マネジメント教育の場としての読書会-100年続けるため次の世代にバトンタッチ―創設者佐藤等さんにきく


佐藤等さん

佐藤等公認会計士事務所 所長

ドラッカー学会理事

公認会計士 佐藤等(さとう・ひとし)さん

 

1961(昭和36)年、函館市生まれ。小樽商科大卒業後、1990年、会計士事務所を開設。2002年、同大学大学院修士課程修了。編著に『実践するドラッカー』シリーズなど。

 

 

16年間やりつづけた読書会を廃棄

 

―ドラッカー読書会の創始者が会を廃棄する?

佐藤 2019年6月の東京八重洲で開催された「読書会」を最後に、わたしがファシリテートするドラッカーの読書会を廃棄することにしました。16年間やってきました。最終的には800回以上になりました。「おしえる人が最もよく学ぶ」というドラッカーのことばがありますが、一番勉強になったのはわたし自身かと思います。この間、ドラッカーの日本語に訳されている本はすべて読んでみました。『経営者の条件』などは、もう数え切れないくらい読みましたね。

 

―読書会というものを知ったのは?

佐藤 わたしが39歳の時、何か自分に欠けているものがあると感じ母校の大学院に通いました。実は、その数年前に仕事で大きな失敗をしたのです。大学院では、指導教官が読書会という方法を教えてくれました。週に1冊ずつ本を読んでレポートを出すというトレーニング。たまたま指導官が最初に課題本に指定したのが、ドラッカーの『経営者の条件』だったのです。この読書会という方法がすばらしいなあと思い、大学院を修了した後、自分でも始めたいと思っていました。本業は会計事務所をやっているので、顧問先らの経営者に伝えたいと強く想ったのです。(実践するマネジメント読書会🄬誕生秘話1

 

―はじめるきっかけは?

佐藤 わたしも役員をつとめる(株)ヒューマン・キャピタル・マネジメント(HCM)が主催する講演会の講師として、ドラッカー本の翻訳者である上田惇生先生に札幌に来ていただくことになりました。この時の懇親会で「ドラッカーファンのことを、ドラッカリアンと言うんだよ」ということを聞きました。そこで、「ドラッカリアンの会を立ち上げましょう!」ということになりました。わたしが会員番号1号になると自ら宣言して、各自、好きな番号を名乗りました。それ以来実は、会員は増えていないのですが(笑)。大学院の読書会でドラッカーに出会い、懇親会の盛り上がりで会をつくった。継続して何かやりたいよねということで、そのコンテンツが「ドラッカー読書会」だったんです。

 

―第1回目はどんな感じでしたか?

佐藤 2003年の4月。第1回目はHCMの研修室でした。参加者は5〜6人。記憶が定かではないのですが、本は『創造する経営者』だったように思います。スタイルはほぼ今と同じ。手探りで始めました。以来、月1回継続してきました。会場を「札幌ビズカフェ」というIT系の異業種交流施設に移してやっていた時期もありました。2008年、採算性のこともあり、「ナレッジプラザ」という会員組織の事業に吸収して継続してきました。今は「実践するマネジメント読書会」と称しています。これは実際にやってみること、実践の大切さに重きをおいているからです。ドラッカーはこう言っています。「わたしの本はすべて人を行動させるために書いた」と。

 

―読書会の後には必ず懇親会がありますね?

佐藤 懇親会は大学院のゼミの鉄則でした。その伝統を引き継いでいるのです(笑)。全国各地の読書会でも徹底されています。相談ごとや悩みごとは、読書会の時間ではそんなにできないのです。酒を酌み交わすことで交流が深まります。個別の事案については懇親会の席で語られるようになりました。全国どこでも同じスタイルなので、飛び入りで参加してもすんなり話題に加わることができますよ。

 

―つづけるコツはありますか?

佐藤 わたし自身、継続することに関してはあまり苦労はしていません。ポイントはスケジュールに関することだと思っています。年間の予定を立てるだけ。その日にやると決めればやれるものです。決めないからやれない。つづけるためには、最初に決めること。そんなに難しいことではないと途中で気づきました。

 

インタビューに答える佐藤等さん

 

―どのように開催場所を増やしていったのですか?

佐藤 読書会は誰かが現地に行って開催しなければならないので、コストがかかります。このコスト負担をどのようにすればいいのか。課題でした。結果としては、各地にファシリテーター(FT)をつくらないかぎり、この問題は解決しないと思いました。そこでFTの養成を始めたことがエポックメーキングになりました。たまたま、帯広で読書会に3回ほど出てくれた人が、いきなりFT養成講座の第1期生として参加しました。その人が実にうまくFTをすることができたのです。「ドラッカー本を読み込んでいない人でもFTができる」ということを確信しました。そこで第2期講座は熱海で開催することに。全国から集まってくれるようにと思ってのことです。ここでFT養成講座の原型ができました。

 

―FTのしくみはどのように考えたのですか?

佐藤 しくみ化に関して、参考になる事例はまったくありませんでした。ゼロからつくりあげました。ドラッカーのことばに「未知なるものの体系化」というフレーズがあります。どうやって体系化していけばいいか。それを意識しながら、参加者の困るポイントを探って講座のプログラムを作っていきました。参加者に少しづつ負荷をかけてみたのです。結果、「もう(講座から)帰らしてくれ」という人が続出しました(笑)。現在13期生を養成中ですが、FTとして認定を受けた人はは100名を超えました。都道府県の数で言うと35カ所くらいになっています。

 

―FT養成講座に参加すると?

佐藤 本の読み方が変わります。実は、誰でも本を読む際の癖をもっています。しかし、そのことに気がついている人はほとんどいません。おそらく一生気づかないと思います。FT養成講座の中では、7種類の読み方を教えています。それをトレーニングメニューとして繰り返します。例をあげると、「セルフマネジメント視点で読んでください」とか、「マネージャー視点で読んでください」とか。同じ本でも視点を変えると、取り出せる情報が変わります。参加した人からは「本の読み方が劇的に変わった」と言ってくれます。FT養成講座にはこういったプログラムを組んであるので効果的にトレーニングを積むことができます。FTは人に何かを伝えることなのですが、一方で、自分の読み方を確立していくことにもつながります。情報の取得と整理の技術を獲得していくことができます。その結果として、実践し、人生が変わることにまでつながります。

 

―FTはどのような人が多いですか?

佐藤 年齢でいうと35〜45歳くらいが多い感じでしょか。職業はいろいろです。経営者が多いですが、個人のコンサルタント、大きな組織に属している人もけっこういます。中堅のマネージャークラスの人ですね。みなさん学び好きな人たちが多い印象です。何かを変えたいと思っている人なので、いろいろとトライしています。うまくいく、いかないは別として。そのフィードバックを周りの参加者にすることで、読書会参加者がひとつのコミュニティになっています。なかなか自分の仕事のことを他人に正面きって言える場ってないのです。ましてや相談なんてできない。でも読書会のコミュニティでは真剣に答えてくれる。たまに本気で説教されて泣かされている人もいるくらい(笑)。年齢や経験を超えて、本音が飛び交う。ドラッカーという共通の言語があるからです。これはとても大きいことです。

 

大通公園にて佐藤等さん

 

実践して変わることが目的

 

―参加者の成果はどんなこと?

佐藤 参加者の成果の具体例として『ドラッカーを読んだら会社が変わった』(日経BP社)の中に出てくる会社・人たちをあげることができます。個人も変わっていくし、会社・組織も変わっていきます。ドラッカーのことばは価値があるんだなあと実感しています。読書会に参加してFTになってもらうことが、ある意味出口かと思っています。長く本を読み続けることは、やはり難しいのです。よく言われるのは「次の本を読みたい」と。本当は、出発点として最適なセルフマネジメントのことが書かれた『経営者の条件』を2回・3回と読んだ方がいいのですが、次々と違う本を読もうとするんです。でも、多くの場合、実践がついていかない。1冊の本を2〜3年かけて読んで、1つでも2つでも実践できるようになってはじめて、成果につながるのです。なので、読書会のメンバーには1つでも多く実践してほしいし、実践するにふさわしいことばに出会ってほしいと思っています。ドラッカーの文章内容を理解することは目的ではないのです。何かを実践して変わることが目的なのです。読書会参加者は実践する人。社会の中でそういう人を増やすことができた。うれしいことのひとつですね。

 

―読書会をやる前と今の違いは?

佐藤 「マネジメントは体系である」。この体系たるものは何か。読書会をスタートさせたころ(2003)はわかっていませんでした。『実践するドラッカー〜思考編』・『行動編』(共にダイヤモンド社)を書き始めたころに体系ということを意識しはじめ、最終的には『事業編』を書いたあたり、2012年くらいでしたが、マネジメントの体系図というものの重要性に気づきます。毎回の読書会のメニュー化やクラス分けなどすべて、体系図が元になっています。そういう意味では『実践するドラッカー』本を書いたことは大きかったですね。もうひとつは「原理」を抽出してきたことです。原理にもとづいた根や幹ができた。読書会は参加者とFTの1対1の対話のように見えますが、そうではないのです。オーディエンスは常に参加者全体。つまり、発言者のコメントを聞いて全体に有益なメッセージを提供することがFTの役割りです。理想的な会の進行は、他の人のやりとりを聞きながら参加者が自分のメモをとっている状態。有益な情報って何かというと、普遍性のある情報。ほかに応用できること、原理なのです。こういったことをコメントとして返せるようになりました。

 

―いつごろ辞めることを?

佐藤 読書会の廃棄は、言ってしまうと初めから考えていました。今のかたちの読書会は「ベーシック」・「アドバンス」・「プレミアム」と3つのクラス、目的別に7コースあります。端的に言うと、これらすべてのクラスでFTを養成できたことがあります。しかも、札幌と東京で。そうするとわたしが辞められる条件が整った。これで大丈夫かと「まかせた」のです。辞めないということは、人の成長を阻害することにつながります。心を鬼にして、他人の成長を促進することを考えました。計画的な廃棄とも言えるかと思っています。私がいなくても残っていく仕組みをつくることが大切だからです。

 

―今後の抱負はどんなことですか?

佐藤 読書会は最低でも100年くらいは続けてもらい残っていってほしいなあと思っています。FT養成講座を開始した時はそう考えていました。われわれがいなくなっても残っていくしくみとしてFTという制度がある。その意味では次に、FT養成講座のプログラム運営者を養成しています。また「一般社団法人 実践するマネジメント読書会ファシリテーター機構」が数年前誕生しました。わたしがいなくても、養成講座が回っていくようになってきています。ひとつの社会インフラとして読書会があってほしいなあと。これを全都道府県に設置したいと。その後は、半分冗談ですが、全市区に広がれば理想的ですね。数えると800以上の市や区があるようです。今、読書会を開催している都市の中で一番人口の少ないのは長野県の伊那市です。7万人ほどです。道内では岩見沢市で約8万人です。このサイズでも成立しています。読書会はせいぜい10〜15人で実施できます。すると、どこでも開催できる可能性があると思っています。

 

テレビ塔をバックに佐藤等さん

 

―もうご自身ではやらないのですか?

佐藤 第1回から2011年くらいまでの読書会は特定の1冊を1章ごと読んでいくスタイルでした。今行っている「実践するマネジメント読書会🄬」はドラッカーの全集(エターナル版)を中心に目的別に横断的に編集して10回パッケージで読むようになっています。現行スタイルの読書会はほかのFTに任せたのでもうやりません。しかし、読書会という名前をつけていないですがオールド・スタイルでの特定の1冊を読みあう会は復活させ密かにやっています。昨年は『産業人の未来』を読みました。今年は『企業とは何か』を読んでいます。こちらは私のライフスタイルとして継続していきたいと思います。

 

―佐藤さん個人の今後は?

佐藤 今年2019年の7月で58歳になりました。いま、いろんなことを大廃棄中です(笑)。実は、50歳でだいぶ廃棄しました。60歳にはさらに廃棄を考えています。2年以上かけて廃棄(=やめたり任せたり)していきます。しかし、やらなきゃいけないことが1つだけあります。職業会計人にドラッカーを伝えることです。会計士・税理士が対象。会計ってマネジメントの道具なのですが、そのことを伝えたいと思っています。多くの場合、マネジメントから会計を見なければならないのに、会計からしかマネジメントを見ることができないからです。マネジメントのための会計という意味で「マネジメント会計」という概念を伝えたいと思います。会計人がより社会の役に立つ存在になってほしいと思っています。今後、最低10年はかけて取り組んでいきたいと考えているところです。

 

 

 

 

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花岡 俊吾
アウドドアライター/記事制作者   1965(昭和40)年、北海道恵庭市生まれ。高崎経済大学卒業、(株)ピーアールセンターにて広告・マーケティング業務に従事。2007年独立、「北海道体験.com」のプロジェクトに参画。人口減少の道内経済に貢献すべく、北海道の新しい体験観光情報の発信をライフワークにする。カメラを片手に、年間100日以上をアウトドアフィールドやキャンプ場の取材活動。新聞記事連載やWEBコンテンツ制作がメインの仕事。P.F.ドラッカーの読書会、札幌ビジネス塾に10年以上通い、上田惇生先生のサイン入り『経営者の条件』は家宝。著書に『アウトドア&感動体験ガイド北海道』(北海道新聞社)。休日はマラソンと登山に勤しむ。

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