絵で見るで見るドラッカーの人生【1993年】
私たちは時代の転換期にいる
『新しい現実』と、その四年後に発売された『ポスト資本主義社会』は、つながりの深い二冊です。『新しい現実』で取り上げた問題がその後どうなったか、時代が転換していく様子がよくわかります。
『新しい現実』の冒頭に登場する「峠」とは、歴史の境界です。その「峠」にドラッカーが気づいたのは『断絶の時代』を刊行する数年前、1965年頃のことでした。
その峠は、おそらく今から20年後の2030年くらいまで続きます。現在、私たちはとんでもない転換期の真っただ中に生きているのです。
「いくつかの分野、とくに社会とその構造に関しては、すでに基本的な変化が起こっている。これからの社会が、資本主義社会でも社会主義社会でもないことは確かである。その主たる資源が知識であることも確かである。つまりそれは、組織が大きな役割を果たす組織社会たらざるをえないということである」(序章より)
峠に至る前、人類は資本主義社会、あるいは社会主義社会という、産業革命以降200年にわたって続いた経済至上主義の時代にいました。それは政府が社会を救ってくれることを期待した時代でもありました。
しかし、これからは知識がものをいう時代。ドラッカーは登場したばかりのインターネットにも触れ、IT革命が教育と社会を変えると述べています。
国際経済については、リージョナリズム(地域主義)の行方が鍵になるともいっています。
『断絶の時代』にはじまり、『新しい現実』、そして本書へと至るまで、ドラッカーは数十年にわたって時代の転換を観察し続けてきました。
ドラッカーは、「『ポスト』の言葉を冠されたものに永遠のものはない。永続するものさえない」といいます。この転換期の先に何があるかは、転換期の課題に私たち一人ひとりがどう応えていくかにかかっているのです。
人、日本、社会生態学・・・ドラッカーの世界を知る
すでに起こったことを観察すれば、それらがもたらす未来が見えてくる。あらゆるものにリードタイムがある。ドラッカー はそれを「すでに起こった未来」と名づけました。
本書で特に欠かせないものが、終章の「ある社会生態学者の回想」です。ここには、ドラッカー の世界観が思う存分に描かれています。
ドラッカー は自らを社会生態学者と規定しています。そのことについて本人は、「自然生態学者が生物の環境を研究するように、社会生態学は人間によってつくられた人間の環境に関心を持つ」と述べています。
では、社会生態学とは何か。それは、「分析することではなく、見ることに基礎を置く。知覚することに基礎を置く」と説明します。社会学との違いはここにあります、社会を部分に分解して理解しようとはしません。社会生態学は、部分ではなく「総体としての形態」を扱います。部分の集合と総体は、根本的に異なるとします。
しかも今日、部分から全体を知ろうとする、デカルトに始まった近代合理主義としてのモダンは限界に達しています。
社会生態学は「すでに起こったことを見る」ところに特徴があります。「重要なことは、すでに起こった未来を確認することである。すでに起こり元に戻ることのない変化、しかも重大な影響をもつことになる変化でありながら、未だ認識されていないものを知覚し、かつ分析することである」といいます。
重要なのは、「見る」ことです。全体を丸ごと「命あるものとして知覚する」ことです。日本画に象徴されるように、日本人にはその感覚が備わっているといいます。
「日本の近代社会の成立と経済活動の発展の根底には、日本の伝統における知覚の能力がある。これによって日本は、外国である西洋の制度と形態を把握し、それらを再構成することができた。日本画から日本について言える最も重要なことは、日本は知覚的であるということである」
本書でドラッカー はもう一つ重要な自己規定を行なっています。
「経済学者たちと私の見解が一致を見る点が一つだけある。それは、私が経済学者ではないということである。だからと言って、私が経済学を知らないということではない。もしそうだとしても、そのような欠陥を直すことは容易である」
事実、本書5章にも収録した論文「ケインズー魔法のシステムとしての経済学」は、経済学の論文集や大学の教科書にも収録されていました。
ではなぜ、ドラッカーは自分は経済学者ではないというのでしょうか。経済はそれ自身が目的ではなく、非経済的な目的、つまり、経済学を独立した科学としては認めないということです。
しかしだからこそ、ドラッカーは人間のためのもの、社会のためのものとして経済に強い関心をもち、その書くものは常に広く読まれ、現実の各国の経済政策や企業経営に重大な影響を与えてきたのでした。『P.F.ドラッカー完全ブックガイド』より
※この情報は『ドラッカー入門 新版』p.281~の「ドラッカー年譜」をもとに制作しています。より深い背景の理解には同書をお薦めします。
五月女 圭司
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