、もはや過去のものと言わざるを得ませんが、それでもやはり、企業にとって従業員の退職は、非常に大きな課題です。
<前回記事:40歳からのワークライフシフト 第1回 「ミレニアル世代は帰属意識が薄い?」 ドラッカーなら何と答えるだろうか? を参照>
つい先日、美容室で髪を切ってもらいながら、今年25歳になる美容師さんに、こんな質問をしてみました。
「私の世代だと、会社に入って一通りの仕事を覚えてから次のキャリアを考える人の方が多かったんだけど、〇〇さん(美容師さん)の世代って、合わないとすぐに次のキャリアを考える人が多いよね? なんでだと思う?」
ここで返ってきた答えは、まったくもって予想だにしなかったものでした。
「もしかすると、奨学金をもらってる子が多いからじゃないですか?」
2人に1人が奨学金をもらう時代。自らリスクを取って人生の選択をする学生たち
調べてみると驚愕の事実が分かりました。
日本学生支援機構の調査によれば、最新の平成28年版のデータで「大学生(昼間部)の48.9%が奨学金を受け取っている」のだそうです。
美容師の彼が高校を卒業した平成24年は、さらにこの比率が高く、52.5%の大学生が奨学金を受け取っていました。短大や専門学校に進学する学生も、同様の水準で推移しています。
つまり、彼らの世代の2人に1人は、高校卒業と同時に自らリスクを取って「人生の選択」を行っているという事です。両親や親族が学費を出してくれる残り半数についても、自らリスクを取って人生を選択する約半数の影響度は大変大きいといえます。
さらに調べてみると、大学生の奨学金受給率はなんとこの20年で、最大2.3倍になっている事が分かりました。私が大学に入学した1996年の奨学金受給率は21.2%。これがピークの2012年には52.5%まで伸びています。
それ以前のデータがなかなか見つからなかったのですが、参議院予算委員会で使われたマニアックな資料をなんとか発掘しました。
この資料によれば、少なくとも1976年(昭和51年)から1998年(平成10年)までは、奨学金受給率はおおよそ横ばいで推移してきたことが分かります。ところが2000年ごろを境に、これが急激な上昇へと向かいます。経済環境の変化と、大学進学率の上昇が、奨学金受給率の上昇という事態を招いたことが明確に読み取れます。
自分で言うのもなんですが、私の世代の大学生と言えば「好き放題に自由を謳歌するアホ学生(笑)」という感じでした。しかしこの約15年間で起きた環境の変化によって、当然のことながら学生たちの意識にも大きな変化が生まれています。
美容師の彼の話では、彼と同世代の仕事観はおおきく3つに分かれるのだそうです。
「自分のキャリアアップを真剣に考え、場合によっては超短期の転職も厭わない層」
「逆に安定を求め、できるだけリスクのない選択を求める層」
「人生や社会に悲観し、無気力になっている層」
厳しい学生時代を乗り越えてきた彼らに、われわれ世代が伝えるべきことは何なのか、ますます深く考えさせられる話です。
(平成25年の参議院予算委員会資料より抜粋)
せめて3年は修行しろ!は時代遅れなのか?
企業研修などで彼ら若い世代と話していると、われわれの世代以上に「活躍の場が欲しい」という強い欲求を持ってる人が多いように感じます。
例えば、彼らの世代はドラッカーの「強みを生かす」という表現に、他の世代以上に強い反応を示します。もともと素直ということもあり、かなり念入りに説明しておかないと、翌週には「うちの会社は、私の強みを生かしてくれません」と相談してくる子もいるほどです。
ドラッカーの言う「強み」とは、実際の仕事を通して磨くものです。強みを磨くための機会は、組織への貢献を通して自らの意思でつかむ必要があります。
当然のことながら、経験の伴わない知識や能力は、社会では使い物になりません。人生の中でなんどもキャリアを変える必要のある時代だからこそ、われわれは「仕事を通して強みを磨くための能力」を習得していく必要があります。
しかし、「仕事を通して」の部分が抜けてしまうと、結局いつまで経っても「強み」も磨かれないというジレンマに陥ります。「仕事を通して認められたい」という欲求自体は極めて自然なものですが、過ぎれば他者依存・他責になってしまい、強みを磨くための経験が得がたくなります。
ある程度の社会人経験がある人なら肌感覚で分かると思いますが、どんな仕事にも「このラインを超えたら一人前」という一線があります。たとえば「自転車に一度乗れるようになったら、ブランクが10年あっても乗れる」というような一線です。
この美容室のオーナーさんに伺ったところ、「自分を指名してくださるお客様が、3か月つづけて100人を超えるかどうか?」が、彼ら美容師の一線なのだと言います。私がサラリーマン時代に営業をやっていた時は、上司に「自分ひとりで年間10億円の売上をあげたら一人前」と言われました。
業種や職種によって基準はさまざまなでしょうが、どんな仕事にも「それを超えたら一人前」という一線があり、この一線を超えた経験を持つか否かが、影ながらその後のキャリア形成に大きな影響を与えます。
たとえ時代は変われども、人が仕事をとおして成果をあげるために身につけるべき原理原則は変わりません。ドラッカー教授は、名著『経営者の条件』(1966年)の中でこう記します。
知識やスキルは身につけなければならない。仕事のキャリアを進むにつれ新しい仕事の習慣を身につけていかなければならない。時には、いくつかの古い仕事の習慣を捨てていかなければならない。しかし、知識やスキルや習慣をいかに身につけたとしても、まず初めに成果をあげるための能力を向上させておかなければ何の役にも立たない。
ドラッカー教授の言う「成果をあげる能力」とは、「ひとりひとりが自分らしく生きるための基礎能力」と言い換えても良いかもしれません。どんな仕事に就いたとしても、成果をあげるうえで必要とされる基礎的な能力は変わらないからこそ、「まず初めに」身につける必要があるとドラッカー教授は言います。
「それを超えたら一人前」という一線を超える経験は、まさしくこの基礎的な能力を身につけるための時間の蓄積とも言えます。
タイトルに書いた「せめて3年は修行しろ!」という昭和的な格言は、だいぶ時代遅れになった感はありますが、私自身、あらためて深い意味があったのだと、今になって感じています。
それぞれの世代に、それぞれの価値観があるからこそ、言葉の奥にある真意や、成長の原理原則を次の世代に伝え、仕事を通して実践的な経験を積むことの大切さを伝えていきたいと、あらためて感じた出来事でした。



鹿島晋

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