絵で見るドラッカーの人生【1954年】
経営三部作
『企業とは何か』を公刊したのが1946年、その後ドラッカーはさらなる現実の企業活動の観察を経て、3冊のマネジメント関連の著作を世に出した。『現代の経営』(1954年)、『創造する経営者』(1964年)、『経営者の条件』(1967年)である。
初期政治三部策(『「経済人」の終わり』『産業人の未来』『企業とは何か』)と対比する意味で、この三冊を「経営三部作」と呼ぶ論者もいる。そして、1973年にはこの経営三部作を総合的に体系化した『マネジメント』を世に出している。
マネジメントの世界観 〜映し込まれた世界観〜
マネジメントについて強調すべきは、隅々までドラッカーの世界観が丹念にかつ忠実に映し込まれている事実である。そこが他の論者とドラッカーを決定的に分けている。
ドラッカーがマネジメントを「発明」したとされるのには、二つの意味がある。一つはフレームワーク、あるいは体系を確立したという意味での発明、もう一つはスキルを生み発展させたという意味での発明である。
実際、マネジメントに関するコンセプトやスキルとは8割以上がドラッカー由来であり、多くの経営学者、マーケティング、戦略の専門家がそのことを事実として受け入れている。
セオドア・レヴィット(マーケティングの大家。ハーバード大学教授。1925年〜2006年)が、ドラッカーの剽窃者をもって自ら任じていたのがその典型である。ドラッカーの弟子には何通りかあって、ドラッカーの体系を意識的に発展させた人、とくに何も言わず自らのものとする人、ひいては自らの登録商標としてしまう人などさまざまである。
それには原因がある。発展させる人々に共通するのは、マネジメントをスキルの問題とともにフレームワークの問題、すなわち世界観の問題と捉えていることである。マネジメントとはスキルでない無数のものを含んでいる、そのことを知っている人々である。そこには必ず世界観、思想や哲学がある。何ごとも手段だけを発展させることはできない。北海道に旅行に行くという目的は共通でも、そこに至るにはいくつもの方法がある。飛行機でも船でも行ける。夜行列車でも行けるし、新幹線を乗り継いでも行ける。はじめから鈍行でも行ける。ひいては自転車や歩行でも時間さえかければ行くことができる。そして目的地に到達するための手段が、その人の旅への考え方、あるいは人生観を凝縮的に反映している。
スキルも同じである。背後には、コントラバスの演奏のように常にフレームワーク、思想といったものが鳴り響いている。おそらく、マネジメントに関して底流をなす体系を提示しえたのは、今もってドラッカーだけであろう。例えば、今多くの企業で取り入れられているバランスト・スコアカードなどは、スキルとしては充実しているものの、その80%は『現代の経営』で展開された考え方である。
何が言いたいかというと、フレームがすべてということである。それを理解すれば、スキルはつけ足しにすぎなくなる。底流をなす基本的なものの考え方さえ会得できれば、すべてのものが見えてくる。
あえてたとえれば、合気道や柔道など武道における型のようなものだ。ドラッカーは柔道に関心を持っていた。イノベーションの方法論で柔道戦略などと名づけたものがある。相手を倒す技法という以前に、一つの道、姿勢を意味する。たぶんそんなところが、ドラッカーを惹きつけたのだろう。『ドラッカー入門 新版』より
※この情報は『ドラッカー入門 新版』p.281~の「ドラッカー年譜」をもとに制作しています。より深い背景の理解には同書をお薦めします。


五月女 圭司
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