日本美術にイノベーションの痕跡を見た。
昨日、訪れたのは東京国立博物館(通称:トーハク)。特別展「つながる日本美術 名作誕生」
そこにあったものは当時の最先端の作品。
たとえば、日本で発達した木彫仏像は、石の文化(中国)から木の文化(日本)にもたらされた仏像に起こった革新(イノベーション)をもたらしたもの。
仏像という異国のモチーフを、日本にふんだんにあった木と木を扱うノウハウ、職人が起こしたイノベーション。木材一本で造った1メートルを超える仏像は圧巻だ。
会場には、モチーフ(画題)×素材×制法(画法)などの組合せのオンパレード。
イノベーションの本質は既存のものを組み合わせて新しい価値を創造すること。
雪舟のイノベーション
私が今回の特別展に足を運んだのは雪舟の水墨画に会うため。昨年京都国立博物館で雪舟のすべての国宝を観て以来。
そこで目にしたものは48歳で中国に渡った雪舟に起こったイノベーションでした。
それまで持っていた画題×画法×画材、新しく身につけた画題×画法×画材の組合せで中国にも日本にもこれまでなかった室町水墨画を確立しました。雪舟は画聖と呼ばれるようになりました。
雪舟が新しく身につけたものも中国にあったものです。既存のもの(資源)の組合せでしかイノベーションは起こらないことを目の当たりにしました。
ドラッカー教授の言葉です。
「イノベーションとは人的資源や物的資源に対しより大きな富を生みだす新しい能力をもたらすことである」
『マネジメント<上>』(1973)
実は、ドラッカー教授は日本画の有名なコレクター。ドラッカー没後10年の年(2015年)には教授の日本画コレクション(山荘コレクション)が来日したほどです。
私はそれ以来、水墨画を中心とした日本画を観る機会が増えていました。それ以来、ドラッカー教授が書いた論文『日本画に見る日本』意図を考え続けています。
動かない情報に価値がある
なぜドラッカー教授は日本画を観続けたのか…
一つの答えは、動かない情報に価値をもっていたということです。動かないものを観ていれば変化が分かる。どのような変化がイノベーションの機会になるのか。
展示している絵に目を奪われました。雪舟が中国の先達の画を真似て書いた団扇型の画がありました。団扇型の内部には雪舟の署名。団扇型のすぐ外に中国の先達(夏珪、牧谿など)の名前があります。描きこまれているのは先達の水墨画です。雪舟は何度も練習をしていたことがわかります。
手鏡と呼ばれる模本の主は狩野派の画家の手によるものでした。雪舟も後世の画家も模倣継ぐ模倣、つまりトレーニングをして自分の能力を高めていたということがわかります。
イノベーションは自分がもっている確固とした能力の上にしか起こすことができないのということが実感として伝わりました。またこのように身につけた能力があるからこそ、異質なものに出会う(変化)とイノベーションの機会と感じることができることも感じました。
ドラッカー教授の言葉です。
「イノベーションは強みを基盤としなければならない」
『イノベーションと企業家精神』(1985)
あらためて自分は何をもっているか。自分の組織は何をもっているかを考えてみようと思いました。
点数は少なかったのですが、中身の濃い展示でした。特別展は5月27日まで。興味のある方はぜひ会場に足を運んでください。
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