創造的破壊とは?スッキリわかりやすく解説。

創造的破壊とは、イノベーションによって新たな成長産業が生まれ、これまでの競合勢力図が塗り替えられていく経済プロセスのことをいう。

もともとは経済学用語で、20世紀を代表する経済学者ヨーゼフ・A・シュンペーターが生み出した概念として知られる。

一般的にイノベーションは、才能やひらめき、特殊な状況といった不確定要素に左右されるという印象が強い。そのため、イノベーションを自分事として落とし込み、実践するという発想が醸成されにくい現実がある。なかには、「政府が特定の業種を資金的にバックアップしなければイノベーションは起こせない」と考える人もいる。

そこで当記事では、創造的破壊の意味や、創造的破壊という言葉が生まれた背景を解説するとともに、実際のビジネスでイノベーションを起こすヒントを紹介する。

創造的破壊は誰でも起こせる。なぜなら、イノベーションのカギを握っているのは「顧客」だからだ。顧客価値を追求する姿勢を忘れなければ、おのずと顧客が答えを教えてくれる。

「“日本再生のためにイノベーションを”、“ベンチャー企業のイノベーションの将来性”などと言われるが、いったいイノベーションって何なんだ?」
「イノベーションっていう言葉が一人歩きして中身がないのではないか」
「イノベーションが起こせたら苦労はしない」

このように考えている人は、ぜひ記事を読んでほしい。

創造的破壊とは生産性の低い産業が成長産業にとって代わられる経済発展プロセスのこと

創造的破壊(creative destruction)とは、イノベーションを起こした企業が成長産業となり、ヒトやカネが生産性の低い産業から成長産業に流れる市場の新陳代謝のことである。

創造的破壊という言葉の提唱者は20世紀を代表する著名な経済学者ヨーゼフ・A・シュンペーター。1942年の大著『資本主義・社会主義・民主主義』に登場した概念である。シュンペーターは創造的破壊を経済発展のプロセスそのものであると考えた。

シュンペーター以前の経済学理論は、イノベーションの発想が欠けており、需要と供給が一致する前提で論じる静的な視点(一般均衡理論)が主流だった。

一般均衡理論における需要供給曲線

しかし一般均衡理論では、経済市場の発展プロセスを描くことができない。一般均衡理論は、いつまでも同じ商品と同じニーズが市場に存在し続けるという前提で経済を語ろうとする。しかし現実にはそんなことはありえない。

たとえばiPhoneが登場した初期の頃はiPhoneに需要が集中したが、時を待たずしてアンドロイドやその他のスマートフォンが市場に登場し、シェアをとりあうライバルとなった。「iPhoneが一人勝ち」といったような市場の均衡が訪れることはなかったわけである。しかし一般均衡理論では、このようなダイナミズムを描くことはできない。

だからシュンペーターは、イノベーションによる創造的破壊の概念を今後の経済学の中心に据えるべきだと主張したのだった。とはいえ、イノベーションという予測不可能な概念を変数として取り扱うことは実際的に難しく、創造的破壊の理論を定式化することはできなかった。

それでもイノベーションによる創造的破壊という概念は、経済社会の発展プロセスを説明するものとして、今日でも広く使われている。

創造的破壊のイノベーションが起こる条件

イノベーションはあくまでも企業の内部で起こるものであり、外的な条件が起こすものではない。シュンペーターはそう考えたようである。

かみ砕いていうと、「社長や社員がこれまでになかったアイデアを思いつき、これまでになかった斬新な商品やサービスを開発する」ということだ。

企業の内部で起こる“発明”や“ひらめき”が、経済社会を発展させる原動力であるーーそれが、シュンペーターのいうイノベーションなのである。

『イノベーションのジレンマ』で有名なクレイトン・クリステンセン氏は、斬新なアイデアで市場の構造を転換させるイノベーションを「破壊的イノベーション」と呼んだが、シュンペーターの想定するイノベーションは、まさにこれにあたるだろう。

イノベーションにより創造的破壊が起こった実例

ソニーのウォークマン(1979年)

録音機能を排除し、「聴く」に特化したカセットの再生機。

登場前「録音機能のないテープレコーダーは売れない」が常識だった。
登場後“音楽を持ち歩く”という人々の新しい文化形態を生み出した。

ユニクロのフリース(1998年)

暖かい・軽い・安い・豊富なカラーバリエーションが揃ったアイテム。1994年に発売したが、1998年に15色を展開。原宿店オープンを契機にフリースブームが起こった。

登場前もともと登山用品で認知度はそこまでなく、既存のフリース製品はカラーバリエーションも乏しかった。
登場後人々のファッションスタイルにフリースが浸透した。

AppleのiPhone(2007年)

音楽・電話・メール・インターネットが一緒になったデバイス。ジョブズいわく「電話の再発明」。

登場前携帯電話ユーザーとネットユーザーはそれぞれ異なる領域にいたため、ウェブコンテンツ業界は静的だった。
登場後爆発的にネットユーザーが広まり、いつでも誰でも物理的制約をこえてインターネットにアクセスできるようになり、ウェブ業界が一気に成長した。

斬新なアイデアだけがイノベーションではない。たった一つの問いで創造的破壊が起こるチャンスも

シュンペーターのイノベーションはブラックボックスで実践しにくい

「イノベーション」と聞くと、才能・偶然・潤沢な資金・十分な研究開発といった諸条件が必要で、ハードルが高いと思われがちである。実際シュンペーターは、具体的にイノベーションを起こす方法については言及していない。

そこで以下では、“マネジメントの父”と称され、Googleやユニクロにも影響を与えたピーター・F・ドラッカーのイノベーション論について簡単ながら紹介したい。

ドラッカーはシュンペーターと旧知の仲であり、自身の著作でシュンペーターについて何度も言及するくらいの知的な影響を受けている。そんなドラッカーは、シュンペーターよりもずっと具体的で、かつ誰でも実践できるイノベーションのヒントを教えてくれているのだ。

ドラッカーのイノベーションは「顧客思考の発想」で実践できる

ドラッカーはイノベーションを、マーケティングと同じくらいに重要だと考えた。しかし彼のいうイノベーションは、けっして才能やアイデアといった運否天賦に左右されるものではなかった。

イノベーションとは、市場に追いつくために自分の製品やサービスを自分で変えていくことである。

ドラッカー『ネクストソサエティ』より

イノベーションを起こす起爆剤は、顧客志向の発想である。ドラッカーは、消費者は製品を買っているのではなく、欲求の充足を買っているといった。つまり、彼らにとって製品は、“なりたい自分のビジョン”や“満たしたい願望”を充足する手段なのである。

顧客は製品を買っていない。欲求の充足を買っている。彼らにとっての価値を買っている。

ドラッカー『マネジメント』より

具体的にどのようにすればイノベーションを起こせるのか? そのことについて体系的に論じた著作が『イノベーションと企業家精神』である。詳しい内容はリンク先で解説しているので、ご一読いただきたい。

「現在の消費者が満たされていない欲求は何か」の問いにイノベーションのチャンスあり

顧客の価値実現欲求は、この現実世界の文脈から形成されるものである。たとえば50年前の若い男性にとっての車と、“車離れ”を謳われる昨今の若い男性とでは、まったく違う価値観で現実を生きている。

仮に、1980年代の車の価値が“ステータスの象徴”だったとするなら、競争相手は高級時計や高級ブランドバッグである。一方で、2020年代の車の価値が“移動手段の選択肢”だとするなら、競争相手は自転車・電動バイク・公共交通機関と考えることができる。

「車」という製品の価値観(意味付け)の違い

1980年代2020年代
車の価値男のステータス移動手段
車の競合高級時計、高級ブランド、ジュエリー自転車、電動バイク、公共交通機関

上記のことが車の価値の変遷を説明するのに的を射た分析だったとするなら、2020年代において車のイノベーションとは、「自転車・電動バイク・公共交通機関では満たしきれない若い男性の価値実現欲求を満たすこと」である。

消費者の欲求のうち「今日の財やサービスで満たされていない欲求は何か」を問う必要がある。この問いを発し、かつ正しく答える能力をもつことが、波に乗るだけの企業と成長する企業との差になる。波に乗っているだけの企業は、波とともに衰退する。

ドラッカー『マネジメント』より

ようは、売り方を変えるだけでも十分にイノベーションを起こせるのだ。新しい発明など不要である。既存の製品の売り方を変えるだけでいい。

たとえば、「おすすめのデートコースをユーザー同士でシェアしあうカーシェア」なんていうサービスはどうだろうか。「この時期に〇〇に行ったら渋滞に巻き込まれて気まずくなりました。気を付けて!」「△△はコスパ最強!行く場所に困ったらとりあえず行った方がいいです」「□□の夜景に行くなら駐車場は✕✕が穴場ですよ」と、カーシェアで実際にデートに行ったユーザーが、次のユーザーのためにコメントを残してくれる仕組みである。これなら、“デートの移動手段”としてカーシェアを利用したい若い男性は、“車デートを成功におさめ、意中の相手の好感度をアップさせたい”という価値実現欲求を満たすことができるかもしれない。

以上のことはもちろん、単なる思考実験ではある。だが、既存の製品やサービスが満たしきれていない消費者の欲求を探り、イノベーションに成功した事例は枚挙に暇がない。以下では、発明ではなく顧客価値の追求によりイノベーションを起こした実例を紹介しよう。

ドラッカー的な発想でイノベーションを起こした事例

売る相手を変えて成長産業になったアメリカのカーペット業界

  • 住宅購入者は家を買ったばかりでお金がなく、カーペットの購入はいつも後回しだった。
  • そこで販売相手を「住宅購入者」から「住宅建築業者」に変え、「カーペットを売る」から「カーペットを敷き詰める」ことをサービスとして売りだした。

「ステータスを満たす手段」として販売数を伸ばしたキャデラック

  • キャデラック事業部のニコラス・ドレイシュタットは「われわれの競争相手はダイヤモンドやミンクのコートである。顧客が購入しているのは、輸送手段ではなくステータスである」と考えた。
  • この問いで破綻寸前だったキャデラックは成長事業へと拡大した。

若者の満たされない欲求にリーチしたソニーのラジオ

  • ソニーは、ピクニックやキャンプに行くアメリカの若者が、デカくて重たいラジオをかついでいることに注目した。
  • そこで持ち運びに便利な小型ラジオを開発し、アメリカ市場を席巻した。

さいごに

今回は、ヨーゼフ・A・シュンペーターの創造的破壊とイノベーションの意味について解説し、実際にビジネスに活用するための考え方を紹介した。

いうまでもなく、イノベーションについては、これまで経営学で活発に論じられてきたし、これからもそうであるに違いない。また、事業に成功した起業家たちも、メディアや著作を通じて、自身のイノベーション観を様々な視点で語っている。

イノベーションとは一体何なのか?自分たちで起こせるものなのか?それとも運なのか?あるいは、資金的なバックアップがなければ成し遂げられないものなのか?

大切なのは、「変化」を逃さないということだ。世の中の出来事にアンテナをはり、社会構造、経済構造、顧客のライフスタイルや価値実現欲求の変化をしっかりと捉えることだ。

もちろん、「変化」は必ずしも良い影響をもたらすわけではない。事業を立ち行かなくさせてしまうマイナスの側面もあるだろう。しかし、その変化を事業が新しい価値を創造するチャンスと考えることができれば、あらゆる変化をプラスの要素にエネルギー変換できるかもしれない。

誰もが変化に出会うと脅威かチャンスかを考える。脅威と見てしまうと、もうイノベーションは無理だ。何ごとであれ目論見と違うからといって軽視したり無視したりしてはならない。予期せぬことこそ最高のイノベーションのチャンスである。

ドラッカー『ネクストソサエティ』より

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