「仕事ができない人に優しくできない」と悩んでこの記事にたどり着いたということは、きっとあなたは、仕事に対して誠実で、しっかり成果をあげたいという情熱をお持ちなのだと思います。そうでなければ、わざわざ「仕事ができない人に優しくできない」と検索することはないからです。
悲しいことに、あなたのような仕事ができる/やる気のある人が、上司・部下・同僚の仕事の能力に失望し、最後には「こんな職場で頑張っても無駄だ」と、自分自身までもがモチベーションを失ってしまうことがしばしばあります。
この記事では、仕事ができる人が、いわゆる“仕事ができない人”たちに失望することなく、相手の強みを活かして大きな成果をあげられるようにするための考え方を伝授していきます。
その考え方は、世界中の経営者から尊敬されているピーター・F・ドラッカーの経営哲学によるものです。
わたしたち「Dラボ」は、“マネジメントの父”ことピーター・F・ドラッカーの勉強会を主催している会社です。ドラッカーといえば、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(もしドラ)と聞けばピンとくる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事を読めば、多くの経営者を成功に導いてきたドラッカーの考え方を実践して、“仕事ができない”と思い込んでいた相手が、気づけば“最高の仕事仲間”となり、毎日の仕事が断然楽しくなりますよ。
それに、「仕事ができない部下に優しくできない」という悩みは、あなたが素晴らしいリーダーとして一皮むけるための、絶好のチャンスかもしれません。
組織は人を変える。否応なしに変える。成長させたり、逆にいじけさせたりもする。(中略)人材の育成にあたっては、強みに焦点を合わせなければならない。そのうえで要求を厳しくしなければならない。そして、時間をかけて丁寧に評価しなければならない。向かい合って、約束はこうだった、この一年はどうだったか、何をうまくやれたか、と聞かなければならない。
ドラッカー『非営利組織の経営』より
以下では、仕事ができない上司・先輩・部下・同僚のそれぞれの立場で、どう考えて接するべきなのかについて解説します。
まずはその前に、すべての立場に共通する重要な考え方について触れますので、ぜひご一読ください。きっとあなたは、「その発想はなかった」と驚くはずです。なぜならドラッカーは、仕事ができる人ほど陥りやすい“思い込み”を打ち破る鋭い視点を持った人だったからです。
目次
【思考編】仕事ができない人に優しくなるための究極の「考え方」6つ
①成長は本人自身の問題
成長は、常に自己啓発によって行われる。企業が人の成長を請け負うなどということは法螺(ほら)にすぎない。成長は一人ひとりの人間のものであり、その能力と努力に関わるものである
ドラッカー『マネジメント』より
ドラッカーは、成長とはあくまでも本人の問題であって、誰かに成長させてもらうものではないと断言します。
仕事ができない人に優しくできない理由には、おそらく「何で仕事ができないんだ!こんなに教えてやっているのに!」という情熱の裏返しがあるのだと思います。
まずは、「成長させてやらなければならない」という堅苦しい考えを捨てましょう。
後述しますが、ここで大きなポイントがあります。それは「人を成長させようとする」ということは、実は「人の価値観に踏み込む危険性がある」ということなのです。それがさらに進むと他者の支配・統制を肯定することにもつながります。ドラッカーが最も危険視しているのは、実はこの点なのです。
「おれはお前を成長させたくて言っているんだぞ」「成長するために、まずはこれを学びなさい」「そのやり方ではだめだ」など……よかれと思ってやっているこれらの“正論”は、相手にとっては押し付けられたものになってしまい、モチベーションを奪います。これこそマネジメントの最大のタブーです。ドラッカーは、組織が個人の価値観に踏み込むことは人の尊厳を貶める危険なふるまいだといっています。
組織は使い方を間違えると、人に害をなす凶器に変わってしまうのです。「成長は本人の問題である」と彼が言っているのは、実はそうした深い考えがあるのです。
親や教師が「毎日予習・復習をしなさい」といくら口を酸っぱくして言っても、子どもは「はい喜んで!」と応えてはくれません。たしかに予習復習をするのは成績をあげる近道であり、まさに正論です。しかし多くの子どもは納得しません。なぜなら自分の人生に勉強の意味を見出せていないからです。実は組織も、まったく同じような失敗を犯しているのです。
だからこそ、マネジメントでは、「仕事の成果」と「個人の自己実現欲求」を接続させなければなりません。
筆者がこれまで出会ったなかで、素晴らしいと思った事例は、とあるスープカレー屋のオーナーさんです。そのオーナーは、必ずスタッフに「夢を大切に」と励ますそうです。「仕事を優先しろ」とは一言も言わず、むしろ「このスープカレーの仕事を通じて、あなたの夢を応援させてほしい」と言うのだそうです。すると不思議なもので、誰に言われるまでもなく、スタッフはお客様の貢献のために自発的に動き、ときにはアイデアを出したり、改善案を出したりするそうです。
わたしも実際に何度も食べに行きましたが、いつもスタッフが仕事を楽しんでイキイキしているのがわかります。まさに「仕事の成果」と「個人の自己実現欲求」をリンクさせ、モチベーションと自主性が自然と育つように“人を方向づける”マネジメントの好例です。
マネジメントには、働く人たちの模範となる「リーダーシップ」が欠かせません。これがなければ、組織を方向づけることはできないのです。リーダーシップとは、マネジメントの一部なのです。
人を問題や費用や脅威として見るのではなく、資源として、機会として見ることを学ばなければならない。管理ではなくリードすること、支配ではなく方向づけることを学ばなければならない。
ドラッカー『マネジメント』より
②人は誰もが強みと弱みをあわせもつ存在
大きな強みをもつ者はほとんど常に大きな弱みをもつ。山あるところには谷がある。しかもあらゆる分野で強みをもつ人はいない。人の知識、経験、能力の全領域からすれば、偉大な天才も落第生である。申し分のない人などありえない。そもそも何について申し分がないかも問題である。
ドラッカー『経営者の条件』より
誰もが人の弱みに目がいきがちです。多くの上司は、強みを生かすことよりも、まずは弱みを克服することから始めるべきだと考えます。
しかしドラッカーはそうは考えませんでした。むしろ、強みの裏に弱み、弱みの表に強みがあるとし、すべてを受け入れたうえで、強みを生かしてどう成果をあげるのかと考えました。
したがって人の強みを探し、その強みを生かそうとしないならば、できないこと、欠陥、弱み、障害だけを手にすることになる。人のもたないものに基づいて人事をし、弱みに焦点を合わせることは、人という資源の浪費である。濫用とまではいかなくとも、誤用である。
『経営者の条件』より
まずは強みと弱みはコインの裏表であり、みんな誰もが欠点があると考えるようにしましょう。そう考えたほうが、建設的な発想で部下に接することができるようになります。
できることではなく、できないことに気をとられ、弱みを避けようとする者は弱い人間である。(中略)鉄鋼王アンドリュー・カーネギーが自らの墓碑銘に刻ませた「おのれよりも優れた者に働いてもらう方法を知る男、ここに眠る」との言葉ほど大きな自慢はない。これほど成果をあげるための優れた処方はない。カーネギーの部下たちは、それぞれの分野において優秀だった。それは彼が部下の強みを見出し仕事に適用させたからだった。もちろん、最も大きな成果をあげたのはカーネギーだった。
『経営者の条件』より
③性格が合わなくても成果をあげればいい
仕事に焦点を合わせた関係において成果が何もなければ、温かな会話や感情も無意味である。とりつくろいにすぎない。逆に、関係者全員にとって成果をもたらす関係であるならば、失礼な言葉があっても人間関係を壊すことはない。
ドラッカー『プロフェッショナルの条件』より
漫画やアニメ、ドラマの世界では「チームメイトの絆が深まって強くなった」「社員の結束が高まってビッグプロジェクトが成功した」といった感動物語がよく語られます。一般的な感覚では、「仲がいいに越したことはない」と誰もが考えるでしょう。
しかし興味深いことに、ドラッカーはけっしてそうは考えなかったようです。ドラッカーは数えきれないほどの企業を観察・コンサルティングをするなかで、ひとつの結論に達しました。それが上記に引用した言葉です。
あなたもスポーツなどで「あのチームはめちゃくちゃ強いんだけど、実はチームメイト同士の仲はよくない」という話を耳にしたことはありませんか?
たとえばNBAでいえば、デニス・ロッドマンとマイケル・ジョーダンの例があります。言わずもがな、この二人は超一流のバスケット選手です。90年代の常勝チーム「シカゴ・ブルズ」を語るうえで、ロッドマンとジョーダンは欠かせませんが、二人はけっして仲がよかったわけではないようです。犬猿の仲とまではいきませんが、きわめてビジネスライクな関係であり、プライベートではほとんど付き合いがなかったという話は有名です。
では、なぜそんな二人が常勝チームを率いることができたのでしょうか?
答えはもう明白です。互いが互いに「人としては好きになれないが、成果(優勝)に貢献できる強みを持っている」ことを十分に理解していたからです。
ロッドマンとジョーダンは、“とりつくろい”などせず、成果を出すために自分がなすべきことを成しただけなのです。彼らは仲良くすることではなく、優勝に貢献するにはどうすればいいかだけを考えたのです。まさにプロフェッショナルです。
貢献に焦点を合わせるということは、責任をもって成果をあげるということである。貢献に焦点を合わせることなくしては、やがて自らをごまかし、組織を壊し、ともに働く人たちを欺(あざむ)くことになる。
ドラッカー『プロフェッショナルの条件』より
仕事ができない人に優しくできない理由……よく思い返してみれば、「そもそも態度が気に食わない」「性格があわない」といったフシはありませんか?
たしかに、仕事ができない人が生意気な態度をとられると“憎たらしいったらありゃしない!”とイライラしてしまいますよね。そんな人と一緒に仕事をするよりも、気の合う同僚や上司と居たほうが精神的に健全です。
しかしそこで一歩ひいて冷静に考え直してみてほしいと思います。仕事ができない人が強みを生かして、しっかり成果を出せるようになれば、みんなでもっと幸せになれるのです。
④成果をあげられなくて誰よりも苦しんでいるのは本人自身かもしれない
成果をあげられなければ、仕事や貢献に対する意欲は減退し、九時から五時までただ身体を動かしているだけとなる。
ドラッカー『プロフェッショナルの条件』より
仕事の成果は自己実現欲求と深く関わっています。ドラッカーは、人間だれしも「貢献」をしたがる存在だといいました。自分が誰かの役に立っているという実感は、生の充実をもたらします。
しかし、仕事で成果があがらなくなると、自己肯定感が低くなり、次第にやる気が失われて、さらに成果があがらなくなるという負のスパイラルに陥ってしまうことも……。
仕事で成果があがらなくなると、個人は己自身との「社会的な位置づけと役割」を見失い、「見捨てられし者」「根無し草」になってしまうとドラッカーはいいます。
たったひとつのボタンのかけちがいが、その人の仕事人生に暗い影を落としてしまうこともあるのです。その狂いに気づき、寄り添ってあげられるのは、普段から彼を見ているあなたにしかできないことかもしれません。
⑤組織の価値観と本人の価値観が合わなくなったのかもしれない
仕事で成果をあげることと成長は表裏一体です。成長は本人のモチベーション次第ですが、ではそのモチベーションが刺激される条件とは一体何なのでしょうか?
ドラッカーは、組織の価値観と本人の価値観とが合っている状態が、モチベーションに影響しているといいます。
価値観に反する仕事は人を堕落させる。強みすら台無しにする。
ドラッカー『明日を支配するもの』より
実際、ドラッカー自身も、若かりし頃は才覚を発揮し、ロンドンの投資銀行で活躍していました。証券市場を読みぬく洞察力は、ドラッカーの強みだったのでしょう。ところがドラッカーは、その仕事に価値を見出せず、キャリアの成功を捨てて、辞職を決意しました。
組織には価値観がある。そこに働く者にも価値観がある。組織において成果をあげるためには、働く者の価値観が組織の価値観になじまなければならない。同一である必要はない。だが、共存できなければならない。さもなければ、心楽しまず、成果もあがらない。
ドラッカー『プロフェッショナル』の条件より
まずは本人に寄り添い、本音を引き出してあげることが大切です。組織の価値観とのずれを感じているのであれば、解消しようがない場合もありますが、すれ違いを生んでしまった原因を探り、修正できる余地があるかもしれません。
いまいちど、リーダーシップを発揮するときです。組織のミッションやビジョンを伝え、仕事の成果と本人の自己実現欲求とが重なるように、方向づけてみましょう。
効果的なリーダーシップの基礎とは、組織の使命を考え抜き、それを目に見える形で明確に定義し、確立することである。リーダーとは、目標を定め、優先順位を決め、それを維持する者である。もちろん、妥協することもある。(中略)リーダーは、妥協を受け入れる前に、何が正しく、望ましいかを考え抜く。リーダーの仕事は、明確な音を出すトランペットになることである。
ドラッカー『プロフェッショナルの条件』より
⑥過去の成功を引きずっているかもしれない
過去の成功体験に固執し、成果があがらないのに仕事の仕方を変えない……。これは、昇進した人や転職した人がよく陥る罠です。
10年、15年にわたって有能だった人が、なぜ急に無能になるのか。私が見てきたかぎり、原因は、それらの例のほとんどにおいて、昇進した人が、前の任務で成功したこと、昇進をもたらしてくれたことを新しい任務においても行いつづけることにある。その挙句、無能な仕事しかできなくなる。正確には、無能になるのではなく、たんに間違ったことを行うために無能な仕事しかできなくなるのである。
ドラッカー『創生の時』より
ではどうすればいいのか? まず大切なのは、いま相手に求める「成果」と「貢献」を明確に提示すること。これが最良のコミュニケーションの基礎となります。
人材育成とは「正論を言う」ことではなく「正しい方向に導く」こと
仕事熱心な人ほどやってしまうタブー行為があります。それは、「正論を言って相手を説き伏せる」です。仕事ができない人を相手にしているときは、どうしても正論を放ってしまいがちです。
正論とは、たとえば「お客様のために日々学びなさい」「もっと主体性を発揮して行動しなさい」「環境のせいにせず、みずから成長できる環境をつくりなさい」といった、“一見するともっともらしい”考え方のことです。
それらの正論は、きっと間違ってはいません。しかし、その“正しさ”は、個人の価値観・信条・自己実現欲求・心理的安全性があってようやく実現されるものなのです。
正論を言われたときの不快感は、万人がよく知っているはずです。ところが自分がマネジメント側になると、「正論をいえば人は動く」と信じてしまっている――いや、それ以外に方法がないと思い込んでいる――のです。
はじめからやる気がモリモリある人は、誰に言われるまでもなく、自然と「お客様のために日々学ぶ」「主体性を発揮する」「自己成長する機会をつくる」といった行動になっていくはずです。でもよく考えてみてください。そもそもやる気がモリモリある人は、多くの場合、「夢」が明確で、仕事を通じて自己実現欲求を成しえている人です。
仕事に意味を見出せない、組織の価値観と合わない、どんな成果を求められているのか理解できない、仕事と自己実現が分離されている、弱みが強調されて自己肯定感が低いなど……これらの状態に陥っている人に正論を言っても、いたずらに傷つけるだけです。彼らにとっては、言葉では正しさを理解できるけれど、心では納得できない状態なのです。
いかに正論であろうとも、いや正論なればこそ、押しつけられた信条や価値観は社員にとってむき出しの専制にほかならない。人間重視の経営の基本は、個として社員を遇すること、そして強みに着眼して組織的に成果をあげるような環境を整えること、それだけである。ドラッカーによれば、それ以上のことは明らかに越権である。マネジメントは個人の内面や自発性に一ミリたりとも立ち入ることを許さない。
上田 淳生/井坂 康志『ドラッカー入門 新版』より
組織という道具の使い方を間違えると、小さな独裁を生み出します。
組織は人を変える。否応なしに変える。成長させたり、いじけさせたりする
『非営利組織の経営』より
「こんなに素晴らしい理念を掲げているのに、なぜ理解できないんだ」「お客様のために頑張るのは当たり前。努力しないなんて、考えられない」「もっと主体性をもって仕事をしてほしい」……これではいたずらにモチベーションを奪うだけです。
もしあなたが、「スタッフ一人ひとりが主体性を発揮する組織にしたい」と考えているにもかかわらず、現実にそうならないのであれば、それはスタッフが悪いのではなく、そうなる環境をつくれていないマネジメント側に問題があると真摯に受け止めましょう。
ドラッカーは「理論は現実に従う」ことを信条としていました。頭で考えた正しさよりも、現実に起こったことがすべてです。
「こうなるはずなのに」「こうなってほしい」が現実にならないからといって、相手のせいにしてはなりません。間違えているのは、スタッフではなく、マネジメントの仕方です。
【行動編】仕事ができない人に優しくなるための「接し方」3つ
①自分で考える機会を与える
ポイントは「自己決定」と「有能感」だ。社員に自ら考え、行動させる。そこから自ら成長したいという意欲が芽生え、自身の成長度合いを測る、自分なりの物差しができる。自己決定し、自己評価できることが有能感の源泉だ。
佐藤等『ドラッカー教授 組織づくりの原理原則』より
仕事ができない人に優しくできないとき、あなたは「マイクロマネジメント」に陥っている可能性があります。マイクロマネジメントとは、相手の一挙手一投足に口を出して細かく指示するやり方です。
マイクロマネジメントは相手のモチベーションと自主性を奪ってしまうNG手法のひとつ。組織にとってマイナスしかもたらさないので、心当たりのある方は、改めるようにしましょう。
ではどうすれば仕事ができない人に優しくできるのでしょうか。まずは、相手に考える余地を十分に与えることが大切です。成果という名のゴールを明確にしたうえで、そこから逆算して、成果をあげるための創意工夫の余地を与えるのです。
そのためには、もちろん「成果」をちゃんと定義しなければなりません。では成果とは一体何でしょうか? ヒントは以下の「②貢献に焦点を合わせて話をする」で詳しく書いてあります。
②貢献に焦点を合わせて話をする
人は自分が思いついたアイデアについては積極的になるものです。ですから、主体性を育む上で有効なのは、実行者の発想を引き出す「問いかけ」です。その中でも「いつまでに」や「どれから」という問いかけよりも、「何を」「どのようにすれば」という選択肢を広げる問いかけのほうが主体性を引き出すには有効です。
佐藤等『ドラッカー教授 組織づくりの原理原則』より
たとえば上司なら、仕事ができない人に対して何ができるのでしょうか。それは「成長する環境・機会を用意する」ことです。
「組織の仕組みを変えるほどの権限がない」という人でも大丈夫。たった一つの問いかけをするだけで、自己成長のきっかけを与えることができます。それは「何を・どのようにすればお客様が喜ぶか」という問いかけです。
ポイントは、“お客様が喜ぶ”という視点です。売上や契約数という無味乾燥な数字では、人はモチベーションを上げることができません。なぜなら、誰かの役に立っているという意識が希薄になるからです。しかし、「この仕事は誰かの役に立つ素晴らしい仕事なんだ!」と考えられるようになれば、自然に自主性が発揮されます。
仕事ができない人はいない。できないのではなく、貢献意識が芽生えていないから意欲が低いのだーーまずはこう考えてみてください。そして、いつかその人が友人や両親に「この仕事は素晴らしい」と自慢できるくらいに、仕事の意義について真剣に話してみてください。そこから何かが変わるかもしれません。
③相手の強みを生かすためのコミュニケーションを図る
強みを生かすことは、行動であるだけでなく姿勢でもある。しかしその姿勢は行動によって変えることができる。同僚、部下、上司について、「できないことは何か」でなく「できることは何か」を考えるようにするならば、強みを探し、それを使うという姿勢を身につけることができる。やがて自らについても同じ姿勢を身につけることができる。
ドラッカー『経営者の条件』より
できないことばかりに目がいくと、物事の本質が見えなくなります。まずは、仕事ができない部下の弱みと同時に、強みを理解する歩み寄りが必要です。
上に引用したドラッカーの言葉にもあるように、「できることは何か」という問いから、一つひとつ丁寧に、部下の強みを見つけ出してみてください。
仕事ができない人にイライラするときは自分に8つの質問を投げかけよう
- 自分のルールや常識を押し付けていないか
- 自分のやり方が本当に正解なのか
- 自分より仕事ができないと見下していないか
- 相手が自分の顔色を伺わせるような言動はしていないか
- 相手と仕事の意義やビジョンを共有できているか
- 相手に失敗するチャンスを与えているか
- 相手の強みではなく弱みばかりに目が向いていないか
- 性格が合わないというだけで見捨てようとしていないか
【立場別】仕事ができない人に優しくなれるドラッカーの名言
仕事ができない上司・先輩に優しくなりたい
なすべきことから考え、それを上司にわかる形で提案しなければならない。上司も人である。人であれば、強みとともに弱みをもつ。しかし上司の強みを強調し、上司が得意なことを行るようにすることによってのみ、部下たる者も成果をあげられるようになる。
ドラッカー『プロフェッショナルの条件』より
仕事ができない部下に優しくなりたい
真に厳しい上司とは、つまるところ、それぞれの道で一流の人間をつくる人である。彼らは、部下がよくできるはずのことから考え、次に、その部下が本当にそれを行うことを要求する。
ドラッカー『プロフェッショナルの条件』より
仕事ができない同僚に優しくなりたい
組織といえども、人それぞれがもっている弱みを克服することはできない。しかし組織は、人の弱みを意味のないものにすることができる。組織の役割は、人間一人ひとりの弱みを、共同の事業のための建築用ブロックとして使うところにある。
ドラッカー『プロフェッショナルの条件』より
マネジメントは「一人の人間と向き合う」ことから始まる。
あらゆるマネジメント上の間違いは、人としてのマネジメントによるものである。人としてのマネジメントのビジョン、献身、真摯さが、マネジメントの成否を決める
ドラッカー『マネジメント』より
部下を持つあなたは、「マネジメント」という言葉をよく耳にしていると思います。人によっては日常的に使っている言葉かもしれません。
マネジメントといえば、「管理する」というイメージが一般的ですが、ドラッカーは「管理ではない」と明確に否定しています。
マネジメントの本当の意味は、“方向づける”です。
マネジメントの語源はイタリア語の「馬を馴らす」(maneggiare)に由来し、「手綱を操る」というニュアンスを含んでいます。
馬には性格、意志、気分、得意・不得意があり、これは人間と同じです。目指すべきゴールは一つでも、その道程はそれぞれ異なります。
そして、ゴールに向かう過程で何に苦痛や喜びを感じ、人生の意義を見出すかも人それぞれです。
こうした個性豊かな馬をゴールへ導くためには、目の前の馬と真摯に向き合い、その個性を認めた上で、その馬に合った方法で強みを活かしながら目標へと導かなければなりません。
このように、「馬を馴らす」という比喩的な意味が転じて、managementは「物事をうまく扱うこと」、すなわち組織やプロジェクトに関わる人々を統率し、目的達成へと導くことを意味するようになりました。
つまるところ、マネジメントの核心は「人」です。意志も感情もない車をハンドリングし、ゴールへと導くのとはわけが違います。意志も感情も願望もある「人」を、いかに正しく方向づけ、成果をあげるか……。
ドラッカーは次のように言います。
マネジメントとは、仕事の絆で結ばれたコミュニティの組織において機能すべきものである。共有する目的のもとに、仕事の絆で結ばれたコミュニティとしての組織のものであるからこそ、マネジメントとは人にかかわることであり、善悪にかかわることである。
ドラッカー『365の金言』より
もしあなたが、仕事ができない人との接し方に悩んでいるなら、その悩みこそ、マネジメントを改善する大チャンスかもしれません。
まとめ:「仕事ができない部下に優しくできない」と悩んでいるあなただからこそ、素晴らしいリーダーになる可能性が拓けています。
弱みからは何も生まれない。結果を生むには利用できるかぎりの強み、すなわち同僚の強み、上司の強み、自らの強みを動員しなければならない。強みこそが機会である。強みを生かすことは組織に特有の機能である。
ドラッカー『経営者の条件』より
わたしたちは、どうして他者と協働しながら仕事をしているのでしょうか。20世紀の偉大な社会学者マックス・ウェーバーは、組織を「目的をもった社会集団」と定義しました。そう、組織は何らかの目的を果たすために存在するのです。
組織は目的を達成する手段であるーーそういわれると、誰もが一応は納得を示すことができると思います。しかし現実に、どれだけの人が、「成果」に対して意識的に行動できているでしょうか。
ドラッカーは、成果をあげるには、働いている人全員が手元の仕事から顔をあげて、組織が果たすべき使命に目を向けなければならないといいます。さもなければ、みんなの視座が下がり、レベルの低い仕事しかできなくなってしまいます。
「毎月ちゃんと給料さえもらえたらいい」「言われたことだけやっていればいい」「それは自分の仕事じゃないから関係ない」……視座が低いということは、成果に対する意識が希薄ということです。
このことは、人間関係でも同様のことがいえます。
上司・部下・同僚。それぞれの立場で起こるトラブルの中には、実は「成果を出すためにはどうすればいいか」という視座さえもてば、問題だと思っていたことが問題でなくなる(無意味になる)ことが多くあります。
今回とりあげた「仕事ができない人に優しくできない」という悩みの本質には、「相手の弱みばかりに目が向いている」という問題が潜んでいる可能性があります。
リーダーシップとは、人のビジョンを高め、成果の水準を高め、人格を高めることである。
ドラッカー『マネジメント』より
リーダーの仕事ぶりが高ければ、他の人の仕事ぶりも高くなる。重要なことは、人を変えることではない。人のもつあらゆる強み、活力、意欲を動員し、そうすることによって全体の能力を増大させることである。
ドラッカー『経営者の条件』より
デニス・ロッドマンとマイケル・ジョーダンのように、相手の強みを知り、生かすための人間関係を構築することこそ、真に生産性のある組織づくりです。
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