あなたは何歳まで、何社で働きますか?
私たちは今、こう問われています。
世界的なベストセラー2016年に出版された『ライフシフト』によれば、「20歳の人が100歳以上生きる可能性は50%以上ある」といいます。昨年秋に政府のホームページ―「人生100年時代構想」が出来ました…が残念ながら、ちょっと遅い。
約20年前、この「新しい現実」を正確に予見している人物がいました。
ほかならぬドラッカー教授です。
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知識労働者は、雇われている組織よりも、結果として長生きする。博士号のために20代の後半まで大学院に残り、労働力市場への参入を遅らせたとしても、今日の先進国の平均寿命では、70代、80代まで生きる。途中からパートタイムとなったとしても、75歳頃までは働ける。したがって、労働寿命は50年に及ぶということである。
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『明日を支配するもの』(1999)
だれもが70歳代までの約50年間、働く時代。
あなたは何歳まで、何社で働きますか?
そしてもう一つの現実。
1970年初 約50年
1983年 30年
1997年 12.5年
2008年 10.5年
日本の会社の寿命を表したものです。このデータは出典付きで『2022年―これからの10年、活躍できる人の条件』(神田昌典)に掲載されています。
この現実もドラッカー教授が正確に予見しています。ドラッカー教授の慧眼には何度も驚かされます。
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これに対し、企業をはじめ組織の平均寿命は30年そこそこである。しかも今日のような乱気流の時代にあっては、あらゆる組織が。それだけの寿命を保つことさえ難しくなる。
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『明日を支配するもの』(1999)
人が働く期間が50年近くあり、企業の寿命が10年そこそこ…
あなたは何歳まで、何社で働きますか?
それを自分で決まる―自分の時代―それが私たちの現在位置。
いかがでしょうか。
あなたの常識は、本当に常識? それとも非常識?
私は現在56歳、『ライフシフト』には、90歳を超える確率50%以上とあります。今も付き合いが続く私の大学のスキー部の同期10名のうち7名は、もうすぐ定年ですが最初に入った会社にまだいます。私たちの世代の多くが<教育→就職→リタイヤ>という3ステージの人生を生きているということです。
今から20年前の1997年、山一證券や北海道拓殖銀行などが経営破綻し、多くの企業で定期採用を中止しました。多くの日本人が3ステージの人生から離脱せざるをえなくなりました。現に40歳代以下の人たちの多くが複数の組織で働いた経験をもっています。3社、4社という人も珍しくない時代です。
日本では1990年代に入ってバブルが崩壊し、会社を軸に人生を送る時代から、自分を軸に人生の戦略を考える時代にシフトしたのです。
しかし私たちの意識が変わるのには時間がかかります。たとえば「いい大学に入って、いい会社に就職する」という思考は1990年代以前に機能したものです。しかしこの思考は「いい会社は」安定してつぶれることはなかった時代の話です。もはや神話といっていいでしょう。
バブル崩壊、その象徴として私の脳裏に刻まれている1997年の都市銀行、拓銀の経営破綻。私は当日の本店の混乱の模様を私の事務所から観ていたからです。北海道が終わったと思いました。その後の10年は塗炭の時代。企業はフリーズ状態。
あれから20年、人生100年時代という新しい現実を前に、私たちの世代は常識の書き換えを迫られています。たとえば私たちの世代の子供たちに「いい大学、いい会社」などと旧い常識を押しつけてはならないと考えています。
彼らがお手本とすべきは、20年前に社会に出た世代です。しかし彼らは、非正規労働者として過ごした経験をもつ世代でもあります。会社を軸に社会が形成されていたため生まれた政策誤謬です。政府も初めての経験で対応方法を知らなかったのです。その結果、現在の出生率の低さの大きな原因になっています。彼らから学ぶべきものが多くあると考えています。
20年後の今、政府は働き方改革の旗を掲げています。個別の政策については異議もありますが、象徴的な動きに「副業・兼業促進」があります。軸足を会社から個人にシフトさせようとしています。20年前、副業や兼業は非常識でした。これからは逆に常識になるのです。
政策や制度は常に後追いです。現実を追認することしかできません。つまり人生100年時代における働くことに対する責任、戦略はやっと政府も巻き込んで本格的に個人へシフトしていくのです。
この連載「人生100年時代におけるセルフマネジメント」とは、50年以上、複数社を移動しながらあるいは兼務しながら働く時代に必要なもの、具体的には責任、戦略、能力などを考えていこうという連載です。皆さんからのコメントを頂きながら一緒に考えていきたいと思います。
セルフマネジメントの原理と方法1
書き換えなければならない常識は何かを常に問う
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