フレデリック・ウィンスロウ・テイラー(米1856~1915)は、仕事の能率を客観的に分析し、生産性を高める方法を追求した人物である。もともとは雇われの技術者だったが、のちにコンサルタントとして独立。今日では「科学的管理法の父」として称えられ、経営学を語る上では避けられないキーパーソンである。
しかし当時はまだ、仕事の能率を高める知識が圧倒的に不足していた。テイラーの生きた19世紀末について、ドラッカーは次のように述べる。
「テイラーの時代のアメリカでもっとも敬意を払われ、力を誇っていた労働組合は、兵器廠と造船所の労働組合だった。第一次世界大戦前には、軍需品はすべてそれらの工場で生産されていた。労働組合は技能の独占体であって、しかもそこに入れるのは組合員の子弟や縁者だった。最初の五年から七年は徒弟として扱われ、仕事の分析も体系的な訓練もなかった。書き写すことは許されず、青写真や設計図もなかった。秘密保持を義務づけられ、仕事について非組合と話すことを禁じられた。」
(『プロフェッショナルの条件』より)
こうした背景から、「仕事は研究され、分析され、一連の単純反復行動に分解される」というテイラーの考えは、当時はすぐに受け入れられなかった。その発想は、とくに労働組合にとって異端そのものだった。
またテイラーは、当時の経営者からも批判された。なぜなら彼は、科学的管理法の受益者は労働者にあるとしたからだ。
科学的管理法が評価されたのは、テイラー亡き後の後第一次・第二次世界大戦の頃である。短期間で一流の工員を育成しなければならなかったことから、科学的管理法が政府主導で導入されたのだった。
テイラーは「いかに行うか」、ドラッカーは「何が目的か」
ドラッカーはテイラーのことを、「知識」を仕事に役立てた先駆者と称えた。テイラーの科学的管理法は、「知識労働」の夜明けを意味したのだ。
一方でドラッカーは、テイラーの限界をみる。テイラーの研究テーマは、能率を高めるために仕事を「いかに行うか」に終始した。ドラッカーからすれば、それは真の意味で生産性に貢献するものではなかった。なぜなら経営者や現場管理者が「こうすれば効率的だから、このようにしなさい」と押し付けるだけになってしまうからだ。
つまり科学的管理法で仕事の能率が高まる方法が明らかになったとしても、労働者の自主性を育てることはできないのである。
ではドラッカーなら、どう考えるか。
「……知識労働の生産性の向上を図る場合にまず問うべきは、「何が目的か。何を実現しようとしているか。なぜそれを行うか」である。手っ取り早く、しかも、おそらくもっとも効果的に知識労働の生産性を向上させる方法は、仕事の定義を見直すことである。特に、行う必要のない仕事をやめることである。」
(『プロフェッショナルの条件』より)
ドラッカーは常に、仕事の目的(成果)を強く問う。それこそが働く人の自主性を育て、生産性を伸ばすカギなのだ。
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