絵で見るで見るドラッカーの人生【2005年】
理系のためのドラッカー、文系のための技術論
私(上田惇生先生)は『イノベーターの条件』のあとがきで、「ドラッカー全著作のうち、いまだに欠けているものがある。それは技術についてのものであり、道具についてのものである」と書いていました。しかし、それを一冊にまとめられると気づいたのは、数年後のこと。自分でそう書いておきながら、本にするとは全く思いつかなかったのです。
あるとき、私は理系のドラッカーファンから、「ドラッカーが書いたテクノロジーについての論文をすべて読みたい」と言われました。
ドラッカーは「ものづくりの技術が文明をつくる」と語り、かつてはアメリカ技術学会会長を務めていたほど。そこで、世界的にものづくりの復権が叫ばれ、MOT(マネジメント・オブ・テクノロジー)の研究が進めれているいまこそ、技術関係の論文をまとめておくべきだとドラッカーに提案しました。こうしてはじめて「はじめて読むドラッカー」シリーズは、四部作として完結することになったのです。
本書(『テクノロジストの条件』)の冒頭でドラッカーは、モダン(近代合理主義)の時代から名もなき新しい時代への移行を宣言します。
「われわれの世界観は変わった。われわれは新たな知覚を獲得し、それによって新たな能力を得た。新たな挑戦とリスクを目の前にした。われわれは、われわれ自身が拠り所とすべきものまで手に入れた」
さらに、「モダンの世界観とは、17世紀前半のフランスの哲学者ルネ・デカルトのものである。この間、心底デカルトを信奉した哲学者はあまりいなかった。しかし、モダンと呼ばれた時代の世界観はデカルトのものだった」といいました。
デカルトは、あらゆることは理論で解明されると主張しました。一つの真理がわかれば、さらにもう一つの真理がわかる。事実、近代合理主義のもとに技術(テクネ)が体系化(ロジー)され、技術(テクノロジー)が生まれ、科学を生み、産業革命がもたらされ、生産力が伸びるに至ったのです。しかし、物理的にいくら豊かになっても、世の中は幸せにはなりませんでした。
「テクノロジスト」とは、技術と理論の両方を身につけた人たちのこと。本書(『テクノロジストの条件』)は、創造し、自己実現し、文明を担うテクノロジストにマネジメントを教えるとともに、テクノロジストではない人たちに技術の可能性と方法論をおしえるという、理系のためのドラッカー、文系のための技術論です。
私は「ものつくり大学」の資金集めのために会社や団体回りをした後、2001年から2005年まで、製造技能工芸学科でマネジメント論と社会論を教えました。ちょうど先日も、卒業生の一人から本書について熱いメールをもらいました。それぞれのドラッカーがここにもあります。
『P.F.ドラッカー完全ブックガイド』より
間に合ったインタビュー(ドラッカーからの書簡)
「私の著作への私を超えた造詣、理解、洞察の深さに強い感銘を受けた。あなた方は、私自身が私のマネジメント研究に関わる動機と貢献の核心としているものを鮮明にしてくれた。すなわち、マネジメントとは、企業をはじめとする個々の組織の使命にとどまることなく、一人ひとりの人間、コミュニティー、社会に関わるものであり、一人ひとりの人間の位置づけ、役割、秩序に関わるものであるとの私の考えを明らかにしてくれた。私はまさにここに私の特色があると思う。
あなた方は、トム・ピーターズとマイケル・ポーターの名前を挙げられたが、私もこの二人は当然特記されるべき人たちだと思う。しかし、彼らのいずれも、企業をもっぱら財とサービスを生むための機関として見ている。もちろんその通りである。だが私の場合は、社会への関心の原点が第一次世界大戦時、1920年代、30年代における西欧社会および西欧文明の崩壊にあったためだと思うが、企業とそのマネジメントを経済的な存在として、さらに進んで理念的な存在として捉えてきた。
確かに企業の目的は、顧客を創造し、富を創造し、雇用を創出することにある。だが、それらのことができるのは、企業自体が、コミュニティとなり、そこで働く一人ひとりの人間に働きがいと位置づけと役割を与え、経済的な存在であることを超えて社会的な存在となりえたときだけである。そしてまさにこのことの感得と理解について、あなた方とこの連載インタビューに勝るものはなかった。
私がとくに感謝し、心底感服するのは、このことについてである。私自身が多くを学んでいるところである。
敬具」
『ドラッカー入門新版』より
あとがき(ドラッカー入門新版)
ドラッカーはなぜ人の心を揺すぶるのか。誰もがそう考える。
ドラッカーは、政治、社会、経済、経営、組織、人、知識について、考え方(フレームワーク)、方法(スキル)、言葉(箴言)を豊かに与えてくれた。そして世界の政治、経済、社会、人間に影響を与え続けた。かつわれわれ一人ひとりの心を揺さぶり続けた。それらの根底にあるものが、社会生態学者、ポストモダンの旗手としての世界観であり、正統保守主義者としての改革のアプローチであり、マネジメントの父としての人間観だった。(中略)
上田惇生
井坂康志
『ドラッカー入門新版』より
※この情報はドラッカー入門 新版』p.281~の「ドラッカー年譜」をもとに制作しています。より深い背景の理解には同書をお薦めします。
五月女 圭司
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