あなたがもし、仕事や家庭・人間関係に悩みがなければ、この本を読む必要はないだろう。
でも、少しでも課題があるとしたら、手にとって読んでみてほしい。
きっと解決にむけてのヒントがつかめるはずだ。そして、そのヒントはあなたの人生そのものを変えてしまうほど、強烈でインパクトがあるものかもしれない。
『人生を変えるドラッカー』(出版社はダイヤモンド社)は、世界中で読み継がれてきた自己啓発のバイブル『経営者の条件』を、小説という物語を通じて読者に伝えるという面白い構成になっている。
『経営者の条件』は、“マネジメントの父”または“マーケティングの祖父”と称される経営思想家、ピーター・F・ドラッカーの著作だ。
ドラッカーの経営思想は、イトーヨーカドー、ユニクロ、マイクロソフト、Google、GE(ゼネラル・エレクトリック・カンパニー)など、数々の有名企業に多大な影響を与えている。
なにを隠そう、著者の吉田麻子さんもまた、ドラッカーの『経営者の条件』を学び、現実の仕事で成果を積み上げてきた実践者なのだ。
まさに吉田麻子さん自身が、“ドラッカーに人生を変えられた”本人であり、まさに本書は、吉田麻子さんの実践体験が色濃く反映された物語となっている。
ふだん、ビジネス書などを読まない人にとって、ドラッカーの著作は少々荷が重い。ハードルが高いかもしれない。
けれど、そうした人こそ、この『人生を変えるドラッカー』本は最良の一冊、入門書になるだろう。
事実、「『人生を変えるドラッカー』を読んで読書会に参加しました」という人が後を絶たない。
ページのあちこちにちりばめられたドラッカーの言霊。それを知るだけでも、充分、価値があるだろう。本文254ページを読了後は、さわやかながら熱い想いが込み上がっているはずだ。
この記事では、これから『人生を変えるドラッカー』を読もうとしている方に向けて、要約というかたちをとりながら、思わず手に取りたくなるように、魅力を伝えていく。
『人生を変えるドラッカー』のあらすじ
この本の主な登場人物はこんなひとたちだ。
社長に叱られ自信喪失のOLは、研修会社「ポテンシャル」の総務課勤務の青柳夏子(主人公)。
成績不振に悩む営業マン、広告代理店「フレッシュエージェンシー」営業4課の杉並柊介。
脱サラ起業がうまくいかず、キリキリ舞いの「カフェプレミアン」のオーナー堀川徹。
みな、市井の人たち。それぞれの目の前に立ちはだかる悩みや壁を、どのように乗り越えていったのか。
それぞれ悩みを抱えた人たちが、『経営者の条件』の学びを通じて成長してゆくストーリーが描かれている。
『人生を変えるドラッカー』の構成
本書は全4章で成り立っている。
夏子や仲間たちが、仕事で成果が上がらず悩んでいるところから始まり、『経営者の条件』と出会い、ドラッカーの言葉を“実践”し、徐々に変化があらわれてくる物語が描かれている。
物語の構成は直線的で、非常にシンプル。文体もやわらかで読みやすい。文章が沁み通っていくようにサラリとしている。小説にあまり親しみのない方でも、物語にグイグイと引き込まれていくだろう。
以下に、本書の目次を網羅してみた。
第1章「その出会いは、いきなりやって来た」
- 夏子、社長からガツンと叱られる
- 柊介、営業数字の未達に悩む
- 徹、念願のカフェ立ち上げのはずが……
- 偶然に導かれるように
- 読書会で何かが変わるかもしれない
第2章「ドラッカーを学び始めたら」
- 「成果をあげる人」になりたい!
- 誰もが「知識労働者」である
- お客さんのことが、数字にしか見えない
- 「汝の時間を知れ」
- 時間がない!
- 「どのような貢献ができるか」
- 倒産なんてさせるものか!
- みんなでドラッカーを読みませんか?
第3章「実践!実践!実践!」
- 時間を記録してみよう
- 「人の強みを生かす」
- 全員の強みを総動員せよ
- 仕事は人をすり減らすのか?
- 「最も重要なことに集中せよ」
- 「何を捨てる?」
第4章「「成果」って何だろう」
- 人はどうして働くのか
- 「成果をあげる意思決定」をする
- 強みを生かす姿勢
- 成果は外にある
- 真に意味をあることを積み上げよう
- 正しい意思決定をしよう
- 「成果をあげる能力を修得せよ」
『人生を変えるドラッカー』の特筆すべきポイント
主人公の夏子がドラッカーに出会うきっかけとなった「ドラッカー読書会」は、実は現実に開催されている「実践するマネジメント読書会®」がモデルになっている。これが本書の特筆すべき点だ。
したがって、第1章の4節「偶然に導かれるように」から展開される読書会の様子は、実際の読書会と非常によく似ている。
『人生を変えるドラッカー』の読者が、「実践するマネジメント読書会®」に参加する事例が後を絶たないのもうなずける。
『人生を変えるドラッカー』で印象的なセリフ
「口八丁手八丁、クライアントから予算を引き出すのが得意な僕って、何のために存在しているんでしょうか」(本書、p.88)
「俺は、仕事で自分をすり減らしてきた。やればやるほど、スカスカになっていくんだ。MVPでちやほやされても、何の足しにもなりゃしない。自分がどんどん嫌なやつになっていくんだよ」(本書、p.166)
「始めるのに遅すぎることはないんです。何と言ってもドラッカー教授自身、九五歳で亡くなるまで、『次に書くのが最高の本だ』と言い続けていたのですから。僕らなんて、これからですよ」(本書、p.63)
「みなさんの組織は、外、つまりお客様や社会に何を差し出すためにあるのでしょうか。それこそが、組織の成果なのです。答えは簡単に見つからないかもしれません。でも、いつもの仕事から目線を上げてみてください。視野を広げてみてください。必ず見つかるはずですよ」(本書、pp. 116-7)
「自分のしたことが世の中につながるんだ。ニンジンを追いかけるんじゃない。さざなみのような小さな変化でもいい、自分の仕事で社会に変化を起こすんだ」(本書、p.222)
「私たち知識労働者にとって、時間は貴重な資源です。この代替不可能な資源にどう向き合うか――これが、第一番目の成果をあげる能力なのです」(本書、p.98)
おわりに
ドラッカーの『経営者の条件』を読みあう「ドラッカー読書会」を通じて、それぞれ悩みある人たちが、ドラッカーのことばからヒントを得て、気づき、それぞれの持ち場で成果をあげていくようすが生き生きと描かれている。
まるで、主人公・夏子たちが読書会を通じて成長していく様子を、読者が中継で垣間みているようだ。
だが、この物語は小説のなかだけのフィクションではない。
著者の吉田麻子さんは北海道函館市を中心に、実際に読書会を主宰している。
物語りを越えたノンフィクションを目の当たりにしてきたひとりだ。だからこそのリアリティがある。




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