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「わたしの非常事態宣言—でも悪いことばかりではないぞ」プロジェクトの趣旨に賛同し、投稿させていただきます。
私は、西條先生が主宰するエッセンシャル・マネジメント・スクール(EMS)に登壇する講師の一人です。その際、ドラッカー・マネジメントを皆さんに紹介しています(ドラッカー学会理事)。
第1回目の投稿に記事の趣旨を書かせていただきました。以下、一部転写。
マネジメントの父といわれるドラッカー教授(1909~2005)には、もう一つ社会生態学者という側面があります。この社会生態学(ソーシャル・エコロジー)という視点から、コロナ禍の真っただ中ゆえに観えてきたものを中心に投稿することで、みなさんの周りで起こっている「新しい現実」という変化を観察する眼を養う一助になればと思っています。
「自粛要請ではなく外出禁止になぜできないのか」という声があります。今後、わたしたち日本人の自由は、より制限的になるのか。観えてきた「新しい現実」として書いてみたいと思います。
不条理の文学の代表作カミュの『ペスト』
「わが市民たちも人並み以上に不心得だったというわけではなく、謙虚な心構えを忘れていたというだけのことであって、自分たちにとって、すべてはまだ可能であると考えていたわけであるが、それはつまり天災は起こりえないと見なすことであった。彼らは取引を行うことを続け、旅行の準備をしたり、意見をいいだしたりしていた。ペストという、未来も、移動も、議論も封じてしまうものなど、どうして考えられたであろうか。彼らは自ら自由であると信じていたし、しかも、天災というものがあるかぎり、何びとも自由ではありえないのである」。
不条理文学の代表作、カミュの『ペスト』(1947)の一説です。カミュは、自らの第二次世界大戦におけるレジスタンス活動で養われた思想をとおして、戦争や大災害といった極限状況に置かれた人間を描きました。その中で人間はどのように向き合い、どのように行動していくべきかを問いかけました。
『「経済人」の終わり』で「不合理の悪魔」と呼んだドラッカー教授
「ブルジョア資本主義とマルクス社会主義の崩壊は、あの世界大戦と大恐慌を通じて、人間一人ひとりの実体験となった。これら二つの破局が、既存の社会、信条、価値観を不変のものとして受け入れてきた日常を粉々にした。突然、社会の表層の下にある空洞がさらけ出された。ヨーロッパの大衆は初めて、社会が合理の力ではなく、目に見えない不合理の悪魔によって支配されていることを知った」
不条理を描いたカミュ、それを目に見えない不合理の悪魔と呼んだドラッカー教授。ともに戦争の世紀といわれる20世紀の前半の不条理と人間のあり方を私たちに問うています。
ドラッカー教授の『「経済人」の終わり』は、1939年に発刊されているので、上記文中の「あの世界大戦」は、第一次世界大戦を指しています。1914年に始まり1918年に終わったこの大戦の終盤にスペイン風邪が流行し、世界中に蔓延。数千万人(一説には1億人とも)が死亡しました。
敗戦国であり人心と国土の荒廃でドイツはこれを当初放置。対応の遅れがさらなる惨劇を呼びました。今回の新型コロナの感染症対策でドイツは、この時の経験を活かし、欧州諸国の中で群を抜いた成果をあげています(致死率3%など)。
第一次世界大戦と世界恐慌という目に見えない不合理の悪魔に襲われ、その空隙をナチス全体主義に占拠され、独裁を許したドイツでは自由に対する制約に対する国民の関心は高いといわれています。しかし今回の新型コロナ感染症対策では、罰則付きの外出制限と接触制限措置を適用しています。
「新しい現実」~あらわになった日本の自由~自由の制限
対する日本ですが、第二次世界大戦においてドイツと同じように全体主義の経験をもっているにもかかわらず外出自粛要請と休業要請という国民の行動に関する強制力のない法律に基づいて感染症に向き合っています。世界的な非常事態の中、我が国は自由の制限に関しては、世界で最も規制が緩い国の一つであることが浮き彫りになっています。先進国で何で日本だけ外出を強制できないような法律になっているの…と思った方は私だけでしょうか。
国家主義の中国ばかりでなく、自由主義を標榜する欧米諸国においてもWHOがパンデミック宣言をする前から自由の制限にあたる施策を実行しています。
これは自由の制限が少ないという点においては誇るべきことですが、自由に関する国民の十分な理解が前提でもあるのです。私たち日本人は、コロナ禍によって「自由」に関して考える貴重な機会を得たのではないでしょうか。
自由とは何か~「和して同ぜず」の真の意味
「自由とは解放ではない。責任である。楽しいどころか一人ひとりの人間にとって重い負担である。それは、自らの行為、および社会の行為について自ら意思決定を行うことである。そしてそれらの意思決定に責任を負うことである」。
ドラッカー教授は、全体主義の再来を防ぎ、自由な社会を実現するための条件を明確にした書、『産業人の未来』(1942)で上記のように自由の意味を明言しました。自由に関する制限が大幅に少ない国の住民であるからには、自由が意思決定と責任を伴う行為であることをよく理解する必要があります。
とりわけ人を集めて事業を行う行為は、社会の行為であることを理解しなければなりません。組織は社会的な機関だからです。意思決定とは選択肢の中から価値観や信条などに基づいて一つ選ぶことです。
横並び主義とも、同調圧力が強い国とも評される日本。「和して同ぜず」とは、誰かにあるいは、何かに同調するのではなく、侃々諤々(かんかんがくがく)遠慮することなく意見を表明し、その意見を基に選択肢を形成し、一つを選ぶことです。これが真の和の精神です。このような意見表明の機会は、自由な社会には不可欠な要素です。
コロナ禍はきっかけにすぎない。「すでに起こった未来」に何を観るか
「罪なき人々の死」「医療関係者の苦難」「感染症を原因とした経営破綻」など……私たちの人生は「不条理」としかいいようのない出来事が起こるリスクと隣り合わせだったことをコロナ禍をきっかけに思い知らされています。同時に日本の自由(私権)に関する制限のあり方が、浮き彫りなっています。各国とも制定済みの法律の中で自由を制限する施策を取っています。その意味では現在の状況は、法律制定時点で決まっていたこと、つまり「すでに起こった未来」だったということです。コロナ禍はそのきっかけにすぎなかったということです。
感染症との闘いは、これからも続きます。「自由」に関する議論が低調なわが国にも今回のコロナ禍は一石を投じることになるでしょう。すなわち今後コロナ禍が終息した頃、たとえば罰則つきの外出禁止条項制定などの動きが出てくるかもしれません。人々の口に上がった以上、意識が動いたことは間違いないからです。意識が変わらなければ、行動の変化はありません。ましてルールや制度が変わることはありません。今後、日本人は、世界標準の自由、つまり責任を伴う自由と向きあうことになるでしょう。
第一次世界大戦後、ドイツはワイマール憲法を制定(1919)し、「公共の安全と秩序が著しく乱れる、あるいは、危険に晒される時、公共の安全と秩序の再建に必要な措置を取ることができる。必要な場合には、武力を用いて介入することもできる。この目的のために大統領は、第114、115、117、118、123、124、153の各条に定めた基本権の全部または一部を、暫定的に停止することができる」と自由を制限する条項(第48条2項)を設けました。
114条:人身の自由
115条:住居の不可侵
117条:信書・郵便・電信・電話の秘密
118条:意見表明の自由
123条:集会の自由
124条:結社の自由
153条:財産権の保障
しかし、この条項は、後にヒトラーによって悪用され、独裁を許すことになりました。ドイツは代償を払い、深くそのことを学びました。自由の制限と自由な社会の実現は人類に課された難問です。
社会生態学(ソーシャル・エコロジー)という視点から、コロナ禍の真っただ中ゆえに観えてきたものを中心に投稿することで、みなさんの周りで起こっている「新しい現実」という変化を観察する眼を養う一助になればと思っています。
【社会生態学のポイント】
人々の意識の変化を観る
【問いかけ】
「自由に関する制限」は人々の意識の変化の一事例にすぎません。今回のコロナ禍をきっけに、感じている変化の兆候は何ですか。また、それによって人々の意識にどのような変化が現れていますか。
エッセンシャル・マネジメントスクール西條代表、さくらインターネット田中代表、サイボーズの青野代表が発起人となって「わたしの非常事態宣言 − でも悪いことばかりではないぞ」プロジェクトが発足されました。どのような内容でも結構です。みなさんもぜひハッシュタグ「#わたしの非常事態宣言」でポジティブな発信をお願いいたします!
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