フリーランスで働くあなたに読んでほしい。バスガイドの現場でドラッカーさんのことば「成果は外にある」を徹底的に使っているせがわとみこの実践報告(後編)


バスガイドの現場でドラッカーさんのことば「成果は外にある」を 徹底的に使っているせがわとみこの実践報告(前編)からの続き

働き方に変化があらわれた

するとみるみる働き方に変化があらわれました。それまでは旅の行程を頭に入れて必要な案内が出来るよう道すがら見えてくるであろう山の高さや目立つ建物について確かめたり、旬な話題を仕入れるため新聞に目を通したり、そういった準備をして仕事に臨んでいました。そのやり方に疑問がわいてきたのです。

(これって外にある成果を見ているといえるのだろうか?)

「成果とは外の世界における変化」「成果は外にある」心のなかで繰り返す。「バスガイドとしての成果って何だろう」自分に問いかける。初めは「お客様に安全で楽しい旅の思い出をつくっていただくこと」などという通り一遍的なことしか思いつきませんでした。しかし、「成果は外にある」のだとすれば、目の前のお客様に満足していただくことは当然のこととして、そのうえでもう一歩高いところ、それプラスの何かを突き詰めて考えてみよう。私は案内に工夫を加えることにしました。

たとえば社員旅行のご一行様の場合。
この旅をきっかけとしてご家族の大切さを思い出していただけるようお別れの挨拶を工夫しています。(その挨拶を最大限効果的に演出するためにも旅の最中はその地方の魅力をお伝えすることに全力を注ぎます)いよいよお客様とのお別れのとき。その旅のなかでお客様の心に印象づいていそうな景色や食べものを振り返り「美しい景色を目にしたとき、美味しいものを食べているとき、人は大切なひとの顔を思い出すといいます。あの人にも見せたいなぁ、あの人にも食べさせたいなぁ、と。皆さまの心にはどなたの顔が思い浮かびましたでしょうか。次はぜひ皆さまの大切な方をお連れになって、この東北を再びお訪ねくださいますようにと願っております」ってな・・・具合です。バスを降りるときお客さまは「今度は妻を連れて来ますね」とか「次はおふくろ連れて来ます」などとおっしゃってくださいます。そのなかのおひとりでも本当にそれを実現してくださったらならば、それは「外の世界における変化」です。お宅に戻られたお客さまがご家族に対して「今度は一緒に行こうね」と声をかけるだけでも「外の世界における変化」かもしれません。その様子を想像しただけで私の心はトキメキます☆

たとえば修学旅行の学生さんの場合。
この修学旅行のお土産として親御さんへの感謝の気持ちをもち帰っていただこう。挑戦する勇気をもち帰っていただこう。人生に当たり前なことなどひとつもなくて一人ひとりの命は尊いものだと気づいていただける心をもち帰っていただこう。そう意識して案内を工夫しています。岩手県で宮沢賢治さんの案内をするとき、賢治さんが学校の先生をしていた頃の話題に触れます。今のように交通の便が発達していなかった当時、修学旅行で向かった先は汽車に乗り長い時間をかけての陸中海岸だったそうです。岩手県には海があるのに内陸に住む子どもたちはそう簡単に海を見に行くことができませんでした。修学旅行で初めて海を見たひともいました。家庭の事情で修学旅行に行けない子どもたちもいました。彼らは岩手に生まれても海を見たことがありませんでした。そういった子どもたちを賢治先生は自らイギリス海岸と名付けた北上川のほとりへ連れて行き、海のしょっぱい話しなどを語って聞かせたそうですよ。こうしてあちらこちらを行き来できる便利な今の時代に生まれることができた私たちは幸せですね・・・とか。岩手の生んだ大リーガー、大谷翔平さんの話しもします。関東や関西に比べると、ともすれば条件の不利な東北地方。ここで生まれ育ち、世界での活躍を目指し、実現するのは簡単なことではないと思う。けれどそれを見事に成し遂げた大谷さんの存在は、岩手の子どもたちにどれだけの勇気と希望を与えているか・・・など。

「成果は外にある」を徹底的に意識して案内を続けていたある日

「全員じゃなくてもいい。これらの案内をきっかけに一人でも心に響いてくださるかたがいて、明日からの暮らしに変化が起きてくれたら嬉しい」そんなことを思いながらマイクを握るようになりました。そんなある日のこと。その日は札幌の中学校の皆さんの修学旅行をご案内していての最終日でした。新青森駅にお送りする15分くらい前でしたでしょうか。青森のねぶた祭りのご案内をしているときのこと。「東北の夏のお祭りが賑やかなのは、雪国の人たちは厳しい冬があるからこそ、短い夏を存分に楽しめるエネルギーが高いからなのかもしれませんね」と話すと、クラスの女子Rちゃんが「はい!」と元気に手をあげました。

「ガイドさんの言ってることわかります。私はスキーをします。冬の山で真っ白な雪に囲まれていると、もっのすごく寒くて、冬はとっても厳しくて。だけど、その真っ白な世界が私の悩み事とかをぜーんぶまるごと引き受けてくれるような気がして心がスッキリするの! 人間は自然にはかなわないです。お天気も、地震も、災害も・・・人間は自然にはかなわないけど、自然は私たちを愛してくれてると感じます。だから私は雪の日も雨の日も晴れの日も毎日が楽しいです!」

まっすぐな瞳で語ってくれる彼女のことば。グッときて、一瞬ことばにつまりました。

「ありがとう。そんなRちゃんの将来の夢、聞かせてほしいな」彼女は満面の笑みで「まだ誰にも言ったことないんだけど・・・言っちゃおっ・・・私はモーグルでオリンピックに出ます!!」 「うぉーっ」(クラスメイトの皆さんから拍手が沸き起こりました)涙がでそうなくらい嬉しかった瞬間です。お別れのときの担任の先生のことばにも心を打たれました。私の前に歩み寄り、丁寧に頭を下げ「三日間、生徒たちの良いところをたくさん拾ってくださってありがとうございました」じんわり涙がこみあげた瞬間です。「成果は外にある」ということばの意味を「わかった」と実感できた瞬間です。バスガイドを辞めずに続けていて良かったと心から思えた瞬間でもあります。

北国には雪が降り始めました。札幌の冬の山で、今日もまた、オリンピックを目指すRちゃんの笑顔が元気にはじけていますように。

組織の中に成果は存在しない。すべての成果は外にある。『経営者の条件』(ダイヤモンド社・エターナル版)31ページ

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瀬川 智美子

瀬川 智美子

(せがわとみこ)青森県十和田市出身、青森市在住。実践するマネジメント読書会ファシリテーターとして青森・仙台の読書会を担当、ときどきバスガイド。地元のバス会社で観光バスガイドを12年勤めたのち、夫の転勤に伴い仙台・名古屋・札幌で暮らす。都会の街で出会った学び、そして同じ学びを通し絆を深め合えた仲間たちとの関わりのなかで「おとなになって学ぶこと」の楽しさに目覚める。人の成長に欠かせない継続的で上質な学びの場を(都心へ行かずとも)地方で受けられる環境を整えて、そこに集まってくださる方々に笑顔の花が咲くのを見るのが究極の喜び。「東北地方にドラッカー思想を広めイキイキ働きワクワク生きる人を増やす」を旗印に勇往邁進することをここに誓います。フリーのガイドとして観光バスに乗る時は「また来たくなる東北」をミッションにドラッカーのマネジメントをバスガイドの現場で実践する全国唯一(?)のドラッカリアンなバスガイド。

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