絵で見るで見るドラッカーの人生【1986年】
アメリカでもっとも読まれた経済論文を収載
本書の冒頭にある「変貌した世界経済」は、1981年にアメリカの外交問題専門誌『フォーリン・アフェアーズ』に掲載され、その年もっとも読まれた経済論文となりました。
わが国では翻訳され本書に掲載される前に、財界トップや知的リーダーと目される人たちがこぞって原文を読んだり、部下に訳させたりしていました。
ドラッカーはこの論文で1970から〜80年代の10年間に、世界経済に3つの変化が起こったといいました。
①一次産品工業経済から分離した。
②工業経済において、生産が雇用から分離した。
③財・サービスの貿易よりも、資本移動が世界経済を動かす原動力となった。財・サービスの貿易と資本移動は、分離していないかもしれない。しかし、両者の関係は、著しく弱まり、さらに悪いことには予測不能となった。
これまで工業経済、つまり先進国の調子がよければ、一次産品を供給している途上国も調子がよかった。しかし、そのおこぼれをもらうことができなくなってしまった。また、かつては雇用のために生産に力を入れていたが、雇用と生産の関係もなくなってしまった。
さらに昔は貿易が黒字、あるいは赤字になったときに為替が動いていたが、今は貿易と為替の間に因果関係がなくなった。そのように指摘しています。
この他に、他国の製品を購入せず自国の製品を大量に売りつける「敵対的貿易」についても触れています。「いいものを作って安く売って何が悪い」とばかりにさかんに対米輸出を行っていた日本企業に、それでは行き詰まってしまうと警告を発してくれていたのです。
いいものをつくって売ること自体は悪くないのですが、現地に雇用を発生させるなど、互いに利のある関係でなければ長続きはしないといったのです。ドラッカーが指摘したとおりとなってしまいました。
また、M&Aについても、「敵対的企業買収」はファンドの私利私欲であってとうてい正当化できないと斬り捨てています。
「明日がどのような種類のものになるかは、組織で働く意思決定者の知識、洞察力、先見性、能力にかかっている。つまり明日は、経済管理者の肩にかかっている」
「企業は、大きくなれないのあれば、事業の内容をよくしなければならない。組織には挑戦すべき目標が必要である」
これらのことは、今日ではどれも当たり前のことに思われますが、本書が出版されたのは1982年。誰もが驚き、ドラッカーの論文を読みふけったのもうなずけます。『P.F.ドラッカー完全ブックガイド』より
※この情報は『ドラッカー入門 新版』p.281~の「ドラッカー年譜」をもとに制作しています。より深い背景の理解には同書をお薦めします。


五月女 圭司
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