昔々、セルフマネジメントが必要なかった時代があった。
たとえば日本の江戸時代…
士農工商という階級社会が260年続きました。
たとえばフランス革命以前の約200年続いたブルボン王朝時代…
貴族を頂点とする階級社会でした。
ブルボン王朝の終焉(1830)のすぐあとに一冊の本がフランスで出版されました。
タイトルは『アメリカのデモクラシー』(1835,1840)。
作者は貴族の家系に連なるアレクシス・トクビル。
トクビルはドラッカー教授が生み出した社会生態学の先生の一人(直接会っている訳ではないが…お薦めの1冊から…こんなお顔です→)。
イギリスからすでに独立していたアメリカ(独立宣言:1776)に調査におもむき、新大陸の民主主義をヨーロッパに伝えた本です。
それは世界で初めて「平等」をテーマにした著作。
同書は今も世界で読み継がれています。
約250年前にイギリスの植民地から独立したアメリカには最初から階級がありませんでした。つまり平等な社会でした。
フランスは革命で平等を手にしました。約200年前のことです。
日本は明治になって平等という概念を輸入しました。約150年前のことです。
今から250年~150年前、世界のいくつかの国々が「平等」ということを意識するようになりました。「平等」によって人々が得たものは「自由」。
「平等」は、階級や地位の認識に関わることですが、「自由」は行動そのものと関係しています。自由は競争を生み、資本主義と相まって今や自由民主主義、自由貿易などと世界共通の理念にまでなりました。
歴史の復習のようになってしまいましたが…セルフマネジメントの起源を探ろうとしています。私は「そもそも族」…起源を探るのが大好き。しばらくお付き合いください(笑)
野望のもつ力を発見したトクビル
1831年、フランスからアメリカに足を踏み入れたトクビルはあることに気づきます。
「アメリカ人はとにかくせわしなく動いている」。
当時のアメリカは、開拓され続ける大陸の西端=フロンティアの存在抜きには語れません。国全体が西へ西へと動いていました。トクビルの眼に映ったのは、誰よりも早く到達しようとせわしなく動くアメリカ人の姿でした。
彼らを突き動かしたもの…それは野望(野心)です。
しかし、トクビルは財産的基盤がない人が何かをなすには時間がかかることを見ぬきます。つまり唯一の資源である時間を上手く使わないと何かをなすことができないのです。さもなければ自由から得られたせっかくの野望は、短期的かつ小さなものに変化すると喝破しました。
多忙で日々のことに追われ、やがて失われていく野望…現代社会に通じていると感じます。
その後、1890年代には、開拓は最西端の太平洋に到達し西部開拓史が終焉し、フロンティアも消滅します。大きな野望の対象が一つ無くなったのです。
一方、アメリカの野望は太平洋へと向かいます―1898年ハワイ併合1989年米比戦争でフィリピンの領有権獲得など…
さらに野望が向かった先は産業です。
「農民にも商品を」とシアーズが、「大衆にも車を」とフォードなどが出現します。ドラッカー教授が描いた世界です。産業化の中で新たな形で野望は息を吹き返します。
彼らの野望は社会を変えていきました。
それは自由から得た野望がもつ力でした。
ドラッカー教授のあの言葉をセルフマネジメントの原点に据える
野望の否定は自由の喪失につながります。
ドラッカー教授は、ヨーロッパで体験したナチスによる全体主義の再来を警戒しました。大衆は安定を求めて簡単に自由を手放し、全体主義を招き入れることを見ぬいたからです。ナチス全体主義は、ヒトラーが煽動したものではなく、大衆が呼び込んだものだと見ぬいたのです。自由を守るために、どうすればいいのか。
さて、そろそろ話をセルフマネジメントの方向へと向けたいと思います。
野望とは個人の意志の問題。
ここにドラッカー教授が挙げた一つの原則と結びつく接点があります。
「私的な強みは公益となる」『マネジメント』(1973)…あの言葉です。
自分がもっている経験、知識、強みは公益のために使うという原則です。
これはマネジメントの正統性として挙げられたものですが、基本は一人ひとりの問題と考えるのが妥当と考えます。
人類が手にした「自由」から生まれた「野望」は、私益ではなく公益のために使う。
野望の原文はambitious、大きく公益を望めばそれは大志になる。どちらもambitious-人の意識の方向性の違いだけの問題。
私は、ここにセルフマネジメントの原点を見ます。
どちらの方向に、どれだけのエネルギーを注ぐのか。
人類が獲得した「自由」、そこから生まれた一人ひとりのambitiousこそ、セルフマネジメントの原点にあるものなのではないでしょうか。
人生100年時代は天から与えられたギフト。
一人ひとりがambitiousもち、それを一生かけて育てていく時間が沢山ある素敵な時代。
セルフマネジメントの原理と方法2
自らのambitiousを育てる
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