『経営者の条件』(1966)は、原タイトル“The Effective Executive”のとおり、成果をあげることを期待されるすべての方に必携の一冊といえるでしょう。そのような性格の本書は、書店の本棚では「自己啓発」コーナーに並べられてもおかしくありません。
自己啓発書のベストセラーに成功哲学の原典ともいうべきジェームズ・アレンの代表作『原因と結果』(AS A MAN THINKETH 1902)があります。本書を読むと帳簿つけ、羊飼いなどの職業は出てきますが、組織で働く人の姿はまったく見当たりません。出版時期から考えると企業などの組織で働く人はまだメジャーな存在でなかったことがわかります。
時代は進み、アメリカで二人の成功哲学者が生まれ、現代でもなお大きな影響力を誇る存在となっています。一人は、成功哲学の父とも言うべきディール・カーネギーです。代表作に『人を動かす』(How to Win Friends and Influence People 1936)があります。人に影響力を行使する方法や心構えが書かれており、世界で1500万部以上売れている大ベストセラーとなっています。
さらに「成功哲学」を体系化した人物といわれているナポレオン・ヒルの存在があります。代表作に『思考は現実化する』(THINK and GROW RICH 1937)があります。アンドリュー・カーネギーやヘンリー・フォードなど立志伝中の人物へのインタビューをまとめたものです。内容は、願望、信念、潜在意識など個人の心の姿勢を説くものが多く、企業家個人のバイブルとしての性格が色濃く出ています。
これら三つの代表作の出版は、いずれも第二次世界大戦前です。そして戦後、最も影響力を及ぼした自己啓発書は、世界で2000万部以上を売り上げている『七つの習慣』(The 7 Habits of Highly Effective People 1989)です。同書は、個人、家庭、組織での成功の原則を明らかにしたもので、今では組織と個人の関係は成功の大前提です。
これら大ベストセラーの間にあって、自己啓発書として確固とした位置づけを得るべき存在が『経営者の条件』です。しかも知識労働者のための自己啓発書として先駆的存在です。現代社会における一人ひとりの自己実現は、組織の存在抜きには語れません。組織の中でいかに自己実現を達成するのか。それがドラッカー教授が向き合ったテーマです。
ドラッカー教授は「組織は道具である」といいます。同書は、組織を使って成果をあげ、人生をいかに豊かに生きていくかという視点から、人生100年時代の今こそ、不可欠の1冊といえましょう。
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