「世界のいずれの国々においても、いろいろな問題の解決に用いられる<原理>や<道具>は同じものである。その意味において<原理>とか<道具>はすべて普遍的なものといえよう」。ドラッカー教授が1956年に出版された日本語版の序文の冒頭で述べた言葉です。
教授の同書に対する思いが鮮明に表現されています。
現代の経営
教授は、まず一つひとつの現実を原理と道具としてコンセプト化しました。
さらにそのコンセプトを一つひとつのピースとしてマネジメントという一つの大きな絵(体系)を描きました。
それを実現したのが『現代の経営』であり、これをもってマネジメントの発明者と呼ばれるようになったのです。
「道具の使い方」という視点
さらに教授は、序文で続けて
「しかし問題が具体的にどう解決されているかという点では、必ずしもどこの国でも同じというわけにはいかない。同じ目的を追求し、同じ原則によっている場合でも、<道具>の使い方によって実際の解決は異なってくるからである」
と述べました。
ここに「道具の使い方」という視点を提供しました。
はたして、私たちはどんな道具を持っているのか、自問したことはあるでしょうか。
本書では多くの原理と道具に出会うことができます。
「道具の使い方」を規定するもの
続けて教授は、「それならば、<道具>の使い方を規定するものはなんであろうか」と問題提起しました。
これに対して教授は
「それは<道具>を用いる人の<手腕>であり、その人を取りかこむ<環境>であり、その国家社会の<伝統>であり、現実の<特殊な要求>である」
としました。
「道具の使い方」と「手腕」という言葉から、単に道具を知っても解決に至らないことは明らかです。
教授は「マネジメントは、科学であると同時に人間学である。客観的は体系であるとともに、信条と経験の体系である」と述べ、「道具の使い方」という客観的、科学的な「方法」は、「手腕」という人と人との関わりのなかで生まれる経験の蓄積ではじめて意味あるものになるのです。
さらに<道具の使い方>には、その人を取り巻く<環境>や<伝統>、その場特有の<特殊な要求>が影響します。
ドラッカー教授が自らを社会生態者であると位置づけたのは、社会で起こっている現実によって<道具の使い方>が変わるからです。
アメリカ流の最先端の道具を日本に適用としても上手くフィットしないのはこのためです。
日本の伝統や文化によって<道具の使い方>が変わるのも同じ理由からです。
さらにいえばそれぞれの経営の現場によって<要求>が異なり、これまた<道具の使い方>は異なります。
そのとき戻るべきところが<原理>です。道具は原理に基づいて作られているからです。
原理を知っていれば状況に応じて道具をより有効に使えるのです。
『現代の経営』は、ドラッカー教授このような考え方の下に著されています。
原理を知り、道具の使い方に習熟するために活用することが重要です。
紹介書籍
ドラッカー名著集2 現代の経営[上] | |
ドラッカー名著集3 現代の経営[下] |
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