ゼロ成長を当然のこととしてはならない。ゼロ成長企業の経営にあたっては、『われわれの強みは何か。その強みは、人口、市場、流通、技術の変化によって生ずる機会のどこに適用できるか』を問わなければならない。人的資源の能力を維持し、その生産性を向上させ続ける会社は、必ずや大きな成長の機会に出会う。
『実践する経営者』
強みは何もないところから生まれない。強みはただ、実績の中にのみ存在する。当たり前のことだと思っていたことが、実は他社に負けずとも劣らない強みである可能性もあるのだ。
真の強みとは何か――経営者は常にこの問いを続けなければならない。真の強みに気付いたとき、はじめてイノベーションが可能となる。
イノベーションは強みを基盤としなければならない
『イノベーションと企業家精神』
ドラッカー教授は、強みの他にも、機会と人的資源がイノベーションには不可欠であるという。
つまるところ、企業はいまあるリソースでしか勝負できないのである。
今回のテーマは、“ゼロ成長企業が犯すタブー”について。ドラッカー教授は、成長が頭打ちになった企業が「軽はずみな多角化」に手を出すことに警鐘を鳴らした。
兵庫県尼崎市にあるクリーニング店「共生社」の槙野 雅央 (まきの まさひろ)社長は、縮小するクリーニング事業の再起をかけて新規事業に乗り出したが、ことごとく頓挫。そんな中でドラッカーの著作と出合い、真の強みを活かすべく、先代の父がずっと温めていたあるアイデアに活路を見出した。
- 業績が頭打ちになった企業は「軽はずみな多角化」に手を出しやすい
- 「われわれ(自社)がその事業に貢献できるものは何か」を問うことが大事
- その問いに対して「資金だけ」あるいは「何もない」なら失敗する可能性が高い
目次
縮小するクリーニング業界。再起のために新事業に取り組むが鳴かず飛ばずで……
1970年に創業した共生社の事業の支柱は、クリーニングタグだった。クリーニング店が、顧客から預かった衣類を管理するために取り付ける認識タグ。共生社はこの特殊な紙片をメイン商材に戦ってきた。
1990年代の初頭まで業績は右肩上がり。しかし以降は縮小に転じ、オフィスのカジュアルファッション化や形状記憶シャツの登場により、クリーニング需要は著しく減少していった。
1999年に社長に就任した槙野社長は、じりじりと売上げが減っていくという現状に手を打つべく、クリーニング店の接客を省人化する機械システムや、受け渡し専用ロッカー、ICチップ型の衣類管理システムなどを次々に開発。
しかしどれもコストの懸念などがあり、クリーニング店にはほとんど受け入れられなかった。総投資額は1億円。どれも成果をあげることができず、次に打つ手が見えなくなった。
ドラッカーの勉強会に参加したのは、そんなときだった。
強みを活かして貢献できる事業は何か?ドラッカーの問いが教えるイノベーションのヒント
目を見開かれる思いだった。ドラッカーは、ゼロ成長企業が手を出してしまいがちなタブーについて論じていたのだ。
著書『実践する経営者』では、しばしば成長が頭打ちになった企業は「軽はずみな多角化」に乗り出してしまうと書いていた。
多角化や企業買収に際して問うべきは、『われわれがその事業に貢献できるものは何か』である。もし答えが『資金だけ』あるいは『何もない』であるならば、そのような多角化の結果は惨憺(さんさん)たるものになる
『実践する経営者』
そこで槙野社長は気付いた――これまで挑戦してきた新規事業は、共生社として本当にクリーニング業界に貢献できるものだったのだろうか。
しかもこれまでの新規事業は、実際のところ、先代の父が積み上げた遺産を元手にすることで可能となったものばかりで、それはまさにドラッカーのいう「資金だけ」でしか貢献できないものだったのではないか。
資金とアイデアだけ出して、あとは業者に丸投げ……それで本当に価値ある製品を提供できるのだろうか。
槙野社長は、これまでのやり方・考え方を改める必要があると痛感した。ではどうするのか。
いまいちど、共生社の真の強みでクリーニング業界に貢献するべきなのだ。
そこで槙野社長はふと思い出した。先代の父が、かつて何度も挑戦を繰り返し続けたクリーニングタグの課題があった。目的は、「ホチキスを使わないクリーニングタグ」の開発だった。
従来のようなホチキス型のクリーニングタグでは、顧客が手指をケガしたり、衣類が傷ついたりする問題がある。先代は、それをどうにかしようと試行錯誤していたのだ。
「ホチキスを使わないクリーニングタグ」は、エコロジーという現代的な価値観にも合致する。今こそ原点回帰をするときなのだ。槙野社長は父の夢と会社の再起を実現するべく奮い立った。
それから槙野社長と社員は、「ホチキスを使わないクリーニングタグ」というアイデアをベースに、実際のクリーニング店の反応をフィードバックして開発を続けた。
結果的に、衣類が傷つきにくい「角丸タッグ」が誕生し、見事受注を取り付けることに成功。
その後も槙野社長は、顧客であるクリーニング業界に貢献するための製品づくりに注力していった。
「志は高いが売れない」……その先にある成功
しかし、開発した商品がビジネス的な成功を収めたのかといえば、決してそうではなかった。「志は高いが売れない」という現実に何度もぶち当たった。
それでも槙野社長は前進を続けた。トライ&エラーの精神で、アイデア出しと開発を止めなかった。そのモチベーションを支えたのは、ドラッカーの言葉だった。
イノベーションはつまるところ経済や社会を変えなければならない。それは、消費者、教師、農家、眼科手術医の行動に変化をもたらさなければならない
『イノベーションと企業家精神』
その後、クリーニング業界向けだけでなく、一般消費者向けのヒット商品も生み出すことができた。
独創的なプロダクトアイデアで文具愛好家から高い評価を受けているHI MOJIMOJI(ハイ モジモジ)と共同開発した「TAGGED」は、クリーニングタグの耐洗紙を使ったメモパッド。カラビナを通す穴を空けることで、アウトドアファンの心を掴んだ。
この「TAGGED」は、登山が趣味である槙野社長自身の「こうだったらもっといいのに」というアイデアが着想となっている。資金とアイデアを出して開発を丸投げしていたら、きっとこういった商品は生まれなかったのかもしれない。
志は高いが売れない――それはきっと、本当の成功を掴むための、一時の暗がりなのだ。槙野社長は決して諦めなかった。なぜなら槙野社長がみているのは目先の「利益」ではなく、クリーニングタグ業界や社会への「貢献」なのだから。
事実、ドラッカーの「貢献」という言葉に出会って価値観が一変したという経営者は数え切れないほどいる。共生社の槙野社長もまた、間違いなくその一人だったといえるだろう。
この成功事例を活かすためのヒント
ただ闇雲に事業を展開しても、イノベーションを起こすことはできません。大切なのは、創業時と現在とで、何が変わり、何が変わらない部分であるのかを認識することです。
創業者や先代が築き上げてきたものと向き合い、現場と顧客の声に耳を傾ける。そこではじめて、自社の真の強みを見出すことができるようになります。(Dサポート代表 清水 祥行)
清水 祥行(しみず よしゆき)
1968年、兵庫県西宮市うまれ。同志社大学卒。Dサポート株式会社代表取締役、ナレッジプラザ・ドラッカー読書会認定ファシリテータ一般財団法人しつもん財団認定ビジネス質問家、経済産業省登録中小企業診断士(平成8年登録)。楽天大学にて「もし楽天店舗さんがドラッカーのマネジメント論を学んだら」講師を務める。



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