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ドラッカーとは?【1分でわかる概要】
ピーター・F・ドラッカー(オーストリア:1909~2005年)とは一般的に「マネジメントの父」「マネジメントの発明者」として知られている人物である。
正確にいうとドラッカーは経営学者ではない。経営テクニックや緻密な経営学理論を展開したわけではなかったが、世界中の経営者から尊敬され、影響を与えた。
30年以上にわたって多様な業種で事業経験を積み、何が失敗と成功を分けているのかを考えるたび、失敗の要因も成功の要因もドラッカー氏の言葉に集約されていると気付きます。(中略)ドラッカー氏は、常に考え抜いた言葉を選択します。筆者はこの語彙の選択にこそ、ドラッカー氏の人間への深い敬意と経営観が表れているのではないかと思いました。
『顧客起点の経営』(西口 一希/日経BP)
たとえばドラッカーのコンサルを受けて事業を復活させたP&Gのアラン・ラフリーは「一流の人」と讃え、マイクロソフトのビル・ゲイツがドラッカーの著作を「最も影響を受けた経営書」と太鼓判を押した。Googleのエリック・シュミットは、ドラッカーのものの見方や考えは、Googleが目指している境地と同じであるとさえいった。
『プロフェッショナルの条件』をはじめ、現代でも読み継がれる傑作を生みだしてきたドラッカーは、経済学・社会学・歴史学・哲学に精通した知の巨人であり、「現代社会最高の哲人」「20世紀に身を置きながら21世紀を支配する思想家」と称された。生涯刊行した著作は39冊。執筆した論文や記事はあまりに多く、数えることが難しいとさえいわれている。
ドラッカーは一体何者なのか?なぞらえるなら、ドラッカーはアメリカ版の渋沢栄一のような人物であり、思想の本質はアメリカ版の『論語と算盤』であるといえるだろう。つまり、“人として正しいことを正しくやれ”というのが、ドラッカーの本質なのだった。ドラッカーの思想の本質は、以下の言葉によくあらわされている。
組織はすべて、人と社会をより良いものにするために存在する。すなわち、組織にはミッションがある。目的があり、存在理由がある。
『経営者に贈る5つの質問』より
以降は、ドラッカーのことをもっと知りたい人のために、さらに掘り下げて紹介しよう。
ドラッカーの理解を深める徹底解説
この記事は、マネジメントを身につけるための実践的な読書会を全国で主催するDラボが、「ドラッカーとは」に関する疑問を丸ごと解説するとともに、ドラッカーに興味を持った人に向けて、読みやすいおすすめの入門書や実際に事業に活かせる解説書を紹介する。
この記事を読めば、
- ドラッカーは利益追求主義を批判した
- 利益ではなく社会貢献の追求こそ企業の使命と考えた
- 世界中の経営者がドラッカーを実践して成功した
- いまでもドラッカーは経営や事業を学ぶ経営書として大人気
- 日本はドラッカーを学ぶ勉強会がたくさんあるためアメリカより恵まれている
- ドラッカー学会が監修した『実践するドラッカー』が入門書におすすめ
といったことを理解でき、ドラッカーの学びを事業や仕事に活かしてみたくなるはずだ。
「上司からドラッカーを読んだほうがいいと言われたが、その気になれない」「知り合いの経営者がドラッカーにはまっていると聞いて興味が湧いた」「有名な経営者がドラッカーの名前を挙げていたので気になった」という方は、ぜひ当記事を読んでほしい。
この記事は、いうなればピーター・F・ドラッカーという人物の輪郭を掴む「俯瞰図」である。この記事だけでドラッカーのすべてを理解することはできないが、ドラッカーの全体像を知る橋掛りにはなるだろう。ぜひ、ドラッカーの“入口”として読んでいただければ幸いである。
ドラッカーに影響を受けた人物の一例
ドラッカーという人物がどれほどの魅力を持っていたのかについて直感的に理解するには、ドラッカーに影響を受けたと認める人々を知るのが一番である。以下に、有名企業の経営者や著名人を中心に紹介しよう。
- Googleの元CEOエリック・シュミットはドラッカーのマネジメント手法を参考にして経営を行った。いわく「ドラッカーほど知識労働者に詳しいものはいない」
- 英首相ウィンストン・チャーチルがドラッカーの著作を絶賛し、イギリス軍の士官全員分に本をプレゼントした
- 同じく英首相マーガレット・サッチャーはドラッカーに影響をうけて民営化政策を推し進めた
- 糸井 重里 氏がバカンスにドラッカーの本を持って行き、時間を忘れて読みふけった。いわく「推理小説より面白かった」。以来、ドラッカーの熱烈なファンを公言している
- アニメ監督の富野 由悠季 氏はドラッカーの本をヒントにガンダムを生み出した
- ユニクロ創業者の柳井 正 氏はドラッカーから多大な影響を受けた。「商売をするようになって、ドラッカーの言葉がいかに正しかったか。それを日々、実感している」。ロングセラーの”フリース”は、ドラッカーの言葉を信じた結果生まれた商品だった
- イトーヨーカドー創業者の伊藤 雅俊 氏はドラッカーにコンサルティングを依頼した。以降、30年来の友人となった
- 山崎製パンの元社長・飯島 延浩 氏はドラッカーを実践して「1,000億円の事業を創った」と自負している。
- 松下電器(パナソニック)の元社長・中村 邦夫 氏はドラッカーを「師」と仰いでいる
- 『キリンビール高知支店の奇跡』で有名な田村 潤 氏はドラッカーの言葉に勇気をもらいながら“負け癖”のついていたキリンビール高知支店を県内トップシェアに導いた。「リーダーとしてやるべきことは全国でも高知でも同じだった。その本質をドラッカー教授は的確な言葉で表現してくれている」
- P&Gの元CEOアラン・ラフリーはドラッカーを実践して組織改革を行った
- ゼネラル・エレクトリック(GE)社の元CEOジャック・ウェルチは、就任後すぐにドラッカーに手紙を書き、コンサルティングを依頼した。そこで生まれたのが「1位・2位戦略」であった
- 日本の産業近代化および日米親善への寄与により、勲三等瑞宝章を授与される
- マイクロソフトのビル・ゲイツはドラッカーを「最も影響を受けた経営書」と評した。
ドラッカーの特徴6つ
ドラッカーは経営だけでなく社会や時代を鋭く洞察した人物であった。本人は自分のことを「社会生態学者」と言っていたほどである。
そんなドラッカーを単純に「経営学者」と括って表現することは正しくはないが、事実として“マネジメントの父”と称されているからには、ドラッカーを「経営思想家」と捉えることは間違いではないだろう。
以下に、ドラッカーを知るうえで「ここだけは抑えておきたい」という特徴を、業績や周囲の評価という観点から5つに絞って紹介する。これを読めばドラッカーという人物の輪郭を掴むことができるはずだ。
①企業を「利益ではなく貢献を追求する社会的機関」と捉えた
ドラッカーを知らない人のために、ドラッカーという人物を端的に説明するとしたら、「ドラッカーは利益追求主義を強く批判し、企業とは顧客への貢献を追求することで存在が認められる社会的組織と考えた経営思想家」だ。
なんだか綺麗ごとのように思えるかもしれないが、ドラッカーはけっして利益を得ることを否定しているわけではない。利益は企業のガソリンのようなものであり、利益がなければ持続不可能となり、顧客に貢献できなくなってしまうからだ。
ポイントは、利益は目的ではなく存続の条件であり、企業の真の目的は顧客への貢献であるという点である。つまり企業の成果は、“自分がどれくらい儲けたか”ではなく、“顧客にどんな価値を提供できたか”にある。
②マネジメントの概念を体系的に示した
ドラッカーのいう「マネジメント」とは、①事業のミッション(使命)を明確にし、②限りある時間を自覚し、③人々が自分の強みを活かして本当にするべき仕事に集中することで、④どんな凡人でも成果があがるようにする実践的な方法のことをいう。
ようするにマネジメントは、自分の組織が社会や顧客にどんな貢献をするのかという存在理由の定義に関わるものなのだ。マーケティングとイノベーションは、マネジメントという太い幹から伸びる枝である。マネジメントなくしてマーケティングとイノベーションは成り立たないのだ。
ドラッカーの功績は、これまで漠然と使われてきたマネジメントという概念を、丁寧に定義し直して、誰でも現場に活かせる知識として再構成した点にある。
③リーダーシップの概念を明確に定義した
ドラッカーはマネジメントの一部を成すものとしてリーダーシップについて論じている。
真摯さを絶対視して、はじめてマネジメントの真剣さが示される。それはまず人事に表れる。リーダーシップが発揮されるのは真摯さによってである。範となるのも真摯さによってである。
ドラッカー『マネジメント』より
マネジメントとリーダーシップはしばしば「別物である」といわれますが、ドラッカーにいわせれば、そもそもコインの裏と表の関係であり、切り離せないものなのだ。
理由はいたってシンプルで、マネジメントもリーダーシップも、「物事を方向づける」という意味だからだ。それゆえドラッカー、リーダーシップに欠如している者はマネジメントの地位につけてはならないとさえ言っている。
リーダーシップとは、人のビジョンを高め、成果の水準を高め、人格を高めることである。そのようなリーダーシップの基盤として、行動と責任についての厳格な原則、成果についての高度な基準、人と仕事に対する敬意を日常の実践によって確認していく組織の精神に勝るものはない。
ドラッカー『マネジメント』より
リーダーシップの本質をズバリ言い表すなら、「わが子をその人の下で働かせたいと思うか」である。この言葉は、ドラッカーがとある世界的大企業のトップから教わった金言なのだ。
④マーケティングの定義を明確にした
ドラッカーは「マーケティングの理想は販売を不要にすることである」といった。顧客が真に求める製品やサービスを生み出せば、販売活動をせずとも「自ら売れる」ようになるからだ。ドラッカーの考えるマーケティングの本質は、“自分たちが売りたいものを売る”(製品志向)のではなく、“顧客が求めているものを売る”(顧客志向)の発想である。
「マーケティングの理想は販売を不要にすることである」という言葉は、1973年の名著『マネジメント』に登場するが、実は現代においてもなお、経営学で引用されている。
たとえば日本の経営学の大家である恩蔵直人教授(早稲田大学)は、現代マーケティング理論について説明するうえで、しばしばドラッカーの言葉を引用している(参考『マーケティング 第2版』日経文庫)。
⑤イノベーションを起こす実践方法を示した
「イノベーション」という言葉をはじめて学術的に使ったのは、ドラッカーの知人である経済学者ヨーゼフ・A・シュンペーターだ。シュンペーターは「創造的破壊」という言葉でよく知られているが、実際にどうやってイノベーション(創造的破壊)を起こすかについては深く言及しなかった。
一方でドラッカーは、シュンペーターよりも具体的で実践的なイノベーションの方法を論じた。その核心的な議論が、顧客志向の発想である。日々刻々と変化する世の中を観察し、顧客の価値観や欲求がどのように変化しているのかを洞察する。顧客が満たされていない欲求は何なのか? この問いにこそ、イノベーションのチャンスがあるという。
⑥知識労働で成果をあげるための条件を明確にした
コピーライターの糸井重里氏は、ドラッカーの『プロフェッショナルの条件』が「推理小説よりも面白かった」と評した。『プロフェッショナルの条件』では、知識を駆使して仕事をする「知識労働者」(knowledge worker)が、どうすれば成果をあげられるかについて説かれている。
成果をあげるためには、貢献に焦点を合わせなければならない。手元の仕事から顔をあげ、目標に目を向けなければならない。「組織の成果に影響を与える貢献は何か」を自らに問わなければならない。すなわち、自らの責任を中心に据えなければならない。
『プロフェッショナルの条件』
ドラッカーが人気の理由7つ
今日においてもなお、ドラッカーの著作は読まれ続けている。大型書店のビジネス書コーナーでは、たびたびドラッカーの特設棚がつくられるほどだ。日本ではとくに人気が高く、いまだに新規の読者を獲得している。以下に、ドラッカーが現代でも多くの企業家から熱烈な支持を受けている理由を7つ紹介しよう。
①利益追求主義に疑問を抱く人が共感しやすいから
「企業は儲けることがすべて」という暗黙の前提が世間に浸透している。ビジネスを題材にした映画やドラマや漫画では、抜け目のない競争心をもったカリスマ経営者が痛快に描かれることもある。
しかしドラッカーは、利益追求主義の姿勢を厳しく批判した。保守主義を自負するドラッカーは、もちろん反・共産主義者ではあったが、“利益こそすべて”と考えるブルジョア的な資本主義も否定するのだった。
ロシア革命、共産主義、資本主義、第一次・第二次世界大戦という激動の時代を経験したドラッカーは、人間が頭の中で考えた理想や理念(イデオロギー)だけでは人類を幸せにできないと考えた。価値を創造するのは、イズムやイデオロギーではなく、顧客への貢献を使命とした企業なのだーードラッカーは、この考えを貫き、マネジメント・マーケティング・イノベーションの理論にもしっかり落とし込んだ。
だからこそ、利益追求主義に疑問を抱く経営者、つまり、もともと顧客志向の発想を持っていたり、使命感をもっていたりする人々の心を捉えて離さないのである。
②成果をあげるのは才能ではなく習慣だと気づかされるから
ドラッカーのマネジメント論は、凡人でも成果をあげられるようになることを目的としている。ドラッカーは、一握りの秀才やカリスマに依存するやり方を否定する。
成果をあげることは一つの習慣である。習慣的な能力の蓄積である。
『プロフェッショナルの条件』
「うちにはいい人材がいない」「人が育たない」と悩んでいる人は、マニュアルではなく、組織の方向づけが重要であることに気づく。そしてドラッカーを実践し、成果をあげることで、さらにドラッカーの魅力が深まっていくのである。
③有名経営者がドラッカーの名を挙げるから
Google、マイクロソフト、P&G、ユニクロ、イトーヨーカドー、松下電器など……先述したように、そうそうたる企業の経営者が、ドラッカーから影響を受けていることを認めている。ドラッカーの影響力を知れば、自然とドラッカーに興味を持つようになるものだ。そこまでして影響を与えたドラッカーは一体何者なのだ!?と思ったなら、後述する入門書紹介を参考に、一度手に取ってみてほしい。
④何度読み返しても発見があるから
ドラッカーの翻訳者であり、ドラッカーに“分身”と言わしめた上田 惇生 氏は、「ドラッカーを読んだ者は自分のために書いてくれたと思う。だからドラッカーはそれぞれのドラッカーである。誰にも親身になって耳を傾け、語りかけてくれる」(『ドラッカー入門 新版』ダイヤモンド社)という。
ドラッカーは読んで終わりではない。実際にドラッカーを使ってこそ、破壊力を理解できる。読み返せば読み返すほど魅力がわかる。それがドラッカーのすごさなのだろう。事実、わたしたちの読書会に参加する人たちは、常に手元にドラッカーを置いている。ぱらぱらとめくって眺めるだけで、そのときの自分の心境に呼応してスッと胸に落ちてくる文章が異なるというのだ。
⑤ドラッカーを実践して成功した事例がたくさんあるから
百戦錬磨のコンサルタントの顔をもつドラッカーは、膨大な事例研究から本質をえぐりだす。P&Gはドラッカーからコンサルティングを受け、見事、事業を軌道に戻して復活を遂げた。山崎製パンの社長は、ドラッカーが経営者に問いかけたことに、一つひとつ丁寧に向き合い、1,000億円の事業を生み出すことができた。
ドラッカーのものの見方・考え方を実践して成功した企業は枚挙にいとまがない。ドラッカーの読書会を主催するわたしたちDラボも、ドラッカーを実践して事業を好転させた事例をたくさん間近で目撃してきた。
成功事例の多さが、ドラッカーが一流であることの何よりの証左である。ドラッカーの理論は、机上の空論ではない。「理論は現実に従う」という信念のもとに丹念に練り上げられた実践知なのである。
⑥日本と深い関わりがあるから
「日本にドラッカーの学徒は多い。しかし、それ以前にドラッカーが熱烈な日本の学徒だった」(『ドラッカー入門 新版』ダイヤモンド社)と翻訳者の上田氏がいうように、ドラッカーは日本に対して特別な思い入れのある国であった。
そもそもドラッカーは、若い頃から日本の明治維新に強い関心を寄せており、なかでも“日本の資本主義の父”こと渋沢栄一には深い敬意を示していた。というのも、ドラッカーによれば「マネジメント」の概念を当時どの国よりも先に取り入れたのが渋沢だったからだ。
この記事の冒頭で、ドラッカーをアメリカ版の渋沢栄一、ドラッカーの思想の本質をアメリカ版の『論語と算盤』と表現したのには、そうした理由が背景にある。
⑦ドラッカーを学ぶ機会がたくさんあるから
ドラッカーが日本に深いゆかりがあるためなのか、日本では昔からドラッカーが読み継がれてきた。ドラッカーに刺激を受けて実践し、成功を収めた有名な経営者が数多くいることも関係しているのかもしれない。現在もドラッカーの入門書や解説書が書店に立ち並んでいる。
ドラッカーの勉強会も活発に開催されているので、一人で勉強するのが心細い人や、解説を直接してほしいという方は、参加を検討してみるとよいだろう。
残念ながら現代のアメリカ本国では、ドラッカーを熱心に学ぶ人はけっして多くないようだ。たとえば『ビジョナリーカンパニー』で有名なジム・コリンズがドラッカーを信奉していることはよく知られているが、ドラッカーそれ自体を読み進める人はあまりいない。なぜなら、現代経営学は統計や数理理論を重視する風潮にあるからだ。
だがドラッカーは、ビジネスで活躍する人々の心をたしかに動かしている。最先端の理論を学ぶことも大切かもしれないが、トレンドに左右されてすぐに陳腐化することも少なくない。その点、半世紀以上を経てもなお語り続けられているドラッカーは、時の試練に耐えて磨かれた一級の学びだといえるだろう。
海外ではあまり読まれなくなった?ドラッカーが経営学の主流から外れていった理由
日本国内では現在でも根強い人気のあるドラッカーだが、ドラッカーを生んだ本場アメリカでは、「ほとんど読まれてない」という、いささかショッキングな話が耳にはいってくる。なぜ、こうも国内外で評価が異なってしまっているのか?
現代の経営学のスタイルと相いれないドラッカー
ヒントは現代経営学のスタイルにある。日経ビジネスのインタビューに応じた早稲田大学の三橋平(みつはし ひとし)氏がいうように、現代の経営学の主流は、データや数理モデルに重きをおくスタイルである。いわゆる「経営科学」や「経営工学」の領域だ。
学問には必ず目的がある。数理経済学のように、現代経営学が“現象の因果関係の解明”にあるのだとすれば、ドラッカーの著作は、“畑が違う”と認識されてしまうのだろう。ゲーム理論の研究をするのに、稲森和夫の著作を読むようなものだ。
実際、ドラッカーはみずからこう述べている。
GM(ゼネラルモーターズ)は、物理の法則に似た絶対的な原理を発見したと考えていた。ところが私の考えは、経営政策というものは、人が考えたものである以上唯一絶対たりえず、せいぜいのところ、正しい問いを見つけるための問題提起にすぎないというものだった。私のマネジメント論が経営学の多くと異なる点がここにある。そして、おそらく私が学界向きでない理由もここにある。
『企業とは何か』(1945年)
経営学の目的に、ドラッカーが合わない――それはもう致し方のないことである。そもそもドラッカー自身、経営学者のために著作を残していたのではなかった。ドラッカーは、経営学でも社会学でも組織学でも歴史学でもない、“社会生態学”という独自の領域から人間の本質を問うていたのだ。横断的にあらゆる物事について自在に著述する、そんな捉えどころのないドラッカーが、己の領分(ディサプリン)をわきまえて日夜研究にはげむ学者には、さぞ異質に映ることだろう。
ドラッカーを評価する一流のビジネスマンたち
たとえ現代経営学の主流からドラッカーが逸脱していたとしても、ドラッカーが価値を失ったということにはならないだろう。なぜなら世界で活躍する多くの一流経営者たちが、ドラッカーから影響を受けているからだ。マイクロソフト、Google、P&G、イトーヨーカドー、ユニクロ、ヤマザキパン……名だたる経営者が、ドラッカーの言葉に勇気をもらい、重要な意思決定を下してきた。その事実に目を向けることは、現代経営学の研究とは別の意味で、注目に値する関心事である。
人の心を動かし、行動を起こさせ、成果をあげさせる。ドラッカーの著作が読まれ、語り継がれてきた理由は、まさにそこにある。
以下に引用するのは、わたしたちDラボの読書会に参加し、ドラッカーを実践してメガネ店をつくった、千里堂メガネの古川副社長の言葉である。
「ドラッカーを知らないのは本当にもったいないことだな」と素直に思っています。ドラッカーの教えを一言で表すなら、ビジネスに役立つ強力なツール。読んでいるときに“ビビッ”ときた項目を実践すれば、すぐに効果がでてくるんです。しかも、いつ読んでも新しい発見がある。その時々によって、置かれている状況や、悩んでいることは違いますから、読むたびに実践内容が更新されていくんです。
だから僕は、いつもドラッカーの本を持ち歩いて、時間さえあればページを開いていますよ。たとえば朝なんかにね。読むのは10~15分くらいでもいいんです。ザッと読んでみて、「あ、これいいな。やってみよう」と思ったら、すぐにやってみる。そして成果が出たら、周りの人やスタッフに共有してどんどん広めています。
いうなればドラッカーの本は、経営やビジネスに役立つ道具箱のようなものです。現在の状況や悩みを解消するツールを選んで使ってみるという感覚で、ぜひ拾い読み・ナナメ読みをしてほしいなと思います。
(参考:アウル税理士法人)
ドラッカーが今もなお注目される理由がわかるおすすめ記事3選
以下に紹介するのは、当サイトでも非常に人気のある記事3つだ。どれもドラッカーの本質・魅力をぎゅっと詰めた記事なので、ドラッカーの著作を一度も読んだことのない人には必見の内容となっている。
【要約】プロフェッショナルの条件を徹底的にわかりやすく解説
世の中は、ばりばり仕事ができるスーパーマンではなく、凡人のほうが圧倒的に多い。しかし凡人でも絶対に成果をあげることができる。時間を管理する習慣をはじめ、仕事に対するものの見方・考え方について説いた『プロフェッショナルの条件』のエッセンスを、各章ごとに要約して解説した記事だ。(➡【要約】プロフェッショナルの条件を徹底的にわかりやすく解説)
『経営者の条件』をコンパクトに要約
『経営者の条件』はドラッカー三大古典のひとつであり、日本でも読み継がれてきた傑作。翻訳者の上田氏が「現代の働く人たち全員のために書いた万人のための帝王学」と評しているように、本書は経営者だけでなく、幹部や役員はもちろん、一般従業員やアルバイトにまで適用できる内容となっている。そんな『経営者の条件』の全章を、1~2分で要点を理解できるくらいにコンパクトにまとめている。(➡『経営者の条件』をコンパクトに要約)
【要約】『非営利組織の経営』P.F.ドラッカー著 上田惇生訳 ダイヤモンド社
非営利組織の“バイブル”として評価される『非営利組織の経営』。非営利組織だからこそ、マーケティングを徹底せよと説くドラッカーに、目を見開かれた読者は数知れない。ミッション(使命)はお飾りではなく、行動できなければ意味がない。ミッションを実現するための行動指針が「戦略」である。多くの非営利組織が、実は顧客のことを理解できていない。理解したつもりになっているだけ。つまりマーケティングが圧倒的に足りていない。このドラッカーの言葉にハッとしたなら、絶対に手に取るべき一冊だ。当記事は、そんな『非営利組織の経営』をコンパクトに要約している。(➡【要約】『非営利組織の経営』P.F.ドラッカー著 上田惇生訳 ダイヤモンド社)
ドラッカーの入門におすすめの解説書ベスト3選
もともとドラッカーはアカデミックな人物でもあったから、オリジナルの翻訳版を読もうとすると、その難解さに面を喰らってしまう人もいる。オリジナルのドラッカーを理解するには、時代や歴史に関する知識が必要となる。
ドラッカーに少しでも興味をもった方に筆者がおすすめしたいのは、“ドラッカーの入門書”からのスタートである。以下に、多くの“読書嫌い”たちを魅了してきた鉄板の入門書を紹介する。
①入門書の決定版!ドラッカー実践で成功した18の会社事例を徹底解説
著者は、ドラッカー学会の理事をつとめ、ドラッカーの読書会を主催する佐藤 等 氏(公認会計士・税理士)。本書はドラッカーを実践して事業が好転した日本の中小企業の実例を解説したものである。ドラッカーのどんな言葉を使い、どのような成果をあげたのかを詳しく解説しているため、入門者がドラッカーを役立てるハウツー本にもなっている。はじめてドラッカーに触れる方には、間違いなく必読の書だ。
②成果をあげる思考習慣を身につけよ!読めば経営者も社員も一流になる実践書の金字塔
成果をあげたい人が絶対に手に取るべき一冊。『実践するドラッカー』(通称:実ドラ)シリーズはドラッカー解説書のなかでも非常に人気が高く、なかにはドラッカーの考え方をベースに店舗をつくった人までいる。本書の『思考編』は経営者・役員・管理職・一般従業員まで幅広く役立つ実践書だ。ぱらぱらとめくるだけでも、驚くべき発見がある。写真のように、ボロボロになるまで何度でも読み返す価値がある。常に手元に置いておきたい一冊。
③たった150ページの本が経営者の価値観を根底から覆す!?あなたはドラッカーの問いに答え切る自信はあるか?
「われわれのミッションは何か?」「われわれの顧客は誰か?」「顧客にとっての価値は何か?」「われわれにとっての成果は何か?」「われわれの計画は何か?」
『経営者に贈る5つの質問』は、日本語版にしてわずか150ページあまりの小冊である。しかしドラッカーが突きつけるのは、組織の存在意義を見つめなおす深遠な問いであり、ときには痛みを伴う自己評価プロセスである。
なぜ、ドラッカーの5つの質問が重要なのか。究極的には次の理由が挙げられる。
ここにおいて最大の危機は、実際に顧客を満足させるもののためではなく、顧客を満足させると思い込んだもののために働くことである。すなわち、間違った前提のもとに働くことである。
(本書p. 21より)
5つの質問は、経営者が本当に顧客が求めているものを理解し、事業が果たすべき使命(ミッション)に確信が持てるようになることで、地に足のついた事業を運営できるようになるための“サバイバルマニュアル”といえるだろう。
事業を見つめなおしたい方、これから新しい事業を考えている方、事業の将来に不安のある方は、ぜひ手に取り、真剣にドラッカーの問いと向き合ってみてほしい。
ドラッカーを学ぶなら勉強会に参加したほうがいい理由
結論をいうと、ドラッカーを学ぶなら独学よりも誰かと学びあうのが効果的である。お互いに問題意識を共有し合い、実践の成果をフィードバックできるからである。
「読書家の罠」に陥らないようにしよう
ドラッカーはただ読むだけでは意味がない。実践して成果を出してこそ、ようやく意味を持つ。本をよく読む人、すなわちビジネス書を何百・何千も読み漁る読書家が、もっとも気を付けなければならないのは、ドラッカーを読んだだけで理解した気になってしまうことである。
ドラッカーの実践は他者からのフィードバックでより成果がでる
ドラッカー学会理事の佐藤氏は「ドラッカー教授が残した文章の中から、今の自分に最も必要なワンフレーズを見つけ出し、その一言を徹底的に実践する」ことを推奨している。
とはいえ、実際にドラッカーを実践するとなると、心細くなる人も多いはずだ。「そもそも自分の理解の仕方って合っているのかな?」「このドラッカーの言葉を自分の仕事で実践するなら、具体的にどうしたらいいのだろう?」と。
ドラッカーの実践で成果をあげるなら、第三者からのフィードバックが効果的である。しかも相手がドラッカーを知っているなら、なおよい。ドラッカーを実践し、その後、どうなったかを第三者にアウトプットすることで、成果に対する意識が鮮明になり、自分の現在地を俯瞰できるようになる。
ドラッカーの読書会は全国に学び仲間がいる
この記事を書いているわたしたちDラボは、ドラッカー学会理事の佐藤等が立ち上げたドラッカーの読書会を運営している。ドラッカーの読書会は、経営者だけでなく、マネジャーや新人までが、互いの興味・関心・視点での違いを意識しつつ、成果をあげるためのマネジメントを学び合う場だ。
実際にわたしたちは、この読書会を通じてイノベーションを起こした経営者をたくさんみてきた。ドラッカーのものの見方・考え方に目を開かれた経営者が、事業で実践して成功を収めたのだ。そのなかには、製品開発や新規市場開拓といったイノベーションの事例もある。
経営に活かした事例ドラッカーの読書会は、「誰にでもイノベーションを起こすチャンスがある」ことを、経営者と従業員が共に学び、共に実践し、互いに成果を共有する場だといえるだろう。
もしあなたがイノベーションに興味があるなら、ぜひ一度、社員と一緒にドラッカーの読書会に来てほしい。無料体験も実施中だ。読書会はオンラインで開催しているため、全国の経営者やビジネスマンとつながれる貴重な機会にもなるだろう。
はじめて読むドラッカー読書会ドラッカーの魅力がわかる名言集
GoogleやP&Gの経営者の心を動かしてきたドラッカーの言葉を厳選して引用紹介しよう。「ドラッカーってこんなことを考えていたのか」ということを知れるだろう。
マネジメント
個人の価値と願望を組織のエネルギーと成果に転換させることこそ、マネジメントの仕事である
(ドラッカー『マネジメント』)
あらゆるマネジメント上の間違いは、人としてのマネジメントによるものである。人としてのマネジメントのビジョン、献身、真摯さが、マネジメントの成否を決める
(ドラッカー『マネジメント』)
マネジメントは、常に現在と未来、短期と長期を見ていかなければならない。組織の存続と健全さを犠牲にして、目先の利益を手にすることに価値はない。逆に、壮大な未来を手に入れようとして危機を招くことは、無責任である
(ドラッカー『マネジメント』)
マネジメントとは、人を「成果」をあげる存在に成長させる仕組みである。カリスマやスーパーマンに頼る組織は破滅が待っている。マネジメントは、“ただの凡人”でも着実に成果をあげれるようにするためのものの見方・考え方である。
イノベーション
イノベーションとは、人的資源や物的資源に対し、より大きな富を生み出す新しい能力をもたらすことである
(ドラッカー『マネジメント』)
既存の事業がイノベーションと企業家精神の障害となる。問題はまさに過去および現在の事業の成功にある
(ドラッカー『イノベーションと企業家精神』)
イノベーションと聞くと多くの人が「技術革新」を思い浮かべるだろう。しかしドラッカーは、より抽象的で核心的な視点からイノベーションを定義する。突き詰めると、イノベーションとは「仕組み」の発明に他ならない。現代の経済・社会の構造に適応した新たな価値創造の仕組みこそ、事業にとって真のイノベーションを意味する。
イノベーションを妨げる最大の要因が、“過去の成功体験”である。古今東西、多くの企業が過去の成功に執着し、あたかも自分たちが“絶対的な原理”を発見したかのようにふるまってしまった。その結果待っているのは、自らの破滅であった。
では「過去の囚人」にならないようにするにはどうすればいいのか? それは、常に現在の自分たちを問い続けることである。自分たちの事業が、あくまでも過去の成功から補助線を引いたものでしかないということを、戒めなければならない。
リーダーシップ
カリスマ性はリーダーを破滅させる
(『プロフェッショナルの条件』)
真のリーダーは、他の誰でもなく、自らが最終的に責任を負うべきことを知っているがゆえに、部下を恐れない。ところが、似非リーダーは部下を恐れる。部下の追放に走る。優れたリーダーは、強力な部下を求める。部下を激励し、前進させ、誇りとする。部下の失敗に最終的な責任をもつがゆえに、部下の成功を脅威とせず、むしろ自らの成功と捉える
(ドラッカー『プロフェッショナルの条件』)
古今東西、人々は「リーダーシップ」に関心を持ってきた。ドラッカーならどう答えるか。実は、とくに目新しいことを言っていない。斬新な切り口でリーダーについて論じてはいない。道徳や誠実さ(真摯さ)に裏付けがある人物には、自然と人がついてくる――そう言われると、誰もが「その通りだ」と思うだろう。それでいいのである。
ここで重要なのは、リーダーシップを支えているのが「貢献の意識」「ビジョン」「一貫性」だということである。組織が何のために存在し、何のために事業を行っているのか。そのことを理解していれば、リーダーシップはおのずと生まれる。
モチベーション
成長は、常に自己啓発によって行われる。企業が人の成長を請け負うなどということは法螺(ほら)にすぎない。成長は一人ひとりの人間のものであり、その能力と努力に関わるものである
(ドラッカー『マネジメント』)
組織は、優秀な人たちがいるから成果をあげるのではない。組織の水準や習慣や気風によって自己開発を動機づけるから、優秀な人たちをもつことになる
(ドラッカー『経営者の条件』)
人のモチベーションを上げるために絶対にやってはいけないこと。それは「お金でやる気を引き出す」である。人は金銭的動機では決して真のモチベーションを得ることはできない。仮にモチベーションが上がっているように見えたとしても、それは見せかけである。カネでしか仕事ができない者は、「貢献」を一切考えない。「組織のために」「顧客のために」「世のために」といった視座の高い目線で仕事をしないため、「知識」を悪用する。つまり不正をはたらく。
カネで人は動かないし、動かせない。真に優秀な人材がほしいなら、まずはこの現実を直視しなければならない。
ではどうすればどうすればスタッフのモチベーションを上げることができるのか。それは事業の目的・使命を共有することである。何のためにこの仕事をやっているのか。その仕事によって、誰をどんなふうに幸せにしているのか。組織が果たすべき「貢献」に焦点を合わせれば、おのずとスタッフの目線があがり、自然とクリエイティブな仕事になっていくだろう。
事業
ほとんど常に、事業の目的とミッションを検討していないことが失敗と挫折の最大の原因である
(ドラッカー『マネジメント』)
事業を決めるものは世の中への貢献である。貢献以外のものは成果ではない
事業を決めるものは世の中への貢献である。貢献以外のものは成果ではない
「われわれの事業は何か」を真剣に問うべきは、むしろ成功しているときである。(中略)成功は常に、その成功をもたらした行動を陳腐化する。新しい現実をつくり出す。新しい問題をつくり出す。「そうして幸せに暮らしました」で終わるのは、お伽噺だけである。
(ドラッカー『マネジメント』)
ドラッカーはいった、「企業は事業に優れているだけでは、その存在を正当化されない。社会の存在として優れていなければならない」と。
企業とは社会という巨大なコミュニティの一部である。企業が存在を許されているのは、企業が生み出す商品・サービスが、社会を豊かにするためである。逆にいえば、社会に害をなす企業に価値はない。
ここできわめて重要なのは、“企業は価値を生み出し続ける限りにおいて存在を許されている”という慎慮ある考え方である。企業は、社会とは無関係に存在する自由気ままな存在ではない。あくまでも社会の一部であり、しかも、社会の貴重な資源を使って事業を営んでいる。したがって、社会貢献をするのは自然の道理なのである。ドラッカーが何度も繰り返し「成果は(組織の)外にある」と強調する理由がここにある。
成果と貢献
貢献に焦点を合わせるということは、責任をもって成果をあげるということである。貢献に焦点を合わせることなくしては、やがて自らをごまかし、組織を壊し、ともに働く人たちを欺(あざむ)くことになる
(ドラッカー『プロフェッショナルの条件』)
成果をあげるためには、貢献に焦点を合わせなければならない。手元の仕事から顔をあげ、目標に目を向けなければならない。「組織の成果に影響を与える貢献は何か」を自らに問わなければならない。すなわち、自らの責任を中心に据えなければならない
(ドラッカー『プロフェッショナルの条件』)
頭のよい者が、しばしば、あきれるほど成果をあげられない。彼らは、知的な能力がそのまま成果に結びつくわけではないことを知らない。逆にあらゆる組織に、成果をあげる地道な人たちがいる。しばしば創造性と混同される熱気と繁忙の中で、ほかの者が駆け回っている間に、亀のように一歩一歩進み、先に目標に達する
(ドラッカー『プロフェッショナルの条件』)
最高のチームづくりは、「成果」と「貢献」に対する意識の共有から始まる。カリスマリーダーもスーパーマンも必要ない。学歴すら無意味な肩書に過ぎない。人類の大半は“凡人”であるとドラッカーはいう。しかしそれでいいのである。大切なのは、“凡人”一人ひとりが己の強みを生かし、互いの弱みを打ち消し合う人間関係を築くことである。
まずは自分たちの事業の目的・使命が、働く人たちの価値観と一致するかどうかを見極めなければならない。「組織において成果をあげるためには、働く者の価値観が組織の価値観になじまなければならない」とドラッカーはいう。もしも組織の掲げる「貢献」に、相手が納得しない(合わない)のであれば、たとえ優れた才能を持っていたとしても、去ってもらうべきである。それほどまでに徹底しなければ、真の成果をあげるチームに育てることはできない。
真摯さ
真摯さの定義は難しい。だが、マネジャーとして失格すべき真摯さの欠如を定義することは難しくない
(ドラッカー『マネジメント(エッセンシャル版)』
商人とその顧客、自由業者とその顧客の間に必要とされているものは、仕事上の真摯さにすぎない。しかし経営管理者であるということは、親であり教師であるということに近い。そのような場合、仕事上の真摯さだけでは十分ではない。人間としての真摯さこそ、決定的に重要である
(ドラッカー『現代の経営』)
稲盛 和夫 氏は「“人間として何が正しい”で判断する」ことの重要性を説いた。ドラッカーのいう「真摯さ」の意味・本質を理解するうえで、非常に大きなヒントになるだろう。
ではドラッカーのいう「マネジャーとして失格すべき真摯さの欠如」とは何だろうか。それは次のように整理される。
- 強みではなく弱みに目を向ける
- 何が正しいかよりも、誰が正しいかに関心をもつ
- 誠実さよりも頭の良さを重視する
- 部下を脅威に感じる
- 自らに高い基準を設定しない
- 評論ばかりで実践しない
ここでさらに重要なのは、ドラッカーが真摯さは後天的に獲得できないと考えた点である。つまり真摯さは、その人がはじめから持っている天分であるとドラッカーは考えたのだ。意見の分かれるところではあるが、数多の大企業のコンサルティングを行ってきたドラッカーが達したこの結論を、重く受け取るべきなのかもしれない。
顧客
顧客や市場について、企業が知っていると考えていることは、正しいことよりも間違っていることのほうが多い。顧客と市場を知っているのはただ一人、顧客本人である。
(ドラッカー『創造する経営者』)
顧客が買うものは製品ではない。欲求の充足である。顧客が買うものは価値である。これに対し、メーカーが生産するものは価値ではない。製品を生産し販売するにすぎない。したがって、メーカーが価値と考えるものが、顧客にとっては意味のない無駄であることが珍しくない。
(ドラッカー『マネジメント』)
「われわれは何を売りたいか」ではなく、「顧客は何を買いたいか」を考える。「われわれの製品やサービスにできることはこれである」ではなく、「顧客が見つけようとし、価値ありとし、必要としている満足はこれである」
(ドラッカー『マネジメント』)
多くの人が、自分の売りたいものからスタートする。「これに価値がある」と思ったものを売ろうとする。だが、それは誤りである。売り手志向の発想では、いつまでも的外れな商品やサービスを供給し続けることになる。
顧客は合理的な存在だとドラッカーはいう。一見不条理な消費行動に見えるかもしれないが、顧客は価値のあるものをちゃんと選んでいる。顧客は自分の欲求を満たす商品・サービスでなければお金を支払わない。
であるなら、企業は顧客が“なぜそれを選んだのか”あるいは”選ばなかったのか”について深く考えなければならない。そこではじめて、「顧客の現実の世界」を知り、真に価値のある商品・サービスを供給できるようになる。先立つものは顧客である。顧客の欲求充足のために事業がある。
知識労働者
今や正規の教育によって得られる知識が、個人の、そして経済活動の中心的な資源である。今日では、知識だけが意味ある資源である。
(ドラッカー『プロフェッショナルの条件』)
現代の組織は、知識労働者による組織である。したがって、それは同等の者、同僚、僚友による組織である。いかなる知識も、他の上位に来ることはない。知識の位置づけは、それぞれの知識に固有の優位性や劣位性によってではなく、共通の任務に対する貢献度によって規定される。現代の組織は上司と部下の組織ではない。それはチームである。
(ドラッカー『プロフェッショナルの条件』)
産業革命から第二次世界大戦までは、いうなれば「肉体労働」の時代だった。熟練度や効率的な働き方が、生産性に直結するのだ。たとえば「1時間あたりに積み荷を運ぶ数」は、目に見えてわかりやすい。目の前にあるタスクをこなすことに専心していれば、おのずと結果があらわれてくる世界である。
ところが第二次世界大戦後に到来したのは、知識と知識を組み合わせた商品やサービスが市場を席巻する時代だった。知識の生産性は、肉体労働とは違って具体的な数値が測りにくい。だが知識がもたらす成果は肉体という物理的制約を超えて無限の可能性に満ちている。だからこそ知識を使った仕事では、常に「成果」に焦点を合わせなければならない。ドラッカーはそう考えた。
成果とはつまり、顧客を満足させることである。顧客を満足させる努力には終わりがない。なぜなら社会構造や価値観の変化によって、顧客が欲している満足が変わるからだ。だから、顧客満足という成果に向かって絶えず前進し続けなければならない。そのために知識を使い、勇気を持って意思決定しなければならないのだ。
成果を上げるためにはどうすればいいのかを考える者は、等しく「知識労働者」である。成果に責任を持ち、意思決定を下す勇気を持つ者は、みな知識労働者である。すなわち知識労働者とは、経営者・役員・従業員・アルバイトのことである。
ミッション
重要なのはカリスマ性ではない。ミッションである。したがってリーダーが初めに行うべきは、自らの組織のミッションを考え抜き、定義することである。
(ドラッカー『非営利組織の経営』)
ミッションからスタートしなければいかなる成果もあげられない。ミッションが、あげるべき成果を規定する。
(ドラッカー『非営利組織の経営』)
知識労働社会において、グローバル化や情報通信技術の発達は、知識の共有・並列化が加速度的に上昇することを意味する。2000年代よりも前の世界は、まだ速度は緩やかだったかもしれない。
だが「一人一台パソコンを持つ」「中高生でもスマホを持つ」のが当たり前になった現代においては、もはや知識やアイデアを独占することが極めて難しいといえるだろう。誰もが簡単に情報にアクセスできる。つまり、誰もが学び・模倣できる。「誰も思いつかなかったアイデア」を武器にビジネスを行うことは、もはや不可能といっても過言ではない。
アイデアは単なる機会・手段である。現代においては、「アイデアは模倣されるもの」という前提で、“組織の指針”を携えていくことができなければ、組織は生き残れない。では組織が携えるべき指針とは何か。それがドラッカーのいう「ミッション」である。
ミッションとは、組織の存在意義のことである。すなわち使命・目的である。「何のために事業を行っているのか」という究極的な理由のことだ。よくあるお飾りの“企業理念”とは明確に異なる。「もしミッションから逸脱した事業を行うのなら解散する」くらいの重い意味を持つ。
ドラッカーの代表的な著作
ドラッカーの代表的な著作を知りたい方のために、概要をまじえながら年代順に紹介する。年代ごとに整理していくと、あらためて「この時代にすでにこんな考えを持っていたのか!」というドラッカーの凄さがわかる。これを読めば、きっとあなたも何かしら思うところがあるはずだ。
『「経済人」の終わり――全体主義はなぜ生まれたか』(1939年)
ドラッカーが29歳のときに書いた処女作。新聞記者時代にヒトラーに何度もインタビューを繰り返したドラッカーは、どうして人々が“ファシズム(全体主義)”に至るのかを鋭い視点で洞察した。「ブルジョワ資本主義」と「マルクス主義」という巨大なイデオロギーが渦巻く第一次世界大戦後の不穏な時代に書かれた不朽の名作。当時の英首相ウィンストン・チャーチルはこの本を絶賛し、イギリス軍の士官全員にプレゼントしたという。
イデオロギーは争いや戦争を生む。イデオロギーに世界を救う力はない。では、世界に価値をもたらし、人々の幸福に貢献する存在は何なのか。ドラッカーは「企業」に希望を見出した。それが、マネジメント研究のすべてのはじまりだった。金儲け第一の資本主義すら害悪として批判するドラッカーは、「社会貢献」を志向する企業に未来を託した。
『産業人の未来――改革の原理としての保守主義』(1941年)
第二次世界大戦のただ中で、すでにドラッカーはファシズムの敗北を確信し、戦後世界のあるべき姿を克明に描いた。第二次世界大戦後の世界は、もはや19世紀や20世紀初頭の価値観は通用しない。これまでとはまったく異なった世界が訪れるとドラッカーは断言する。それが「産業社会」だった。
産業社会とは、数え切れないほどの企業が、数え切れないほどのイノベーションを起こし、社会を担っていく世界のことである。世界の中心は、人々を特定の価値観に押し込めるイデオロギーではない。もちろん独裁者でもない。世界を担うのは、商品やサービスで「価値」を提供する「企業」なのだ。
『産業人の未来』は、古代ギリシャ思想からフランス革命以降の近代思想を紐解きながら、「伝統的保守主義」を起点に社会改革をする必要性を説いた、“ドラッカー社会学”の原点である。のちに本書を読んだゼネラル・モーターズ(GM)の副社長がドラッカーを招へいし、組織の調査研究を依頼した。
企業は一体どんな存在なのか? ドラッカーにとって「企業」の存在意義はたった一つだった。すなわち企業とは、「社会貢献をするための機関」である。ドラッカーは「企業は金儲けをするのが目的」「企業は利益を追求するべきである」といったブルジョワ資本主義的な価値観を「害悪」と痛烈に批判する。企業の成果は“カネ”ではなく、社会(≒顧客)への“貢献”なのである。
『企業とは何か――その社会的な使命』(1946)
“ドラッカー三部作”の三作目。ゼネラル・モーターズ(GM)での一年半にわたる研究が結実した『企業とは何か』は、ドラッカーの名を世界中に知らしめることになった記念碑的な一冊である。
この本が出版された1946年は、まだ世界が戦争の傷跡で疲弊していた時代である。多くの人々が、終戦直後の混乱から抜け出せず、光を目指してもがいていた。しかしドラッカーは、すでに100年先の時代を見ていた。有象無象の企業がひしめく戦後動乱期の時代に、すでにドラッカーは「企業の社会的責任」について論じたのだ。フォード社とゼネラル・エレクトリック社(GE)は、本書を組織改革の教科書として絶賛した。
①組織は目的を果たす道具である②企業は社会に属する組織である③したがって企業は「社会貢献」という目的を果たすことで存在意義を与えられる……この“三段論法”は、ドラッカーの思想の核心である。企業とは何か? ドラッカーの三段論法が導き出す結論は、2005年に没するまで何一つ変わりはしなかった。企業とは「社会貢献するための社会的機関」である。
『現代の経営』(1954年)
ドラッカーが本格的に「マネジメント」の意義と実践について論じた重要な著作。のちの大作『マネジメント』の“前日譚”とも言うべき内容となっている。
戦後世界の主役は企業である。したがって、企業が社会的機関として機能するには、組織を有効にマネジメントして「成果を上げる仕組み」を生み出していくしかない――ドラッカーはマーケティングとイノベーションの本質を浮彫にし、企業の目的はずばり「顧客の創造」であると明言した。世界中の経営者がこぞって読み競い、ドラッカーが“マネジメントの父”としての確固たる地位を築いた一冊。
成果を上げなければ企業は存在する意味がない。ただいたずらに、社会の資源を食い潰すだけである。だから企業は、成果を上げるための仕組みを持たなければならない。
成果を上げるシステムのことをドラッカーは「マネジメント」と呼んだ。マネジメントは決して、経営者や役員や管理職が、看守のように部下を管理監督する手法ではない。ドラッカーにとってマネジメントとは、「人類の生活を向上させられるとの信念、経済の発展が福祉と正義を実現するための強力な原動力になりうるとの信念の具現」なのだ。
『変貌する産業社会』(1957年)
この世の出来事を、機械の部品を分解するように切り分け、組み直し、再構築して理解する。そんな時代がかつて存在した。それがいわゆる「近代合理主義(モダン)」の時代である。17世紀のルネ・デカルトの機械論的自然観に始まり、18世紀の啓蒙思想運動を経て、自然科学の成功を収めた近代合理主義は、19世紀に絶頂を迎えた。合理主義にあらずんば人にあらず――この考えは、アカデミズムだけでなく、市井の人々にまで広く及び、第二次世界大戦前まで常識として根付いていた。歴史学ですら、合理主義のドグマに座を譲るしかなかった。それは、エビデンス至上主義の不毛な時代であった。
この世の出来事は、すべて理屈で説明できる。定量的なデータで説明できないことは、意味がない――しかし、本当だろうか? このときドラッカーは、すでに現代社会が、事象XとYの相関関係で説明不可能な世界になっていると考えていた。つまり時代は、有機的な世界観へ転換しているのだ。
本書は、1980年代頃に世界を席巻する「ポストモダン」ブームの先駆である。1957年の著作とは思えぬ鮮烈さは、彼が「現代社会最高の哲人」と称されるゆえんである。
ドラッカーはしばしば「20世紀に身を置きながら21世紀を支配する思想家」と評される。だが彼は予言者ではない。ドラッカーは“すでにわかったこと”、“すでに起こったこと”をもとに世の中を観察しているだけである。「すでに起こった未来を使え」。ドラッカーは独特のレトリックでそう助言する。「必然の進歩」などありはしない。未来のことなど誰にもわからない。だが、“すでに起こった”ことをつぶさに観察すれば、これから起こる未来に補助線を引くことはできるのだ。
『経営者の条件』(1966年)
とある書評で「組織の罠から逃れるうえで不可欠なサバイバル・マニュアル」と評された本書は、ドラッカーを実践的に生かすためのエッセンスが凝集されている。
本書の対象は、知識を使って仕事をする「知識労働者」である。つまりそれは、現代人すべてが対象であることを意味する。したがって、経営者はもちろんのこと、役員や管理職、一般の従業員が読むべき内容となっている。
組織にスーパーマンは必要ないとドラッカーは考える。事実、世の中の大半が凡人である。大切なのは、凡人が成果をあげる人材へと成長していくことである。「成果をあげる能力は修得できる」とドラッカーはいう。これを読めば、自分自身をマネジメントする方法を身につけることができるだろう。ちなみに当サイトでは『経営者の条件』をコンパクトに要約して解説した記事があるので、エッセンスを掴んで購入するか検討したい方は、ぜひご一読いただきたい。
成果をあげる者は「時間の管理」からスタートする。実は多くの人が、自分のために使う時間がないことを自覚していない。まずは自分がどんな時間の使い方をしているのかを診断する必要がある。『経営者の条件』を読めば、「時間」という限られた貴重な資源の重要性に気付き、真に有効な時間の使い方に目覚めることだろう。
『断絶の時代――いま起こっていることの本質』(1969年)
これまでの歴史は、一応は産業革命時代から続く「継続の時代」だった。だが今後は明らかに違った様相を示すだろう。なぜなら、これから「新技術の登場」「グローバル経済」「多元化する社会・政治」「知識が主軸となる経済」といった新しい波が訪れるからだ。
1969年の時点で、すでに50年先の未来像を鮮明に描いたドラッカーの慧眼には脱帽せざるを得まい。本書でとくに目を引くのは、現代(1969年時点)の重要産業のほとんどが陳腐化し、代わりに「知識」という無形の資源が経済社会を支えていくという洞察である。これがいわゆる「ポスト資本主義社会」すなわち「知識社会」のことである。
のちに『断絶の時代』に感銘を受けた英首相マーガレット・サッチャーは、民営化改革を決断したという。
これからの時代は、「知識」が社会の資源となる。知識を生かして価値を創造する企業が生き残っていくだろう。その意味で、もはや土地や資本は、二次的なものになった――ドラッカーはそう考える。ドラッカーが「知識社会」の到来を確信し、その時代に備えるべき方法論が、大作『マネジメント』として結実することになる。
『マネジメント――課題、責任、実践』(1973年)
“ドラッカー・オブ・ドラッカー”ともいうべき原著800ページの超大作。「マネジメントの発明者」と称されたドラッカーが、マネジメント論のすべてを詰め込んだ珠玉の一冊である。処女作『経済人の終わり』から『経営者の条件』に書かれているエッセンスが濃縮されている。
どうして多くの組織は失敗するのか。なぜあれだけ成功していたように思えた企業が没落していくのか。すべての間違いを正すには、「企業とは何か」という問いから始めなければならない。『マネジメント』は、「企業」「マーケティング」「イノベーション」「成果」「顧客」という誰でも知っているはずの言葉の意味を根底から再定義し、真に価値ある組織づくりの原理原則を教えてくれる。
「顧客にとっての価値は何か」。あなたはこの問いに答えられるだろうか。売り手が価値と考えるものが、顧客にとっては意味のないものであることは、けっして少なくない。もしこの問いに少しでも引っかかりを感じるのであれば、『マネジメント』はぜひとも読んでみるべきである。
人こそ資産である。人が自分の強みを生かし、誰かの弱みを弱みでなくする組織をつくりあげなければならない。「発展とは資力ではなく人間力の問題である」とドラッカーはいった。生き方も考え方も違う人々と手を取り合い、「貢献」というたった一つの成果に向かって組織を動かすには、どうすればいいのか。そのためのものの見方・考え方が「マネジメント」なのである。
他にもまだあるドラッカーの著作
- 『創造する経営者』(1964年)
- 『見えざる革命』(1976年)
- 『傍観者の時代』(1979年)
- 『乱気流時代の経営』(1980年)
- 『イノベーションと企業家精神』(1985年)
- 『マネジメント・フロンティア』(1986年)
- 『新しい現実――政府と政治、経済とビジネス、社会および世界観にいま何がおこっているか』(1989年)
- 『非営利組織の経営――原理と実践』(1990年)
- 『未来企業』(1992年)
- 『すでに起こった未来――変化を読む眼』(1993年)
- 『ポスト資本主義社会――21世紀の組織と人間はどう変わるか』(1993年)
- 『未来への決断』(1995年)
- 『ドラッカー365の金言』(1996年)
- 『明日を支配するもの――21世紀のマネジメント革命』(1999年)
- 『はじめて読むドラッカー[自己実現編]『プロフェッショナルの条件――いかに成果をあげ、成長するか』』(2000年)
- 『はじめて読むドラッカー[マネジメント編]『チェンジリーダーの条件――みずから変化をつくりだせ!』(2000年)
- 『はじめて読むドラッカー[社会編]『イノベーターの条件――社会の絆をいかに創造するか』(2000年)
- 『ネクストソサエティ――歴史が見たことのない未来がはじまる』(2002年)
ドラッカーの生涯
最後に、ドラッカーがどのような人生を送ったのかを紹介しよう。
1909年 | オーストリア=ハンガリー帝国の首都ウィーンに生まれる。 |
---|---|
1927年 | ハンブルグ大学法学部入学。二年後にフランクフルト大学法学部へ編入。 |
1930年 | 『フランクフルター・ゲネラル・アンツァイガー』の経済記者となる。 |
1931年 | 論文『準政府〈反乱者、亡命政府、独立近くの植民地〉の国際法上の地位』で博士号取得。 |
1933年 | 初の著作『フリードリヒ・ユリウス・シュタール論――保守主義とその歴史的展開』を刊行したが、ナチスにより禁書扱いに。同年、ドイツを脱出してロンドンに。ロンドンでは大学時代に知り合ったドリスと奇跡のような再会を果たす。のちに妻となる。 |
1934年 | イギリスの有名証券会社マーチャントバンクにて、アナリスト兼パートナー補佐役として就職。 |
1937~8年 | 『フィナンシャル・タイムズ』『ワシントン・ポスト』にて寄稿を行う。 |
1939年 | 後年語り継がれる名著『「経済人」の終わり』(The end of economicman)が刊行。英首相ウィンストン・チャーチルが『タイムズ』紙の書評で絶賛。 |
1940年 | 『フォーチュン誌』の編集に携わる。 |
1942年 | バーモント州のベニントン大学に教授として就任。政治・経済・哲学を担当する。同年、『産業人の未来』を刊行。 |
1943年 | ゼネラル・モーターズ(GM)に招へいされ、組織マネジメントの調査を開始。 |
1946年 | ゼネラル・モーターズ(GM)の調査をもとに、『企業とは何か』を刊行。フォード社やゼネラルエレクトリック社(GE)が組織改革の教科書として絶賛する。世界中で「組織改革ブーム」が起こる。 |
1947年 | ヨーロッパへの復興支援計画「マーシャル・プラン」を指導。 |
1949年 | ニューヨーク大学教授に就任。同大学院に「マネジメント研究科」を創設。 |
1953年 | この頃からソニーやトヨタと関わりをもつようになる。 |
1954年 | 『現代の経営』刊行。この頃から“マネジメントの父”と呼ばれるようになる。 |
1959年 | セミナーのために初訪日。多くの日本人経営者との交流が芽生える。 |
1966年 | 日本の産業経営の近代化および日米親善への貢献により、勲三等瑞宝章を授与される。 |
1969年 | 世界中でベストセラーとなった『断絶の時代』刊行。民営化ブームはじまる。 |
1973年 | 日本でも長く読み継がれるようになった大著『マネジメント』刊行。 |
1975年 | 『ウォールストリート・ジャーナル』への寄稿はじまる。以降、20年にわたって経済や経営について評した。 |
1981年 | ドラッカーの大ファンだったGE(ゼネラル・エレクトリック)社のジャック・ウェルチがコンサルを依頼。「一位二位戦略」が生まれる。 |
1985年 | 『イノベーションと企業家精神』を刊行。世界ではじめてイノベーションを体系的に論じた。 |
1990年 | NPO関係者のバイブル『非営利組織の経営』を刊行。 |
1999年 | 20世紀最後の著作『明日を支配するもの』刊行。 |
2002年 | ・実質的に生涯最後の著作となる『ネクスト・ソサエティ』刊行。・大統領よりアメリカ合衆国最高の民間人勲章「自由のメダル」を授与される。ちなみに自由のメダルは、ウォーレン・バフェット、ビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブズも授与している。 |
2005年 | ・11月11日、アメリカのクレアモント州の自宅で永眠。・11月19日、日本にドラッカー学会が設立。 |
さいごに
けっきょく、ドラッカーを特定の肩書で表現することは難しい。ドラッカーは政治学者、社会学者、未来学者、はたまた小説家としての側面も持ち合わせている。経営学者としてのドラッカーを強調することもできるが、その横断的な思索過程は、現代経営学の枠にも収まりきらない。
何十年にもわたってドラッカーを翻訳してきた上田 惇生 氏は「まさに単一的な肩書を拒否することが、ドラッカーの本質」といった。
ただひとついえるのは、世界中の企業家や政治家に多大な影響を与えたということである。しかし考えてみれば、“企業家や政治家に影響を与えた”という事実に勝る以上の何かは、そうないように思える。
このとき、“ドラッカーはなぜそこまでの影響力を持ったのか”という疑問が湧き上がってくるのは自然の成り行きである。今回の記事を通じて、あなたがまさにそう思ったのなら、遅かれ早かれ、あなたはドラッカーのことをもっと知りたくて、居ても立っても居られないなくなることを保証しよう。なぜなら筆者がその一人だったからである。
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