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「わたしの非常事態宣言—でも悪いことばかりではないぞ」プロジェクトの趣旨に賛同し、投稿させていただきます。
私は、西條先生が主宰するエッセンシャル・マネジメント・スクール(EMS)に登壇する講師の一人です。その際、ドラッカー・マネジメントを皆さんに紹介しています(ドラッカー学会理事)。
第1回目の投稿に記事の趣旨を書かせていただきました。以下、一部転写。
マネジメントの父といわれるドラッカー教授(1909~2005)には、もう一つ社会生態学者という側面があります。この社会生態学(ソーシャル・エコロジー)という視点から、コロナ禍の真っただ中ゆえに観えてきたものを中心に投稿することで、みなさんの周りで起こっている「新しい現実」という変化を観察する眼を養う一助になればと思っています。
コロナ禍で引用されるドラッカーの言葉
5月2日の日本経済新聞(特集:コロナと資本主義)にドラッカー教授の言葉が引用されました。
「未知なる未来のために、現在の資源を使うことが、本来の意味における企業家に特有の機能である」
その引用は、新型コロナウィルスの治療薬として注目されているアビガンが長期的視点に立った開発の賜物であることを引き合いに出し、上場企業を中心に定着した短期的な利益志向を批判する記事に用いられています。
需要が蒸発し、売上が急減した事業を抱える企業は、資金繰りが逼迫し、自社株買いや配当といった株主還元を続々と中止しており、株主もそれを支持しています。この姿は、行きすぎた株主を重視する経営スタンスに修正を求めていると映ります。
コロナ禍で気づく「利益は存在しない。未来のコストである」
ドラッカー教授は言います。
利益は陳腐化、更新、リスク、不確実性をカバーする。この観点から見るならば、いわゆる利益は存在しないことになる。事業存続のコストが存在するだけである。こうしたコストを生み出すことは企業の責任そのものである。『現代の経営』
コストは、未来のコスト。具体的には、陳腐化、更新、リスク、不確実性をカバーするための未来のコストであると明示しました。
コロナ禍は、自然災害など不確実性に含まれます。ドラッカー教授は利益を保険料だとしました。不確実性に備え、企業を自ら防衛するのは過去の利益の累積、つまり内部留保だけです。そのようなことを補填してくれる損害保険はなく、政府も当てにはなりません。
企業を短期志向に走らせるのは、株価重視の経営です。その結果、自社株買いや配当の形で内部留保を取り崩し、未来のコストを賄う保険料たる累積利益を吐き出してきました。
その結果、上場企業でも2ヵ月程度で運転資金が枯渇するケースが続出しています。事業は、常に市場リスクや不確実性の上にあることを事業家は痛感しています。
株主の目的は投資資金が生むリターンです。つまりお金です。一方、企業の目的は、社会において特定のミッションを果たすことです。それは事業を行うことで顧客に価値を提供することをとおして実現します。両者の利害は事業が生み出す利益が頼りという一点で一致しますが、そもそも最終的な目的が異なります。
株主も経営が破綻すれば、短期的リターンさえ危ういとの危機感から長期志向に変化しつつあります。またレイオフなど雇用の調整により、優秀な人材が他の企業に流出すれば長期的には業績の低迷を通じてリターンが少なくなると懸念から長期志向に変わろうとしています。
デイトレーダーをはじめとした短期志向の株主の増加や人工知能(AI)による投資判断の影響もあり、短期志向が強まってきた市場にコロナ禍は、一石を投じています。短期志向株主の目に映っているのは株価であり、それを自社株買いや配当といった株主還元策が後押ししてきました。
コロナ禍で問われるこれまでのスタンス
利益は事業というプロセスをとおしての賜物であることが短期志向の株主の目にはぼんやりとしか映っていません。これから起こるであろう経営破綻の責任の一端は、これら短期志向の株主とこれに追従した経営者にも向けられることでしょう。
ドラッカー教授は厳しく指摘します。
マネジメントは、その話す言葉によっても、一般市民が経済の現実を理解することを不可能にしている。この点においてもまた、リーダー的な地位にあるものとして、「知りながら害をなすな」の原則に反している。(中略)彼らは、企業の目的は利潤の極大化にあると説明している。『チェンジ・リーダーの条件』
利益は株主のためにあるのではありません。社会において特定の役割を果たし、顧客に価値(満足)を提供してきた社会の道具である企業の継続のためにあるのです。そこのことを知っている経営者は、偽りの言動を取ってはいけないとドラッカー教授は厳しく指弾したのです。
株主は多くのステークホルダーの一角に過ぎません。アフターコロナでは、株主よりの重心がよき方向に移動する可能性を秘めています。
アフターコロナで問われる手持ちの経営資源の使い方
社会において特定の役割を果たすことを目的とする企業は、その実現のために事業を行います。すなわち「未知なる未来のために、現在の資源」を事業に投じます。
その事業の内容や業態がアフターコロナでは大きく変わる可能性があります。長期投資で有名なウォーレン・バフェット氏率いる米バークシャー・ハザウェイが「世界が変わる」として、保有していた米国航空会社の株式をすべて売却したことを先のオンライン株主総会で明らかにしました。賢人と称えられるバフェットの言葉には重みがあります。
アフターコロナの世界で多くの人がエアラインを使って出張して歩く姿が想像できないとの理由からです。「現在の資源」の使い方が今と変わらなければ、事業の未来が危ういと判断したのです。
私たちは「未知なる未来のために、現在の資源」をどうやって使うかを考えなければならないのです。何も変えないというスタンスは、過去の意思決定に基づいた資源の使い方の継続を意味します。意思決定の前提が大きく変わっているかもしれないということを注意深く観ていかなければなりません。
サティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)は「2年分のデジタル変革が2カ月で起きた」と述べました。予想を超えたスピードで変化は起こり、コロナ禍が終息したときには、浦島太郎のような状態にならないように変化を見つめ、現在持っている資源の使い方を今から再考し始める必要があります。
収益性の測定値は、その有する諸資源の利益創出の能力を示すものでなければならない。(中略)それはある一定の期間の利益を測るものであってもならない。永続事業体としての企業の収益性に焦点を当てなければならない。『未来企業』
現在の資源の使い方で未来の収益性は確保できるのか。
組織が社会的使命を果たし永続するためには、どのように現在の資源を投じればよいのか。
コロナ禍は、株主重視の経営に修正を迫る可能性があります。それは経営者の言動を顧みる機会でもあるのです。利益は未来のために使うという原理の真の意味を今こそ問うときなのです。
社会生態学(ソーシャル・エコロジー)という視点から、コロナ禍の真っただ中ゆえに観えてきたものを中心に投稿することで、みなさんの周りで起こっている「新しい現実」という変化を観察する眼を養う一助になればと思っています。
【社会生態学のポイント】
基本や原理原則に反するものを観る
【問いかけ】
環境が激変する中でよってマネジメントの基本や原理原則に反する行動は何ですか
エッセンシャル・マネジメントスクール西條代表、さくらインターネット田中代表、サイボーズの青野代表が発起人となって「わたしの非常事態宣言 − でも悪いことばかりではないぞ」プロジェクトが発足されました。どのような内容でも結構です。みなさんもぜひハッシュタグ「#わたしの非常事態宣言」でポジティブな発信をお願いいたします!
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