あなたがもし、仕事や家庭・人間関係に悩みがなければ、この本を読む必要はないだろう。でも、少しでも課題があるとしたら、手にとって読んでみてほしい。きっと解決にむけてのヒントがつかめるはずだ。そして、そのヒントはあなたの人生そのものを変えてしまうほど、強烈でインパクトがあるものかもしれない。
『人生を変えるドラッカー』。著者は吉田麻子さん、出版社はダイヤモンド社。P.F.ドラッカーの名作『経営者の条件』を小説で読み進め、登場人物の視点を通じて自己マネジメントを学ぶことができる一冊。
この本の主な登場人物はこんなひとたちだ。社長に叱られ自信喪失のOLは、研修会社「ポテンシャル」の総務課勤務の青柳夏子。成績不振に悩む営業マン、広告代理店「フレッシュエージェンシー」営業4課の杉並柊介。脱サラ起業がうまくいかず、キリキリ舞いの「カフェプレミアン」のオーナー堀川徹。みな、市井の人たち。それぞれの目の前に立ちはだかる悩みや壁を、どのように乗り越えていったのか。その成長ストーリーが描かれている。
夏子はたまたま乗った札幌駅前行きのバスの中で、乗客の会話を聞いてしまう。「おまえ、ドラッカーって知っているか? ドラッカーはこう言っているんだ。『ほかの人間はマネジメントできないが、自分(のこと)はマネジメントできる』ってね。さっきから人のことばっかり言っているけど、自分はどうだ? まずは自分が変わってみたらどうだ?」と。
そのやりとりはつづく。
ドラッカーの「『経営者の条件』という本は、タイトルは『経営者』とあるけれど、実際は誰でも読める本だよ。いわゆる“仕事ができる人”に共通する、5つの能力について説明してあるんだ」。
登場人物それぞれが、それぞれの事情を抱えながら、「ドラッカー読書会」という一冊の本を読み合う会に参加することになる。その会ではテキストとなる本のことをこう説明しているくだりがある。「この『経営者の条件』は、ダイヤモンド社から出ているドラッカー名著シリーズの第1巻目に当たります。ドラッカーはその生涯で40冊、いや論文集なども含めれば50冊以上もの本を書いているんですね。そのなかで記念碑的な12作品を厳選したのが、このシリーズです。そのトップバッターがこの本なんですよ」と。
「本の全体を見ていきましょう」と、「リザルト学習塾」の塾長であり、ドラッカー読書会の主宰をする東堂久志が説明をつづける。「まず序章で、できる人に共通する心構えが説かれています。続く第1章で、働く人々の現実を指摘しつつ、私たちを勇気づけるメッセージをくれます。成果をあげる能力は、生まれつきのものではなく、努力で身につくものなんです」。
さらに東堂は説明をつづける。「ここから具体的に、5つの能力が一つひとつ紹介されます。第2章は、時間の確保。時間の使い方を意識するだけで、生活がすっかり変わります。第3章は、貢献。組織に属する一人ひとりが、組織の成果に対して何をするか、ということです。これは、個人のエネルギーを組織の成果につなげる、非常に重要な視点です」。
「第4章は、私たち日本人にとって大切かもしれませんね。よく、強みを伸ばすより弱点の克服ばかりが重視されると言われますよね。テストも減点方式が多いですし、ミスをしないことばかりに目が行きがちです。でも、成果は強みを生かすことであがるんです」
「第5章は、集中です。人間、やれることは一度にひとつ。大事なものの優先順位、いらないものの捨て方が書いてあります。そしてそれを決断するときに必要なものが、意思決定の能力です。第6章、第7章でじっくりと説明されています」。
悩める営業マン・柊介に作者はこう言わせている部分がある「ドラッカーは『経営者の条件』でセルフマネジメントを説いていながら、個人と組織、そして社会との関わりを抜きにできないことを、最後に強調しているように感じました」。ドラッカー読書会主宰の東堂はこう締める「ドラッカーを読むと、その人の仕事の成果が出るようになるのはもちろんのこと、その人の人生までが輝き始めると、私は思っているんです。それが、ドラッカーのセルフマネジメントのすごさではないでしょうか」。
ドラッカーの『経営者の条件』を読みあう「ドラッカー読書会」を通じて、それぞれ悩みある人たちが、ドラッカーのことばからヒントを得て、気づき、それぞれの持ち場で成果をあげていくようすが生き生きと描かれている。とある読書会中継を垣間みて、主人公たちが成功していくさまを見ているようだ。だが、このストーリーは小説のなかだけのフィクションではない。著者の吉田さんは北海道函館市を中心に、実際に読書会を主宰している。物語りを越えたノンフィクションを目の当たりにしてきたひとりだ。だからこそのリアリティがある。
ふだん、ビジネス書などを読まない人にとって、ドラッカー本は少々荷が重い。ハードルが高いかもしれない。けれど、そうした人こそ、この『人生を変えるドラッカー』本は最良の一冊、入門書になるだろう。事実、「『人生を変えるドラッカー』略して“ジンドラ”を読んで読書会に参加しました」という人が後を絶たないという。ページのあちこちにちりばめられたドラッカーの言霊。それを知るだけでも、充分、価値があるだろう。本文254ページを読了後は、さわやかながら熱い想いが込み上がっているはずだ。
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