プロダクトイノベーションとは、市場やライフスタイルを変える革新的な製品が登場するイノベーションの一例である。
イノベーションと聞くとハードルが高いように思えるが、プロダクトイノベーションは、けっして一部の企業の例外的な成功物語ではない。
プロダクトイノベーションが起こる要因はいくつか存在するため、正しく意味を理解すれば、誰でもプロダクトイノベーションの機会を手にすることができるはずだ。
この記事では、プロダクトイノベーションの基本的な意味や代表的な分類を解説するとともに、プロダクトイノベーションを起こすヒントとなる重要な視点を紹介し、最後に実際の成功事例を3つ挙げる。
この記事を読めば、
- プロダクトイノベーションは偶然のアイデアや優れた技術だけがすべてではない
- 顧客の理解を深めるとプロダクトイノベーションのヒントが見えてくる
ということを理解し、市場開拓のチャンスが身近にあると確信できるようになる。自社にイノベーションが必要だと考えている方や、アイデアの独自性に自信がない方は、ぜひ読んでほしい。
目次
プロダクトイノベーションとは
革新的なプロダクト(製品:product)の開発によって、新しい市場を開拓したり、人々のライフスタイルを一変させたりすることを、プロダクトイノベーションという。
たとえば、かつて“三種の神器”といわれた1960年代の電気洗濯機・電気冷蔵庫・白黒テレビは、これまでにない市場を生み出し、人々の生活様式を大きく変えたプロダクトイノベーションの典型例だ。現代では、たとえばスマートフォンが一例として挙げられるだろう。
プロセスイノベーションとの違い
ところで、プロダクトイノベーションとよく比較されるのが「プロセスイノベーション」である。プロセスイノベーションとは、文字通り、製品の生産・流通の過程(process)で起こるイノベーションのことだ。
製品(プロダクト)と過程(プロセス)。この点にイノベーションの違いがはっきりと表れている。
マーケットイノベーションとの違い
一方、既存の製品を新しい切り口でアピールして、新しい顧客を獲得して新規市場を開拓することをマーケットイノベーションという。たとえば、極寒の地に住むカナダのエスキモーの人々に、「この冷蔵庫は“温度を一定に保つ”機械です」と売り文句を変えて販売することは、マーケットイノベーションといえるだろう。
プロダクトイノベーションの4類型
プロダクトイノベーションは何が起因になるのだろうか。一般的にプロダクトイノベーション論では、新製品を主導する要因を4つに分けることが多い。
①技術主導型
テクノロジーの応用が革新的な製品を生み出すプロダクトイノベーションを技術主導型という。一般的な感覚で“イノベーション”と聞くと、たいていは技術主導型を想像するのではないだろうか。ダイナミックでわかりやすいタイプのイノベーションである。
②ニーズ主導型
派手さはないかもしれないが、比較的身近なイノベーションがこのニーズ主導型である。意味はシンプルで、顧客が求めているモノ・コトをかたちにすることで革新的な製品を生み出すケースをいう。
簡単な説明ではあるが、かなり奥が深い。なぜなら消費者のインサイトを掘り下げる必要があるからだ。市場や顧客のことをよく理解し、本質を捉えることで、「実は顧客はこんなサービスを求めているのではないか」「当たり前になりすぎているが、実はこんなことに不便を感じているのではないか」という仮説にようやくたどり着くのである。
③類似品型
競合の製品を洗練化し、より高い顧客価値を付与した製品で市場を席巻することを類型品型のプロダクトイノベーションという。どんな革新的な新製品も、競合に模倣され、弱点がフィードバックされた、さらにレベルの高い製品が生み出される。
④商品コンセプト型
売り手側のコンセプトが先行して製品開発され、結果的に市場開拓につながるケースを商品コンセプト型のプロダクトイノベーションという。かみ砕いていえば、「こんな製品をつくってみたらどうだろう?」という発想で生まれた新製品のことである。
ただし商品コンセプト型は、現実の顧客が本当に求めているのかどうか仮説と検証を繰り返さなければ、ニーズがずれた製品を開発して失敗するリスクがある。ようするに商品コンセプト型は、発想が“売り手志向”なのだ。マーケティング的には、やはり“顧客志向”でなければならない。
プロダクトイノベーションの効果と注意点
プロダクトイノベーションが起こると、自分の会社だけでなく、社会や人々の生活にも影響を及ぼす。俯瞰した視点でプロダクトイノベーションの効果と副作用をみてみよう。
①人々の生活や価値観を変える
プロダクトイノベーションが実際に人々にどれほどの影響を与えるのかは、冷蔵庫やスマートフォンのない生活を想像するだけで十分だろう。
革新的な製品は、人々の生活環境を一変させ、それに伴って、価値観をも変容させる。プロダクトイノベーションには、“文化創造”の役割がある。
②市場の勢力図を変える
1950年代のソニーの小型ラジオが世界中で大ヒットしたように、たった一つのプロダクトイノベーションが、市場の力学を一変させることもありえる。もちろん、追随企業が製品を模倣し始めるので、プロダクトの新規性のみで市場優位を維持することは難しいが、特許により製品を守ることは可能である。
③経済規模が拡大する
プロダクトイノベーションは、生産プロセス・販路・流通の派生的な拡大を意味する。それに伴って雇用が増え、GDPも増大する。経済学的な見地から考えても、プロダクトイノベーションは経済成長に多大な貢献を果たすといえるだろう。
④競争劣位の企業が市場から退出する
企業は日々刻々と変化する現実に対応し、価値を生み出し続けなければならない。プロダクトイノベーションは、市場の構造をつくり変え、新しい競争の舞台を用意する。革新的な製品は、これまでの製品を“過去”に変えてしまう。
こうした変化に適応できない企業は、市場からの退出を余儀なくされることになる。それが経済の新陳代謝であり、シュンペーターのいう「創造的破壊」である。
プロダクトイノベーションを起こす思考法3つ
プロダクトイノベーションは、単なる偶然やアイデアがすべてではない。ものの見方・考え方を変えるだけで、プロダクトイノベーションのチャンスの尻尾を掴むことができる。
①顧客が満たせていない欲求をさぐる
マーケティングとイノベーションについて論じた“マネジメントの父”ことピーター・ドラッカーは、現在の消費者が満たされていない欲求は何かを見出すべきだという。
たとえばソニーは、当時のアメリカの若者が、大きくて重たいトランジスターラジオをかついでピクニックに行っているのを観察してヒントを得た。小型ラジオが生まれたきっかけである。
②過去の成功に執着しない
世間を賑わせた大ヒット商品も、時がたてば顧客のニーズからズレた時代遅れの産物になりかねない。企業の使命は、明日の価値を創造することである。製品は、“売れた”時点で、すでに過去の成功でしかない。プロダクトイノベーションのヒントは、顧客が持っている。製品ではなく、顧客に目を向けて、「彼らにとっての価値は何か」を問う必要がある。
③世の中のことにアンテナをめぐらせる
自分の商圏だけに目を向けるのは、視野を狭くするだけだ。自分たちとは関係のないように思える業界の変化が、製品の在り方を揺るがすイノベーションの風を起こしてくれるかもしれない。
プロダクトイノベーションの成功事例
ここまで読んでくれたあなたなら、プロダクトイノベーションと聞いて思い浮かべる企業がいくつもあるのではないだろうか。以下では、今日のわたしたちのライフスタイルを変えた製品やサービスを紹介する。
スマートフォン
言わずもがな、という典型例。スマートフォンは、間違いなく2010年代以降の生活様式に大きな変化をもたらした。電話、時計、メモ、スケジュール管理、メール、音楽、情報検索、道案内、店の予約……多くの人にとって、スマートフォンのない生活はもはや成り立たないといっても過言ではないだろう。
タクシーが呼べるアプリ「GO」
「GOアプリのおかげで、売上が倍増したし、いまでは学生さんもよく利用してくれるようになったんですよ」ーー以前、筆者がタクシーに乗ったときに、運転手がそんなことを言った。2018年にサービスを開始した「GO」は、いちいち周辺のタクシー会社を調べる必要がなく、呼べば周辺にいるタクシーが来てくれるアプリだ。タクシーがより身近に、そしてさらに便利になったことから、若年世代がタクシーを利用する習慣が根付きはじめている。
「GO」は、タクシーの利便性はそのままに、スマートフォン社会のライフスタイルに適応することで、顧客に新しい価値を提供できるようになったイノベーションの事例といえるだろう。
YouTube
世界中が一つのプラットフォームでつながる日が来るとは、ほとんどの人が予想しなかったのではないだろうか。YouTubeというサービスを情報社会の文脈からみてみると、興味深い。
2005年の設立以来、YouTubeはテレビというマスコミュニケーションの座を大きく揺るがし、人々の動画コンテンツとの付き合い方を変えてしまった。従来のマスコミュニケーションのように、一方通行の情報伝達ではなく、数ある競合の中から視聴者が情報を選びとるという選択的・能動的なコミュニケーションが成立するようになった。YouTubeは情報の質をも変容させたといっても過言ではない。
まとめ
革新的なプロダクト(製品:product)の開発によって、新しい市場を開拓したり、人々のライフスタイルを一変させたりすること
テクノロジーの応用が革新的な製品を生み出す「技術主導型」、顧客のニーズに寄り添った結果生まれる「ニーズ主導型」、競合製品を洗練化して付加価値を高めた製品を生み出す「類似品型」、こんな製品をつくってみたらどうだろう?という発想で生まれる「商品コンセプト型」
- 人々の生活や価値観を変える
- 市場の勢力図を変える
- 経済規模が拡大する
- 競争劣位の企業が市場から退出する
- 顧客が満たせていない欲求をさぐる
- 過去の成功に執着しない
- 世の中のことにアンテナをめぐらせる
生活を一変させたスマートフォン、スマートフォン社会に適応したタクシーが呼べるアプリ「GO」、マスコミュニケーションの在り方を覆したYouTube
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