「この家を燃やしてほしい」痛烈な顧客クレームが会社を大きく変えた!「真摯」な姿勢は顧客が顧客を呼ぶ【都田建設】


「この家を燃やしてほしい」痛烈な顧客クレームが会社を大きく変えた!「真摯」な姿勢は顧客が顧客を呼ぶ【都田建設】

商人とその顧客、自由業者とその顧客の間に必要とされているものは、仕事上の真摯さにすぎない。しかし経営管理者であるということは、親であり教師であるということに近い。そのような場合、仕事上の真摯さだけでは十分ではない。人間としての真摯さこそ、決定的に重要である


『現代経営 [下] p. 221

顧客に向ける真摯な態度――それも確かに重要である。ドラッカーは、プロたる者は「知りながら害をなすな」と、著書『マネジメント』で説く。

自社の工事に欠陥を見つけた工務店が、顧客が気付かなくてもやり直すといったことは、「仕事上の真摯さ」の一例だ。

しかし経営管理者、すなわちマネジャーの持つべき真摯さはこれと異なる。(部下の)親であり教師であれと、ドラッカーは説く。部下の人生に関わる存在であれということだ。

真摯さのない者をマネジャーにすれば、部下の成長を阻害し、やがて人と組織を破壊する。

今回の都田建設の物語のカギを握る創業者は、後者の意味においても真摯だった。その真摯さは、次世代にも伝わった。

創業者の後を継いだ蓬台(ほうだい)氏も、真摯さをもって社員と顧客に向き合った。そこから生まれたポリシーが「自社で建てた住宅にトラブルがあれば必ず、1時間19分以内に駆け付けられる」。

その姿勢が顧客の支持を得て、会社は発展した。逆にトップマネジメントの真摯さが途切れれば、組織は終わる。(ドラッカー学会理事・佐藤 等)

佐藤 等(さとう ひとし)

佐藤等公認会計士事務所所長、公認会計士・税理士、ドラッカー学会監事。1961年函館生まれ。主催するナレッジプラザの研究会としてドラッカーの「読書会」を北海道と東京で開催中。著作に『実践するドラッカー [事業編]』(ダイヤモンド社)をはじめとする実践するドラッカーシリーズがある。

この記事のまとめ
  • 「この家を燃やしてほしい」と言われるほど酷い施工をしてしまった
  • このクレームがきっかけで、ドラッカーの「真摯さ」の意味を真に理解できた
  • 今までは「お客様のために」と言いながら、実はお客様のことが見えていなかった
  • 真にお客様と向き合うことで、営業の在り方を見直すことで売上がアップし、「顧客が顧客を呼ぶ」いい循環を生み出せるようになった

「会社のために」と経営を猛勉強。そこで出合ったのがドラッカーだった。

「会社のために」と経営を猛勉強。そこで出合ったのがドラッカーだった。

静岡県浜松市にある都田建設の現・社長である蓬台 浩明(ほうだい ひろあき)氏は、国立大学の建築学科を卒業後、大手ハウスメーカーに就職したが、大組織の中で歯車のように働く毎日に、もどかしさが募った。

建築の仕事をするからには泥にまみれたいと考え、現場監督を募集していた都田建設に転職した。1998年、27歳のときだった。

当時、設立3年目の都田建設には、創業者で現会長の内山 覚(うちやま さとる)氏が一人だけ。受注も少なく、現場監督としての仕事がない。そこで飛び込み営業を始めた。

もともとが大工の創業者は、根っからの職人だった。

「家は建てて終わりじゃない。完成した後も20年、30年と、お客様を守り続けたい」――。そう熱く語る姿に共感したが、やがて疑問が芽生えた。

お客様を本当に守り続けるというなら、建てた家に万が一、後から瑕疵(かし)が見つかった場合、無償で修理するべきだろう。

そうなれば、1棟あたり1000万円近くかかることもありうる。それに耐えられる余力が、この会社にあるのか。

「会社の成長なくしてお客様は守れない」――しかし、創業者にも自分にも経営の知識が欠けている。そこで連日、図書館に通い、「経営」とつく棚にある本を片っ端から読んだ。

特に印象に残ったのが、ドラッカーの著作だった。分かりにくかったが、なぜかもう一度、読みたくなる

そこで書店で買い求めて繰り返し読むと、その都度、線を引きたくなるところが変わる。

時々の課題や問題意識で、浮かび上がるフレーズが変化した。

経営書を読み込んだ蓬台氏は、マーケティング強化を思い立った。その頃の都田建設の仕事は、ツテに頼った下請けが大半。自社で受注して建てる戸建て住宅は、年間1棟ほどしかなかった。

「広告を打って、施主から直接、受注を取りましょう」

だが、創業者の答えはノー。「一生懸命、仕事をすれば、お客様はついてくる」と言って取り合わない。資金がない現実もあった。

しかし、業績は振るわない。危機感を覚えた創業者が、新聞広告を出すことを決意したのは約1年後。500万円ほど借り入れ、蓬台氏の訴えに応じたのだった。

創業者との深い絆。報いたい一心で営業に奮闘するが、思わぬ落とし穴が……。

創業者との深い絆。報いたい一心で営業に奮闘するが、思わぬ落とし穴が……。

自分を信じてくれた創業者に報いたい。蓬台氏は「1年で20棟の新築物件を受注する」と約束した。

それまで年間1棟がせいぜいだったのだから、無謀ともいえた。だが、蓬台氏には勝算があった。大手ハウスメーカーに勤務していた頃、金額が折り合わずに受注に至らないケースを多く見ていた。

規模の小さな都田建設では、経費節減の余地が大きく、大手よりも坪単価にして10~15万円程度安く価格を設定できる。

「大手が取りこぼしているお客様の思いを、全部叶えられる」

そんな思いを胸に、必死に営業した。広告を見て問い合わせてきた顧客を訪問。「玄関の戸を開けてもらったら足を突っ込み、絶対に帰らない」ような、攻めの姿勢。契約件数は、1年目が24件。2年目は30件に達した。

こうして会社が順調に成長を遂げるかに見えた矢先の2003年元旦、大事件が起こった。

「これは、どういうことですか」

都田建設に、一本の電話がかかってきた。

戸建て住宅を建設中の現場で、施主が青ざめて立ちすくんでいた。駆け付けた社長と担当の社員2人は愕然とした。進捗中の工事は、素人目にも分かるほど粗雑だった。

「この家を燃やしてほしい」

施主の一言に打ちのめされた。

無理な受注が、綻びを招いたのだ。受注件数の増加に職人の確保が追い付かなかった。やむなく、今まで付き合いのない大工に現場を任せた。

そこで忙しさにかまけてチェックが甘くなったことが、ずさんな工事を生み、施主の信頼をぶち壊してしまった……。

大苦境が教えてくれたこと。それはドラッカーの説く「真摯さ」の本当の意味だった。

大苦境が教えてくれたこと。それはドラッカーの説く「真摯さ」の本当の意味だった。

蓬台氏は、創業者に懇願した。

「この家を、無償で建て直させてください。かかる費用は、私個人で借金してでも何とかします」

創業者は約1000万円を工面し、解体を建て直しの算段を付けてくれた。施主は「もう一度、蓬台君を信じるよ」と言った。

そして新しい家が完成すると、施主は笑顔を見せ、友人を新規顧客として紹介してくれた。

ドラッカーの本で読んだ、ある言葉がよみがえった。

真摯さ(Integrity)――。

ドラッカーは、マネジメントを担う者にとって真摯さとは、知識や才気を超えて重要な資質だとする。

その意味が肚にストンと落ちた。この会社に懸けようと自分が思ったのも、創業者の真摯さに惹かれたからだ。

振り返れば、急成長の綻びは社内にも広がっていた。新たに採用した社員に、疲弊感が蔓延していた。蓬台氏が孤軍奮闘で確立した攻めの営業スタイルを、全社一丸で続けるのはムリがあった。

顧客を真に想う「真摯さ」が、営業手法を大転換する決断を可能にした

顧客を真に想う「真摯さ」が、営業手法を大転換する決断を可能にした

蓬台氏は、営業手法の大転換を決意した。このときも脳裏に、ドラッカーの言葉があった。

顧客の創造――。

事業を営む目的はそう定義できると、ドラッカーは『マネジメント』で指摘する。この言葉を噛みしめ、考えた。

「他社よりいい商品をつくりたい、いいサービスを提供したい。その一心で頑張ってきた。けれど、肝心のお客様のことが見えていただろうか。お客様の気持ちを無視して追いかけ回すのはある意味、簡単だが、結局は嫌われ、自分たちも疲弊する。逆に、お客様にただ真剣に向き合うことで、お客様のほうから自然に都田建設に集まってくるような会社にできないか」

これを機に、価格を訴求するセールストークをやめた

そして社員一人ひとりが、家づくりに込める思いを語ることにした。新居で顧客の生活がどう変わり、どんな幸せな時間を過ごしてほしいと考えるのか。そこに力点を置いた。

チラシに価格を載せるのをやめ、物件の写真も控えた。その代わりに、社員の顔写真とメッセージをちりばめた。

さらに営業エリアを絞った。新たに定めた「宝の声119番」対応を実行するためだ。顧客の家で水道のトラブルなどがあったら、社員が「1時間19分」以内に駆けつける。

だから、社員が車で1時間19分以内に行ける場所にしか家を建てない。

蓬台氏は、2007年、社長に就任。現在は年間100棟以上の新築を手掛け、2015年2月期の売上高は28億円。

かつて「この家を燃やしてほしい」と言われた施主からは、その後も新規顧客の紹介が相次ぎ、14年間で8件の成約に結びついた。

この記事を読んでくれたあなたへの問い

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画像:wikipedia

現代経営学の巨匠ピーター・ドラッカー

あなたの会社の商品やサービスについて、お客様に一番に約束したいと思うことを挙げてください。
そしてその約束は、どんな条件の下なら守れるでしょうか

どんなに良心的な企業でも、お客様の抱くありとあらゆる期待に応えることはできません。そのことは、お客様も分かっています。

お客様からの信用を得るには、むしろ安請け合いをしないことが大事です。期待に応えると保証できる範囲を限定し、約束できないことを明確にする。

その代わり、「やる」と保証したことは、必ず実行する。そのほうが、真摯な姿勢が伝わります。

では、どんな範囲で、何を約束することを、お客様は求めているのでしょうか。蓬台氏は、社員の一人ひとりの家づくりに懸ける思いが本当であることを約束し、伝えようとしました。

だから営業エリアを絞る代わりに、顧客のもとに1時間19分以内に駆け付けることを保証したのです。(Dサポート代表 清水 祥行)

清水 祥行(しみず よしゆき)

1968年、兵庫県西宮市うまれ。同志社大学卒。Dサポート株式会社代表取締役、ナレッジプラザ・ドラッカー読書会認定ファシリテータ一般財団法人しつもん財団認定ビジネス質問家、経済産業省登録中小企業診断士(平成8年登録)。楽天大学にて「もし楽天店舗さんがドラッカーのマネジメント論を学んだら」講師を務める。

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