部下のモチベーションを上げるのは上司の責任って本当?

部下のモチベーションアップは、管理者にとって悩みの種です。「給料を上げても変化がなかった」「褒めたり励ましたりするほど、部下のモチベーションが下がっている気がする」など、もはや打つ手がないという人も多いのではないでしょうか?

そこで今回は、「部下のモチベーションを上げるのは上司の責任なのか?」をテーマに、くわしくまとめてみました。最新のデータを取り上げながら、対処法についてもお伝えしていきます。ぜひ参考にしてください。

\私がお答えします/

清水 祥行(しみず よしゆき)

1968年、兵庫県西宮市うまれ。同志社大学卒。
Dサポート株式会社代表取締役、
ナレッジプラザ・ドラッカー読書会認定ファシリテータ、
一般財団法人しつもん財団認定ビジネス質問家、
経済産業省登録中小企業診断士(平成8年登録)。
楽天大学にて「もし楽天店舗さんがドラッカーのマネジメント論を学んだら」講師を務める。

部下のモチベーションで悩む上司が増加中

今、部下のモチベーションを高めることで悩む上司が増えています。2020年10月14日から11月19日までの期間、株式会社アルヴァスデザインが実施した調査で明らかになりました。まずは、こちらのグラフを見てください。

出典:株式会社アルヴァスデザイン
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000026.000015496.html

 

同調査は、民間の企業に勤める部長・課長1310人を対象に行われています。その結果、いちばんの悩みは「モチベーションを高めること」80.3%でした。2019年の56.3%から24%もアップしています。その他の悩みに関しては、2019年と2020年でほとんど変わりません。

なぜ、部下のモチベーションで悩む上司が増えているのかというと、コロナ禍の影響ではないかと推測されています。もし、2021年も感染拡大が続く場合、さらに悩む人が増えるかもしれません。

 

部下のモチベーション低下は上司の責任?

部下のモチベーションの低下は、上司の責任だと言えるのでしょうか? まずはこちらのグラフを見てください。先ほども取り上げた、アルヴァスデザインの調査結果です。

出典:株式会社アルヴァスデザイン
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000026.000015496.html

 

ここで言う「マネジャー」とは、部長・課長クラスの管理者のことです。「マネジャーの役割は何か?」という問いに対して、「人を育てること」「モチベーションを高めること」と回答した人は、全体で約90%となっています。

この結果が全てではないですが、業務上で「部下のモチベーションを高めること」を重視する人は多いといえそうです。その役割を果たすことができなかった場合、責任を感じてしまうことがあるのかもしれません。

ただし、本来、モチベーションは自分で管理するものです。部下のモチベーション低下の責任は、上司だけにあるとは言えないところがあります。特に現在は、コロナ禍の影響で世界全体のモチベーションが下がり気味です。そういった意味では、上司の立場にいる人だけが、一人で責任を抱える必要はないでしょう。

 

真のモチベーションはお金以外のところで生まれます

報酬(お金)の不満がスタッフのモチベーションを失わせることは疑いようもありません。しかしだからといって、報酬を上げればそれだけモチベーションがグングンと上昇するかといえば、決してそうとも言えないのが難しいところです。

清水
清水
しかも強い金銭的動機で仕事をする人は、しばしば道徳から逸脱した行いをしてしまう危険性もあります。

営業成績トップで一目置かれていた人が、実は「裏ではえげつないやり方で営業をしていた」「水増し報告でズルをしていた」「顧客のことをカモとしか考えていなかった」……といった話は、枚挙に暇がありません。

そういた悲劇がなぜ起こってしまうのか。間違いなくその原因の一つには、インセンティブ方式で金銭的動機を刺激しようとする組織体制が挙げられます。

では、仕事のモチベーションは、どこから得ればよいのでしょうか。どうすれば、仕事のモチベーションが高まるようになるのでしょうか。

たとえば、将棋が大好きな人は、当たり前ですが「将棋を指すこと」に大きなモチベーションがあります。誰に頼まれたわけではないのに、「どうすれば勝てるのか」「こうすればもっと有利に戦えるのではないか」「あの局面ではこう対応すればいいのかもしれない」といったように、自ら進んで将棋を学び、強くなろうとしますよね。

清水
清水
実は仕事も同じで、仕事のモチベーションは、カネではなく、仕事そのものからモチベーションを得るのが理想なのです。

ボランティアの人たちのことを思い浮かべてみてください。ボランティアに携わる人々は、一銭のお金にもならないにもかかわらず、一生懸命に働きます。スタッフが見ているのは、ボランティアによって社会に与える「貢献」です。貢献(=目的・使命)の意識があるからこそ、ボランティアを続けることができるのです。

貢献に焦点を合わせることによって、コミュニケーション、チームワーク、自己開発、人材育成という、成果をあげるうえで必要な四つの基本的な能力を身につけることができる

ドラッカー『経営者の条件』

組織は道具である。(中略)したがって、目的すなわち使命が明確であることが必要である。組織は一つの使命しかもってはならない。さもなければ、組織のメンバーは混乱する

ドラッカー『ポスト資本主義社会』

大切なのは、経営者(あるいは役員)として、事業の使命を社員にしっかりと伝え、共有すること。顧客や社会のために、自分たちの会社がどんな貢献をしていくのか――事業のミッションを明確にすることで、スタッフのモチベーションは改善されていきます。

社員のモチベーションが低い、あるいはなかなか上がらないという場合、もしかしたらそこには、“そもそもこの仕事は何のために行っているのか”という意味付けが足りていない可能性があります。

清水
清水
事業の目的・使命を明確にすることではじめて、社員にお金以外の動機、すなわち「責任」を与えることができます。まずはぜひ一度、以下の問いを参考にしてみてください。

1. われわれのミッションは何か
2. われわれの顧客は誰か
3. 顧客にとっての価値は何か
4. われわれにとっての成果は何か
5. われわれの計画は何か

ドラッカー『経営者に贈る5つの質問』

 

 

あなたへの問い

Q1:あなたのチームが挙げるべき成果はどんなものですか?
「業績に直接かかわるもの」だけでなく、「制作過程やその生産物についての工夫や改善」、「同僚や部下もしくはその部下の能力的成長・人間的成長」など、思いつくかぎりあげてください。

(あなたが気にかけている部下に対して)
Q2:どの成果に対して、どんな貢献を期待していると伝えますか?

Q3:その部下のモチベーションのスイッチは、どこにあると思いますか?
これまでの彼(彼女)が「活き活きとし始めた場面」や「急に沈んだ場面」などを思い起して、上記のキャリア・アンカーなどを参考に考えてみて下さい。

▼問いの解説

部下のモチベーションをあげることが上司の責任だと考えると、真面目な方ほど悩みます。

しかし、上司が責任を負うべきなのは、自分のチームの「仕事」であり「その仕事の成果」です。
部下が成長し、自信をつけ、自分の仕事に誇りを持つことも起こるでしょうが、それは仕事の副産物です。
そもそも、成果がない(もしくは「わからない」)仕事に誇りや自信を持てるはずがありません。

上司が責任を負うべきは、まず第一に仕事そのものです。(Q1)
この質問に対しての答えは、複数あるはずですが、1つしか書けない方が意外と多いのです。
訊かれて明確に答えられず曖昧な対応をすることは、やる気のある部下のモチベーションを確実に下げています。

そのうえで次に考えるべきなのは、部下と共通の認識をつくることです。(Q2)
この認識の確認をしないままで、一人合点で勝手な期待をして、察してくれない相手に苛立ちを感じたり、察してくれていると思い込んでいた部下に裏切られたと感じる方も多いようです。
しかし、誰しも「何を考えているかわからず、突然に感情的になる上司」の顔色をうかがいながら働きたいと思わないでしょう。
できれば、部下自身が「どんな貢献を期待されていると考えているか」を訪ねるべきです。

一人ひとり個性の違う部下のモチベーションに気を配るのは最後です。(Q3)
これには、人によって上手&下手があって当然です。
しかし、自分が下手であることをあまり気にする必要はありません。
Q1とQ2を徹底して行えば、いずれその能力もついてくるでしょう。

逆に、むしろ自分は上手だと考えて、Q1やQ2をおろそかにする方の方が危険です。
方法論として、他人を「心理操作」するテクニックに走る傾向があるからです。
ドラッカー教授も指摘しているので、次の言葉をご紹介します。

======ドラッカーの言葉======

いかに多くの心理セミナーに参加しようとも、心理的専制を実践しようとしてはならない。
自らが最初の犠牲者になるのがオチである。
失敗するに決まっている。成果はあがらない。

仕事のうえでの人間関係は尊敬に基礎をおかなければならない。
これに対して心理的専制は、根本において人をばかにしている。
伝統的なX理論以上に人をばかにしている。

『マネジメント〈上〉』p.295

【解説者】清水祥行プロフィール

Dサポート株式会社代表取締役、ナレッジプラザ・ドラッカー読書会認定ファシリテータ
一般財団法人しつもん財団認定ビジネス質問家、経済産業省登録中小企業診断士(平成8年登録)

清水祥行
『ドラッカーを読んだら会社が変わった!(日経BP社刊)』『ドラッカー教授組織づくりの原理原則(日経BP社刊)』編集協力。 中小企業におけるドラッカーのマネジメント実践をサポートする[実ドラ・実践ナビゲータ]。 『実ドラ:実践するドラッカー』シリーズ(ダイヤモンド社)をテキストに、1日一冊で、マネジメントを実践的&体系的に学ぶ[実践するマネジメント講座]の講師を全国で務める。  趣味は、受講企業に訪問して実践事例を取材するとともに、自社では気付かない強みをフィードバックすること。

 

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