「会社の主力選手が突然に退職を申し出てきた」「これからも一緒に頑張っていくはずだったのに裏切られた気持ちだ」と困ってはいないだろうか。
一体なぜ、辞めないと思っていた人が仕事を辞めてしまうのだろう。「どうして?」と理由を尋ねても、いまひとつシックリくる回答を得られないことも多い。
ある調査によると、退職者のうち約50%が「本音を言わない」のだそうだ。できるだけ穏便に済まそうとするがゆえに、「家庭事情」「病気」「仕事内容」を建前にして、あたかも妥当な理由があるかのようにふるまうという。
もしあなたが、「辞めないと思っていた人が会社を辞めた」という経験があり、なおかつ「本人も辞めたくないと言っていたが、やむにやまれぬ事情で退職した」と考えているのなら、本当の問題に気づかないまま、今後も貴重な人材の流出を傍観することになるだろう。
人材流出は、会社のコストを著しく上昇させる重大リスクである。辞めないと思っていた人が辞めてしまう問題にメスを入れることは、会社の生存率をあげる必須対策だといえるだろう。
今回の記事では、数えきれないほどの経営者や会社役員と関わってきた読書会のプロ集団「Dラボ」が、辞めないと思っていた人が退職してしまう理由を解明するとともに、組織の構造的な問題を見つめなおし、人材流出のリスクを下げる方法を紹介する。
「これまでの退職者は、みんなまっとうな理由を持っていたので問題はない」と思っているあなたにこそ、この記事を読んでほしい。
繰り返すが、退職者の約50%が、会社に本音を伝えていないのだ。辞めないと思っていた人が退職を申し出たのは、これまで知らず知らずのうちに放置してきた組織の問題が、もっともわかりやすい形になって表出したに過ぎない。
逆にいえば、これまで放置していた問題と真摯に向き合えば、今よりは確実に良い方向に向かうはずだ。よく知られているように、松下幸之助は「企業は人なり」といった。企業の問題は人(スタッフ)の行動に現れる。組織と人は鏡の関係である。企業において、人に関するさまざまな問題は、組織に原因を求めることができる。
まずはこの記事を読んで、何か一つでもヒントを掴みとってほしい。
目次
辞めないと思っていた人が仕事を辞める9の理由
どんな理由で仕事を辞めたくなってしまったのか?転職サイトのインタビューでよく回答される“本音”は、次のように整理することができる。
①社風が合わない
組織の価値観と、個人の価値観。双方の一致は、永遠の命題だ。「この会社の考え方、自分に合わないな」と思ったら、新天地を探したくなるものである。本人が「合わない」と感じている以上は、組織ではどうすることもできない場合も多い。
②好条件の会社を見つけた
「いまの会社よりも年収が上がるかも」と考えて退職する人は、そもそも会社に愛着がなく、「お金」以上の関係性は求めていないのかもしれない。カネの切れ目が縁の切れ目になってしまう人も世の中には一定数いる。
③キャリアアップの限界を感じた
「この仕事を続けても、先があるのかなあ……」と不安になって辞めてしまうケースもある。事業の将来性や、仕事の意味を伝えることができたなら、その人の考え方も少しは変わるかもしれない。
④毎日が同じことの繰り返しで飽きた
毎日定時に帰れるし、ノルマもない。苦労はかけていないはずなのに、辞めてしまう。単調な日々が苦手な人も少なくない。変化がないことを好む人もいるが、みんながそうとは限らない。
⑤業界の将来に不安を感じた
日々刻々と社会構造は変化する。世の中の動きにともなって、業界の地図も変わる。「この業界、あと何年持つのだろう?」と社員を不安にさせてはいないだろうか。常に将来を見据え、新しいことにチャレンジするイノベーション精神が社風として根付いていれば、人を惹きつける会社になれるかもしれない。
⑥人間関係でトラブルがあった
組織もけっきょく、“世間”である。人間関係がこじれると、好きだった仕事も、心楽しまなくなり、嫌気がさす。男女のトラブルも例外ではない。
⑦自分より優秀な人が現れた
当時の社内ではめずらしいスキルを持っていたため、重宝されていたが、自分よりもずっと優秀な後輩が入ってきたことで、居心地が悪くなってしまう……小さな会社では起こりうるケースだ。
⑧自分に対する評価に納得いかない
会社の評価と自己評価とのギャップにモヤモヤしてしまう人には、自分が果たすべき成果が曖昧で、誤った努力をしている可能性がある。上司としてまずは、相手に求める「成果」の定義をしっかり明確にして、「成果に対して、あなたの現在地はここです」と言えるようにしよう。
⑨業務量のキャパが限界になった
仕事の仕組みを人に合わせるのは、簡単なことではない。“マネジメントの父”であるドラッカーは、一握りの“仕事ができる人”を基準に仕組みをつくると失敗するといった。
辞めないと思っていた人が退職する5つの兆候
退職者の兆候をいち早くキャッチできれば、まだ何か手を打つことはできるかもしれない。以下に、退職者がとりがちな行動を5つにまとめた。
①平日に1日だけ有給をとる
よくあるパターン。平日は仕事で転職活動できないので、有給で休みをとって、面接に行くのだ。平日にいきなり休みが欲しいと言い出したら、危険サインかもしれない。
②急に人付き合いが悪くなった
転職する後ろめたさなのか、いままで仲良くしていた人たちと一定の距離を置きはじめる。とくに仲のよかった人とは関係が続くかもしれないが、飲み会や遊びの誘いにはパタッと来なくなる。
③休み時間に調べものをすることが多くなった
昼休み中に、その人の様子をこっそり観察してみよう。真剣な顔つきで、スマホとにらめっこしていないだろうか。見ているのはTwitterではなく転職サイトかもしれない。
④忙しいはずなのに妙に明るい
「これからもっと忙しくなるぞ」というときに限って、妙に元気な人は、すでにそのときには自分がいないと考えている。
⑤自分の仕事のはずなのに他人事
仕事を誰かに引き継いでもらう前提で話を進めている人は、退職まで秒読みと考えていいだろう。
辞めないと思っていた人が辞めてしまう……と悩んでいる人が読むべき記事5選
NO.1『ショック!部下が退職したのは自分のせい?教育熱心な上司がハマりやすい落とし穴』
NO.2『【理想の関係とは】部下が本音を言ってくれません【上司が信頼を得るコミュニケーション方法】』
NO.3『会社に理念やビジョンは必要ですか?【企業理念は誰のため?作り方・作る理由】』
NO.4『ドラッカー「リーダーシップ」の意味を徹底解剖。才能は必要ない!初めて部下を持つ人でもリーダーシップを発揮できる極意を解説します』
NO.5『売上あげたいなら数字にこだわるな!?「売上はありがとうの数」と再定義して売上UPと社員の主体性を両立した美容室の成功事例』
退職を思いとどまらせることは可能か?最善を尽くす方法
最善は尽くすべきだ。「いま辞めてもらっては困る!」というとき、たいていは次の方法を試すことになる。実際、誠実に向き合うことで相手の気持ちが変わることもある。だが、決意が固い場合は、そうもいかない。どれだけの関係性を築いてきたのかが問われるだろう。
①給与などの待遇改善を申し出る
単刀直入にお金の話をぶつけるケース。だが、土壇場でお金の話をしなければならない時点で、普段のコミュニケーションが足りていないことが伺える。給与に不満があるなら、そもそも、本人が事前に給与交渉をしているはずだ。他に不満のタネがあったと考えるのが妥当である。それに、「給料を増やせば辞めない」と考えること自体に、マネジメント側の問題があるともいえる。人の心はお金では動かせない。
②辞めないでほしいと心から訴える
お互いの考えや想いをぶつけあって、状況が変わることもある。このときにはじめて、退職者がひた隠していた思いの丈を語ってくれるかもしれない。だが、すでに相手が石のように固い決意の場合には通用しない。
③問題点を訊きだして改善の意思を示す
もともと「辞めないと思っていた人」が退職を決意するくらいだから、その背後には、当然、何らかの問題が隠れている。何が不満だったのかを訊きだして、真摯に向き合う姿勢を見せれば、何か変わるかもしれない。だが、すでに見限られている可能性もある。
④社長を呼んで説得する
社長が直々に頭を下げることで、「そこまで言うなら……」と思いとどまることもあるかもしれない。だが、火に油を注ぐ可能性もある。あまり推奨できる方法ではない。こうした場面では、これまで積み上げてきた関係性が大事になる。
退職を決意した人の意思を変えるのは難しい
「辞めないと思っていた人が辞める」は、組織にとって中々の一大事である。この時点で、その人の意思が、他の退職者よりも固いことは明らかだ。組織なり、人間関係なりの問題が横たわっていることは想像に難くない。上記のような、退職を思いとどまらせるのは、現実にはかなり難しいというのが正直なところだ。
「頼み込んで会社に残ってもらう」ことのリスクも考慮しよう
それに、こちらが頼み込んで退職を思いとどまらせた場合、仮にうまくいったとしても、関係性がこじれてしまうので、かえって面倒なことにもなりかねない。
本来なら、対等に意見を言い合える関係性が理想のはずだ。しかし、「会社に残ってもらうように頼んだ側」と、「頼まれて会社に残った側」の暗黙の力関係が出来上がると、組織のマネジメントが大きく狂わされることになる。“その人とのこれからの関係”を考えると、頼み込んで会社に残ってもらうことの潜在リスクは覚悟しなければならない。
ヒトではなく組織の構造的な問題に目を向けよう
大切なのは、仕事を辞めてまで、その組織と距離を置きたいと考えてしまう問題に目を向けること。「残念ながら彼は辞めてしまった」で終わらせては、次もまた同じことを繰り返す。今回の出来事を機に、他のスタッフにヒアリングをして、これまで見過ごしていた組織の問題に目を向けてみよう。
「辞めないと思っていた人が辞める」を二度と繰り返さないための対策
仕事を辞めたいと思う理由は人によって様々で、答えはけっして一つではない。組織ができることは、そこで働く人たちが、組織での活動を通じて自己実現し、成果を出すように環境を整えることだ。
以下に、組織づくりで大切な4つの要素を紹介する。他にもたくさんあるが、その中でも重要な要素を絞ってみた。
①スタッフの声と向き合う
企業人なら誰でも「顧客の声はお金を払ってでも聞きたい」と考えるはずだ。顧客の声にこそ、商品やサービスを改善するヒントが隠れているからだ。しかし、「社員の声を聞きたい」と真剣に考える者はそう多くはない。
スタッフこそ、企業の“健康状態”をもっともよく知る名医である。辞めないと思っていた人が会社を辞めてしまうのだとしたら、そこには間違いなく、組織が何らかの病を発症している可能性がある。その病の正体をよく知っているのは、まさに、現場にいるスタッフに他ならない。
②意思決定の自由を与える
主体性を発揮する機会を増やしてみよう。何でもかんでも稟議制になってはいないだろうか。トップダウン式の意思決定機構は、人のモチベーションを奪い、アイデアを枯渇させる。「何を」「どのようにすれば」という選択肢を広げる問いかけが、その人のやる気を引き出してくれる。主体性を発揮して成果を出すことができれば、仕事が楽しくなるものだ。
③仕事の意義を伝える
その人は、自分の友人や両親に、「自分の仕事は社会に貢献している」と胸を張って言えるだろうか。何のための仕事をしているのか? 誰をどのように喜ばせているのか? このことをしっかり相手に伝えよう。人に誇れる仕事であることを。
④お金ではなく貢献を共通言語にする
人として最低限の報酬はもちろん約束するべきだが、組織と人との関係を「お金」で結びつけるのは好ましくない。お金ではなく、仕事の貢献を共通言語にした関係性が、長続きする秘訣である。
自らの仕事や他との関係において、貢献に焦点を合わせることによってよい人間関係がもてる。そうして人間関係が生産的となる。生産的であることが、よい人間関係に唯一の定義である。
(ドラッカー『経営者の条件』より)
⑤勉強会を開催して視座を合わせる
仕事がルーチンワーク化するのは危険サイン。どんなに仕事ができる人でも、判で押したような毎日が続けば、使命感や志を忘れてしまうものだ。仕事の目的や意義が曖昧になると、誰だって仕事が苦痛になってゆく。定期的に勉強会を開催して、組織の「ビジョン」「ミッション」「成果の定義」「社会的使命」を確かめ合うようにしよう。
勉強会のネタがないときの鉄板は「読書会」
わたしたちDラボは、“マネジメントの父”ことピーター・F・ドラッカーの読書会を運営している。ドラッカーの読書会は、経営者だけでなく、マネジャーや新人までが、互いの興味・関心・視点での違いを意識しつつ、成果をあげるためのマネジメントを学び合う場だ。
読書会ではアウトプットをとても大事にしている。実際にわたしたちは、この読書会を通じて、「これまで主体性のなかった社員が自発的に提案をしてくれるようになった」「経営者目線で事業のことを真剣に考えてくれるようになった」という事例をたくさんみてきた。
経営に活かした事例ドラッカーの読書会は、経営者と社員が同じ問題意識をもち、同じ目線で学びあえる貴重な機会だ。
もしあなたが、「人材育成がうまくいかない」「人材が定着しない」「事業の将来に不安がある」「相談相手がいない」と悩んでいるなら、ぜひ一度、社員と一緒に読書会に来てほしい。無料体験も実施中だ。オンラインで開催しているため、全国の経営者やビジネスマンとつながれる貴重な機会にもなるだろう。
はじめて読むドラッカー読書会まとめ
- 社風が合わない
- 好条件の会社を見つけた
- キャリアアップの限界を感じた
- 毎日が同じことの繰り返しで飽きた
- 業界の将来に不安を感じた
- 人間関係でトラブルがあった
- 自分より優秀な人が現れた
- 自分に対する評価に納得いかない
- 業務量のキャパが限界になった
- 平日に1日だけ有給をとる
- 急に人付き合いが悪くなった
- 休み時間に調べものをすることが多くなった
- 忙しいはずなのに妙に明るい
- 自分の仕事のはずなのに他人事
- 給与などの待遇改善を申し出る
- 辞めないでほしいと心から訴える
- 問題点を訊きだして改善の意思を示す
- 社長を呼んで説得する
- 「頼み込んで会社に残ってもらう」ことのリスクも考慮しよう
- ヒトではなく組織の構造的な問題に目を向けよう
- 問題点を訊きだして改善の意思を示す
- 社長を呼んで説得する
- スタッフの声と向き合う
- 意思決定の自由を与える
- 仕事の意義を伝える
- お金ではなく貢献を共通言語にする
- 勉強会を開催して視座を合わせる
Dラボ
当サイトDラボを運営しております。
ドラッカーを学んだ経営者やビジネスマンが実際に仕事や経営に活かして数々のピンチを乗り越え、成功を収めた実例を記事形式で紹介しています。
また、「実践するマネジメント読書会」という、マネジメントを実践的に学び、そして実際の仕事で活かすことを目的とした読書会も行っております。
2003年3月から始まって、これまでに全国で20箇所、計1000回以上開催しており、多くの方にビジネスの場での成果を実感していただいています。
マネジメントを真剣に学んでみたいという方は、ぜひ一度無料体験にご参加ください。
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