絵で見るドラッカーの人生【1947年】
時代を代表する知識人に
スローンは『企業とは何か』を無視した。GM内でも事実上の禁書扱いとなった。ドラッカーは世界を代表する大企業が社会的責任に無関心なのを目にし、いささかの不安を禁じえなかった。
何しろスローンはGMという一巨大企業幹部を超えてアメリカの英雄だった。青年ドラッカーが批判の矛先を向けるには、どうひいき目に見ても巨大すぎた。ドラッカーは次のように言っていた。「スローンは、プロのマネジメントとして権限を求めたが、プロとしての責任も負っていた。彼は、その権限をプロとしてのマネジメントの領域に限定し、他の領域では責任を持つことを拒否したのである。スローンが私の本を認めなかったのもそのためだった」(『傍観者の時代』)
しかし、ドラッカーの発信が正鵠を射ていたことは、本書がGM以外の世界には広く受け入れられ、今なお多くの読者を獲得し続けていることからも明らかである。今日、企業の社会的責任は企業経営の最重要キーワードの一つとして定着している。現在、社会的責任を経営理念に織り込んでいない企業など存在しない。
『企業とは何か』が示したものは、今なお深い示唆を持つ。根本をなす問いとは、「産業社会が成立するとき、企業はその中心機関としての役割を果たしうるか」だった。ドラッカーの見解は、「果たしうる」だった。いやそのような言い方は正確ではない。「果たす潜在能力はある。それを十全に発揮して、中心的役割を果たしてくれなければ、この文明はもたない」というのが底意だった。
本書が最初のマネジメントの本であったことはドラッカー自身も認めていた。しかし、まだ発展の可能性を秘めた苗木にすぎず、丹精込めて育成していく必要を感じていた。そこから彼はこの企業という異様なほどエネルギーを秘めた苗木から豊かに繁茂する森を得るために、自ら育成のトップリーダーとしての役割を買って出ることになった。
GMの内部調査をした業績が、当時にあってのこの30半ばの青年に巨大な信用力を与えたことは間違えなかった。その後、IBMやGEといったアメリカを代表する企業からもコンサルティングのオファーを受け、企業観察の機会に恵まれた。その間『ライフ』『タイム』などの有力メディアとの接点も拡がった。それらの経験が、ドラッカーを一級の知識人言論人に押しあげていくことになった。『ドラッカー入門 新版』より
※この情報は『ドラッカー入門 新版』p.281~の「ドラッカー年譜」をもとに制作しています。より深い背景の理解には同書をお薦めします。
五月女 圭司
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