社長の社内読書会体験記その2【和光良一】社内読書会を続けようと決めた日のこと@埼玉桶川


部長クラスを集めて毎月1回、一年間、『経営者の条件』の読書会を行いました。

就業時間内に、半ば強制的に参加させての開催です。

参加者の部長たちがどういう気持ちでいるのか正直分かりませんでしたが、それでも、全員、毎回出席してくれますし(就業時間内にやってるので当然と言えば当然ですが)、一応、事前に線を引いて読書会に臨んでくれているようでした。

そんな参加者の部長の中に、今年65歳になる人が居ました。弊社の定年は60歳ですが、現在は65歳までは継続再雇用で65歳になると退職になります。彼も、先月末で退職しました。もう何十年も弊社の経理を一手に引き受けていた男で、社長である私に対して、憎まれ口こそ叩いても、おべっか一つ言わない凄腕の経理マンでした。

読書会でのコメントも、「この本の作者(ドラッカー)は、どういうスタンスでモノを言っているのかよくわからない」というような、なかなかファシリテータとしては回答し難いコメントをする人でした。私が持っている知識を総動員して回答しても、あまり釈然としない様子でした。

私は、読書会のリアクションで一番良いのは「何かもやもやする」で、その次に良いのが「すっきりした」だと思っています。なぜなら、人は「何かもやもやしている」時が一番学んでいるからです。まあ、その中で1個でも2個でも、自分で自身で何かに気づいてもらえたら最高です。

それなので、その部長が私の読書会での回答に対して、あまり釈然としないのは仕方がないのです。私の回答も決して歯切れの良いものではありませんでしたし。ただ、これは他の参加している部長たちにも言えることですが、彼らが読書会に対して、どう思っているのか、最初のころのように社長に言われて嫌々参加しているのか、それとも、最近はそうでもないのか、そういうことが分からず、私としてはなかなか苦しい気持ちで読書会を続けていました。それでも、『経営者の条件』は一通り読み終え、次の本として『イノベーションと企業家精神』を読み始めました。

そんな中、先月、その経理部長の退職の送別会が開催されました。

まあ、彼も前出の部長に輪をかけて歯に衣着せぬ男で、懇親会の間中、正面に座っていた私に向かって、ずーっと色んなことを話してくれましたが、私としては大変お世話になって来た部長さんでしたから、普通だったら反論するようなところも、最後くらい楽しく話をさせてあげようと思い、何も言い返さず相槌を打って、根気よくその話を聞いておりました。まあ、礼儀作法ですね。

そうやって、好きなだけ話をさせてあげると、意外な言葉も出てきました。「実は、月に一度の読書会が楽しみだった」と言うのです。彼はマルクス経済学の学徒で、シュンペーターのことも以前から尊敬していた、と言うのです。この言葉を聞けただけでも、その日、じーっと話を聞いていた甲斐があったと思いました。少なくとも、この部長には、読書会を楽しんでもらえていたのです。もっと早く言ってくれたら良かったのに、と思いますが、昭和の男前のサラリーマンというものは、社長に対するオベッカに聞こえるようなことは決して言わないものなのです。

しかし、退職が決まって、その送別会ともなると話は別です。

とても気持ちよくお酒を飲まれたその部長は、懇親会がお開きになって駅に向かって歩き出しましたが、足取りがおぼつきません。よろよろしながら、「社長、あの読書会は続けてくださいよ」と言っています。ああ、酔っ払ってるんだなあ、と思いました。そこで、駅まで付き添って一緒に歩きました。このまま一人で電車に乗せるのは心配だな、と思っていると、同じ方向の電車に乗る人が後から追い付いてきました。

駅で別れ際に、私から改めて「今までありがとうございました」とお礼を言いました。そして握手しました。

すると部長は最後の最後にもう一度、

「あの読書会は続けてください」

と言いました。そして千鳥足で帰っていきました。

もちろん、私はこれからも読書会を続けていきます。

今でも、あの部長の言葉を思い出すと、俺はなぜもっと早く読書会を始めておかなかったのだろうという後悔の念が沸き起こってきて、自然に涙が溢れ出そうになります。

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和光 良一

和光 良一

1972年(昭和47年)東京生まれ。1991年暁星学園高校卒。1997年図書館情報大学大学院卒、NTT入社、NTTコムウェア配属。2004年に前社長の急逝により(株)日興電機製作所 代表取締役社長に就任。2008年に佐藤等氏のドラッカー読書会に参加し、ドラッカーの言葉と出会う。以来、ドラッカーを学ぶことを通して、仕事の悩みを取り組むべき課題に変えてきた。 ナレッジプラザ公認「実践するマネジメント読書会」ファシリテータ。 2010年ドラッカー学会エッセイコンテスト優秀賞。

“社長の社内読書会体験記その2【和光良一】社内読書会を続けようと決めた日のこと@埼玉桶川”への2件のフィードバック

  1. kawashima より:

    もっと早く・・・は、いろいろな場面で感じることが多いですが、始めたから感じられたことでもあります。その勇気と英断に脱帽です。素晴らしい言葉をありがとうございました。

    • 和光 良一 和光 良一 より:

      川島さん、コメントありがとうございます。始めてしまえば、普通の読書会でした。社員だからとか社長だからとか言って構え過ぎていたと思います。読書会に入ってしまえば、自分も含めて「迷える組織人」が居るだけです。

コメント