「この本は、現代の日本でドラッカーさんが解いたマネジメントを理解し、実践するための1番の教科書になるのではないか。私は今、そう考えています」と、序文の冒頭に記しているのは、ドラッカー学会・学術顧問の上田惇生先生。そう、ドラッカーの日本における分身。数々のドラッカー本の翻訳者だ。
上田先生はつづけて、「ドラッカーさんのマネジメントは、理屈ではなく、観察によって理解するべきものです。ドラッカーさん自身、1940年代、50年代の米国で、ゼネラル・モーターズ(GM)やシアーズ・ローバックなどの企業を調査し、観察した考察から『現代の経営』を書き上げました。1954年に刊行された、世界で最初の総合的な経営者です。しかし世の中は変化します。『現代の経営』に登場する米国企業の事例は、21世紀の今日、日本人だけでなく、米国人にとっても具体的にイメージするのが難しくなっています。そこで佐藤さんや清水さんの出番です。日本の現代の日本でドラッカーさんの言葉に触発された人々が、どのように意識を変え、どんな行動に出て、どのような成果を上げたか。個々の事例を丁寧に観察し、そのエッセンスを描写してくれました」。
上田先生は「この本は最高の教科書になると信じている」と評する一冊だ。
ドラッカーマネジメントを学ぶために最高の教科書と評したのは、上田惇生先生、日本の中小企業による実践の教科書という位置づけだ。教科書の使いかたに関して、著者の佐藤さんはこんな注意を喚起する。「私たちは、日本の昔ながらの学校教育の影響でしょうか、『教えられる』ことに慣れすぎています。1冊の教科書が網羅する一定の範囲を、まんべんなく読んで覚えれば、合格点を得られると言う思考が染みついています。マネジメント能力を身につけようとするとき、この思考習慣が邪魔します。一定の範囲を全部知ってからでないと行動を起こせないと誤解している人が多くいることを危惧します」と。
その上で、「マネジメントを学ぶには、まず行動を起こすことです。実践してから、つまずいたポイントについて知識を補強するのです。自転車に乗ったり、泳いだりするのを学ぶときは、大半の人がそうしています。しかも、学ぶべきことに一定の範囲があると考えるのも美しい誤解です。組織は時代とともに新しい課題に直面し、マネジメントはこれに応えていかなければなりません。つまり、学ぶべきことの範囲は定まりません」。
この本にはドラッカーのことばを使って、日々の経営に活かしてうまくいった18の事例が取り上げられている。取り上げられたのは大企業の事例ではない。帯広市のバス会社だったり、倉敷市の美容室の事例だ。それぞれの事例・物語には、ドラッカーのことばが取り上げられ、ケース事例の本文がつづく。その事例に関して解説があり、「あなたへの問い」という質問に答えるページでしめくくられる構成になっている。
著者の佐藤等さんは「はじめに」の冒頭でこんなことを書いている。「(ドラッカーの)言葉を道具として使おう」。「私がこの本を通じて伝たいことは、突き詰めればたったこれだけのことです」と。
マネジメントは、まずはやってみることが大切だ。座学ではない。行動してみなければ何もはじまらない。よくビジネスの基本として「PDCAのサイクルをまわせ」ということがある。ブランードゥーチェックーアクション。マネジメントはその順番ではなく、「DCAP」が大切だよということを教えてくれる。この本の中で「物語11」に登場するプルデンシャル生命保険の高塚伸志さんの事例が128ページに載っている。高塚さんは言う。「だが、夢のような計画を立てても役立たない。まず現状を検証し、どこにカイゼンの余地があるかを知ってこそ、いい計画が立てられる」と。実績をあげつづけている実践者のことばは重い。
ある中小企業では、社員全員にこの本をプレゼントし、全員で社内読書会を開いたという企業もあるという。ドラッカーというと、イコールマネジメント。マネジメントは経営者が取り組むことという認識があるが、そうではない。経営トップはもちろん、いわゆるマネージャーと呼ばれる中間管理職の方々も、あるいは、新入社員のフレッシュマンにも役立ち、成果をあげるために必要なスキルだ。この本の最後「まとめ」の部分に図が掲載されている。「マネジメントの体系図」。個人=組織=社会、の関係。その3つの中に必要な4つのマネジメント分野が示されている。この4つの分野について、ケース事例として学べる18の事例が、かたよりなく対応していることがわかる。著者の佐藤さんはマネジメントの体系を「言葉という道具の道具箱」と評している。「マネジメントの道具である言葉を整理整頓して、必要なときに、使いたい道具を、さっと取り出せるようにするためのもの」。
この本の中には、あなたが欲する「道具」があちこちに見つかるだろう。発見した道具には印をつけ線を引き、手帳に書き写すことだろう。そうやって使える道具が増えていったとき、業績や成果は自然とあがっているにちがいない。
佐藤等 著 清水祥行 編集協力、日経BP社


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