『マネジメント』初心者が実際に読んでまとめてみた(6)事業の意味を問い続けることが生き残る秘訣!?(Ⅰ部:第5章「事業のマネジメントーーシアーズ物語」要約)

『マネジメント』初心者が実際に読んでまとめてみた(6)事業の意味を問い続けることが生き残る秘訣!?(Ⅰ部:第5章「事業のマネジメントーーシアーズ物語」要約)

本記事は、初めてドラッカーの『マネジメント』を読んだライター石山が、1章ごとに内容をまとめながら、気づきや発見を共有する企画シリーズです。

ドラッカーの『マネジメント』

『マネジメント』の内容を解説したサイトはさまざまですが、実際のドラッカーの文章を引用しながらまとめているのは、本記事ならではの試みです!

「ドラッカーが実際にどんなことを書いているのか、本物の文章を読んでみたい」

「他サイトはコンパクトにまとめられ過ぎていて、“なぜ”そうなったのかよくわからない」

「聞きかじった内容をまとめているだけのサイトが多い気がする……」

「もっと真面目に『マネジメント』を勉強したいけど、自分で読み解く自信がない」

このような方は、ぜひ本記事を読んでみてください。大学のゼミのレジュメを読むつもりで、一緒に学んでいきましょう♪

(1)老舗の米企業「シアーズ」から得られる教訓とは

(1)老舗の米企業「シアーズ」から得られる教訓とは

このⅠ部:第5章では、アメリカの超・有名企業「シアーズ」の創業から現在(当時にして1973年あたり)にいたる軌跡を辿りながら、ドラッカーが企業の“教訓”を見出す構成となっています。

結論からいいますと、シアーズの創業物語を通じてドラッカーが見出す教訓は、

「あらゆる企業が、われわれの事業は何か、何でなければならないかを考えなければならない。そして自らの目的とミッションから、鍵となる活動領域のそれぞれについて目標を設定しなければならない。それらの目標を戦略に具体化し、資源を集中して投入しなければならない。そして明日のための戦略計画を立てなければならない」

(『マネジメント 課題、責任、実践(上)』ドラッカー名著集 13/P.F.ドラッカー/訳:上田 惇生/p. 57)

ということです。ここには、企業が実際に事業を営んでいくうえでどうあるべきかというドラッカーの考えが凝集されています。

(2)「消費者の聖書」をつくった米企業「シアーズ」とは

(2)「消費者の聖書」をつくった米企業「シアーズ」とは

画像:wikipedia

「……企業とは何であり、企業のマネジメントとは何であるかを知るうえで、アメリカの最優良企業シアーズ・ローバックに勝る具体例はない」

(『マネジメント 課題、責任、実践(上)』ドラッカー名著集 13/P.F.ドラッカー/訳:上田 惇生/p. 58)

19世紀末のアメリカ農村部は、まだ交通網が未発達であり、最新の商品を手にれるためには、鉄道や馬で都市に行ったり、個人商店や行商人から高い価格で手に入れたりするしかありませんでした。

1893年、一介の駅員だったリチャード・ウォーレン・シアーズは、そんな農村部の人々の不自由なライフスタイルに着目し、通信販売事業「シアーズ・ローバック」を設立することに。

それから商品カタログを大量に発行。「満足していただけなければ返金いたします」という挑戦的な宣伝文句とともに、憧れの都市生活グッズを網羅した商品カタログがアメリカ農村部の人々の手に渡ります。以来、シアーズのカタログは「消費者の聖書」といわれるようになったといわれています。

その後は、カタログ通信販売業だけでなく、デパート事業、保険業、金融業、不動産業など幅広く事業を展開。1980年代まではアメリカでナンバーワンの小売業として君臨します。

残念ながらシアーズは、Amazonなどの競合が原因で業績が悪化し、2018年に経営破綻。20世紀の小売業の帝王はビジネスの表舞台を退くことになってしまいました。

その意味でシアーズは、すでに“過去”の記憶です。しかしわたしたちがシアーズの“物語”から学ぶべきことはあるはずです。

(3)ポイントは「市場の変化」!シアーズの事業の在り方

(3)ポイントは「市場の変化」!シアーズの事業の在り方

【第1期】

・創業者リチャード・ウォーレン・シアーズが、アメリカ農村部が都市部の流通から疎外されていることに気づく。

・未開拓の顧客である農民のためにカタログ通信販売業を開始。

・しかし事業の基盤がつくれず、「シアーズ・ローバック」設立後、すぐに倒産の危機に。

・1895年、シカゴの繊維商ジュリアス・ローゼンワルドが事業を買い取る。

・1905年、ローゼンワルドはシカゴに配送センターを設置。定期刊行のカタログで「満足していただけなければ返金いたします」の方針を打ち出す。

・第一次世界大戦の終わり頃には、アメリカを代表する大企業へと成長。

シアーズを大企業へと育てたローゼンワルドの活躍が大きなポイントですね。商品カタログのアイデアと「満足していただけなければ返金いたします」の方針は、市場開拓のための“イノベーション”だったといえるのではないでしょうか。

【第2期】

・元アメリカ陸軍将校であるロバート・E・ウッドが経営参加。

・自動車の普及に伴い、1920年代中頃には、すでにアメリカ農民は都市から孤立した存在ではなくなっていた。

・つまり、“都市から隔絶された農民”という独自の市場(顧客)が消失しかけていた。

・一方で都市部の流通は、都市部独自の課題を抱えていた。ウッドはそこに目をつけ、事業をカタログ通信販売から「自動車をもつ農民と都市の消費者のための小売業」に移行する決断をする。

・そのために、商品の仕入先の育成と商品設計をイノベーションする必要があった。とくに店舗運営の「店長」の育成に力を入れ、店舗販売運営を成功へと導いていく。

その後もシアーズのトップたちは、社会構造や市場ニーズの変化に対応しながら、シアーズの事業の在り方を再定義していきます。1期・2期のどちらにもいえるのは、シアーズは、一つの事業を頑としてやり続けたというよりも、市場のニーズに沿うようにかたちを変えてきたということがわかります。

「シアーズは、いわばアメリカ社会の変化に合わせて、自らの市場を定義し直してきた。ローゼンワルドは大衆市場に大量生産製品を供給した。ウッドは大衆市場にかつての中流用商品、例えば厨房機器を供給した」

(『マネジメント 課題、責任、実践(上)』ドラッカー名著集 13/P.F.ドラッカー/訳:上田 惇生/p. 65)

「シアーズは、販売努力よりも、この仕入れ先の育成に力を入れたマーケティング戦略によって売上げを伸ばし、収益を伸ばしてきた」

(『マネジメント 課題、責任、実践(上)』ドラッカー名著集 13/P.F.ドラッカー/訳:上田 惇生/p. 66)

まとめ:企業にできることは何か?シアーズ物語の“真の”教訓とは

さてドラッカーは、シアーズの歴史を振り返るⅠ部:第5章の最後に、こんなことを述べます。

「何事も正解が自明のものとなるのは、終わった後のことである。シアーズ物語の最大の教訓は、正解は、終わってみるまではまったくわからないということである。一九〇〇年当時は、「委細かまわず返金」などと約束したのでは大変なことになると考えるのが自然だった」

(『マネジメント 課題、責任、実践(上)』ドラッカー名著集 13/P.F.ドラッカー/訳:上田 惇生/p. 68)

これを見て、「身もふたもないことを……」と思った方もいるのではないでしょうか!?

しかし、たしかにその通りなのかもしれません。多くの成功者も、成功するまでは「無茶だ」「馬鹿げている」「変人だ」なんて後ろ指を指されていたわけですからね。シアーズの物語は、成功した物語という前提のもと、“ではどこに成功のカギがあったのか”をドラッカー自身が考察したに過ぎません。

しかし重要なのは、個別具体的なケースから、普遍的に通用する原理原則を見出すこと。ドラッカーは次のようにまとめてこの章を締めくくりました。

「シアーズ物語から得るべき重要な教訓は、正解は頭のよさやひらめきによって得られるものではないということである。シアーズの創業者リチャード・シアーズは、頭のよさとひらめきをもっていた。そして失敗した。正解が得られるのは、正しい問いによってである。その正しい問いを得るのは、企業とは何か、われわれの事業は何かを知るための営々たる努力によってのみである」

(『マネジメント 課題、責任、実践(上)』ドラッカー名著集 13/P.F.ドラッカー/訳:上田 惇生/p. 69)

特別な才能よりも、自分の事業を問い続ける努力。問いが意味をつくり、意味が事業を動かしていくわけですね。

意味は、社会構造や市場ニーズの動きによって変わり続けます。同じことを永遠に繰り返すだけでは、けっして立ち行かないものなのだと警告しているようにも思いました。

みなさんは今回のシアーズ物語みて、どう感じましたか?

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