マネジメント能力がない人の特徴6つ | 組織の影響・対処方法を解説。

「マネジメント能力がない」と調べてこの記事に訪れたあなたは、おそらく、自分の能力の不甲斐なさに悩んでいるか、あるいは経営管理者や部下のマネジメント能力の問題に気付いているのでしょう。

まずはじめに言いたいのは、マネジメント能力とは、頭の良さ・才能・性格ではなく、「成果をあげる習慣」だということです。マネジメント能力はトレーニングすれば必ず身につけられるものですから、どうか自分にも上司にも失望することなく、いまの現状を前向きに捉えてほしいと思います。

それどころかむしろ、「マネジメント能力がないかもしれない」と自覚したこと自体が、何より価値のある一歩なのではないでしょうか。「組織を良くしたい」という貢献意識と熱意がなければ、そもそもこの記事にたどり着かないはずです。あなたはいま、自己変革する大きなチャンスを、まさに自分自身の手で掴もうとしているのです。

この記事は、そんなあなたにこそ読んでほしい内容となっています。“マネジメントの発明者”であるピーター・F・ドラッカーの金言を引用しながら、「マネジメント能力がない」といわれる人が、どんな視点に欠けてしまっているのかを整理するとともに、そもそもマネジメントは何なのかという本質を伝え、マネジメント能力を身につけるためにどうすればよいのかを、一気通貫で解説します。

この記事を読む前と後では、上司を見る目・部下を見る目・組織を見る目がガラリと変わるはずです。読んだあとに「よし、やってみよう」と一歩踏み出す勇気が湧いてほしい……。そんな想いでこの記事を書きました。ぜひ最後までお付き合いください。

万が一にも仕事と人のマネジメントを誤るならば、いかにトップマネジメントが巧みに事業をマネジメントしようとも、もはや事業上の成果は期待しえない。仕事と人のマネジメントに失敗したのでは、いかなる成果といえども、幻影というべきであって無意味である。そのようなことでは、競争力を失うほどにコストは上昇する。階層間の対立は深まり、事業の継続は不可能となる。もちろん社会的なインパクトの処理に失敗したのでは、社会の支持を失い、組織そのものが消滅する。

ドラッカー『マネジメント』より

マネジメント能力がない人の特徴6つ

まずは「マネジメント能力がない」とはどんな状態をいうのか、整理しました。言い換えるなら、マネジメントのタブーです。思い当たらないところもあれば、ギクッとするところもあるでしょう。人によって様々です。

ひとつだけ言えるのは、誰でもマネジメントのタブーを犯しうるという点です。性格や気質が問題なのではなく、ものの見方・考え方ひとつで、マネジメントの成否が左右されてしまうことがあるのです。

①正論を言えば人は動くと思っている

多くの人がやってしまう失敗です。組織として仕事の成果を出すには、人を動かす必要がありますが、人は「正しさ」では動きません。いや正確には、“人の心”は「正しさ」では動かない。そう言ったほうが適切かもしれません。

マネジメントが相手にしているのは「人」です。人は心を持っています。組織とは人と人とがつくりだす相互作用の世界。マネジメントによって人の感情がどのような影響を及ぼすのかをよく考えなければなりません。

いかに正論であろうとも、いや正論なればこそ、押しつけられた信条や価値観は社員にとってむき出しの専制にほかならない。人間重視の経営の基本は、個として社員を遇すること、そして強みに着眼して組織的に成果をあげるような環境を整えること、それだけである。ドラッカーによれば、それ以上のことは明らかに越権である。マネジメントは個人の内面や自発性に一ミリたりとも立ち入ることを許さない。

上田 淳生/井坂 康志『ドラッカー入門 新版』より

②人をコントロールしようとする

人を問題や費用や脅威として見るのではなく、資源として、機会として見ることを学ばなければならない。管理ではなくリードすること、支配ではなく方向づけることを学ばなければならない。

ドラッカー『マネジメント』より

マネジメントを「管理」と捉える人がいますが、それは誤りです。マネジメントの核心は、「人」をいかに正しく方向づけ、成果をあげるかです。

「さすがに人をコントロールしようなどとは思っていない」と多くの人は言うかもしれませんが、マネジメント能力がないと、たとえそのつもりはなくても、結果的に人を支配・コントロールするやり方になってしまうのです。

たとえば何の気もなしに投げかける言葉「そのやり方は間違っているからこうしなさい」が、じつはマイクロマネジメントの入口になっています。

③組織の理想と現実のギャップを個人の責任に転嫁する

人事がうまくいかなかったときは、動かされた者を無能と決めつけてはならない。人事を行った者が間違ったにすぎない。マネジメントに優れた組織では、人事の失敗は異動させられた者の責任ではないことが理解されている。

ドラッカー『経営者の条件』より

マネジメント能力がない人は、頭のなかで描いた「こうなるはずなのに」という理想・願望が実現しないとき、実現しない理由を他者に求める他責思考に陥りがちです。

ドラッカーは「理論は現実に従う」を強調します。つまり、思い通りにならない現実を直視することが大事だといいます。「自主性を発揮すればもっと組織が成長する」という正論が、実際にそうならないのであれば、それはスタッフが悪いのではなく、マネジメントに問題があるのです。相手のせいにしてはなりません。

④自分自身をマネジメントできていない

マネジメントの最初の出発点をご存じですか?多くの人は「部下のマネジメントだ」と答えるかもしれません。しかし誤りです。マネジメントの出発点は「自分自身」なのです。

そもそも自らをマネジメントできない者が、部下や同僚をマネジメントできるはずがない。マネジメントとは、模範となることによって行うものである。自らの仕事で業績をあげられない者は、悪しき手本となるだけである。

『経営者の条件』より

では自分自身のマネジメント(セルフマネジメント)とは何なのでしょうか。ここでは割愛しますが、たとえば次の“問いかけ”と“実践”がセルフマネジメントにあたります。

  • 自分の強みは何か
  • 自分の弱みは何か
  • 自分が成果をあげるためには何に集中しなければならないか
  • 成果をあげるために使える時間はどれだけあるか(時間管理
  • 成果のあがらない非生産的な仕事は何か
  • 自分が上司・部下・組織から期待されていることは何か
  • 上司や部下の強みを生かすにはどのようなコミュニケーションが必要か
    etc

ちなみにセルフマネジメントについては、世界的名著『経営者の条件』にじっくり書かれています。多くの経営者を魅了した必携の書です。ぜひ手に取ってみてくださいね。

さて、『経営者の条件』では、マネジメント能力とは、トレーニングすれば誰でも身につけられる習慣的な能力だとドラッカーは断言しています。しかし頭で理解するのではなく、実践しなければ習慣化はできず、成果はあがりません。

マネジメントは本や講座で見聞きすれば身につけられるわけではないのです。批評ではなく実践しなければなりません。それは仕事のマネジメント、人のマネジメント、仕事のマネジメント、事業のマネジメントすべてにおいて同じことが言えます。

⑤「これさえやればうまくいく」という方法論がどこかにあると思っている

結局、人というものは、「こうすればうまくいく」という思考と論法が大好きでたまらない。つまるところ怠け者である。自らの目で見て、自らの頭脳で考え抜くのが億劫である。だからデカルト以来手を変え品を変え、新しい絶対的な理論や手法を編み出しては欺されてきた。

上田 惇生『ドラッカー入門 新版』より

誰でも一度は、“優秀な人材が育つ究極のメソッドがあればラクなのに”と考えたことがあると思います。

この考えの背後には、「人材育成の鉄板の方程式がどこかにあるはず」という願望が隠れています。

これをドラッカーは、“追い求めてはいけない賢者の石”と揶揄しました。

なぜなら、「こうすればうまくいく」を探そうとする思考の背後には、暗黙のうちに「仕事の成果において、働く人の性格・価値観・生き方は重要ではない」という機械的な人間観を内包しているからです。

単一的な人材育成の方程式に、生まれも考え方も価値観も違う人間を一様に当てはめたところで、最初はうまくいっているように思えても、かならずどこかで破綻が生じます。

マネジメントに唯一あるのは、方法ではなくフレームです。そのフレームとは、「人はみんな違う」という、当たり前すぎて陳腐にも思える事実です。しかしこの事実をどう受け入れるかで、組織の行方が大きく左右されます。

⑥本や座学で学べばマネジメントが身につくと思っている

知識は、本の中にはない。本の中にあるものは情報である。知識とはそれらの情報を仕事や成果に結びつける能力である。

ドラッカー『創造する経営者』

わたしたちは、昔から「何かを学ぶときは、誰かに教えてもらう」という思考習慣が根付いています。学校教育の影響があるのかもしれません。これによって、マネジメント能力が座学で身につくという誤解がしばしば生じます。

マネジメント能力を身につけるには、トレーニングが必須です。トレーニングなしに身につく能力は一つもありません。

ただ本を読んだだけで身につくマネジメント能力は一つもありません

ドラッカーが「掛け算の九九を習ったときのように練習による修得が必要になる」(『経営者の条件』)と述べているように、マネジメントは習慣的な能力として身につけなければならないといいます。

マネジメント能力の欠如はリーダーシップの欠如を意味する

マネジメントとリーダーシップの密接な関係をご存じでしょうか?しばしば「マネジメントとリーダーシップは別物である」と考える人もいますが、少なくともその考え方は、マネジメントの開発者であるドラッカーにいわせれば誤りです。

ドラッカーは次のようにいいます。

真摯さを絶対視して、はじめてマネジメントの真剣さが示される。それはまず人事に表れる。リーダーシップが発揮されるのは真摯さによってである。範となるのも真摯さによってである。

ドラッカー『マネジメント』より

ドラッカーはリーダーシップについて「人を惹きつける資質ではない」(カリスマは必要ない)、「仲間をつくり、人に影響を与えることでもない」と言います。よく勘違いされやすいから強調したのでしょう。

リーダーシップの本当の意味は「人の模範となり、人をよりよい方向に導く」ことです。

リーダーシップとは、人のビジョンを高め、成果の水準を高め、人格を高めることである。そのようなリーダーシップの基盤として、行動と責任についての厳格な原則、成果についての高度な基準、人と仕事に対する敬意を日常の実践によって確認していく組織の精神に勝るものはない。

ドラッカー『マネジメント』より

マネジメント能力がないとどうなる?

①スタッフの自主性を奪い組織の自立性が失われる

組織が自立性を失うならば、個人はありえず、自己実現を可能とする社会もありえない。自立性を許さない全体主義が押しつけられる。(中略)自立した組織に代わるものは、全体主義による独裁である。全体主義は競争を許さず、絶対のボスを据える。責任を与えず、恐怖によって支配する。

ドラッカー『マネジメント』より

人がイキイキと働く環境でなければ、組織は成果をあげられません。マネジメント能力がない人のなかには、ルールや約束事をつくって組織を動かそうとする人がいます。「ルールを守るのは人として当然」という一般常識・正論が、組織にとってプラスになると信じているのかもしれません。

しかし事態はそう単純ではありません。“うまくいかないから、うまくいくようにルールをつくる”という時点で、すでに組織や仕事の設計が破綻しています。

マネジメントの本懐は“人が組織という道具を使って成果をあげる”ですが、ルールや約束事で縛るやり方は“組織という道具に人が支配される”倒錯した事態を招きます。このときルールは、人の自主性・やりがいとは無関係のところで作動する無機質な力学となり、大きなストレスを与えます。

ストレスが増大すると、人は自分を守るために「成果」ではなく「自己保身」に関心がいくようになり、組織がどんどんよくない方向に向かっていってしまいます。

②人の弱みにばかり目がいくようになりギスギスする

部下の弱みに焦点を合わせることは、間違っているばかりか無責任である。上司たる者は、組織に対して部下一人ひとりの強みを可能なかぎり生かす責任がある。

ドラッカー『経営者の条件』より

人の弱みに目を向ける。それは、マネジメントのタブーのひとつです。人は誰でも強みと弱みをもっています。コインの裏表なので切り離せません。大切なのは、その人の強みを生かして成果をあげることです。「何ができないか」ばかりに目を向けると、人は自己肯定感が低くなり、次第にやる気を失います。

③永遠に現れない「理想の人材」を求め続ける

マネジメントがうまくいかない人は、けっきょく「いい人材が来ればすべてが解決する」という短絡的な発想になりがちです。たしかにスーパーマンはいるかもしれません。しかしその人が自分の会社に来てくれることを願うよりも、いまいる人たちに成果をあげさせることのほうが、賢明で建設的ではないでしょうか。

そもそもドラッカーのいうマネジメントは、“普通の人たち”が組織という機能を通じて素晴らしい成果をあげさせるためのものです。「いい人材の到来」を待っている時点で、なかばマネジメントを放棄したようなものです。

マネジメントの役割は、人が共同して成果をあげさせることを可能にし、強みを発揮させ、弱みを無意味なものにすることである。これが組織の目的である。したがって組織にとって、マネジメントは決定要因である。

ドラッカー『新しい現実』より

④一人ひとりの強みを生かせず平凡な組織になる

弱みに配慮して人事を行えば、うまくいったところで平凡な組織に終わる。完璧な人間、強みだけの人を探したとしても、結局は平凡な組織をつくってしまう。

ドラッカー『経営者の条件』より

弱みを意識して人事を行うことは、組織本来の機能に背く。組織とは、強みを成果に結びつけつつ、弱みを中和し無害化するための道具である。

ドラッカー『経営者の条件』より

「成果」のために「人の強み」を生かし、弱みを弱みでなくする。これはマネジメント能力の大事な側面です。

マネジメント能力がない人との接し方・対処法

もし一緒に仕事をする人が、マネジメント能力がなかったら?現実にはよくあることです。ポイントは「相互理解」です。共に問題を共有し、何をなすべきかを考えることから始まります。

なすべきことから考え、それを上司にわかる形で提案しなければならない。上司も人である。人であれば、強みとともに弱みをもつ。しかし上司の強みを強調し、上司が得意なことを行るようにすることによってのみ、部下たる者も成果をあげられるようになる。

ドラッカー『プロフェッショナルの条件』より

ドラッカーは、ある組織が実践している「マネジメント・レター」を次のように紹介しています。

  1. まずはじめに、部下に「上司から期待されている目標」と「自分の目標」を書いてもらう
  2. 次に、目標達成のためのアクションプランと、目標達成を妨げている障害を書いてもらう
  3. 次に、組織および上司が行っていることについて、①自分の助けになっていること②妨げになっていること、を書いてもらう
  4. 最後に、次に1年間に行うべきアクションプランを書いてもらう
  5. 以上の4項目を「マネジメント・レター」として上司に提出してもらい、それが受け入れられたならば、上司と部下の間で相互理解が生まれ、“憲章”として意味のあるものになる。

このやりとりによって、上司が部下に耳を傾ける姿勢と、部下が上司に声を伝える仕組みが成り立ちます。マネジメント・レターの本質は、相互理解です。

マネジメント能力を身につける方法

先述したように、本や座学だけではマネジメント能力を身につけることはできません。修得に必要なのは、九九を覚えるときのような反復トレーニングです。以下に、マネジメント能力を身につける具体的な方法を一例としてご紹介します。

①『実践するドラッカー』を読む

ドラッカー教授のオリジナル本は、はじめての人にはとっつきにくいかもしれません。なので、これからマネジメントを身につけたい方向けの本として『実践するドラッカー』シリーズをおすすめします。

②気になった言葉に線を引く

『実践するドラッカー』を手に取ったら、文中の言葉にどんどん線を引いてください。直感でかまいません。「気になる」と思ったところに線を引いてほしいです。

いま気になる言葉は、おそらく、あなたがいま必要としている情報です。つまり、徹底して実践すれば素晴らしい変化が起こるチャンスがあるということです。

③その言葉を徹底的にやってみる

ここからがワクワクする瞬間です。さっそくドラッカー教授の言葉を実践してみましょう!変化が起こるまでたくさんトライ&エラーを繰り返しながら、実践を楽しんでください。

【さいごに】マネジメントは「一人の人間と向き合う」ことから始まる。

あらゆるマネジメント上の間違いは、人としてのマネジメントによるものである。人としてのマネジメントのビジョン、献身、真摯さが、マネジメントの成否を決める。

ドラッカー『マネジメント』より

マネジメントの本当の意味は、“方向づける”です。

マネジメントの語源はイタリア語の「馬を馴らす」(maneggiare)に由来し、「手綱を操る」というニュアンスを含んでいます。

馬には性格、意志、気分、得意・不得意があり、これは人間と同じです。目指すべきゴールは一つでも、その道程はそれぞれ異なります。

そして、ゴールに向かう過程で何に苦痛や喜びを感じ、人生の意義を見出すかも人それぞれです。

こうした個性豊かな馬をゴールへ導くためには、目の前の馬と真摯に向き合い、その個性を認めた上で、その馬に合った方法で強みを活かしながら目標へと導かなければなりません。

このように、「馬を馴らす」という比喩的な意味が転じて、managementは「物事をうまく扱うこと」、すなわち組織やプロジェクトに関わる人々を統率し、目的達成へと導くことを意味するようになりました。

つまるところ、マネジメントの核心は「人」です。意志も感情もない車をハンドリングし、ゴールへと導くのとはわけが違います。意志も感情も願望もある「人」を、いかに正しく方向づけ、成果をあげるか……。

ドラッカーは次のように言います。

マネジメントとは、仕事の絆で結ばれたコミュニティの組織において機能すべきものである。共有する目的のもとに、仕事の絆で結ばれたコミュニティとしての組織のものであるからこそ、マネジメントとは人にかかわることであり、善悪にかかわることである。

ドラッカー『365の金言』より

「マネジメント能力がない」というその悩みこそ、マネジメントを改善する大チャンスかもしれません。

わたしたちが主催する「実践するマネジメント読書会」は、経営者だけでなく、マネジャーや新人までが、互いの興味・関心・視点での違いを意識しつつ、成果をあげるためのマネジメントを学び合う場です。

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