本書『経営者の条件』(1966)は、知識社会の到来を告げる書でもあります。教授は、知識労働者<knowledge worker>という新しいコンセプトを『創造する経営者』(1964)で初めて、『経営者の条件』と『断絶の時代』(1969)で大々的に取り上げました。
ドラッカー教授は、1966年版の序章で次のように述べました。「われわれは現在、経営者を効果的ならしめるものはなにかという問題について、あらん限りの知識を必要としている」。なぜなら「現代社会の組織(中略)の機能の成否はすべてこのような知識にかかっている」からです。ドラッカー教授は、知識をもったエグゼクティブという個人の能力が組織に影響を及ぼすことを先見的に明らかにしたのです。
また終章で「肉体労働者の欲求と、拡大する産業の役割との経済的対立が19世紀の発展しつつある国にとっての社会問題であったように、知識労働者の地位と機能と自己実現が20世紀の発展した国にとっての社会問題である」と記しました。
21世紀の社会問題
知識労働者の地位と機能とは社会においてどのような組織に属し、どのような役割を果たしていくかということです。1950年代末に誕生した知識労働者という新種の人間を社会がどのように受け入れていくかということが社会問題だと指摘しました。
この問題は21世紀に入った今も充分に解決されたとはいえません。たとえば最高学位である博士号をもった人財が有効に活用されていないなどが最たるものです。
第二の社会問題は、組織で働くことでどのように自己実現を果たしていくかという問題です。この問題は未解決といっていいでしょう。たとえば今年2018年に働き始めた新入社員に対する意識調査で「仕事よりもプライベートを優先したい」と考えている人が14年の前回調査から約10ポイント上昇し、75.8%になったと報じられています。
個人的には設問がおかしいと感じるのですが、自己実現に興味がないのか、自己実現の道筋を知らないのか…不安になる結果です。いずれにしても大人の責任です。
社会と組織、組織と個人の関係を描いた著作『経営者の条件』は、新入社員必読の一冊といえましょう。真の社会人は、『経営者の条件』を読んで自己実現の原理(自己開発→自己評価→自己成長)を是非、後輩諸氏に教えてあげて欲しいと思います。それが知識労働者の社会的使命だと思うからです。
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