絵で見るドラッカーの人生【1981年】
一位二位戦略
(中略)第一の「自らの組織に特有の役割を果たす」とは何か。自らのなすべきことを行う。言い換えれば、ほかの組織ではできない何か、世の中全体から見れば針の先ほどのごくささやかな領域にすぎないかもしれないけれど、固有の仕事を行えという。自らの本業を見定めよと迫る。決して簡単ではない。本業とは自明のものではない。
同じことは個人についても言える。「自らに特有の役割を果たせ」と言われて即座に役割が心に浮かぶ人などそういるものではない。組織も同じである。本業を見定めるというのは、決して簡単でも楽でもない。それ自体が熟慮と責任を強いる一つの偉大な仕事である。
そのために「なすべきことを絞り込め、フォーカスせよ」と言う。例をあげるのがわかりやすいかもしれない。ドラッカーがコンサルティングをしたGEのCEOジャック・ウェルチに関わるものである。コンサルティングは一つの問いかけから始まったという。ドラッカーはウェルチにこう問いかけた。
「貴社は電気自動車から冷蔵庫、電気剃刀まで製造・販売し、原子力まで手を広げている。だが、かりに今再びゼロから始めるとしたら、すべての事業を行うだろうか」
ウェルチは考えた。「さまざまな経緯で事業を広げることになったが、改めて始めるとしたらすべて行うことはないだろう」
このやりとりを契機に二人は「一位二位戦略」、すなわち世界で一位か二位になるつもりのある真に価値ある事業にあらゆるリソースを注力するという戦略の選択に至る。停滞していた同社は、そこから再び成長の軌道に乗ることになった。
マネジメントについて語られることの多くは、個人にも当てはまる。本業は組織特有のものではない。個人にも本業というべき活動はある。「なすべきことをなせ」「汝自身を知れ」である。
ウェルチとのやりとりにあるように、ドラッカーは問いをもってコンサルティングを始めるのを常としていた。問いはシンプルであっても、深く考えるほどに、答えは一様でなくなる。というか、よい問いに模範解答はない。経営三部作を丹念に読めばわかることだが、クリアカットで即座に役立ちそうな回答はどこにも書いていない。書いてあるのは考え方である。大切なのは、自ら考えることであって、その答えそのものではない。そのことをドラッカーは知り抜いていた。『ドラッカー入門 新版』より


五月女 圭司
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