『経営者の条件』(原題:The Effective Executive/著:ピーター・F・ドラッカー/1966年)は、仕事で成果をあげるために必要なものの見方・考え方をまとめた、“マネジメントの父”ことドラッカー三大古典のひとつである。
本書は当時の書評で「組織の罠から逃れるうえで不可欠なサバイバル・マニュアル」と称された。
たとえばドラッカーを信奉する『ビジョナリーカンパニー』のジム・コリンズは、次のように評する。
世界を変える方法は二つある。ペンつまり理念によって、あるいは、剣つまり行動によってである。ドラッカーはペンを執り、剣を持つ無数の人たちに影響を与えた。1956年、ディヴィッド・パッカードはドラッカーの影響を受けつつ、ヒューレッド・パッカード社が目指すべきものを書き上げた。パッカードが座右の銘の書としていたのが、今でも最高の経営書とされている『経営者の条件』(1954年)だった。
(『ドラッカー365の金言』p. iv)
『経営者の条件』では、”成果をあげる能力は才能ではなく習慣であり、誰でも身に着けられる”とを論じている。翻訳者の上田氏が「現代の働く人たち全員のために書いた万人のための帝王学」と評しているように、本書は経営者だけでなく、幹部や役員はもちろん、一般従業員やアルバイトにまで適用できる内容となっている。マネジメント能力を身につけたい人には、必読の書である。
1分でわかる!『経営者の条件』の要点まとめ
一章の要点:成果をあげるために必要なのは「習慣」である
- 時間を管理する
- 外の世界への貢献を意識する
- 自分・上司・同僚・部下の強みを生かせ
- 物事の優先順位を決めて集中せよ
- 満場一致の意見のときは意思決定してはならない
が成果をあげる5つの習慣である。
二章の要点:時間という希少な資源を有効に使え
仕事は「計画」からスタートするな。「時間の管理」からスタートせよ。自分が自由に使える時間がほとんどないことを自覚し、どれだけ時間の浪費をしているかを分析しなければならない。
三章の要点:成果をあげる人間は「貢献」意識が高い
成果をあげる人の条件は、
- 視座が高い(手元から顔をあげて仕事をする)
- 「顧客への貢献」に焦点を合わせる
- 「自分の責任は何か」を気にする
- 「貢献」を共通言語に仕事に取り組める生産的な人間関係を築く
四章の要点:人の弱みに目を向けるのではなく強みを生かせ
成果をあげる組織は、
- 人の強みに目がいく
- 弱みを理解しながら強みを生かす
- 「いかなる貢献ができるか」を考える
- 「何を非常によくできるか」を考える
- 人間関係を「仕事」で構築して強みを生かしあう
- 「何が正しいか」で判断する
五章の要点:最も重要なことに集中して仕事をせよ
成果をあげる人は
- 最も重要なことを選択し、そこにのみ集中する
- 時間と競争せず、焦らずゆっくり仕事を進める
- 一つのことに集中しているため不測の事態に対応できる
集中するためには、
- 定期的に仕事を見直して生産的でなくなった過去の仕事を前向きに捨てる
- どの仕事が重要であり、どの仕事が重要でないかを価値判断する
六章の要点:意思決定では「何が正しいか」を問え
成果をあげるための意思決定は、もっとも重要なことに集中した意思決定である。いずれ妥協が必要になるとしても、判断を誤らないように「何jが正しいか」を常に見極めて基準を設けなければならない。
七章の要点:けっきょく意思決定とは「勇気」に他ならない
- 意見(仮説)からスタートせよ
- 意見の不意一致を尊重せよ
- 本当に意思決定が必要かを自問する
- 意思決定の本質は「勇気」である
『経営者の条件』の要約
一章:成果をあげる能力は修得できる
成果をあげる方法を知ることこそが、能力や知識という資源からより多くの優れた結果を生み出す唯一の手段である
ドラッカー『経営者の条件』p. 40
- 現代人は知識を使って成果をあげる「知識労働者」であるから、「知識をどのように使えば成果があがるか」を常に考え続けなければならない
- 肉体労働者は能率だけを考えれば成果はあがるが、知識労働者は知識と知識をつなぎあわせて成果を生み出さなければならない
- 知識労働者が生産するのは「アイデア」「情報」「コンセプト」である
- 成果をあげるために、知識労働者はみずから「意思決定」しなければならない。その意味で経営者だけでなく、現場レベルでも知識労働者としての質が問われる
- ところが組織には①時間が他人にとられる②日常業務に追われる③他人と協働したとき初めて成果があがる④外の世界ではなく組織内に目を向けがちになるという4つの現実があるため、これを意識的に改善しないかぎり、成果をあげることができない
- 組織の存在理由は「外の世界への奉仕」である。つまり組織の成果は外にある
- 知識労働者はみな外の世界に関心を向ける努力が必要である
- 成果をあげる能力は修得できる。なぜなら成果をあげることは習慣だからだ
成果をあげるための5つの習慣
時間 | 何に時間がとられているかを知り、残された時間を管理せよ。 |
---|---|
貢献 | 組織の外の世界に関心を向け、どんな貢献ができるかを考えよ。 |
強み | 自分・上司・同僚・部下の「強み」を基盤にせよ。 |
集中 | 優先順位を決め、優れた成果をあげられる領域に集中せよ。 |
決定 | 満場一致の意見のときは意思決定してはならない。「意見の不一致」が意思決定では重要である。 |
二章:汝の時間を知れ
自らの時間の半分以上をコントロールし自由に使っているなどという者は、実際に自分がどのように時間を使っているかを知らないだけである
ドラッカー『経営者の条件』p. 73
- 「計画」から仕事を始めてはならない。成果をあげるには「時間の管理」からスタートせよ
- 時間は希少な資源である。時間を管理できなければ、何も管理できない。
- なぜなら成果の天井を決めるのは「時間」という資源だからである
- わたしたちは「成果には何も寄与しないが無視できない仕事に時間をとられる」
- 成果をあげるには、本当に重要な仕事にのみ時間を使うことである
個人レベルで時間浪費を改善する3つの方法
記録する | 実際の時間の使い方を記録する。やり方はなんでもいい。記録を通じてする必要のない仕事を見つけて廃棄せよ。 |
---|---|
仕事を任せる | 時間の記録を振り返り、自分でしなくていい仕事は他人に任せる。 |
浪費の原因を探る | 自らコントロールして排除できる時間浪費を探る。 |
組織レベルで時間浪費を改善する方法
繰り返し起こる混乱を防止する | 同じような混乱が繰り返されるということは、システムの欠陥や先見性の欠如が原因である。 |
---|---|
人員数を見直す | 人間関係(反目・摩擦・協調)もまた多くの時間をとる要素である。適切な人員数ならば成果に向かってスマートに動くが、人員過剰は人間関係の調整のために時間を浪費する。 |
組織構造の欠陥を見直す | 会議が多すぎたり、情報共有体制が整っていなかったりすると、それだけで時間の浪費につながる。 |
- 自由に使える時間は、できるかぎり大きくまとめて集中させなければならない
- 細切れになった自由時間を過ごしても、まったく仕事の役に立たない
- 時間の記録と改善の最終ゴール地点は「自由な時間をまとめる」ということである
- ただし、二次的な仕事を後回しにして自由時間を無理やりつくるのはNGである
- なぜなら、そんなことではけっきょく、後回しにした仕事の埋め合わせに自由時間を使うことになるからだ
- あなたが本当の意味で自由になれる時間は、どれだけあるだろうか?まずはこの現実と真剣に向き合ってみよう
三章:どのような貢献ができるか
どのような貢献ができるか」を自問しなければ、目標を低く設定するばかりでなく、間違った目標を設定する。何よりも、自ら行うべき貢献を狭く設定する
ドラッカー『経営者の条件』p. 81
成果をあげられない人 | 成果をあげる人 |
---|---|
視座が低い | 視座が高い |
「自分の努力」に焦点を合わせる | 「顧客への貢献」に焦点を合わせる |
「自分の権限は何か」を気にする | 「自分の責任は何か」を気にする |
人と仲良くするだけの非生産的な人間関係を築く | 「貢献」を共通言語に仕事に取り組める生産的な人間関係を築く |
- 成果は組織の外(顧客および社会)にある。「どのような貢献ができるか」を自問することで、おのずと仕事の仕方が大きく変わってくる
- 視座が低い人は自分の立場や組織の都合にばかり目が向いてしまい、結果として顧客価値の創造に寄与しない仕事をせざるを得なくなる
組織がなすべき貢献3つ
直接の成果 | 組織を動かすカロリー。たとえば利益など。 |
---|---|
価値への取り組み | 組織のビタミン。顧客価値の追求など。 |
人材の育成 | これまでの蓄積をベースに、変化に適応するための新しい組織の水準をつくる人材を輩出する。 |
四章:人の強みを生かす
【上司が部下の強みを生かす編】
部下の弱みに焦点を合わせることは、間違っているばかりか無責任である。上司たる者は、組織に対して部下一人ひとりの強みを可能なかぎり生かす責任がある
ドラッカー『経営者の条件』p. 126
- 優れた人事とは人の強みを生かす人事である
- 弱みを克服させるのではなく、人の強みに目を向けよ!
- 人の強みを生かし、弱みを弱みでなくするのは、組織に特有の機能である
成果のあがらない組織 | 成果のあがる組織 |
---|---|
人の弱みに目がいく | 人の強みに目がいく |
弱みが少ない人(無難な人)を集めるorスーパーマンを求める | 弱みを理解しながら強みを生かす |
「自分とうまくいっているか」を考える | 「いかなる貢献ができるか」を考える |
「何ができないか」を考える | 「何を非常によくできるか」を考える |
人間関係を「人」で構築してなれあう | 人間関係を「仕事」で構築して強みを生かしあう |
「誰が正しいか」で判断する | 「何が正しいか」で判断する |
人に合う仕事を設計するための問い
その仕事は挫折者が頻出するか | 優秀な人でさえ挫折してしまう仕事の設計は、必ずどこかに無理が生じている。ここを見直さない限り、“いつか現われる天才”を探して不毛な人事が始まってしまう。 |
---|---|
仕事を小さく設計しすぎていないか | 仕事は大きく設計しておく必要がある。なぜなら状況は日々刻々と変化するからだ。ある程度ストレッチをきかせた目標設定がなければ、人は強みを生かした仕事がそもそもできなくなる。 |
その人にできることからスタートしているか | 【強みを探す問い】
|
その人の弱みを我慢できるか | 強みを手にするには弱みを我慢しなければならない。 |
【部下が上司の強みを生かす編】
現実は企業ドラマとは違う。部下が無能な上司を倒し、乗り越えて地位を得るなどということは起こらない。上司が昇進できなければ、部下はその上司の後ろで立往生するだけである
ドラッカー『経営者の条件』p. 128
- 一方で部下は上司の強みを生かさなければならない。部下自身が成果をあげるカギである
- 上司も人である。強みもあれば弱みもある。部下が上司の弱みを強調してしまうと。意欲と成長を妨げてしまう恐れがある
- 「上司は何がよくできるか」「何をよくやったか」「強みを生かすためには何を知らなければならないか」「成果をあげるためには、部下の私から何を得なければならないか」を考えよ
【自分が自分の強みを生かす編】
何よりも成果をあげるエグゼクティブは、自分自身であろうとする。ほかの誰であろうとはしない。自らの仕事ぶりと成果を見て、自らのパターンを知ろうとする。「他の人には難しいが自分には簡単にやれることは何か」を考える
ドラッカー『経営者の条件』p. 133
五章:最も重要なことに集中せよ
自らの強みを生かそうとすれば、その強みを重要な機会に集中する必要を認識する。事実、それ以外に成果をあげる方法はない
ドラッカー『経営者の条件』p. 138
- 成果をあげる人は最も重要なことに集中する
- 自らの強み/時間/労力を最も重要なことに集中することで、成果があがる
成果があがらない人 | 成果をあげる人 |
---|---|
一つの仕事に必要な時間を過小評価し、仕事を複数手掛けて「うまくいくだろう」と楽観視する。 | 最も重要なことを選択し、そこにのみ集中する。 |
仕事が複数あるため急いで取り組む。 | 時間と競争せず、焦らずゆっくり仕事を進める。 |
同時に複数のことをしようとして、問題が一つでも起こると全部の作業が止まる。 | 一つのことに集中しているため不測の事態に対応できる。 |
集中するための原則
過去を計画的に廃棄する | 今日という日は、過去の意思決定に過ぎない。定期的に仕事を見直して生産的でなくなった過去の仕事を前向きに捨てよう。 |
---|---|
劣後順位の決定 | どの仕事が重要であり、どの仕事が重要でないかを価値判断しよう。物事の優先順位をつけるのは分析ではなく「勇気」である。 |
六章:意思決定とは何か
地位のゆえか知識のゆえかは別として、組織や組織の業績に対して重大な影響を及ぼすような意思決定を行うことを期待されている者こそエグゼクティブである
ドラッカー『経営者の条件』p. 154
- 成果をあげるための意思決定は、もっとも重要なことに集中した意思決定である
- 意思決定はスピードが重要ではない
- 個々の問題について考えるのではなく、問題の根本について考え、意思決定しなければならない
問題の種類を知る | 「一般的な問題」「例外的な問題」「何度も起こる問題」「個別に対処すべき問題」を区別する。 |
---|---|
必要条件を明確にする | 「決定の目的は何か」「達成すべき目標は何か」「問題を解決するために最低限必要なことは何か」を明らかにする。 |
何が正しいかを知る | いずれ妥協が必要になるとしても、判断を誤らないように「何jが正しいか」を常に見極めて基準を設けなければならない。 |
行動に変える | 意思決定内容を行動に移す仕組みを組織に組み込まなければならない。 |
フィードバックを行う | 「人は間違いを犯す」という前提に立ち、意思決定後にどうなったかを検証しなければならない。また、その意思決定を下したときに立脚していた前提(仮説)が適切だったかも検証する必要がある。できるなら、決定者が実際に現場に行って直接確かめた方がよい。 |
七章:成果をあげる意思決定とは
今日意思決定は、少数のトップだけが行うべきものではない。組織に働くほとんどあらゆる知識労働者が、何らかの方法で自ら決定し、あるいは少なくとも意思決定のプロセスにおいて積極的な役割を果たさなければならなくなっている
ドラッカー『経営者の条件』p. 213
意見(仮説)からスタートせよ
- 意思決定は「事実」からスタートしてはならない。なぜなら事実からスタートすると、すでに決めている結論を裏付けるための事実を探すことになるからである
- 意思決定はまず「意見」(仮説)から始めなければならない。先立つものが「意見」(仮説)であり、それを検証する材料が「事実」である
- 意見(仮説)を検証する際は「仮説の有効性を検証するには何を知らなければならないか、意見が有効であるには事実はどうあるべきか」を問う必要がある
意見の不意一致を尊重せよ
- 満場一致の意見は危険である。意見の不一致が生じない場合は意思決定をすべきではない
- 意思決定に必要なのは「意見の不一致」である
- 一つの行動だけが正しく他の行動はすべて間違っているという仮定からスタートしてはならない
意見の不一致が必要な理由
「組織の囚人」になるのを防ぐ | 意思決定に追従して組織から何らかの利益を得ようとする傾向を防止する。 |
---|---|
代替的な選択肢を用意できる | 一つの決定ですべてうまくいくとは限らない。複数の意見があれば、失敗したときのための第二、第三の矢を用意しておける。 |
想像力を刺激する | 意見が衝突することによって、常に新しい可能性を示唆する。 |
本当に意思決定が必要かを自問する
- 「何も決定しない」という代替案が常に存在することを忘れるな
- 意思決定は組織のシステムに干渉する“外科手術”のようなものであり、なんでもかんでも不用意に決定するべきではない
意思決定の本質は「勇気」である
- “もう一度調べれば、何か新しいことが出てくる”と思わなくなるまで徹底的に考えぬけ
- 意思決定を下さなければならないと判断したのなら、いよいよ決断しなければならない
- 一度決めたなら、振り返ってはならない
- それでも不安なら数日か数週間まて。そのときに重大な見落としがなければ一気呵成にやりぬくのみ
おわりに:気になるページから読んでも面白いのがドラッカー!
わたしたちDラボは、ドラッカーの読書会を運営している。経営者はもちろんのこと、サラリーマンから学生まで、幅広い人がドラッカーを楽しめる読書会だ。
そんなDラボには、しばしばこんな悩みを持つ読者が相談にくる。
「ドラッカーくらい読んでおけと上司に言われたのですが、実際に読んでみると難しくて……」
実際、ドラッカーを読み進められなくて挫折を味わった読者は数知れず。とくに“ビジネス書”的な内容を期待していた読者ほど当惑する。「マネジメント」という言葉ひとつとってみても、そこには歴史や哲学の文脈がある。
「百科全書」や「マルクス主義」といった言葉の先に「マネジメント」があるとは、多くの人が想像もできないはずである。だから挫折を味わってしまう。結論を急げば急ぐほど、ドラッカーの言っていることがわからなくなる。
ではドラッカーは、人を選ぶ難解な書物なのだろうか。答えは「NO」である。ドラッカーを読むコツを掴めば、ドラッカーは必ずあなたの「師」となって暗闇を照らしてくれる。
ドラッカーを読み進めるコツはシンプルである。順番に読むのではなく、好きなところから拾い読み・斜め読みする。これに尽きる。まずはパラパラとめくって、“面白そうだ”と思ったところだけを読んでみてほしい。そのとき感じたことが、あなたにとってのドラッカーなのだ。
本人に“分身”と称され、ドラッカーと長年の友人として交友のあった翻訳者の上田 敦生 氏は次のように語る。
ドラッカーを読んだ者は自分のために書いてくれたと思う。だからドラッカーはそれぞれのドラッカーである。誰にも親身になって耳を傾け、語りかけてくれる
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