『経済成長がなければ私たちは豊かになれないのだろうか』~ドラッカー教授ならどう考えるか


筆者の手元に長らく『経済成長がなければ私たちは豊かになれないのだろうか』[i]というタイトルの本があります。ドラッカー教授は、現代社会の組織社会において経済成長は、雇用拡大のため不可欠としました。

また企業活動は、「人間の生活の向上」を実現している場でもあります。その究極的機能は、イノベーションです。ドラッカー教授は、経済成長と経済発展を意味的に使い分けています。ここで経済発展とは、J・S・シュンペーターが『経済発展の理論』(1912)で用いたところを意味します。経済発展とは、質的変化を示すものです。「郵便馬車をいくら連続的に加えても、それによってけっして鉄道をうることはできない」という記述が象徴的です。郵便馬車の増減を経済成長といい、鉄道の出現を経済発展といいます。量的変化と質的変化の違いです。 

このような質的変化をもたらす存在が企業者(家)であるとシュンペーターは述べました。またそのような変化を起すためには、資源の新結合が不可欠であることを五つの場合[ii]を具体的に挙げて説明しました。新結合とは、イノベーションの別名です。

シュンペーターは、「経済発展―Enttwicklung」という言葉に新しい意味を与えました。ドラッカー教授は、この言葉を強く意識しています。しかし、この言葉が曲者です。英語ではeconomic development。この語は別に済開発の意味があり、経済途上国の経済開発などとして用いられることが多いのです。

冒頭に掲げた著書の本文を読むと『経済発展がなければ私たちは豊かになれないのだろうか』が趣旨であることがわかります。しかもその開発が、経済開発の意味で使われています。単に未開の地を開発するという意味です。それは同書第3章にある「自然が残っていれば、まだ発展できる?」というテーマに顕著に表れています。

そこには質的変化を意味するシュンペーターの経済発展の要素は、見られません。経済発展は、たとえば電気自動車が現れ自然(環境)保護に役立つのです。そこにドラッカー教授が指摘した「人間生活の向上」の意味があります。それは「私たちの豊かさに」他ならないのです。経済発展と経済成長の言葉の意味の誤解、もしくは無理解が誤解を生んでいるのです。

 

マネジメントは、経済という定量化しうるものだけでなく、社会としての基本的な信条と価値に関わる問題に取り組むことになる。生活水準だけでなく社会の質を追求することになる」

『マネジメント』

 

[i] 『経済成長がなければ私たちは豊かになれないのだろうか』C.ダグラス ラミス 平凡社ライブラリー

[ii] ①新しい財貨の生産、②新しい生産方法、③新しい販路の開拓、④原材料あるいは半製品の新しい供給源の獲得、⑤新しい組織の実現シュンペーター『経済発展の理論』(上)p.182-183

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佐藤 等
<実践するマネジメント読書会🄬>創始者。『実践するドラッカー』(ダイヤモンド社)シリーズ5冊の著者。 ドラッカー学会理事。 マネジメント会計を提唱する佐藤等公認会計士事務所所長/公認会計士・税理士。 ナレッジプラザ創設メンバーにして、ビジネス塾・塾長。 Dサポート㈱代表取締役会長。 ドラッカー教授の教えを広めるため、各地でドラッカーの著作を用いた読書会を開催している。 公認ファシリテーターの育成にも尽力し、全国に約70名のファシリテーターを送り出した。 誰もが成果をあげながら生き生きと生きることができる世の中を実現するため、全国に読書会を設置するため活動中。 編著『実践するドラッカー』(ダイヤモンド社)シリーズは、20万部のベストセラー。他に日経BP社から『ドラッカーを読んだら会社が変わった』がある。 自身のブログ<ドラッカリアン参上>は連続投稿4000日以上を達成して続伸中雑誌『致知』に「仕事と人生に生かすドラッカーの教え」連載投稿中

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