100万部発行のエッセンシャル版『マネジメント』を『実践するドラッカー』の著者佐藤等(ドラッカー学会理事)が名言とともに実践ポイントを要約解説する

2009年12月『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(通称「もしドラ」)という長いタイトルの書作が出版され、300万部に迫るメガトン級のベストセラーになりました。同書の販売実績にともない主人公の川島みなみが手に取ったエッセンシャル版『マネジメント』も100万部販売実績を残しました。「もしドラ」以前には、10万部程度の販売実績ですから、「もしドラ」効果で90万部ともいえます。

しかし、せっかくのエッセンシャル版『マネジメント』も途中で読むのをあきらめ、書棚の隅に寂しく鎮座しているという方も多いのもまた現実です。

エッセンシャル版『マネジメント』は、1975年に『抄訳マネジメント』として出版されたものの新訳版です。その抄訳のもととなったのが、1973年に出版された『マネジメント』です。ドラッカー教授の快諾を得て抄訳化したのが故上田惇生先生です。

今回は、書棚の隅から引っ張りだして、再度、読んで頂きたく、そのきっかけとして要約や実践ポイントを付して公開しました。

要約した私(佐藤等:ドラッカー学会理事)は、上田先生監修の下、ダイヤモンド社から『実践するドラッカー』シリーズを5冊を刊行させて頂きました。その過程で吸収した知見をもとにこの記事は書かれています。

実践するドラッカー【思考編】
実践するドラッカー【行動編】
実践するドラッカー【チーム編】
実践するドラッカー【事業編】
実践するドラッカー 利益とは何か

 

ドラッカー教授は「マネジメントは体系である」といいます。
それは、断片的な知識では役に立たないということです。教授が出版した著作は40冊に迫りますが、マネジメントの体系を理解できる著作は少数です。本書は、その中でも最もコンパクトにまとめられた著作です。ぜひ体系としてマネジメントを修得するための入門書として同書を活用してください。この記事がそのお役に立てることを念願しております。

 

マネジメント[エッセンシャル版] – 基本と原則

 

記事は、章ごとに「ドラッカー教授の名言」「要約解説」「実践ポイント」「実践のための問い」を設けております。

もくじ

Part1 マネジメントの使命

第1章 企業の成果 

第2章 公的機関の成果

第3章 仕事と人間

第4章 社会的責任

 

 

目次

まえがき―なぜ組織が必要なのか(要約)

ドラッカー教授の名言

「本書の動機と目的は、今日と明日のマネジメントをして成果をあげさせることにある」

「まえがき」要約解説

本書はPart1でマネジメントの使命、目的、役割を、Part2でマネジメントのための組織と仕事を、Part3でトップマネジメントと戦略を記している。目的は、組織が成果をあげることである。ここに成果とは外の世界における変化をいう。すなわち本書は、組織が外の世界に貢献するための実践の書である。

実践ポイント

成果とは外の世界における変化であること理解する

実践のための問い

あなたが組織を通してあげたい成果は何ですか

 

 

 序 新たな挑戦(要約)

ドラッカー教授の名言

「20世紀の初めには、『お仕事は何ですか』と聞いたが、今日では『お勤めはどちらですか』と聞く」

「新たな挑戦」要約解説

上記の言葉は一つのシフト(後戻りしない変化)を示している。つまり現代社会は組織社会であるということである。組織とは、企業ばかりではなく公的機関―政府機関、大学、研究所、病院、軍などを含む。このように様々な目的をもつ組織で支えられる社会を多元社会という。それは史上初めてであり、そのための新たな理論がマネジメントである。マネジメントはそれぞれの組織を機能させる。マネジメントは、内部的な所有権や権力などではなく外の世界にどのようなよい影響を与えていくかという責任を負っている。なぜなら組織は社会の道具であるからである。それは第一に社会に対して責任を負っているということである。

実践ポイント

組織は社会の道具であることを理解する

実践のための問い

組織という社会的道具を使って実現したいことは何ですか

 

 

Part1 マネジメントの使命

1 マネジメントの役割

ドラッカー教授の名言

「マネジメントには、自らの組織をして社会に貢献させるうえで3つの役割がある」

  ①自らの組織に特有の使命を果たす。

  ②仕事を通じて働く人を生かす。

  ③自らが社会に与える影響を処理するとともに、社会の問題について貢献する。

「マネジメントの役割」要約解説

マネジメントの3つの役割は組織の目的を示している。ドラッカーのマネジメントは、社会的道具としての組織の目的からスタートする。道具の目的を誤解して組織という道具を使えば、社会にも働くに人にも悪影響を与える。典型的な誤解は、「企業の目的は利益をあげることである」がある。利益優先による不正が後を絶たないのはこのような誤解に基づくマネジメントが行われているからである。以下、3つの目的を説明する。

  ①組織の目的は、ミッション(使命)を果たすことである。それぞれの組織に「特有」のミッション(使命)がある。社会に貢献できる使命は絞り込まれた専門性のある知識に基づいたものだけである。「何でもできます」とは「何もできない」のと同義である。

  ②組織は仕事を生産的なものとすること(仕事のマネジメント)を一つの目的とする。組織が事業を行うには、それにふさわしい仕事が必要である。仕事は客観的に設計できるとの発想がドラッカー・マネジメントの根幹にある。そのうえでモチベーションやコミュニケーションなど人を活かす(人のマネジメント)という目的が実現される。非生産的な仕事の上で人のマネジメントは十分に機能しない。それゆえ人のマネジメントだけで生産的に仕事を行うことは不可能である。

  ③組織は存在するだけでマイナスの効果を社会にもたらしている。たとえば騒音、出勤ラッシュなど。これらを解決する責任は組織にある。また社会に存在する課題を解決することができるのは現代では組織のみである。それゆえ組織は、新しい社会課題を解決する責任がある。

組織は人類が生み出した道具である。それゆえ道具に使われてはならない。上手に使いこなさなければならない。その方法がマネジメントである。

実践ポイント

組織という道具の3つの目的を理解する

実践のための問い

組織という道具の3つの目的はどのような関係にあるか

 

 

第1章 企業の成果

2企業とは何か

ドラッカー教授の名言

「企業の目的は、それぞれの企業の外にある。企業は社会の機関であり、その目的は社会にある。企業の目的の定義は一つしかない。それは顧客を創造することである」

「企業とは何か」要約解説

企業(事業)の目的は、利益をあげることではない。企業の目的は内部にはない。企業の外である社会にある。目的とは、使命や存在意義である。具体的には、顧客の役に立つということである。つまり事業をとおして顧客価値を創造することである。それ以外に組織が存在する理由はない。もちろん利益は、組織存続には不可欠である。しかしそれは目的ではない。人生にお金が必要ではあるが、お金を目的に生きる人はいないのと同じである。

顧客の価値の創造のためには、マーケティングとイノベーションが必要である。現在の事業の顧客価値を生み出し、伝えるにはマーケティングが必要である。また新しい顧客価値を生み出す行為、すなわちイノベーションも不可欠である。なぜなら組織をとりまく環境は刻々と変化し、とどまることは劣化を意味するからである。

イノベーションとは新結合の別名である。現在の事業はヒト・モノ・カネなどの資源がすでに結合している(旧結合)。新結合とは、事業などの廃棄によりこれらの資源を解放し、新しい顧客価値をもたらすものに変えることである。技術革新のことではない。マクドナルドがハンバーガーを生み出したのではない。世界中どこでも美味しいハンバーガーを、はやく提供できる仕組みを整えただけである。しかしそれは新しい価値を生み出したイノベーションである。すでにある資源を組み合わせた典型的なイノベーションである。

実践ポイント

提供している顧客価値を考える

実践のための問い

顧客にとっての価値は何か

 

 

3 事業は何か

ドラッカー教授の名言

「あらゆる組織において、共通のものの見方、理解、方向づけ、努力を実現するには、『われわれの事業は何か。何であるべきか』を定義することが不可欠である」

「事業は何か」要約解説

「われわれの事業は何か」に答えるためには、どの顧客に、どのような顧客価値を提供するのかを決める必要がある。そのためには顧客からスタートする。すべての顧客を相手にすることはできない。そのような姿勢では、だれにも支持されない。そもそも組織がまとまらない。方向づけされていない組織は動きようがないからである。

「われわれの事業は何であるべきか」とは、未来に向けての問いである。われわれ、つまり組織を取り巻く環境は刻々と変化している。停滞は退化である。どのような事業に衣替えしていかなければならないのか。どのようなイノベーションが必要なのかを常に考えなければならない。

実践ポイント

誰にどんな価値を提供しているかを考える

実践のための問い

われわれの事業は何か

 

 

4 事業の目標

ドラッカー教授の名言

「事業の定義は、目標に具体化しなければならない」

「事業の目的」要約解説

これまで示したように組織の使命や事業を問うことは、組織を方向づけることである。同様に事業の目標も組織を方向づける道具である。しかも抽象的な表現形式をとる使命から具体的な表現である目標まで一貫性がなければならない。「顧客第一」とうたいながら、利益が目標の第一優先であるかのようなマネジメントは、従業員を誤導する。目標とすべきものは8領域ある。①マーケティングの目標、②イノベーションの目標、③経営資源の目標(物的資源)、④経営資源の目標(人材)、⑤経営資源の目標(資金)、⑥生産性の目標、⑦社会的責任の目標、⑧条件としての利益

存続の条件としての利益は、想像以上に大きいものである。たとえば、災害で1年間仕事が停止しても組織を維持できるかということを考えたときの利益を「必要利益」という。経営は、様々なリスクと不確実性と隣り合わせだ。それゆえ①必要な利益と他の目標のバランスを考えなければならない。また②長期と短期の目標をバランスさせなければならない。短期目標の積み上げだけでは、長期目標に届かない。それゆえ両方の目標が必要である。長期目標から短期目標は導かれなくてはならない。③8つの領域の目標間のバランスは重要である。すべて有限な資源という制約下にあるから何かを優先させれば、何かを我慢しなければならないからである(トレードオフ関係)。

組織の使命や事業の定義も行動のためにある。目標も同じである。これらのマネジメントの道具の目的は、組織のエネルギーと経営資源を正しい成果、つまり外の世界における変化―顧客に起こる変化―に集中するためにある。これらが矛盾なく定めさてはじめて、組織のベクトルが合い、意味ある計画を立案することができ、実行され、成果に結びつく。

実践ポイント

経営資源と活動を集中させるため目標を設定する

実践のための問い

わが社で必要とされる目標は何か(複数)

 

 

5 戦略計画

ドラッカー教授の名言

「未来は、望むだけでは起こらない。そのためには、いま意思決定をしなければならない。いま行動し、リスクを冒さなければならない。必要なものは、長期計画ではなく戦略計画である」

「戦略計画」要約解説

戦略計画とは、思考であり、責任である。つまり意識をどこに向けて行動するかであり、だれの責任においてそれを実行するかを明らかにすることである。戦略計画とは予測や予想を基盤とするものではない。現在を観て未来を予見することを基礎とする。それゆえ現在に変化があれば適時に変更すべきものである。一つの行動は予期せぬ結果を生み、現実を変える。変わった現実に対応する計画が不可欠である。さらに戦略計画は明日のために今日何をすべきかを意思決定することである。未来は今日創られるからである。戦略計画は、問題に対応するものではない。機会をとらえるためにある。戦略計画はリスクを回避するためにあるのではない。リスクに向き合いイノベーションを起こすためにある。戦略計画は、陳腐化したものを延命するためにあるのではない。積極的に廃棄を行い、組織の新陳代謝を高め、組織を継続させるためにある。

実践ポイント

機会をとらえるために戦略計画を立てる

実践のための問い

何を廃棄し、何を始めるか

 

 

第2章 公的機関の成果

6 多元社会の到来

ドラッカー教授の名言

「サービス機関は、(中略)現代社会の支柱である。社会の構造を支える一員である。社会や企業が機能するには、サービス機関が成果をあげなければならない」

「多元社会の到来」要約解説

現代社会は企業だけで成立っているわけではない。サービス機関もしくは公的機関と呼ばれる機関という部門を合わせて構成され、組織社会を形成している。具体的には、政府機関、軍、学校、研究所、病院、労働組合、法律事務所、会計事務所、企業のスタッフ部門など多岐にわたる。これらも社会における道具であるからには、目的がある。これらの組織はそれぞれの成果(外の世界における変化)を起こさなければならない。さまざまな組織がそれぞれの目的を掲げて機能する社会をつくっている。このような社会を多元社会という。

実践ポイント

多元社会の意味を理解する

実践のための問い

多元社会に存在する組織を挙げよ

 

 

7 公的機関不振の原因

ドラッカー教授の名言

「あらゆるサービス機関が守るべき原則は、『現在行っていることは永遠に続けるべきものである』ではなく、『現在行っていることは、かなり近いうちに廃棄すべきものである』でなければならない」

「公的機関不振の原因」要約解説

公的機関の不効率が伝えられる。その原因はと問われる。①企業のようにマネジメントしていないから、②人材がいないから、③目的や成果が具体的でないから。しかしこれらは弁解にすぎない。本質的な原因は予算によって運営されていることである。企業では、顧客の満足が支払いの源泉となる。しかし公的機関の多くは、成果や業績によって支払いを受けているわけではない。収入は、組織活動と直接関係のない税金である。予算型組織の行動原理はより多くの予算獲得にある。それは組織の存続の可能性を高める。ここで問題なのは、企業が求める成果である外の世界の変化は二義的となることである。二義的ということは、所属するスタッフの行動の優先順位が変わるということである。予算は使い切り、さらに多く求める。資源は分散し、成果をあげることから遠ざかる。

実践ポイント

公的機関の真の成果を考える

実践のための問い

われわれにとっての成果は何か

 

 

8 公的機関の成功条件

ドラッカー教授の名言

「公的機関にも種類があり、種類が違えば構造も違ってくる。だがあらゆる公的機関が、次の6つの規律を自らに課す必要がある」

「公的機関の成功条件」要約解説

公的機関は、自然的独占事業体、予算型組織、行政組織がある。それぞれ構造も特性も異なる。しかしこれら公的機関に共通する規律がある。①われわれの事業は何かを問う、②明確な目標を立てる、③成果と目標を達成するための目標を立てる、④成果の尺度を定める、⑤成果の尺度を用いて成果のフィードバックを行う、⑥目標に照らして成果を監査する。

これらの規律は廃棄のためにある。成功は愛着を生み、思考と行動を習慣化し、過信を生むらである。

実践ポイント

公的機関はいくつかの規律でマネジメントする

実践のための問い

何をもって廃棄の基準としますか

 

 

第3章 仕事と人間

9 新しい現実

ドラッカー教授の名言

「今日、労働人口の中心は肉体労働者から知識労働者へと移った。あらゆる先進国で、労働人口のますます多くが、手だけを使って働くことをやめ、知識、理論、コンセプトを使って働くようになった」

「新しい現実」要約解説

『マネジメント』発刊当時(1973)、「新しい現実」が起こっていた。「新しい現実」はドラッカー教授のキーコンセプトである。目の前で起こっている変化の兆しを指す言葉である。当時ドラッカー教授がとらえた働くことに関する変化は3つある。①労働人口の大半が組織で働く被用者(サラリーマン)となった(被用者社会の到来)。②肉体労働者の心理的、社会的地位の変化。③知識労働と知識労働者の台頭。

日本では1960年代に被用者の割合が50%を超えた。知識労働者(ナレッジワーカー)の台頭はその中で起こった。知識労働者とは自ら考え、自ら決定し、自ら行動する人である。つまり主体的に働ける人である。これに伴い知識労働の生産性の向上が問題がとなっている。21世紀の今も大きな問題として残っている。また中心的存在でなくなった肉体労働者(マニュアルワーカー)が抱える心理的不安定さや社会的地位の低下の問題が表面化している。工場などの非正規労働者の問題などの形で現代につながっている。

実践ポイント

働く者に起こっている「新しい現実」を観る

実践のための問い

働く者に起こっている「新しい現実」は何か

 

 

10 仕事と労働

ドラッカー教授の名言

「マネジメントは、生産的な仕事を通じて、働く人たちに成果をあげさせなければならない」

「仕事と労働」要約解説

仕事を生産的にすることと、働く人たちに成果をあげさせることは別のことである。ドラッカー教授がいうように「仕事と労働(働くこと)とは根本的に違う」からである。仕事は一般的、客観的、論理的なものである。これに対して働くことは、人の活動であり、そこには情緒的なものや主観的なものが介在する。ドラッカー教授はそれを力学といった。現場の問題は、仕事や働く人をめぐって起こっている。人間関係の悪さが原因のように見える問題も真の原因が仕事の設計のまずさにあったりする。仕事のマネジメントは働くことのマネジメント(人のマネジメント)の土台である。2つのマネジメントを分けて考えることで解決できる問題も多い。

実践ポイント

仕事のマネジメントと人のマネジメントを分けて考える

実践のための問い

人のマネジメントの土台である仕事のマネジメントで行っていることは何か

 

 

11 仕事の生産性

ドラッカー教授の名言

「自己実現の第一歩は、仕事を生産的なものにすることである」

「仕事の生産性」要約解説

仕事は、一定の経験と知識・スキルがある者であれば誰でも行えるものでなければならない。特定の人しかできない仕事は仕事のマネジメントの失敗である。

人の生産性をあげるとはいわない。正しくは仕事の生産性をあげるである。仕事の生産性をあげる目的は、組織の成果のためであるとともに、自己実現という個人のニーズにも根ざしている。非生産的な仕事で成長や自己実現を目指すのは難しい。仕事の生産性をあげようとする挑戦に成長や自己実現の種が隠れている。

仕事のマネジメントは客観的に行う。いくつかの作業を統合したものを仕事という。いくつかの仕事が集まったものを業務という。業務>仕事>作業と分解が可能である。それゆえ下記4つのポイントにそって論理的、客観的に行う。この際、前提となるのが成果すなわち仕事というプロセスから生み出されるアウトプットを中心に考えることである。

①仕事を作業に分析する

②仕事を改善し再統合する

③仕事のプロセスに方向づけなど管理手段を組み込み

④仕事を行うために必要な道具を備える

実践ポイント

仕事が生み出すアウトプットから考える

実践のための問い

貴方の仕事が生み出すアウトプットは何か

 

 

12 人と労働のマネジメント

ドラッカー教授の名言

「日本企業、ツァイスのアッベ、IBMのワトソンは、働くことのマネジメントの基礎として『責任』の組織化を行なった」

「人と労働のマネジメント」要約解説

ドラッカー教授の常套手段は、成功事例から原理を抽出することである。今回も働くことに関わるマネジメントの3つの成功事例から重要なことをあぶり出した。人は責任をもつとき生き生きと働くという現実を手にした。報酬というアメや恐怖というムチ、あるいは心理操作などをもって人を支配・コントロールしようとしても無駄である。そのような職場では人が生き生きと働くことはないし、長く定着することはない。では何が必要か。自己決定と自己肯定感(自己有能感)による内発的動機づけが必要である。自己決定により責任が生まれる。責任を負うとは、自由に意思決定できるという状態である。地位や経験によって自由度の差はある。しかし指示命令のみによって働く場合とはまったく状況は異なる。自ら考え、自ら決定し、自ら行動する人、つまり知識労働者として働くことが求められている。

実践ポイント

自分の仕事で自己決定できる範囲を確認する

実践のための問い

仕事において自己決定できる範囲は何か

 

 

13 責任と保障

ドラッカー教授の名言

「必要なのは収入の保証だけではない。積極的かつ体系的に仕事を与える仕組み、すなわち働く者を社会の生産的な一員にする仕組みである」

「責任と保障」要約解説

本章のテーマは、「人が責任という重荷を負うために必要なものは何か」である。大前提がある。仕事に焦点を合わせるということである。もちろん仕事に焦点を合わせるのが困難になるほど、他の側面が不満であれば働きがいも得られない。金銭的報酬が極端に低かったり、大量のサービス残業を求められたり、不衛生な環境であるなどは論外である。しかし報酬が高くても仕事がまったくなかったら不満に思うはずである。つまり金銭的報酬や労働時間や働く環境そのものが、働きがいの源泉にはならないことを意味している。働きがいの源泉は、社会の生産的な一員となることである。それは顧客の役に立つということであり、組織は、そのための仕事を提供する義務がある。それゆれ作業から仕事へ自分の活動領域を拡張させ、複数の仕事を担当し、それぞれの仕事を生産的に改善することを自ら求めなければならない。その過程で責任は自ずと重くなる。しかしそれは自ら考え、自ら決定し、自ら行動する範囲が広がったこと、つまり自己成長を意味する。責任は、組織の成果のため、ひいては社会のためでもあるが、自己実現のために必要であることを忘れてはならない。仕事の報酬は仕事である。さらに仕事の報酬は成長であるということである。

実践ポイント

仕事の範囲などを振り返り自己成長の軌跡を確認する

実践のための問い

今年一年で自己の成長を実感できる仕事上の経験は何か

 

 

14「人は最大の資産である」

ドラッカー教授の名言

「マネジメントのほとんどが、あらゆる資源のうち人がもっとも活用されず、その潜在能力も開発されていないことを知っている」

「人は最大の資産である」要約解説

マネジメントは責任をもつ。その責任が権限を必要とする。そして責任を与えられた者は高度の要求をする。その要求の最たるものは組織が成果をあげることである。必要なことは、人の強みを発揮させることである。弱みでは成果をあげることはできないからである。そもそも組織やチームの目的は、人の強みを成果に結びつけ、人の弱みを中和することにある。しかるに人の強みを生かしている組織は多くない。必要なのは実行である。仕事を設計し、そこに成果と責任を組み込み、強みが成果に結びつくように人を配置する。人を最大の資産とするための行動が必要である。人は単なる資源ではなく、累積的効果をもたらす資産である。

実践ポイント

仕事の設計時に成果と責任を組み込み、強みが成果に結びつくように人を配置する。

実践のための問い

人は資産であることに意識を向けて行っていることは何か

 

 

第4章 社会的責任

15 マネジメントと社会

ドラッカー教授の名言

「社会的責任は回避できないことも明らかである。社会が要求しているからではない。社会が必要としているからでもない。な現代社会にはマネジメント以外にリーダー的な階層が存在していないからである」

「マネジメントと社会」要約解説

企業の社会的責任の議論は1世紀以上前からある。しかし1960年代の初めから、企業の社会的責任という言葉の意味が変わった。「企業は何を行ない、何を行なうべきか」。企業に対する要求の高まりは、実績によるものである。それは成功の代償である。今や多くの期待が企業にかかっている。1世紀前には、その期待は政府に向けられていた。社会の期待は、政府から企業に移ったということである。それは企業のマネジメントが社会のリーダー的な階層として地位を受け継いだことを意味する。それは新しい現実である。その結果、人々が企業活動の中心に社会への関心を据えることを期待するようになった。社会的責任は回避できない。一方で社会的責任は企業の経済的機能の遂行を損なう。こうして社会的責任がマネジメントの対象となった。

実践ポイント

社会的責任をマネジメントの対象に加える

実践のための問い

社会的責任を果たすための自らの成果は何か

 

 

16 社会的影響と社会の問題

ドラッカー教授の名言

「社会の問題の解決を事業上の機会に転換することによって自らの利益とすることこそ、企業の機能であり、企業以外の組織の機能である」

「社会的影響と社会の問題」要約解説

組織にとって社会的責任の問題は、2つの領域において生じる。性格は違うが、どちらもマネジメントが対処すべき問題である。第一に、自らの活動が社会に対して与える影響から生じる。これは、組織が社会に対して行ったこと、与えた影響に関わる責任である。第二に、自らの活動とは無関係の社会自体の問題として生じる。それは、社会自体の機能不全から起起こっているで、組織が社会のために行えることに関わる責任である。組織は、社会という環境の中に存在する。その企業が生み出した問題でなくとも社会の問題には重大な関心をもたざるを得ない。なぜなら健全な組織は、不健全な社会では機能し得ないからである。

これらの社会の問題は、社会の機能不全であり、これを解決し、自らの利益とすることが求められる。このような社会の問題は、どの程度まで取り組むことを期待されるべきかを考えることは重要なマネジメント上の問題である。

実践ポイント

社会の問題や課題をそれぞれの組織が解決する

実践のための問い

わが社で解決すべき社会に存在する問題や課題は何か

 

 

17 社会的責任の限界

ドラッカー教授の名言

「いかなる組織といえども、本来の機能の遂行という最大の責任を果たさないならば、他のいかなる責任も果たせない」

「社会的責任の限界」要約解説

組織という社会的道具の目的は、その組織に特有の使命を果たすことである。それが第一の目的であり、責任である。その目的を果たすことに優先する目的はない。それゆえ、この責任を果たすことはどのような社会的責任を果たすことにも優先する。いかに高尚な動機であり、その能力があっても他を優先させてはならない。ましてや自らに能力のない仕事を引き受けることは無責任である。また自らの価値観に合わない課題に取り組むことをことも避けなければならない。社会的責任を負うということは、常に正当な社会的権限を要求しなければならないことを意味する。

実践ポイント

わが社で、できることとなすべきことを確認する。

実践のための問い

わが社でなすべきことは何か。わが社の能力で対処できないことは何か。

 

 

18 企業と政府

ドラッカー教授の名言

「政府と企業はそれぞれ自らの領域の仕事を遂行していかなければならない。しかもそれらの仕事のうち、政府と企業が協力して取り組むべきものと、個別に取り組むべきもとを見分けなければならない」

「企業と政府」要約解説

われわれは、政府と企業の関係のあるべき姿に関して答えを得ていない。政府と企業の関係をケース・バイ・ケースで律してきたのは、自由放任ではなく、重商主義と立憲主義である。重商主義は、国家主権のために国家経済を基盤にし、そのモデル下では企業を行政により支配、強化、奨励する。立憲主義モデルでは、基本的に政府と企業は対立関係にあるとされ、企業は法律によって規制される。しかし、これら2つのモデルでの解決は陳腐化した。主な理由は、次の4つの新しい問題の出現による。①企業と政府の活動が混在した混合経済、②グローバル経済の発展、③社会の多元化、④マネジメントの台頭。

われわれは、新しい問題を前にケース・バイ・ケースでの対応とならざるを得ないが、問題に対する最低限の基準を手にしておかなければならない。その基準は4つある。①企業とそのマネジメントを自立した責任ある存在にしておくこと。②変化を可能とする自由で柔軟な社会を守ること。③グローバル経済と国家の政治主権とを調和させること。④機能する強力な政府を維持強化すること。

実践ポイント

企業と政府の間で生じる問題は、最低限の基準を意識し、ケース・バイ・ケースで行う。

実践のための問い

その決断は、自らの自由を確保できるか。

 

 

19 プロフェッショナルの倫理―知りながら害をなすな

ドラッカー教授の名言

プロフェッショナルにとっての最大の責任は、(中略)「知りながら害をなすな」である。

医師、弁護士、組織のマネジメントのいずれであろうと、顧客に対し、必ずよい結果をもたらすと保証することはできない。最善を尽くすことしかできない。しかし、知りながら害をなすことはしないとの約束はしなければならない。

「プロフェッショナルの倫理―知りながら害をなすな」要約解説

企業倫理以前の問題として人間としての道徳観の問題がある。ごまかしたり、盗んだり、嘘をついたり、贈収賄したりはこれに属する。また美意識の問題がある。例えていえば「顧客をもてなすためにコールガールを雇うこと」である。しかし、それは倫理の問題ではない。さらに、アメリカでは顕著であるが、地域社会において積極的かつ建設的な役割を果たすことを求める倫理的責任である。しかしそれは、一個人の貢献の問題である。

マネジメントの人間に特有の倫理の問題は、彼らが集団的に見たとき、リーダー的な地位にあるという事実から生まれる。その本質は、リーダー的地位にあるグループの一員であるということは、プロフェッショナルであるというところにある。そこに求められるのはプロフェッショナルの責任である。プロたる者は「知りながら害をなすな」と顧客に約束しなければならない。すなわち、顧客がプロたる者は知りながら害をなすことはないと信じられる状態を作ることである。しかし、顧客に支配、監督、指揮されてはならない。自立性を保たねばならない。それは私的な存在であることを意味する。しかし、彼らプロたる者の権限は、公的な存在として与えられている。それを失えばプロたる地位を失う。

実践ポイント

プロとして仕事をするときは、「知りながら害をなすな」を問う。

実践のための問い

「知りながら害をなすな」と問う典型的な場面は何か

 

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<実践するマネジメント読書会®>創始者。『実践するドラッカー』(ダイヤモンド社)シリーズ5冊の著者。 ドラッカー学会理事。 マネジメント会計を提唱するアウル税理士法人代表/公認会計士・税理士。 ナレッジプラザ創設メンバーにして、ビジネス塾・塾長。 Dサポート㈱代表取締役会長。 ドラッカー教授の教えを広めるため、各地でドラッカーの著作を用いた読書会を開催している。 公認ファシリテーターの育成にも尽力し、全国に100名以上のファシリテーターを送り出した。 誰もが成果をあげながら生き生きと生きることができる世の中を実現するため、全国に読書会を設置するため活動中。 編著『実践するドラッカー』(ダイヤモンド社)シリーズは、20万部のベストセラー。他に日経BP社から『ドラッカーを読んだら会社が変わった』がある。 2019年12月『ドラッカー教授 組織づくりの原理原則』を出版。 雑誌『致知』に「仕事と人生に生かすドラッカーの教え」連載投稿中

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