できる上司の常識!仕事ができない部下を切り捨てる前に見直すべき「3つの問い」

管理職であれば、誰もが避けては通れない「仕事ができない部下」の育成。指示したとおりにやってくれない、仕事への意欲が感じられないなど、悩みを抱えている人は少なくありません。いろんな育成方法を試してみたものの、いまいち効果がなかったなら、途方に暮れてしまいますよね。

そこで今回は、仕事ができない部下の育成を諦める前に、知っておきたい5つのポイントについてご紹介します。部下を育成するための5つの原則もお伝えしますので、ぜひ参考にしてください。

 

管理職の最大の悩みは「部下の育成」

2019年12月~2020年3月まで、人材育成サービスを提供する「ラーニングエージェンシー」は「管理職の意識調査」を行いました。その結果、管理職の悩みの第1位は…。

出典:♯SHIFT
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2008/03/news070.html

 

「部下の育成」50.5%でした。2位の「チーム・部門の運営」は24.9%ですので、2倍以上多いことがわかります。具体的な悩みの内容は、人によって様々でしょう。

いずれにせよ、単純計算で2人に1人は「部下が思うように育たない!」と悩んでいるわけです。こうして数字で表してみると、けっこう深刻な悩みと言えるのではないでしょうか?

 

「アイツは仕事ができない!」は本当か?

とはいえ、ここでちょっと考えてみてください。部下に対する「あいつは仕事ができない!」って事実でしょうか? 今まさに悩んでいる人から、「事実だから悩んでいるんだよ!」と叱られそうですが、別の側面からも現実を見てみたいと思います。

あなたは部下にとって、素晴らしい上司と言えるでしょうか? あなたに意地悪なことを言いたくて、こんなお話をしているわけではありません。実は、部下の育成には、鉄則のようなものがあります。日本で有名なのは、山本五十六氏の言葉です。

「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず」。

いかがでしょうか? 「そんなのきれいごとだ!」と感じたかもしれません。でも、部下の育成の本質をついた言葉だからこそ、今日まで語り継がれてきたわけです。山本氏の考えが正解とは言いませんが、少し耳を傾けてみてはどうでしょうか?

そうすることで、部下の育成に関する本当の問題は、「アイツは仕事ができない!」ことだけではないとわかってくるはずです。

 

仕事ができない部下を育成するための5つの原則

つまるところ、部下の育成がうまくいかないのは、効果的なやり方を知らないからです。これまでのことを思い出してみてください。懇切丁寧に上司が教えてくれたでしょうか? 社内で研修のようなものがあったとしても、内容が実践的でなかったりしたはずです。

その結果が今につながっていると考えてみると、納得できるところがあるのではないでしょうか? 人によっては、自ら模索しながら部下の育成に成功した人もいるでしょう。でも、そういった人たちは、ほんの一握りです。

なので、現時点で部下の育成がうまくいっていなかったとしても、落ち込むことはありません。これから学び、実践していけばいいのです。では、一体何から学び始めたらいいのでしょうか? ここでは、マネジメントの父と呼ばれたP.F.ドラッカーの理論を活用しながら、重要な5つの原則をお伝えしたいと思います。

 

①リーダーシップの定義を理解する

P.F.ドラッカーは、リーダーシップについてこのように定義しています。

「リーダーシップとは、組織の使命を考え抜き、それを目に見える形で明確に確立することである。リーダーとは目標を定め、優先順位を決め、基準を定め、それを維持する者である」

この定義は現在も世界中で高く評価されています。自分のことに置き換え、「ちゃんとリーダーシップを発揮しているか?」と考えてみてはいかがでしょうか?

真のリーダーと似非リーダーの違い
  • 真のリーダーは、言動に一貫性がある
  • 真のリーダーは、組織の使命に矛盾がないように意思決定をする
  • 真のリーダーは、責任は常に自分にあると理解している
  • 真のリーダーは、部下を恐れない
  • 真のリーダーは、優秀な部下を自らの誇りとする
  • 真のリーダーは、自分が去った後に組織が崩壊することを恥とする
  • 似非リーダーは、自らのカリスマ性で破滅する
  • 似非リーダーは、柔軟性がなく、変化を恐れる
  • 似非リーダーは、地位や特権を守るために部下を恐れる
  • 似非リーダーは、自分が組織の支配者であると錯覚する

 

 

②部下の優れているところを見出す

「何かを成し遂げられるのは、弱みではなく強み」。この考え方も、部下の育成において重要なポイントです。多くの場合、弱みを克服することばかりに注力し、強みに磨きをかけようとはしません。これでは、部下は自信を失くすばかりです。

そうではなく、部下に自らの強みを認識させること。その強みを存分に発揮してもらうことが大切です。そういった積み重ねが、仕事に対する自信につながり、優秀な人材へと成長するきっかけになります。

 

③信頼関係とコミュニケーションを重視する

部下との間に信頼関係がないと、スムーズにコミュニケーションを図ることができません。何か仕事をお願いしても、指示通りにやってもらえなかったり、行き違いが発生したりすることがあります。

逆に、信頼関係があってコミュニケーションが円滑だと、仕事の生産性はどんどん上がっていくものです。部下が自ら意欲的に動いてくれたりもするので、最高の結果を残せるようになっていきます。 

 

④個々の価値を認め挑戦できる環境をつくる

どんな人にも、才能や特徴といった、その人ならではの価値があります。それは、強み、ウリといってもよいかもしれません。上司という立場からそれらを見極め、認めることがとても大切です。また、部下が挑戦しやすい環境をつくっておくことも重要なポイントでしょう。

それは、チャンスを与えるということだけではありません。サポートが必要なときは、ちゃんと手助けをしたり、相談に乗ったりするのです。そういった体制が整っていれば、部下は安心していろんなことに挑戦できるようになります。

 

⑤自由裁量を与え任せる

あれこれ細かく指示を出すのではなく、部下がクリエイティビティを発揮できるような環境をつくることも大事です。それは、自由裁量を与えるとも言えるでしょう。すでにAIがビジネスの世界に浸透し、これまで人がやっていた仕事が奪われつつあります。

自分の仕事がなくなるのではないかと、不安を感じている人もいるでしょう。でも、どれだけAIが優秀だとしても、「これだけは、まだAIにはできない!」と言われていることがあります。それは、クリエイティビティを発揮することです。

そう考えると、部下に自由裁量を与えるということは、次世代に活躍できる人材を育成することにもつながります。

 

まとめ

 

あなたへの問い

Q1:あなたのチームで行う仕事のうち、出来栄えや所要時間にバラつきがある仕事は何ですか?

Q2:一人で行う仕事なのに、異なった資質や知識、スキル、経験を要求されている仕事は何ですか?

Q3:業務上の判断について、自由裁量の余地と範囲を示すものは何ですか?

 

▼問いの解説

 上司に従った部下に成果があがらないのなら上司にも責任があるはずです。例えるならば、服を渡されて着ただけの人が、その服を選んだ人に「似合わない」と笑われるような状況が起こっていないでしょうか。

 今回、上記の「部下を育成する5つの原則」のうち、注目したいのは④と⑤の項目です。チームメンバーの、尊厳ある人間としてのチカラ、才能や個性を発揮させるために必要なのは、自由裁量のできる余地を残した『仕事の設計』です。

 『仕事の設計』・・・つまり、
 仕事のプロセスや全体像が整理され、
 その全体と部分の目的や意味やゴールが定義され、
 裁量や判断の余地と範囲、あるいは
 その業務プロセスごとに必要とされる資質や知識やスキルや経験 が示されていなければ、
 自分に合った成果のあげ方や、能力の磨き方を選択することができないからです。
(※ 逆に、人間は機械装置ではないので、スピードや持続時間を自分で決められない状態で働くと、精神的にも肉体的にも激しく疲労するといわれています。)

 実は、「成果があがらない部下の存在」の裏には、【働く人】という「主体」側の問題と、【その仕事】という「客体」側の問題の両方が隠れています。
 そして、主体・客体のどちらの問題だととらえるかによって解決策は異なります。例えば、保有スキルやモチベーションの高さ、強み・弱みという特性の反映、ワークスタイルの違いといったことは、「主体」側の問題・・・【働く人】が生き生きと働けているかという問題です。一方で、属人的な仕事や、担当者次第での業務品質のバラつき、といったことは、「客体」側の問題・・・【その仕事】が生産的に設計されているかという問題です。

 多くの職場では、この『仕事の設計』について無頓着であることが多いのです。この『仕事の設計』を無視した職場では、何でも彼でも「人の問題」にすり替わって、人を責め裁く思考になってしまいます。

例えば・・・
「川上さんは、人の倍近く時間がかかっている」と考えるのか、「××業務は、業務の所要時間にバラつきがある」と考えるのかでは、解決策が異なります。
「田中さんは、プレゼンはすばらしいけど、クロージングはいつまでも素人」と考えるのか、「異なる能力を一人の人間に求める業務設計になっている」と考えるのかでも、解決策は異なります。
「山下さんは、判断をしようとしないし、内海さんは思いつきで勝手に無茶苦茶を始める」と考えるのか、「業務遂行上の判断基準が明確でない」と考えるのかで、解決策は異なります。

 『仕事の設計』をするためには、「人」に着目することを一度、脇に置いて考えてみましょう。業務報告に人名ばかりが目立つ組織は要注意です。

 最後に・・仕事ができない部下の存在は、これまでの『仕事の設計』のミスを見直すきっかけです。その裏には、まだ問題になっていない「前任者のワークスタイルに合わせた役割分担」や「時代に合わない仕事の進め方」あるいは「特定の人だけが抱え込む業務」といった問題が隠れているかもしれません。いまのさまざまな変化の中で、「人のせい」ではない、マネジャーの仕事ぶりが試されている瞬間といえるでしょう。

ドラッカーの言葉

ベヴァリッジ卿の言葉、「凡人に非凡をなさしめる」ことが組織の目的である。
いかなる組織といえども、天才に頼ることはできない。
天才は稀であり、手に入れられるかどうかはわからない。
したがって組織の良否は、人の強みを引き出して能力以上の力を発揮させ、並みの人に優れた仕事ができるようにすることができるかどうかにかかっている。
同時に、人の弱みを意味のないものにすることができるかどうかにかかっている。

『現代の経営〈上〉』p.199ー200

 

【解説者】清水祥行プロフィール

Dサポート株式会社代表取締役、ナレッジプラザ・ドラッカー読書会認定ファシリテータ
一般財団法人しつもん財団認定ビジネス質問家、経済産業省登録中小企業診断士(平成8年登録)

清水祥行
『ドラッカーを読んだら会社が変わった!(日経BP社刊)』『ドラッカー教授組織づくりの原理原則(日経BP社刊)』編集協力。 中小企業におけるドラッカーのマネジメント実践をサポートする[実ドラ・実践ナビゲータ]。 『実ドラ:実践するドラッカー』シリーズ(ダイヤモンド社)をテキストに、1日一冊で、マネジメントを実践的&体系的に学ぶ[実践するマネジメント講座]の講師を全国で務める。  趣味は、受講企業に訪問して実践事例を取材するとともに、自社では気付かない強みをフィードバックすること。
 
 

さいごに:部下を切り捨てる前に「ドラッカーのマネジメント」を学べ!

今回のアドバイスで引用したP. F. ドラッカーは、“マネジメントの父”や”経営の神様”と称され、20世紀の経営学に多大な影響を与えた人物です。

ドラッカーの言葉に励まされ、影響を受けた経営者は数え切れないほどいます。国内だけでなく、世界中でも、ドラッカーを経営に活かした実例は無数に存在します。

もし今回の記事で少しでもドラッカーに興味を持たれたなら、ぜひ一度、ドラッカーのオンライン読書会に参加してみてください。経営者や個人事業主の方はもちろんのこと、学生や会社員/役員の方の参加も大歓迎です。この読書会を通じて、普通では知り合えないような人とつながることもできますよ。

 

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