『マネジメント』初心者が実際に読んでまとめてみた(2)マネジメント・ブームはなぜ終わった!?その理由とは(序論:第2章「マネジメント・ブームの教訓」要約)

『マネジメント』初心者が実際に読んでまとめてみた(2)マネジメント・ブームはなぜ終わった!?その理由とは(序論:第2章「マネジメント・ブームの教訓」要約)

本記事は、初めてドラッカーの『マネジメント』を読んだライター石山が、1章ごとに内容をまとめながら、気づきや発見を共有する企画シリーズです。

ドラッカーの『マネジメント』

『マネジメント』の内容を解説したサイトはさまざまですが、実際のドラッカーの文章を引用しながらまとめているのは、本記事ならではの試みです!

「ドラッカーが実際にどんなことを書いているのか、本物の文章を読んでみたい」

「他サイトはコンパクトにまとめられ過ぎていて、“なぜ”そうなったのかよくわからない」

「聞きかじった内容をまとめているだけのサイトが多い気がする……」

「もっと真面目に『マネジメント』を勉強したいけど、自分で読み解く自信がない」

このような方は、ぜひ本記事を読んでみてください。大学のゼミのレジュメを読むつもりで、一緒に学んでいきましょう♪

(1)マネジメントの概念はすでに18世紀に存在した!?ドラッカーの経済学論

ケインズ

写真はケインズ(画像:wikipedia)

ドラッカーは、経済学にも精通した学識者でした。若い頃は、経済学の聖地イギリスで、あの有名なジョン・メイナード・ケインズ(マクロ経済学の父)に直接指導を受けたというのですから、その知識量はお墨付きです。

そんなドラッカーは、経済学史を振り返りながら、「マネジメント」という概念の起源に迫ります。経済学の“ベル・エポック”ともいうべき18~19世紀。このときすでに、数多の経済学者たちの頭の中に、マネジメントは確かに存在していたとドラッカーはいうのです。

残念ながら経済学者の多くは、生産性の向上を「生産要素」にのみ見出していました。例えば、「小麦粉が安くなればなるほど生産コストが低下するので、生産量が増大する」というように。まさに典型的な経済学的発想ですよね。この考え方では、マネジメントの入り込む余地がありません。

ところが例外的に、生産性が「マネジメント」によって向上すると考えた有識者たちもいました。19世紀初期の社会主義思想家サン=シモンがその代表であるとドラッカーは評します。

そしてアメリカでは、18世紀後半にアレグザンダー・ハミルトン(アメリカ建国の父の一人で初代財務長官)がマネジメントの重要性を見出しました。彼の提出した『製造業に関する報告書』には、マネジメントが経済活動ひいては社会発展そのものの原動力になりうるという考察があったといいます。

それでもやはり、マネジメントという概念が多くの人々に認識・実践されるようになるまでには、もう少し時間が必要でした。なぜなら第1章でも論じたように、いわゆる「大規模組織」が出現して社会の中心を担う時代にならなければ、マネジメントの真の意義を理解できないからです。

★ポイント★

・「マネジメント」の芽生えはすでに200年前からあった。

・しかし大規模組織が登場するまでは認知されなかった。

(2)ドラッカーは渋沢栄一を高く評価していた!

渋沢栄一

画像:wikipedia

日本に関する研究にたいそう熱心で、生涯にわたって数々のコメントや言及を遺しているドラッカー。「日本資本主義の父」と称される渋沢栄一をして、ドラッカーはこういいます。

「日本では、官界から実業界へ転身した渋沢栄一(一八四〇~一九三二年)が、一八七〇年代から八〇年代にかけて、企業と国益、企業と道徳について問題を提起した。のみならず、マネジメント教育に力を入れた。プロフェッショナルとしてのマネジメントの必要性を世界で最初に理解したのが渋沢だった。明治初期の日本の経済的な躍進は、渋沢の経営思想と行動力によるところが大きかった」


(『マネジメント 課題、責任、実践(上)』ドラッカー名著集 13/P.F.ドラッカー/訳:上田 惇生/p. 22)

こうも高く評価しているとは、驚きですね。「日本資本主義の父」である渋沢栄一は、ドラッカーからすれば「日本マネジメントの父」ともいうべき存在だったのではないでしょうか。

いやそれどころか、「マネジメントの必要性を世界で最初に理解した」というのですから、渋沢栄一の“論語とそろばん”には、時代を問わず通用する普遍的なビジネス哲学の核心があるのかもしれません。

★ポイント★

・ドラッカーは渋沢栄一を高く評価している。

・渋沢栄一は世界でもいち早くマネジメントの概念を取り込んだ人物。

(3)第二次世界大戦後のマネジメント・ブーム

(3)第二次世界大戦後のマネジメント・ブーム

画像:wikipedia

経営者がマネジメントを自覚するようになったのは、第二次世界大戦中に、アメリカの製造業の生産性が飛躍的に上昇したという事実が脚光を浴びるようになったからだ――とドラッカーはいいます。

「戦前は、マネジメントの文献をすべて集めても普通の本棚で間に合った。ところが一九六〇年代の後半には、アメリカだけでも毎年数百点のマネジメント書が出版されるようになった。大戦前に書かれたものを全部集めた数の四倍から五倍が一年で出版された。

大戦前には、マネジメントを教えていたのはハーバード・ビジネススクールだけだったが、一九六〇年代末には、マネジメントを教えるビジネススクールは世界中で数百校にのぼった」


(『マネジメント 課題、責任、実践(上)』ドラッカー名著集 13/P.F.ドラッカー/訳:上田 惇生/p. 11)

こうして第二次世界大戦は、空前絶後のマネジメント・ブームを迎えることになりました。

マネジメント・ブームの到来により、世界は「マネジメントを知らない時代」には戻れなくなりました。マネジメントという概念が広範に普及・一般化したという点で、マネジメント・ブームは一つのターニングポイントだったといえるでしょう。

ところがそれから30年あまりが経ち、1970年代の初めには、すでにマネジメント・ブームは下火になっていました。

それは一体、なぜ……?

★ポイント★

・第二次世界大戦後に世界中でマネジメント・ブームが起きた。

・しかし1970年代あたりからブームが下火になった。

(4)マネジメント・ブームの終わりと教訓

(4)マネジメント・ブームの終わりと教訓

マネジメント・ブームが単なるブームに終わってしまったその原因は、マネジメントの“本質”を誰も理解できていなかったということに見出されます。

つまり、マネジメントを表面的にしか知り得なかったために、成果を出すための真の実践がなされなかったのです。

「……マネジメントの魔力が突然消えた最大の原因は、マネジメントというものが万能薬ではなく、それ自身一つの仕事にすぎないことに気づいたことにあった。またマネジメントの手法は、それがいかに洗練されようとも魔法の杖とはなりえないことに気づいたことにあった」


(『マネジメント 課題、責任、実践(上)』ドラッカー名著集 13/P.F.ドラッカー/訳:上田 惇生/p. 11)

当時マネジメントを学んだ人のなかには、もしかすると「このメソッドを使えば経営にもう悩まなくていい」「これさえ学んでおけば失敗しない」「ラクに経営ができるテクニックなのでは?」と考えていたのかもしれません。

しかしドラッカーがいうように、マネジメントは経営の攻略本やテクニックではないのです。マネジメントはあくまでも、成果を出すためにやらなければならない“仕事”の一つ。責任を持って仕事に臨み、常に頭を使い続けなければマネジメントは成し遂げられないのです。

マネジメントは、時代の流れや社会構造に対応していかなければなりません。いつまでも同じ方法を漫然と繰り返すと、やがて「現実の動きに追いつけなく」なってしまうのです(p. 13)。

“マネジメントとは文化だ”とドラッカーは何度も繰り返し述べています。

わたしはこの言葉の意味を当初はよく理解できませんでしたが、時代に対応しながらアプローチをしてマネジメントの在り方を変えていくというふうに解釈するのであれば、確かにマネジメントは文化そのものだといえますね。

残念ながらマネジメント・ブームは、時代や社会構造に対応してマネジメントのアプローチを変えることの重要性を知らしめることができませんでした。それが、ドラッカーの考える戦後マネジメント・ブームの“失敗”だったわけです。

この教訓は、これからマネジメントを学ぼうとしているすべての人にも当てはまるでしょう。マネジメントは、実践し続ける姿勢がなければ意味がないのです。

★ポイント★

・マネジメントは万能ではない。

・マネジメントは時代に合わせて対応しなければならない。

・これらの重要性をほとんどの人が理解できていなかった。

まとめ:渋沢栄一“論語とそろばん”にはマネジメントの原理原則が詰まっている!?

わたしたちが経営理論やビジネス論を学ぼうとすると、どうしても海外に目が向きがちです。「ハーバードビジネススクールの……」「スタンフォード大学の……」「マサチューセッツ工科大学の……」という権威ある言葉は、やはり魅力を感じてしまいますよね。

しかし今回、『マネジメント』(上)の序論:第2章でドラッカーが渋沢栄一を非常に高く評価していることを知って、渋沢栄一の経営哲学にも非常に大きな関心を持つことができました。

渋沢栄一といえば、やはり“論語とそろばん”が有名です。世の中の役に立つという道義と、お金儲けを両立せよ――というのが、一般的な理解かもしれません。

わたしはこの考え方をボンヤリと受け取って知ったようなつもりになっていましたが、“論語とそろばん”の発想がドラッカーの企業観とほぼ重なっていることに気づいたとき、これまでとは違った視点で渋沢栄一という人物を知りたくなりました。

「あらゆる組織が社会のために、それぞれのコミュニティにおいて活動する。したがって、どうしても社会に対し何らかのインパクトを与える。そのインパクトについては自らに責任がある」


(『マネジメント 課題、責任、実践(上)』ドラッカー名著集 13/P.F.ドラッカー/訳:上田 惇生/p. 16)

「加えて、組織のマネジメントというリーダー的な存在に社会的責任がある。自らの組織に特有のミッションの遂行とは別に、社会のリーダーとしての社会的責任がある。社会の価値観、信条、コミットメントを考え、リーダー的存在としての責任を果たさなければならない」


(『マネジメント 課題、責任、実践(上)』ドラッカー名著集 13/P.F.ドラッカー/訳:上田 惇生/p. 17)

マネジメントは、「自分の会社だけが利益が出ればいい」という考え方を否定します。社会の一部である企業は、成果を追求しつつ社会に与える影響を常に考慮し、その責任を果たす必要があるのです。

この考え方は、まさに“論語とそろばん”ではありませんか?

逆輸入のようなかたちではありますが、今後はマネジメントを学びながらも、渋沢栄一について調べていきたいなと思いました。

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