本記事は、初めてドラッカーの『マネジメント』を読んだライター石山が、1章ごとに内容をまとめながら、気づきや発見を共有する企画シリーズです。
『マネジメント』の内容を解説したサイトはさまざまですが、実際のドラッカーの文章を引用しながらまとめているのは、本記事ならではの試みです!
「ドラッカーが実際にどんなことを書いているのか、本物の文章を読んでみたい」
「他サイトはコンパクトにまとめられ過ぎていて、“なぜ”そうなったのかよくわからない」
「聞きかじった内容をまとめているだけのサイトが多い気がする……」
「もっと真面目に『マネジメント』を勉強したいけど、自分で読み解く自信がない」
このような方は、ぜひ本記事を読んでみてください。大学のゼミのレジュメを読むつもりで、一緒に学んでいきましょう♪
目次
(1)事業の目的とミッションはスタッフみんなのもの!
自分の行っている事業を定義することが重要である――というのは、いまさら言うまでもないでしょう。
「われわれの事業は何か。何であるべきか」を考えずには、組織を動かしてビジネスをすることはまず不可能ですよね。
事業の目的とミッションについての明確な定義だけが、現実的な目標を可能にする。
『マネジメント 課題、責任、実践(上)』ドラッカー名著集 13/P.F.ドラッカー/訳:上田 惇生/p. 92
ほとんど常に、事業の目的とミッションを検討していないことが失敗と挫折の最大の原因である。
『マネジメント 課題、責任、実践(上)』ドラッカー名著集 13/P.F.ドラッカー/訳:上田 惇生/p. 97
しかしここで注意したいのは、事業の目的とミッションを誰が知っているかということ。
ドラッカーは、「経営者や一部の役員だけが事業の目的とミッションを知り、それに基づいて意思決定すればいい」という考え方が非常に危険であると警告します。
なぜなら、多くの場合において、重要な意思決定が“現場”でなされているからです。
「何を行い、何を行わないか」「何を続け、何をやめるか」「いかなる製品、市場、技術を追求し、いかなる市場、製品、技術を無視するか」などのリスクを伴う決定が、かなりの下の地位の、しかもマネジメント上の地位や肩書のない研究者、設計技師、製品計画担当者、税務会計担当者によってなされている。
『マネジメント 課題、責任、実践(上)』ドラッカー名著集 13/P.F.ドラッカー/訳:上田 惇生/p. 94
だからこそドラッカーは、企業のトップは「われわれの事業は何か。何であるべきか」について徹底的に考え、検討し、組織で働くすべての人々が共有できるようにしなければならないといいます。それが、トップマネジメントの責任なのです。
(2)異論があるからこそよい!
お互いに信頼し合っているメンバー間で、「事業とは何か」をめぐる問いで意見が対立してしまう……決して珍しいことではありません。
それはしばしば、“苦痛”を伴います。意見の対立がきっかけで、ときには仲たがいすることだってあるかもしれません。
仲良しこよしでいれるなら、お互いそのほうがいいーー誰しもがそう思うことでしょう。
ほとんどのマネジメントが、この対立を苦痛として回避しようとする。だが「われわれの事業は何か」に答えることこそ、本当の意思決定である。
しかも意味ある有効な意思決定とは、多様な見解を基盤としてなされるものである。……(中略)……それは常にリスクを伴う意思決定である。……(中略)……全員一致で決められるような安易な問題ではない。
『マネジメント 課題、責任、実践(上)』ドラッカー名著集 13/P.F.ドラッカー/訳:上田 惇生/pp. 97-98
意見の対立。一致しない見解。「事業とは何か」は、決して生易しいものではありません。
しかしドラッカーは、だからこいいのだと考えます。
実は、「われわれの事業は何か」との問いは、異論を表に出すことに価値がある。それによって、互いの考えの違いを知ることが可能となる。互いの動機と構想を理解したうえで、ともに働くことが可能となる。
……(中略)……もともと答えは一つではない……答えは、事実から論理的に導かれるようなものではない。判断と勇気を必要とするものである。常識で出せるようなものでも、簡単に出せるものでもない。
『マネジメント 課題、責任、実践(上)』ドラッカー名著集 13/P.F.ドラッカー/訳:上田 惇生/p. 98
むしろ問題なのは、メンバーたちが事業をめぐる定義や考え方に相違があるかもしれないという事実から目を遠ざけることなのです。
わたしたちもビジネスを行うときは、メンバーと膝を突き合わせて「われわれの事業は何か」について喧々諤々(けんけんがくがく)話し合う勇気を持てるようになりたいものですね。
(3)事業の目的とミッションを見つける4つの問い
さてドラッカーは、「われわれの事業は何か」を定義し、目的とミッションを定めるための重要な問いを提示します。
ここでは、以下のように整理してみました。みなさんもぜひ参考にして、ビジネスや事業に活かしてください!
問い1. 「顧客は誰か」(顧客はどこにいるか、何を買うか)
顧客にとっての関心は、自分にとっての価値、欲求、現実である。この事実だけからも、「われわれの事業は何か」という問いに答えるには、顧客とその現実、状況、行動、価値観から出発しなければならない。
『マネジメント 課題、責任、実践(上)』ドラッカー名著集 13/P.F.ドラッカー/訳:上田 惇生/p. 100
【実例①】第二次世界大戦後のアメリカのカーペット業界
もともとカーペットは見栄えの悪い小住宅のためのものだった
⇒小住宅を購入した夫婦がメイン顧客だとされてきた
⇒しかしそのための広告を当たり前のように打ってきたが、ほとんど効果を見込めなかった⇒「顧客は誰か」を問い直す
⇒実は小住宅を購入したばかりの夫婦は、お金がなくてカーペットを買うことができないのだと気づく
⇒本当の顧客は、新築時にカーペットを敷くことのできる住宅建築業者だとわかった!
【実例②】キャデラック
1930年代の世界恐慌で経営が苦境に立たされる
⇒「われわれの競争相手はダイヤモンドやミンクのコートである。顧客が購入しているのは、輸送手段ではなくステータスである」と顧客がどこにいるかを問い直す
⇒破産寸前のキャデラックがわずか二年で成長事業へ!
問い2. 「顧客にとっての価値は何か」
これが最も重要な問いである。しかし、最も問うことの少ない問いである。答えは明らかだと思い込んでいるからである。品質が価値だという。ただし、この答えはほとんど間違いである。顧客は製品を買ってはいない。欲求の充足を買っている。彼らにとっての価値を買っている。
『マネジメント 課題、責任、実践(上)』ドラッカー名著集 13/P.F.ドラッカー/訳:上田 惇生/pp. 105-106
一〇代の少女にとって、靴の価値はファッションである。お洒落でなければならない。価格は二の次であって、耐久性などまったく価値がない。ところが数年経って主婦ともなると、ファッションが絶対ではなくなる。さすがに流行遅れは買わない。しかし探すのは、耐久性、価格、かき心地である。一〇代の妹に価値あるものが、姉には価値がない。
『マネジメント 課題、責任、実践(上)』ドラッカー名著集 13/P.F.ドラッカー/訳:上田 惇生/p. 106
企業の目的は顧客であるとするドラッカーは、常に「顧客にとっての価値は何か」を考えるべきだといいます。
この観点が欠落していると、“製品志向”の発想になってしまい、メーカー側の都合で“価値のあるもの”と考えた提案を顧客に押し付けることになってしまうのです。
また、「安ければ顧客は満足するだろう」と考えるのも非常に危険です。価格はあくまでも、製品の性格を特徴づける一要素に過ぎません。
安さを売りにしている高級ブランドバッグにファンが納得いかないように、「安い=顧客の価値」と決めつけてはならないのです。
価格ほど複雑なものはない。しかも、価格の意味を変えるような価値がたくさんある。多くの場合、価格の重要度は二の次にすぎない。
……(中略)……製品やサービスの価格は、顧客にとっての価値を知って初めて付けることができる。
『マネジメント 課題、責任、実践(上)』ドラッカー名著集 13/P.F.ドラッカー/訳:上田 惇生/p. 107
問い3. 「われわれの事業は何になるか」
●絶え間なく変化し続ける市場の分析と将来の予測に基づき、事業のあり方――「われわれの事業は何になるか」――を定めていく必要がある。
●人口動態(人口の変化)が事業に多大なインパクトを与える。
●経済構造・流行と好み・競争相手の動向についても注視しながら「われわれの事業は何になるか」を考えていかなければならない。
問い4. 「今日の財やサービスで満たされていない欲求は何か」
この問いを発し、かつ正しく答える能力をもつことが、波に乗るだけの企業と成長する企業との差になる。波に乗っているだけの企業は、波とともに衰退する。
『マネジメント 課題、責任、実践(上)』ドラッカー名著集 13/P.F.ドラッカー/訳:上田 惇生/p. 116
まとめ:目的とミッションの先に“前向きな廃業”もある?
Ⅰ部:第7章は、企業の目的とミッションを見出すための重要な問いがあるというお話でした。
「われわれの事業は何か」の先には、「明日も顧客に価値を与えるか」「今日の人口、市場、技術、経済の実態に合っているか」という問いが待っています。
企業の本質は、社会の役に立つということです。
もしもプロダクトやサービスが市場に合致しなくなり、陳腐化しているならば、それはイコール「その事業が社会に貢献していない」ということになります。
だからこそドラッカーは、「合っていないならば、いかにして廃業するか。あるいは少なくとも、それらに資源や努力を投ずることをいかにして中止するか」という問いを立て、体系的廃業をするべきだといいます。
体系的廃業――それは、「より社会の役に立つ事業を行っていくために、顧客に満足を与えられなくなった事業を前向きに廃業する」と換言することもできるのではないでしょうか。
Ⅰ部:第7章も、非常に示唆に富む興味深い章でした。
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