初心者向けドラッカー読書会 どんなことをするのか?
先日、毎月開催されている「初めてドラッカーを読む方のための読書会」に参加させていただいた。こちらの会は、実践するマネジメント読書会®︎に、これから参加しようとしている人のためのオンラインでの体験会である。
「初めてドラッカーを読む方のための読書会」は、前半では、講師の先生がドラッカーの思想とはどういうものかお話をしてくださる。時々、当てられて尋ねられるので気が抜けないが、一方的に先生の話を聞くのではなく、所々で参加者とファシリテーターの先生とのやりとりがあるため、「参加している」「自分がその場にいる」感覚が得られる。
後半は、ドラッカーの図書の特定の章について、一人一人発表する機会が設けられている。と言っても、Dラボの社員の方が先に発表してくれ、初参加の人は後に発表するようファシリテーターの先生が配慮してくれるので、オンラインでの読書会が初めてで緊張する、何を話せばいいかわからないと言う方も安心だ。
読書会参加前の準備として、読書会で取り上げる図書を読むことが求められているが、忙しい方は全部読めなくとも読書会で取り上げられる章だけでもOKだと思う。そもそも、一読して「わかった!」と言う本であれば、読書会で繰り返し意見交換するは必要ない。
私は、今まで色々な読書会に参加してきたが、読書会はとにかく参加すること、参加して人の話を聞くことが大切である。読書会は、かっこいい意見を言って賞賛されるために参加するのではない。人様の素晴らしい考えを盗むために行くのである。だから、ドラッカーそんなに好きじゃないと言う人にもぜひ参加してほしい。
ちなみに、私はドラッカーを学生時代に読んだけれども、それほど好きではないし、特に嫌いというわけでもない。この度会社の都合により、参加することになった。だけど、この度、参加してとても楽しかった。
ドラッカーそんなに好きじゃなかった学生時代
私は、学生時代それほどドラッカーが好きではなかった。なぜかといえば、真っ当すぎるからだ。学生は既存の理論にあれこれケチをつける形で論文を書く。筆者はこう言ってます。私もその通りだと思います。では論文にならない。だから、ドラッカーを研究テーマに取り上げなかった。ドラッカーの理論は、極めて真っ当であり、ケチをつけにくい。
ドラッカーを好きでなかった理由は、もう一つある。ドラッカーが悪いのではない。まだ思春期といってもいい20歳前後の学生にとって、真っ当な理論と言うのは、親や先生からのお説教に等しかった。「そうは言うけどそれって理想論じゃない?」世の中に対して斜に構えていた、よくいえば違反精神に満ちていた学生だった私はそう思った。
その時の私は、なぜ世の中に理想論が必要なのか。生きていくための指針や経営のための指針が必要なのか理解していなかった。人間社会と言うのは不条理であると言うことを20年前の私は本当に理解していなかった。40を手前に、色々な不条理、自分の思うようにならぬことを経験してやっと理解した。理想論と言われても、「こう生きよ」「このように経営せよ」という指針がなければ、自分ではどうしていいかわからない瞬間が人間長く生きていればある。そういう人のための本である。エレメント代表今井によれば「ドラッカーは経営者や管理職がどうにもならなくなって読む本」であるという。大学生の私には、早すぎたのだ。
会社の方針で、再びドラッカーを手にした私は思った。「意外といいこと言ってる。面白い」と。と同時に「なんかこれどこかで聞いた話だなぁ」とも思った。それもそのはず、ドラッカーはマネジメントの父である。マネジメントの古典である。私が今まで読んできたマネジメントに関するビジネス本や研究本はドラッカーの流れを組んでいるものが多数ある。大学以来、縁も所縁もないと思っていたドラッカーだが、意外と身近な存在だと気づいた。最近Amazonで売れ行きNo1の「恐れのない組織〜『心理的安全性』が学習・イノベーション・成長をもたらす」だって、読んでみれば、ドラッカーが理想としている状態をいかに実現するかという話である。
なぜ今ドラッカーを学ぶのか
このの初心者向け読書会の課題図書『経営者の条件』がダイヤモンド社から最初に出版されたのは1966年である。その時、インターネットもなければスマホもなかった。当然SNSもないし、リモートワークもない。セクハラやパワハラ、モラハラなんて言葉もまだない。ドラッカーの言葉は普遍的で、今読んでも時代遅れだとは感じないけれど、いかにドラッカーの言葉を実現するかという方法は1966年の時に正解だったことも、今は正解ではない。なぜなら条件が違うから。1966年と2021年では、社会状況も人々の価値観も大きく違う。
なのになぜ、ドラッカーの言葉が響くのか。
答えはなんだろう。
政治哲学者であり社会学者出会った大学の恩師はこう言った。「中世犬に石を投げることや処刑は民衆にとって娯楽であった。近代になって倫理や道徳が発達しようと人間そのものの本質はそう簡単に変わらない」
人間の本質が変わらない以上、人間が寄り集まってできるチーム、コミュニティー、社会をよりよくマネジメントする方法も変わらないからだろうか。
それとも、今ある単純な仕事の半分以上はAIにとって変わると言われている現代で、ナレッジワーカー・知識労働者がいかに働くべきかという命題が、1960年代よりも現代の方が身に染みるからだろうか。
それとも、コロナ以前、富めるものと貧しいもの、若者と老人、教育水準の違い、国や地域、人種の違いによって分断されていた世界が、Covid19という感染症の世界的流行によって、世界中の人々が「感染症の拡大を防ぐ」という共通の命題を抱えることになり、「私は」という個よりも「我々は」という集団意識を持つようになったからだろうか。
「夏目漱石の『こころ』は何度読み返しても新しい発見がある。だから名作なのだ」と言った人がいた。ドラッカーも1966年に読んでも2021年に読んでも学びがある。
しかし、一方で学術的にはマネジメントにおいてドラッカーが亡くなった2005年にはドラッカーは主流ではなくなっていた。私個人の意見ではあるが、それはその普遍性ゆえだと思う。
ドラッカーは現代で学術的と言われるエビデンスに基づいた理論ではない。どこどこ大学でこのような研究をした結果、このような数字が現れたという理論ではなく、哲学に近い。だからこそ、普遍的で色褪せず、今読んでも素晴らしい。ちなみに私はドラッカーも素晴らしいが翻訳なさった上田惇夫先生もドラッカーに負けず劣らず素晴らしいと思っている。
読書会で学ぶ意味
ここまでドラッカーは色褪せない、今読んでも面白いということを述べてきたが、ではなぜ読書会なのか。冒頭では「人の話を聞き自分にはない視点を取り込んで成長するため」述べたが、読書会に参加するのは、学びのためだけではない。
人と意見を交換する、共感するというのは、単純に楽しい。知的好奇心を刺激されるのは楽しい。そして、人から何かを学ぶというのは、初代文部科学大臣森有礼によれば「教育とは単に知識を右から左に先生から生徒へ渡すのではない。師の人間性と知識が混ざり合って受け手に伝わる」と述べている。
私たちは特に対面でなくオンラインだと、単に情報をこちらから彼方へ伝達しているだけのように思うことがある。しかし、実際は、意見を交換する時、少なくともこのドラッカーの読書会では、人と人との人間性の交流であり、人は本能的に、穏やかな感情のやり取り出会ったり、人間性の交流を心地よく思うものである。
なんだか、理屈っぽく書いてしまったが、ファシリテーターの先生方は、とても親しみやすくユーモアがあり、会に参加することは楽しい。今から次の読書会が楽しみである。
最後に、私はドラッカーの次の言葉がすごくかっこいいと思った。
Theories follow events. 理論は現実に従う
ドラッカーの原文の言葉も詩的で美しいが上田先生のドラッカーの翻訳も気が利いている。
日本語版のドラッカーの日本語は、文学的でおしゃれだ。学び云々を抜きにして、上田先生の文章を読むのは読書好きの人にとってはとても楽しい。社長に勧められるがままに手にしたあまり好きではないドラッカーだったがすっかりハマってしまった。
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